番頭:紅狐の観察日誌 「夕餉」
縁側で、瓶詰のラムネをちびちびと飲みながら、ぼんやりと過ごす。
少しだけ昨晩の酒がのこっているのか、気怠い。
だが、そのためか、涼風や炭酸の爽快な飲み口が、より心地よい。
「紅狐さん、紅狐さーん! 今日の夕飯、パスタでいいかな?」
緑の甚平姿の翠狸が、すたこら走ってやってきた。
昨日、一緒にしこたま酒を飲んだはずだが、元気そうである。
「あんた昨日、明日の夕飯は残り野菜ですますって言ってたじゃないの……」
私と同じく若干二日酔い気味であろう碧兎が、呆れた様子で後ろから歩いてきて、窘めている。
「だって、食べたくなっちゃったしさー。
お酒飲んだ次の日って、炭水化物食べたくなるじゃん?」
そういうものか。
今はまるで食欲がないので、あまり共感できないが。
昨日は”たこぱ”なるものをして、たこ焼きをこれでもかというくらい焼いて、ひたすら食べたのだ。
しかも付け合わせはらあめんさらだ。沢山野菜をのせたものの……。胡麻ダレで、がっつり味であった。
おまけにネギたっぷり鶏の甘酢あんかけもあり、更にでざあとにちょこれいとけえきまで食べたのである。
胃疲れで、翌日の食欲が失踪してしまうのも道理であろう。
「私はいいよ。今日の夕飯は遠慮するから、二人でお食べ」
たこ焼きもらあめんも、炭水化物である。
その上今日も炭水化物を食べようとは。すごい腹である。
さすが、叩くとぽんぽこ鳴るだけある、か?
「わたしは野菜だけでいいわ。あんた、自分の分だけパスタになさいよ」
「碧兎まで……2対1かあ。でも負けぬー!」
そう言い残して走り去ったと思いきや、幾らも経たぬうちに戻ってきた。
その頭の上に、ぱすたが大盛に盛り付けられた大皿をのせて。
「ふっふっふ!
細麺パスタに昨日の残り野菜のカイワレ大根とアスパラともやしときゅうりとミニトマトのっけ、
それにちくわをプラス、そしてたっぷり白ごまと大根おろしと麺つゆをぶっかけた冷製パスタだぜ!
どうよ?」
「……おいしそうね……」
碧兎は、脆くも陥落したようである。
二人は大皿から小皿にぱすたを取り分けて、仲良く食べ始めた。
そんな二人のなごやかな夕餉を肴に、ラムネをちびちびと飲む。
……晩酌がしたくなってきた。
私も、ご相伴に預かるとするか。
空になったラムネの瓶を置き、秘伝の酒が入った瓶に持ち替えて、二人の方へと向かう。
そんな夕餉の、なごやかなひと時だった。