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理想郷

作者: 万天

 檻の中の生き物は思う。ここは素晴らしい理想郷だ、と。

 些かばかり狭っ苦しいが、特に不自由を感じる訳でもなく。腹が減ってくる頃を見計らって餌が運ばれてきて。満たされれば何時までも惰眠を貪って。何より番が与えられるのがいい。

 檻の中の生き物は垂れた脂肪を揺らして笑った。

 檻の中の生き物はそうやって生きる。


「あ、動いたぞ」

 イチロは今日、動物園に来ていた。学校の授業の一環で、動物について学びに来たのだ。初めて来た動物園にイチロは興味津々だ。特に一番大きな檻の動物から目を離せないでいるようだった。

「本当。何だかのそのそ歩くね」

 ナナカは漸くか、といった思いでそれを眺めていた。かれこれ5分ほど此処に居たが、その間この動物はずっと倒木のように寝そべっていたのである。もう少し動かなければ、他の動物を見に行こうと、イチロを説得するつもりであった。

「それにしてもこの動物、僕たちに似てないか?」

「そうかな。全然違うと思うけれど」

「全体的な形が似てるじゃないか。直立すればきっと解るよ」

「でも、毛が沢山生えてるよ」

 ナナカとしては、この動物と自分が似ていると評されるのは気に食わなかった。私は動物ではないのだ、という意識があった。だがそれが言葉になる前に、先生の呼び掛けが遮った。

「皆さん、動物の赤ちゃんですよ」

 赤ちゃんという単語にイチロの興奮が増す。

「お、ナナカ、行こう」

 手を引っ捕まれて、ナナカは為す術も無く付いて行く。先生の周囲には、既に生徒たちが群がっている。イチロは群衆を掻き分け、その中心に辿り着いた。

 そこには桃色がかった小さな生き物がいた。生徒達に囲まれて驚いたのか、小さな口を大きく開けて鳴いている。手足を行き場もなく蠢かせて何を表現しているのだろうか。

「これが赤ちゃんです。動物はこうやって生まれてくるんですよ」

「じゃあ先生、私達はどうやって生まれるんですか?」

 ナナカは疑問に思い、そう質問した。先生は少し考えてから、そのうち教えましょう、と答えた。

「どうですか、皆さん。実際に動物を見ることで、インターネットでは手に入らない情報が沢山得られるでしょう。さあ、次は水族館に行きます。海の動物についても、知識を深めましょう」

 太陽は中天に差し掛かったところ。授業は始まったばかりだ。

 人型ロボットの1-ロと7-カは今日も学ぶ。

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