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彼が世界を救うまで  作者: 愛坂歩夢
第1章「世界を救ってくれないか」
8/14

8.空

「ふわぁ〜今日も良い天気ですねえ」


美空はいつものように徒歩で通学をしていた。家から学校までは電車で二駅、そこから歩いて5〜7分ほどの距離にある。お金持ちの私立学校というだけあって、車で通学する人がほとんどなので、歩いてくる人はとても珍しい。美空も入学したての頃は、親が勝手につけてきた三田さんという家政婦兼お世話係のような人がいた。家事や学校までの送り迎えは三田さんが全てこなしていたのだが、2年生に上がった頃から美空は色々と自分でやりたがるようになった。親にお願いして、成績を落とさないという約束と引き換えに三田さんには辞めてもらい、料理や洗濯、掃除なども全部自分でやることにした。そして通学も例外ではない。アルバイトは禁止なのでもちろん生活費は親のお金だが、美空は自立したいという気持ちが人一倍強かったのだ。


「に!し!の!み!や!さーーん!!」


後ろから突然声をかけられ振り返る。


「神宮寺さん?!うわあ!」


大きく手を振ってこちらに走ってきたかと思えば美空まであと少しというところで、何もないのにずっこけた彼女を見て美空は驚く。


「だ、大丈夫ですか?!」


「いたたた、、お恥ずかしい。わたくし筋金入りの運動音痴だったの忘れていましたわ。」


「京子様ーーー!!!転ばれたのですか?!すぐに手当てをーー」


どこから現れたのだろうか、突然彼女の執事と思われる男性が傷に消毒をして絆創膏を貼る。


「ふぅ、助かったわ。もう帰っていいわよ。」


「しかし、、!徒歩は危険です!やはり学校までお送りします。」


「ここまできたらもう歩いていけるわ!早く帰って」


京子が怒った顔を見せると、執事は渋々と帰っていった。


「すごい執事さんですね」


「まあ、お恥ずかしいですわ!今のは見なかったことにしてください」


「でも、神宮寺さんいつもは車通学なのでは?」


「はい、西ノ宮さんの姿が見えましたので先ほどそこで車を降りましたの。」


「あはは、そうだったんですか」


「しかし驚きました。西ノ宮さんがまさか歩いて学校に来てらっしゃるなんて。お付きの者はおりませんの?」


「ええ、できるだけ自分のことは自分でやりたくて、、」


美空が控えめにそういうと、京子は目を輝かせる。


「素敵ですわ!!やっぱり西ノ宮さんは他のお方とは違いますわね〜」


「どういうことです?」


「あっ、、」


口を滑らせてしまった、とでも言うかのような顔をした京子は美空から目を逸らそうとする。美空はあやしいと思い、すかさず京子の思考を読み取った。


「、、、へ?」


京子の考えていることが、わかってしまった美空は拍子抜けしていた。


「神宮寺さん、私のファンなんですか?」


「なっ、、!ど、どうしてわかってしまったのですーー?!」


キャーというように顔を隠す京子が何だか可愛く思える。


「じ、実は入学式で人目見たときからわたくし西ノ宮さんのファンになってしまったのです。それで、ずっとお話ししたいと思っていたのですが、、同じクラスになれないし、、どうにかって考えていたら、西ノ宮さんが恋のキューピッドだっていう噂を聞きつけてこれだって思ったのです。こんな利用するみたいなやり方で、、嫌いにならないでください、、」


申し訳なさそうな顔で美空の顔色を伺う。


「自分のことをそんな風にいってくれる人のこと、嫌う人なんていませんよ!むしろ嬉しいです。」


美空は笑顔で言った。その笑顔に見惚れ、京子は少しだけ目を潤ませた。


「え、ちょっと神宮寺さん?!なんか泣いてません?」


「泣いてなどおりませんわ。西ノ宮さんがわたくしにそんな笑顔を見せてくださるなんてーー」


「あはは、大げさですよ。でもそれじゃああの恋の相談は私と話すための口実だったってことですか?」


美空は海斗との出来事を思い浮かべる。そもそも京子の話がなければ存在すら知らなかっただろう。今後もう会わずに済むならそれより良いことはないと思ったのだ。


「い、いえ。口実といえば口実なのですが、カイト様のことは本当に慕っておりますの。お恥ずかしい。」


「そうなんですか?!てっきり、、」


「?美空さん?どうかしましたか?」


「いえ、何でも。さ、学校着きましたよ」


美空は海斗のことが気がかりだった。要に話したとはいえ、接点が近いのは自分のほうだ。もし本当に能力者なら、、話を聞く必要があるかもしれない。そんなことを考えていると、携帯がピコピコと音を立てた。


「ん、、?要くんからです!」


要からの連絡に少し胸を高まらせた。すぐに携帯を取り出して確認する。


「こないだ言ってたやつの名前わかる?」


チャットにはそう書いてあった。"こないだ言ってたやつ"というのは恐らく美空が能力者かもしれないと話した人のことだろう。つまりそれはカイトというあの男のことだ。以前話したときはそこまで興味を持っている感じでもなかったのにいきなりどうしたのだろうかと思いながら、名前を教えようとして気づく。そういえば美空は彼の本名を知らなかったのだ。


「神宮寺さん、カイトくんの本名ってわかりますか?」


「ハッ!西ノ宮さんもついにカイト様の魅力に気付かれたのですか?!わたくし初めて目を合わせたあの日から、カイト様のこと色々とお調べしたのです!名前は桐崎海斗様。お父様はお医者様で、その血を継いでか成績はいつも上位!その上あの冷酷な態度がドS王子のようだと女子からの評判は絶大ですわ!!あ、あとスリーサイズは上から、、、」


美空はそこまで聞いて苦笑いをしながら京子の言葉を遮った。


「じ、神宮寺さん!もう大丈夫です、、。全くどこからそんな情報まで」


「あら、もういいですの?わたくしの情報を駆使すればこんなの朝飯前ですわよ。それにカイト様はファンの女の子が多いですから、真偽はわかりませんが情報はあふれています。あ、名前は正確なので安心してください」


「はあ、そうだったんですか。ともあれ教えていただきありがとうございます。」


美空がお礼を言うと京子は嬉しそうにうきうき隣を歩いている。早速京子に聞いた情報を要に送った。


「名前は桐崎海斗くんと言うそうです!っと。これでよしっ」


するとすぐに要からの返事がきた。


「やっぱりそうか。俺そいつに会ったみたいだ。」


「ええーーーっ?!」


美空の叫び声に京子の体がビクッと跳ねた。


「ど、どうしたのですか西ノ宮さん!!」


「あ、えと、、何でもありません!ちょっと驚いてしまって、、あ、じゃあ私先に行きますね!」


「えっちょっと!西ノ宮さん?!」


京子が後ろで何か言っていたが美空には届かず、そのまま教室へと駆け出した。


(何ということでしょう!恐れていたことが起きてしまいました!)


要が彼に会ってどうなったのか詳しいことは分からないが、悪い予感が的中してしまったようだ。とにかく要に会って話を聞こうと、前に話をしたカフェで2日後に会う約束をした。2日間がとても長いように感じる。早く真相を聞かないと!美空の頭はそのことでいっぱいだった。





2日後。

学校が終わると居ても立っても居られない様子の美空は、要と会うために、例のカフェへと小走りでかけて行った。どうやら約束の時間より、少し早く着いてしまったようだ。少しの間外で待っていた美空だが、要から、少し遅くなるから中で待っていてくれという連絡が来たので、そうすることにした。

席に座ってひと息つくと、走ってきたからか喉が渇いていたことに気づく。まだ時間がありそうだったので、美空はオレンジジュースを頼んで要のことを待つことにした。2日間色々考えていたが、やはり要に話を聞かないことには、考えがまとまらない。美空は考え始めると、その事で頭がいっぱいになってしまう性格なのだ。はあ、と溜息をつきながらオレンジジュースをちびちびと飲んでいると、カランカランというドアが開く音がした。自然とそちらに目をやると、どうやら要が来たようだ。美空は要の姿を見て、とっさに立ち上がり「要くん!」と小さく手を振った。


「美空、お待たせ。」


「いえ、私も今さっき来たところなので!」


「悪いな。また来てもらっちゃって、、って、また考え事してたろ?まあ俺があんな事言ったら気にするよなそりゃ」


「え、、そんなことないですよ!確かにずっと考えてはいましたが、、。私少し嬉しかったんです。少しでも要くんの助けになれているのかなって。」


そんな言葉を聞かされて、要は少し顔を赤らめる。美空は良くも悪くも自分の感情に素直だった。それは美空にとっては無自覚だろうが、だからこそ、周りの人からは妬まれたり、嫉妬されたりすることは昔からよくあることだった。しかし美空にとっては無意識的なことなので、改善の余地もなかった。要がそんな美空を見て顔を赤くしていることにも気づかずに、彼女は早く話がしたいという気持ちが前面に出ていた。


「そ、それで!要くん、チャットで言っていたあの話、本当なんですか?」


「ああ。生徒を見たところ花宮男子校の生徒だったし、名前も同じだった。さすがに同姓同名の別人ってこともなさそうだしな。」


「やっぱり要くんも彼が能力者だと思いましたか?」


「ほぼ間違いないだろうな。俺も、おそらく能力を使われただろうし。美空が言っていた通り、奴に命令されたかと思ったら、って感じだった。」


「要くんもあれを、、?!危ないことにならなかったですか?」


「まあ、怪我とかそういうのはないから大丈夫だよ。」


要は、海斗に会った時のことを思い出しながら苦笑いする。さすがに海斗に命令されてからの前に跪いたなんて美空には恥ずかしくて言えないなと思ったからだ。かいつまんで海斗と会った経緯などを美空に説明すると、またも美空はうーーーんと唸りながら考え出した。


「要くんは彼の能力、どう思いますか?」


「どういう能力かってこと?そうだな、見たところ、"思考操作"とかそっち系だと思う。」


「思考操作、ですか?」


「ああ。テレビとかでよくやってる催眠術とかの類によく似ている。奴の前では、人は奴の思うままだった。命令されると従ってしまうって感じだな。しかもほぼ無意識に、だ。その証拠に気づいたときにはもうその命令を聞いた後だったはず。」


「確かに!私の時も、帰れって命令されて、帰り道の方角に進んで歩いている途中で意識が戻りました。」


「だが、俺たちと同じように、あいつにも何か欠点があるはずだ。最初に俺が能力を使ってできるだけ距離を置いていた時、奴は能力を使わなかった。つまり、能力の発動には距離的な問題か、そのほかにも使える場面は限られている可能性が高いな。」


「要くん凄すぎです!!一回会っただけでよくそこまでわかりましたね?!私なんて少し思考を読み取っただけで終わってしまったというのに、、不甲斐ないです。」


「まあまあ。そういうことは気にするなよ。それに確かにあいつは危険な奴だった。美空もあまり関わらない方がいいだろうな。それこそ、俺は能力者だって顔がバレてこうなったわけだし。もし美空も能力者だってあいつが知ったら何されるかわかんないぞ。」


「そうですね!注意しておきます。お話してくれてありがとうございます。」


「いいんだよ。美空は俺の、仲間だからな。」


「仲間?」


「そう。これから何があっても俺は美空の味方ってこと。」


「そういうことなら私だって!要くんの味方です!」


「ああ、頼りにしてるよ。」


そう言って2人は笑い合う。その後もしばらくカフェでくだらない話などをして、外に出たときには辺りはもうすっかり薄暗くなっていた。


「わあ、こんなに暗くなってる。」


「ほんとだな。もうこんな時間か。送ってくよ。」


「い、いえいえ!悪いですよそんな。」


「女子高生がこんな暗くに出歩いちゃ行けないんだぞー?ほらいいから行くぞ。」


「は、い。ではお言葉に甘えて。」


美空は恥ずかしそうに、小声で言った。

要の少しだけ後ろを歩く。要の後ろ姿をみて、美空は嬉しいような、でも少し寂しいようなそんな切ない気持ちになった。なぜかはわからない。電車を降りて少し歩くと、レオに会ったあの神社の辺りまで来ていた。特にこれと言った会話もないまま、2人は歩いた。静かだった。でも、その静かさでさえ心地よかった。美空の家に着く頃には、月明かりがとても綺麗な夜空が広がっていた。街から少し離れた住宅街だと、星もちらほら見える。


「見てください、星!」


「ああ、ここからだと結構見えるんだな。」


「あ!そうだ。私星がもっと綺麗に見える秘密の場所知ってるんです。」


「秘密の場所、、?」


「はい!こないだレオくんに会った神社を更に奥に進むとちょっとした丘みたいなところがあって、、。ちょっとついて来てくださいっ!」


そう言うと美空はタタッと要の前を歩き始めた。


「おい、美空!ちょっと待てよ」


「要くんはやくはやくー!もう少しですよ!」


神社の奥に抜けて続いている森の中を進む。辺りは街灯もなく真っ暗な道を少し歩くと、美空の言う通り少し開けた場所に出た。そこにはベンチなど人工的なものは何もなく、何だか別の世界に来たようなそんな気持ちになった。


「こんな場所が、、」


要が驚いていると、美空がドヤ顔で言う。


「すごいでしょう?ここ、きっと自然にできた場所なんですよね。何だか別の世界にいるみたいな気持ちになって、1人になりたいときとか来るんです。暗いから夜は最近怖くて来てなかったですけど。ほら、見てください、空。」


そう言って美空は空を見上げる。かなめも同じように空を見た。すごく、綺麗だった。こんなに満点の星空を最後に見たのはいつだったろうか。遥か昔の記憶のような気がする。思い出せないくらい、こんな星空を見たのは久しぶりだった。いや、もしかすると初めてかもしれない。ともかく要は感動していたのだ。


「都会でこんな星が見えるなんて、知らなかった。」


そんな要の驚いた表情を見て、美空も満足げだ。


「本当に凄いですよね。私も初めて見たとき、感動して涙出て来ちゃいましたよ。でもなんだか今日はそのときよりも、綺麗に見える気がします。」


そう言って要の方を見た美空の顔が月明かりに照らされて、とても綺麗だった。


「綺麗だ」


要は自然と口に出てしまっていた。自分が口にしたことを直後に自覚した要は恥ずかしくなった。


「え、、っと、あの、今のは、、」


「え?何か言いましたか?」


焦る要とは裏腹に美空にはどうやら聞こえていなかったらしい。キョトンとした顔で顔を傾ける。安心したが、少し残念なような気もした。


「いや、何でも」


「そうですか?、、、何だか不思議な感じですね。」


「ん?何がだ?」


「私今日この星空を、要くんと見たこと、一生忘れないと思うんです。あ、これは予想じゃなくて確信、ですよ。」


そう言って、美空は再び星空を見上げる。

星空を見て嬉しそうに目を輝かせている美空を見て、要は優しく微笑んだ。

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