13.探偵たちの日常
「あれーー?小野寺じゃないの!?」
「ほんとだー。オノデラだー。」
「アカネと総司さん?ってかアカネ!呼び捨てかよ!」
「まあまあ細かいことはいいじゃないの〜何してんのよこんな所で」
「いや、スーパーに用事があってさ。」
ついに家から食材がなくなった要は、学校帰りに駅の近くのスーパーに寄った後だった。手には卵と肉とジャガイモと玉ねぎ。久しぶりにカレーでも作ろうかと思っていたのだ。食材を買って帰ろうとした矢先に出会ったのは、松原探偵事務所で会った向坂茜と火野総司だ。
「おや?小野寺さん、こちらの食材はーー!今日の夕飯はカレーですかな?私もお呼ばれしちゃおうかなー」
茜はわざとらしくからかうように言った。
「やらないよ?」
要が言うと茜は「えー小野寺のけちー」と頬を膨らませた。
「いいなあカレー!俺も食いてえー!だが、茜、ここは我慢だ!今日中にミッションを遂行しないとカエデさんに怒られちまう」
「ミッション?お仕事中なんですか?」
「ああ〜そうなんだよ!あ、、!いいこと思いついた。」
「総司、奇遇ね。私もいいこと思いついちゃった!」
2人はそう言って顔を見合わせたかと思うと、その次に要の顔を見た。
「「小野寺!!仕事手伝って!!」」
「ハモった、、、じゃなくて、ええ?!今からですか?!」
「あったりめえよ!!今日中にやっちまいたい仕事なんだから!」
「そうだよ〜オノデラどうせ今から暇なんでしょう?よっ暇人大学生!」
(なんて強引な、、。確かに何もないけど、)
「いやぁ、でも俺カレー作んなきゃいけないし、ほら!卵とか肉とか腐っちゃうしさ」
「あーそれなら大丈夫!事務所に冷蔵庫あるから。ほらグダグダ言ってないでいくよ!」
「え、ちょっと」
こうして、要は茜に手を引かれ半ば無理矢理探偵の仕事を手伝うことになったのだった。
*
「猫探し?」
事務所に向かう道中で、要は依頼について聞いていた。どうやら今回の依頼は脱走した猫を探して欲しいという、如何にも何でも屋さんがやりそうな仕事らしい。
「そう。いつもはこんな仕事じゃないのよ?!もっとド派手な仕事がしたいっていうのに〜。」
「しょーがねえよ。依頼主が常連の人で、これがまたえらいお金持ちなんだとさ。こんな地味な猫探しにすげえ大金出してくるんだぜ?やるしかないっしょ」
総司は欠伸をしながら言った。どう見てもやる気がなさそうだ。
「ちょっと総司さん、だるい仕事だからって俺に押し付けないでくださいよ!」
「だってよ〜、仕事にも得手不得手ってもんがあるだろ?俺はこーゆー仕事向いてねえもん」
「そうそう、私とか総司はもっとガテン系っていうか、バーンと悪者やっつける的な仕事が向いてるのよ、能力的にも!」
「そうはいっても、、というか俺だって別に向いてはないだろ。」
「いやいや!オノデラがいればすぐに捕まえられるだろ?ほら、時間止めて、逃げられずに済む!」
「見つかればの話ですよねえ?どこに行ったかもわからないのに、そんな簡単に見つかるとは思えないですよ。」
「問題はそこなのよね〜、あーケイがいれば!!」
「それだよ!こういうのはケイがやった方が早く片付くっていうのに。あいつ学校だとよ学校!早く終わんねえかなぁ」
「学校に行くのは当たり前ですよ。でももう16時になるし、中学校ならそろそろ終わるんじゃないですか?こんな時間にフラついてるのなんて大学生かフリーターくらい、、、って、そういえば総司さんってはたらいてるんですよね?仕事は、、、?」
要がおそるおそる聞くと、総司はやけにニヤついた顔で言う。
「聞いてしまったな、オノデラ。俺の仕事がそんなに気になるか〜?昼間にない仕事っていえば決まってるだろ〜?」
総司のチャラい見た目や話し方を見て直感的に要は想像した。
「ま、まさか、、」
「そっ、ヨ・ル・ノ・オ・シ・ゴ・ト♡」
要はやっぱり!と言わんばかりの顔で総司を見た。ところがすかさず茜が口を挟む。
「ハッ、何が夜の仕事よ。総司は自営業だから時間が自由なだけよ。」
「えっ?そうなの?」
「おいアカネ!早々にネタバレかよつまんねえ。まっ自営業っつっても親の仕事を継いだだけだけどな。」
総司は照れ臭そうに言った。
「十分すごいじゃないですか!」
「どこがよ、こんなチャラ男!それを言うなら才賀さんでしょ!!」
「そういえば才賀さんは何を?」
「お医者さんよ!お医者さん!すごいわ〜。顔良し、頭良し、性格は〜ちょっと堅いけどそれもまあ良し!才色兼備とはまさにあの人のことよ。」
「ちぇ〜どうせ才賀にはかなわないっつの」
「お医者さんだったのか。頭良さそうだとは思ったけど。というかアカネ、才賀さんだけやけに褒めるなぁ?もしや気があるのか?」
要がからかいつつ言うと、茜は怒った調子で言い返した。
「はぁ?バカじゃないの!どうしてそうなるのよ。小野寺のバカ!!才賀さんは尊敬してるだけよ!それに、才賀さんにはカエデさんでしょ。」
「おいおい、バカバカ言い過ぎだぞアカネ!一応年上なんだからもうちょっと敬えっての」
「うるさい!小野寺がバカだからいけないんでしょ!」
そんな2人の掛け合いを見て総司が笑いながら言う。
「オノデラは大変だなぁ、アカネのお守りが」
「お守り?」
「う、うっさい!総司!ちょっと黙っててよ」
「へいへーい。というかカエデさんに才賀の話はタブーっしょ」
「なんでですか?」
「まー両片思いっつうか、もどかしいんだよなあの2人は。原因は全部才賀の鈍感野郎にあるがな。とにかく俺らが口出しすることでもないだろ」
「あーあ〜あたしがなんとかしてあげたいっていつも思うんだけどね〜。ほんと才賀さんは疎いわよね。ま、小野寺もだけど」
「は?今俺関係ないだろ」
いきなり名前を出されたので要はとっさに返したが、茜はプイっとそっぽを向いてしまった。
(ったく、何なんだよアカネのやつ。よくわからん、、)
「さっ、事務所着いたぞー!ケイのやつもそろそろ来る頃だろ!中で涼んでよーぜ。あっついのなんのって」
「でもカエデさんがいたら、怒られるんじゃない?仕事終えずに帰ったときのカエデさんの怖さったら、、」
茜の顔が青ざめていくのがわかった。それだけでどれだけ怖いのかがわかった気がした。
「大丈夫だ!なぜならオノデラがいるからな。こいつを連れて、作戦会議しに帰ったとでも行っておけば問題ねえ。そしたら時期にケイが帰ってくるだろ」
「なるほど、それは名案ね。カエデさん、小野寺には甘いみたいだし」
「俺をダシに使うなよ。」
"カランカラン"
ドアを開けると、中は静寂に包まれていた。どうやらカエデはいないらしい。
「カエデさん、いないみたいですね?」
「よかったぁ〜仕事行ってるのかな?それともまた情報屋のとこか」
「どっちにせよ、ラッキーだったな!いやぁ涼しいぜ〜クーラー最高!」
総司はソファにダイブした。茜も椅子に座りグッタリとだらしない姿になった。するとその直後に、再びドアが開く音がした。
"カランカラン"
茜と総司はその音を聞いて、ビクッと体を跳ねさせすぐさま正しい姿勢に居直った。カエデが帰ってきたと思ったのだろう。要もドアの方を振り返る。
「カエデさんおかえ、、って、なんだケイかよ!!」
「なんだぁ〜もう驚かせないでよケイってば」
入ってきたのはカエデではなくケイだった。わかった途端2人は先ほどと同じようにだらしない格好へと戻る。ケイは状況が把握できていないのか、ただ無表情で首を傾げた。
「ケイ、くん。こんにちは。覚えてる?俺」
「小野寺要でしょ。覚えてるよ。あと呼び捨てでいいよ。」
ケイは要が全部を言い終える前に、食い気味で答えた。
「そ、そう。お邪魔してます。」
中学生だというのにどこか大人びた表情を見せるケイに対して要は少しだけ戸惑い敬語を使った。ケイは要の挨拶にコクリと頷く。
「ケイちーん、待ってたんだぜ〜今日の仕事はお前向きだ。早く片付けちまうぞ」
「見せて」
ふざけた総司がケイの頭をこねくり回していたが、少年は至って冷静にそう言った。これがケイの通常運転なのだろう。茜も特に取り合わずに猫の写真をケイに渡す。
「写真か。他に手がかりはないの?」
「そういうと思って、依頼主から預かっておいたわよ。これ、普段この猫ちゃんが使ってるオモチャ。これでどう?」
「十分だよ。」
「そういえば、ケイの能力は聞いてなかったな」
ほぼ独り言のように要は呟いた。するとなぜかアカネがドヤ顔で言う。
「まあ見てなさいって!ケイはこういう捜査系には超優秀な能力なのよ。」
茜が言っているのもつかの間、ケイは猫の写真とオモチャを手に触れると、目をつぶり瞑想を始めた。しばらくするとケイはぶつぶつと何かを言っている。
「近くにいるみたい。公園、、川があるところ、、。他の猫と一緒にいる。」
「川がある公園っていったら、すぐ近くにあるじゃない!行ってみましょ!」
「さっすが、ケイ!やみくもに探してた俺らの苦労を一瞬で水の泡にしやがる」
そう言うと3人は立ち上がり、ドアへと向かう。要は何が起きたのかわからず呆気にとられていると、
「ほら、何してんのよ小野寺!あんたも行くのよ。」
茜に再び手を引っ張られ、事務所から引きずり出された。どうやら近くの公園に行くらしい。
「どういうことだ、、?写真とオモチャだけで猫の居場所がわかるなんて。まさかケイは猫と話せる能力、、とか?」
要が真剣な表情で言うと、総司はブブッと声を上げて笑う。ケイの方も呆れた様子だ。
「本当にバカなのね小野寺は!!猫と話せる能力って何よそれ」
「なんだよ、みんなしてバカにしてー!わかるわけないだろ?いい加減教えろって!」
「もーう、しょうがないわね。ケイの能力は"残留思念感応ってやつよ。つまりは普段人や動物が使っている物や場所には、その人たちの色々な想いが詰まっているのね。その思念を感知できるのが、ケイの能力ってわけ。」
「そんな能力があるのか!すごいなケイ!」
「っ別に。いざという時に役立たないし、意味ないよこんなの。この辺のはずなんだけど、、、」
ケイは少し照れくさそうに言った。近くの公園とやらについたようだ。確かにケイが言っていた通り川もある。しかし中々広い公園で、この中から猫を見つけ出すのは大変そうだ、と思った矢先。
「おい!あれじゃねーか?!」
「ほ、本当だ!!小野寺!頼んだわよ!はやく、はやく!!」
「えっ!」
要はキョロキョロと辺りを見渡す。そして、ベンチの下あたりに、写真と同じ猫がいるのを見つけた。猫と目が合い、咄嗟に猫が飛び跳ねるーーーが、要の方が一歩早かった。時を止めた要は、逃げようと飛び跳ねている猫をすかさずペット用のバックに入れて、能力を解く。
「あ、れ?あ、オノデラー!あんなところにいやがる!!おーい!どうだ猫野郎はー?」
要は笑顔で、猫を入れたバッグを掲げる。
「無事捕まえましたよー!ほら、ここに。」
「ナーイス!小野寺!さすがあたしが認めた男だわ」
「一件落着だね。」
ケイも心なしか嬉しそうだ。ともあれ、依頼が完了したので一旦探偵事務所に帰ることになった。探偵事務所の前にに着くと、中から話し声が聞こえる。どうやらカエデが帰っているようだ。
「カエデさーん!猫捕まえたよ、ねこ、、」
茜が勢いおくドアを開けて入ったのだが急に止まったために、要は茜にぶつかってしまった。
「いって、、おいアカネ、急に止まるなよ」
茜を見ると、顔を赤らめて口を開けている。茜の視線の先を見て要も同じリアクションを取り、咄嗟にケイの目元を手で隠した。
「ええー!な、何してんですか?お二人さーん!まさかの急展開キタ!!」
総司はなぜか嬉しそうだ。
みんなの視線の先がどうなっていたのか。なんと、服がはだけたカエデを才賀健が迫っているかのような格好をしていたのだ。皆んなが驚くのも無理はない。そして入ってきた皆んなを見て、カエデはみるみる顔を赤くしたが、健の方は顔色ひとつ変えずに話しはじめる。
「ああ、おかえり。みんな、ちょうどよかった、俺たちも今帰ったところなんだ。」
「いやいや、全然ちょうど良くないでしょ?!何いってんの才賀さん!」
茜は慌てた様子で健とカエデを交互に見た。しかし、健は未だ頭にクエスチョンマークを浮かべたままだ。見兼ねたカエデが口を開く。
「ちょ、ちょっと!みんななんか誤解しているみたいだけど違うからね?!何もしてないから!」
「いや、それはどう見ても事後だろ!!」
「総司くん!うるさい!!」
「おいおい、みんな何の話をしているんだ?」
「いや才賀さん、あの、カエデさんと何を、、」
要はおそるおそる聞いてみた。
「ん?何って、、ああ。カエデが肩凝ってるみたいだったから湿布を貼っていたんだよ。カエデってばすぐ無理するんだから。」
それを聞いて、その場の空気が安堵に包まれた。総司はというと、
「なーんだよ。そんなことかよつまんねー。まあ才賀にそんな勇気があるとも思えないしな。」
少しつまらなそうだ。カエデも服を正しながらぶつぶつと言っている。
「全く。みんなすぐ早とちりするんだから。別に健くんとは何もないっていつも言ってるのに。」
「というか、カエデさんと才賀さんどこ行ってたんですか?まさかデート?」
「アカネちゃん!違うってば!情報屋に会いに行ってたのよ。あ、そういえば依頼済んだのね。ありがとう、お疲れ様。」
「まあ、今回はほとんどケイの手柄だけどな。あ、あとオノデラも手伝ってくれたんだ。」
「あらほんとに!助かるわ小野寺くん。普通の仕事まで手伝ってもらっちゃって悪いわね。」
「いや、いいですよ。どうせ暇でしたし。それに、俺も情報屋の情報っていうの気になります!聞いていってもいいですか?」
「ええ、どうせ話すつもりだったしちょうどいいわ。今回の情報は、また、新しい能力者のことよ。」
「新しい、能力者ーー?!」
みんなが再び声を揃えた。