俺の奴隷ハーレムはなんか聞いてたのと違う
俺は勇者だ。ついでに前世の記憶持ちってやつで、いわゆる地球からの転生者。幼少期、勇者の刻印を授かった俺は、ラッキーって思ったね。前世で読んだラノベの中のいわゆるチーレムものに憧れてたからだ。チートでハーレム。素敵すぎる。この世界には奴隷がいたし、おあつらえ向きの環境だった。
王様から魔王討伐に旅立つように言われた俺は、仲間にするのにうってつけの人材を探し求めた。まず、奴隷だな。女の子の。奴隷は裏切らないし、ある程度仲良くなって信頼度を上げてから隷属の首輪を外してあげたら、きっと「キャーステキ! 抱いて!」ってなるはずだ。王様に奴隷を仲間にしたいことを告げると、好きな者を一人プレゼントしてくれるって言った。
奴隷商人のもとに行くと、そこにはひときわ目立つ金髪美人がいた。
「こいつは戦争奴隷でさぁ」
「戦争奴隷?」
「最近我らが王が隣国の小さな国を落としたんで、敗戦国の者が奴隷として流れてくるんでさぁ」
「こいつにしやすか?」
札には魔術師兼愛玩用と書いてあってかなり値が張る。彼女は菫色の瞳でキッとこちらを睨みつけている。
うん。この子にしよう。この憎しみの目が尊敬に変わるのは見てみたい。
「この子でお願い」
どうせ費用は王様持ちだしね。あっさり決めた俺に彼女は悔しそうな表情をしている。奴隷なんてどうにでもなる、俺、勇者だし。そう思っていた。この時は。
アリーシャと名乗った彼女は敗戦国の王女だったみたいで、かなりプライドが高かった。
「なぜあなたのような、我が国の仇に私が膝をおらねばならないのっ」
あせっちゃダメだ。俺は自分に言い聞かせる。ゆっくりとこの子に心を開いてもらうんだ。
その後、なりゆきで故郷から街に出てきていた剣士の少女と再会しパーティーに加え、虐げられていた別の奴隷を助けることになった。もちろん女の子だ。この子は治癒師だったから、これで夢のハーレムパーティーが完成したことになる。
治癒師の女の子、シイラは、かなり恭順だった。細やかに気配りをし、パーティーが円滑に回るようにしてくれた。ピンクの髪と瞳を持つ彼女にすっかり俺はデレデレだ。アリーシャは文句を言いながらも敵を倒してくれるし、同郷の少女は想像よりずっと強かった。順風満帆だった。
だから、大型の魔物を倒して宿に戻り、祝杯をあげた俺は、隷属の首輪をはずして好感度を高めるイベントを起こしてみることにした。宿の部屋は4人1部屋にして、部屋に3人の女の子を集める。
「みんな、いつもありがとう。俺がやっていけているのは、みんなのおかげだ」
「まあ、そんな。勿体無いお言葉。勇者様が日々努力をされているからです」
すかさず返してきたシイラに俺は言った。
「俺はシイラの隷属の首輪を解除しようと思う」
「本当ですか?」
夢見たいです。と言って彼女は涙を流している。
俺は勿体をつけて懐から鍵を取り出した。
「その鍵は……!」
「ああ、以前のシイラの主人から奪ったんだ」
鍵を差し込んで回すと、カチャリと重厚な音がして首輪が外れた。
「これで自由なのですね」
感激しているシイラ。
「アリーシャも解放するのですか?」
聞いてくる彼女に俺は答える。
「いや、しないよ。アリーシャは解放したら襲ってきそうだし」
アリーシャはツンとしてそっぽを向いている
「施しなどいりませんわ」
それを華麗にスルーして俺は言う。
「まあ、飲んで飲んで。お祝いだから」
「そうですね!」
シイラがどんどん勧めるので俺はぐでぐでに酔っ払った。
「アリーシャの鍵も身につけていらっしゃるのですか?」
不意にシイラが聞いた。
「あーうん。そうだよ。取られちゃったら困るし……」
頭がぐらぐらする。これは飲みすぎたな。
「このままお休みになって構いませんよ」
「悪い。そうするわ」
そして俺はシイラの膝枕を借りて意識を手放した。
目が覚めると身体が重かった。ああ。昨日飲みすぎたから、と思い出したが、どうやらそれだけではなさそうだった。重いだけでなくなんかスースーする。俺は、気づいたら身ぐるみをはがされて簀巻きにされ、床に転がされていた。
部屋の中には、仲間たちの姿はない。何者かに襲撃された? 俺は必死で芋虫のように這い回り、ジタバタしてなんとか身体の自由を取り戻す。
その時、部屋の扉が開いてアリーシャが入ってきた。
「よかった。無事だったんだ。一体何があったんだ?」
矢継ぎ早に問いかける俺に、アリーシャは見下したような目を向けた。
「あなたって馬鹿なの?」
「どうゆうことだよ、俺は本当に心配して……他のみんなは?」
彼女ははぁっと大きなため息をついた。
「あなたは裏切られたのよ」
「簀巻きにしたのはシイラ。あの子犯罪奴隷よ」
「嘘だろっ!?」
「あなたは馬鹿だから簡単だったでしょうね。聞き分けの良い、いい子を演じてるだけで奴隷から解放されるんですもの」
ふと、アリーシャの首を見ると、隷属の首輪が外されていた。
「私も一緒に行かないかって誘われたけど、断ったわ」
「犯罪者に加担するくらいなら、馬鹿な勇者様についてった方がよっぽどマシ」
彼女は布の服を俺の方に放り投げてくる。
「さっさと着なさい。みっともないものを晒さないで」
「どうして……アリーシャは俺を助けてくれるんだ? もう隷属の首輪はないはずだろ?」
彼女は大嫌いな虫でも見るかのような目をしている。
「……私の国は裏切りによって落ちたの。馬鹿みたいに騙されたかつての私が、あなたに重なっただけよ」
それに、と一旦言葉を区切って続ける
「人と人との関係って隷属の首輪がないと築けないものだったかしら」
俺は、彼女に土下座して謝りたくなった。自分がいかに表面的なものしか見えていなかったのか気付かされたからだ。俺は、最低なことに、彼女たちが感情を持つ人間であることを忘れていたらしい。
「アリーシャ……」
「ありがとう。何かあったら、今度は俺が助けるから」
「……ふん。期待しないで待ってるわ」
そっぽを向いた彼女に、俺はそれが彼女なりの照れ隠しなのだと知る。
今まで同じような態度をしてきたのは、きっと彼女が不器用だからなのだ。
「で、無能な勇者様、これからどうなさるので」
「まずは、仲間を探そう。奴隷じゃなくて普通に信頼関係が築ける奴。できれば男の盾持がいい」
言うと、彼女は驚いたように瞠目した。
「てっきり女の子がいいっていうかと思ったわ」
「もういいんだ。頑丈で信頼できる盾持を仲間にできれば、アリーシャの負担も減るだろう?」
「気遣いは無用です」
彼女はやっぱりそっぽを向いているけど、
「……いい人が見つかるといいですわね」
ポツリと最後に落とされた言葉に、俺は嬉しくなる。
俺の奴隷ハーレムの夢は崩れ去った。
だが、代わりにアリーシャの人となりを知り、信頼できる仲間ができた。
やっぱりハーレムはいらない。
ヒロインは一人で十分だ。
初期装備の布の服を纏った俺は、今日また、1から冒険を始めるのだ!
ざまぁされる主人公
当初、ヒューマンドラマで投稿予定でしたが、前日のヒューマンドラマ短編にあまりに人が来なかったので、実験的にハイファンタジーにジャンルを変更しました(泣)→違和感が半端なかったのでヒューマンドラマに訂正しました。