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来客「ヨーヨー」

 お祭りで釣った、水玉模様の綺麗なヨーヨー。

 気に入ったので、大事にしていた。


 その辺に転がしたりせず、少し遊んだら大事に引き出しにしまった。

 でも、何日か経ったら、みるみる(しぼ)んでいってしまった。


 仕方ない、そういうものだ。

 そう思いはしたものの、少ししょんぼりしていたら、(おもむろ)に母が口を開いた。


「そんなことで落ち込んでどうするの。人生なんて、ヨーヨーみたいなもんよ。

 生きてるだけで、どんどん萎んでいくんだから」


 そりゃもう、驚いた。

 身も蓋もないとはこのことである。開いた口が塞がらないというのを、初めて体験した。


 いい大人が。

 未来は先細りしていくばかりだと、宣言したも同然である。

 前途遼遠たる子どもに。




「とんでもないと思いません?」

「……うん、それは分かるんだけど。遊ぶか、喋るか、どっちかにしたら?」


 夏はまだ、ギリギリ終わっていない。なので、少し遠出して、一人でお祭りに繰り出した。

 先細ってゆくなら、心行くまで今を謳歌してくれるわ。


 というわけで、僕は今、両手いっぱいの指いっぽんずつに、それぞれヨーヨーをぶら下げている。

 これぞ秘儀、十指ヨーヨー!


 ついでに、不思議なものを見るように、まじまじと見つめてきた子とお喋りまで楽しんでいるのである。

 青い着物の、頭にうさぎのお面を付けた、な、なんと女の子! である。

 なんと充実した時間であろうか。


 しかし、この十指ヨーヨー、なかなか難しいものである。

 ヨーヨー同士がぶつかると、嫌な音をたてたり、無残にも儚く割れてしまったりもする。


 正直、あまり楽しくない。


「やっぱり、普通に遊ぶのが一番かな」


 一つを残して、他のヨーヨーを指から外した。

 ぽよんぽよんと、手と空を行き来するヨーヨーが愛らしい。


「ずっとこのまま、長く持たせられたらいいのになあ」


 先細りしていく運命。

 そんなの、つまらないではないか。


「ずっとこのままは、無理ね。

 風船もゴムも劣化していくし、中の水も蒸発してしまう」


 そんなのは、知っている。

 それでも、惜しくなってしまうものなのだ。


「でも。風船を、ゴムを。長く持つものに取り換えれば、易々と朽ちることもない」


 そう言って、女の子はヨーヨーをきゅっと手で包み込むと。

 次の瞬間には、全く別の姿に変わった、ヨーヨーがあった。


 手品だろうか。

 ヨーヨーはヨーヨーでも……ハイパーヨーヨーとかいうやつである。

 ぽよぽよもびよんびよんもしない、固いヤツである。


「それ、最早全く別物じゃん……僕が好きなヨーヨーじゃない。

 名前が同じなだけじゃないか」

「そうね。でも、そのままでは長くは持たない。

 なら、丈夫なものに取り換えていくしかないじゃない?」


 それは、そうかもしれないけれど。


「大人になるって、こういうことかもしれない。

 通用しなくなったものを、一つずつ手放していくの」


 綺麗だけど弱いものは、そのままにしていると、歪なものに変質してしまう。

 その前に、取り換えていかなければならないということか。

 だから、ずっと子どもではいられない、と。


「でも、固くて強い、そればかりじゃつまらないものね」


 そう言って、女の子は、またその柔らかそうな手で、ヨーヨーを包み込む。

 再び手を開いた、そこには。


 綺麗な水玉模様の、ハイパーヨーヨーがあった。

 ガラスのような本体の中には、水のような液体が入っていて、光が当たるときらりと光った。


「あげる」


 流れるように僕の手に握らされたそれを、水風船のヨーヨーから付け替えて、遊ぶ。

 糸も固い感触ではなくて、少しゴムのようで、ぽよんぽよんと跳ねるような感触がする。


「これなら、長く遊べるでしょう?」


 にっこりと笑う女の子と、手の中の新しいヨーヨーを眺めながら。

 僕も、こんな風に、童心を生かせる大人になろう。


 そんなことを、思った。

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