心からの土下座でも何でも致します!(レイ:恥ずかしいので止めて下さい。)
や、やっと着いた…………大体10分強?侍女長にこの屋敷の見取り図とかないか聞いてみようかなー。話しかけんのに割と勇気いるなあ。…………3日かかるや。後でメリーちゃんと侍女長に話しかける練習でもしよっと。
「お嬢様。着きましたよ。本当にこのままだと日が暮れそう気がしてきますし、早く回りましょう?」
くっ、斜めアングルやっぱ良いわ。何度見ても慣れなさそう。うん。まだ明るいけどこの裏庭もなかなか広そうだ。
無数の種類の花が見渡す限り一面に咲いている。背の高い花も低い花も凛としていて美しい。赤い色を基調とした花が心なしか多い。ふっと嫌な記憶が蘇ってきた。そう言えばこの乙女ゲーム、ハッピーエンドになって悪役令嬢が死ぬと必ず画面が真っ赤になるんだった。剣で令嬢の体を貫く音や断末魔が聞こえてきてそれはそれはリアルなのだ。何回もハッピーエンドをやって攻略達成率100%目指してた時にハッピーエンドなのに画面が終盤真っ赤になるから後味悪い山の如しだったや。ハッピーなのに人死ぬのもなんかなあ。従者ルートでは悪役令嬢はいないから幼馴染ルートのみだったけど。ネタバレ禁止のサイトで私が死んだ時も真っ赤になるみたいだし。本当怖い。もういいじゃん。修道院送りとかでさあ。
「お嬢様?大丈夫ですか?顔が真っ青ですよ?」
「だ、大丈夫よ。ちょっと嫌な事を思い出しちゃっただけ。」
思わず声が裏返ってしまったがすぐさま言葉を返した。ニコッと笑って見せた。危ない危ない。ここで休憩という名の引き返しを食らったら、目的を果たせなくなってしまう。
「…………そういう無理は嫌です。」
「え?なあに?」
私は何も聞こえない。聞こえないよ。うん。聞こえちゃったら、無理なんてしたくなくなちゃうもん。私がやるべき事は誰かに頼ることじゃない。誰かに頼ったって虚しくなるだけ。分かりきってる。
「…………何でもありません。」
レイちゃんは顔をしかめて俯いていた。胸がズキズキと痛い。うっ。良心がっ。取り敢えず心配させない様にさっさとリサーチしちゃおう。胸のズキズキを振り払う様に軽やかに走っていった。えっと、確か啓パイセンの情報では十二色に輝く魔法水の噴水の花壇の茂みだったけ…………それもレイちゃんのイメージカラーの花のの植物をバックにヒロインとレイちゃんは出会うのだ。そのスチルは「このとき」で一、二を争う美しさらしい。…………レイちゃんのイメージカラーって何だったけ?手紙がかなりあったから大分読み飛ばしちゃって覚えてないや。もうレイちゃんは私の傍に殆ど居るだろうし、ちょっとした隙にも確認出来る様に常に持ち歩かなきゃ。
「私ちょっと裏庭風のように走って来るからここで待ってて頂戴。」
「嫌です。」
「大丈夫よ。この家からは出ないわ。というか広すぎて出れないし。」
「嫌です。」
「…………レイちゃん?怒ってる?」
「…………」
「あのね。本当に大丈夫だから。私は只言い訳になっちゃうかも知れないけど心配とかさせたくなかったし、出来るだけ迷惑かけたくなかったし」
「なんで嘘つくんですか?僕は分かります。人の心が分かるんです。皆そうです。何故ですか?なぜ僕に何も背負わせてくれないんですか?あの時もそうです今もです僕が弱いからですか?僕は皆にとってそんな役立たずですか?僕は」
気付くと思わず私はそっとレイちゃんの手を強く握っていた。
「ごめんなさい。昔の事は私には分からないけどでもレイちゃんが頼りないからとかではないの。私個人の問題なの。この世界では考えない様にしてたけど私はね、もう嫌なの。私が誰かに助けを求めても、誰も助けてくれずに傷付いて、そしてまた誰かを私が傷付けるのはもうウンザリなの。怖いの。私は自分が好きな人達には笑ってて欲しいの。もちろん。レイちゃんにも。私の事をこんなに気にかけてくれる人なんてそうそういないもの。余程お節介でいい人にしか無理だよ。絶対。だからさ。レイちゃんが弱いかも私には何も分かんないけど、レイちゃんは人を気遣える人間だからきっと今弱かったとしてもきっと強くなれるもん!」
いつの間にか言葉が出ていた。どもりながらだけど、思ってる事を言った。レイちゃんがこんな気持ちだとは知らなかった。また人知れず傷付けてしまった自分が嫌になる。私はそっとレイちゃんの顔を覗いた。じっとうつむいたままピクリともレイちゃんは動かなかった。
「あの、ごめんね。本当に。ちょっと話纏まって無かったけど私が言いたいのは…………」
「お嬢様。大丈夫です。取り乱して申し訳ありません。」
一の間にかレイちゃんは前を向いて笑っていた。心なしか鼻が赤い。声も上ずっている。…………もしかして泣いてた?はっ、こういう事は気づかないフリだ。泣いてるのバレルの嫌かもだし。
ちょっと泣きながら笑っているレイちゃんは酷く幼くて、チート美少年でもなく、私の従者でもなくて、紛れもない小さな小さな男の子だった。でも逞しくてかっこよくて何だか不思議だった。握った手は強く握り返されていた。
「あ~。やっぱり私少し疲れてると思うの。部屋に戻りましょう?」
「…………そうですね。戻りましょうか。」
握った手を離そうとすると、強く強く握られていて離れない。
「お嬢様。もう少しこのままでお願いします。」
恥ずかしそうに頬をほんのり赤くしてレイちゃんは小さな声で呟いた。
え、超かわいい。ショタヤバい尊すぎるわ。にやけそうになる顔を5歳児の健全な笑顔になおすと大きな声で応えた。
「もちろんよ!さあ戻りましょう!帰り道はこっちね!」
「違います。」
手にジンジンと伝わってくる温かい感触は今までずっと知らなかったみたいに新鮮で、こんな時間がずっと続いて欲しいと少しだけほんの少しだけ思ってしまった。
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読了お疲れ様です。
次回はリヴィア(上原鈴)の前世の過去になります。