7:そしていつもの月曜日……?
現れた答えにあたしは息をはいた。
何となくそんな気がしていた。このまま逃げていても終わらないって。
あたしは迫り来る灰色に向かって足を踏み出す。
「どこ行くのさ!」
「あの灰色の向こう」
だって。
謎の答えがそう言っているんだもの。
「あたし、思うんだ」
あたしの足を両手で掴んで止めようとするウサギを見下ろして、あたしは続ける。
「嫌なものが入って来られないのは安全かもしれないけど、逆に言えば出ていくこともできないってことよね? それって楽しいの? 思い通りにならなくても、あたしは元の世界がいい。祐奈ちゃんや春花ちゃんの1番があたしじゃなくなっても……寂しいけどどうしようもないことだってあるじゃない。あんたもそうでしょ?」
学校の七不思議№3は、寂しくて校内をさまようウサギのモクジィ。
「嫌なことがあっても、そこで立ち止まったらずっと嫌なことを見続けなきゃいけない。でも前に進めば嫌なことは後ろに遠ざかっていくの。その先にはいいことが待ってるかもしれないの。灰色だって同じ。呑み込まれて終わりだって思うのはそこで立ち止まっちゃうからだよ。終わりだと思わなきゃ、きっとどこかに続いてる」
そうだ。ウサギはずっと灰色に呑み込まれてしまう、と言うばかりだった。その先がどうなっているのかは言わなかった。
本当は悪いことなんか起きないかもしれない。真実は前に突っ立っているだけじゃわからない。
「一緒に行こう。止まったままじゃ未来には行けない」
あたしは身を屈めるとウサギに手を差し出す。
「あの先に何があるかもわからないのに」
「先のことがわからないのはいつもそうだよ。予知能力とかないし。でも失敗するかもって立ち止まったら駄目なんだ」
「だけど」
「最後の謎はあんたが持ってた。いくら否定したって、あんたの答えはもう出てる」
あたしはウサギを胸に抱え上げる。
「アヤノ」
ウサギが呟く。
「嫌いになった? 僕のこと」
「保留しとく」
そしてあたしたちは灰色に飛び込んだ。
「遅いぞ彩乃ぉ」
教室のドアを開けると、祐奈ちゃんと春花ちゃんがこちらに気づいて手を振った。
「あ……早いね」
時計を見上げる。8時40分。
そこへバタバタと大輝が駆け込んでくる。
「お! もう来てたのか。日直は……何だよ全然やってねーじゃん」
「彩乃ひとりに押しつけなーい」
「押しつけてねーって。ほれ学級日誌」
大輝は教卓の上に日誌を放り投げる。
「ほー、朝練の帰りに持って来たんだ。偉い偉い」
「お前な」
最初の朝とは違う朝だ。
きっと地震は起きない。春花が人体模型になることも、祐奈が物語の登場人物になることもない。
戻ってきたんだ。あたしはひっそりと胸を撫で下ろす。
「そう言えばさ。ってあれ? 何だこれ」
鞄を自分の席に置いた大輝が、机からこぼれ落ちた封筒を拾い上げる。
「手紙?」
「ああーっと! そういうものはひとりでこっそり読むものよ! ほらさっさと日直日直!」
「はあ!?」
祐奈ちゃんに急かされて、大輝はその封筒を読まずにお尻のポケットに突っ込む。
何だろうね? と横を見ると真っ赤な顔をした春花ちゃんがいて……ああ、もしかして彼女たちが早く来ていたのはこのためだったのかな、と思ったり。
そうこうしている間にも他の生徒たちが次々に登校してくる。次第に教室の中が賑やかになってくる。
「それより何か言いかけたでしょ」
「あ、そうそう。職員室で聞いたんだけど、転校生が来るって」
「うっそ、今頃!?」
「男子? 女子?」
大輝が持ってきた情報にクラスが沸き立つ。
「どっちかな」
祐奈ちゃんが囁く。
「さあ?」
あたしは含み笑いのまま空を見上げた。白い雲が浮かんでいる。
きっと男子。ウサギみたいな奴に違いない。




