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彼が世界を救うまで  作者: 愛坂歩夢
第1章「世界を救ってくれないか」
11/14

11.カエデとモミジ

10年前ーーーー。


カエデには、新しい家族ができた。

もともとカエデの親はシングルマザーで、母1人、子1人の2人家族だったのだが、母がある日突然お腹に赤ちゃんがいるという告白をしてきた。カエデが中学生のときだった。もちろん驚いたがカエデは新しい家族ができるということが嬉しかった。母の方は、相手の男性と再婚するつもりはないらしくお腹の子もカエデの反応次第ではおろすつもりだったらしい。しかしカエデは逆に、母にお願いしてまでその子を産んでほしいと願った。そうして生まれてきたのが、カエデと10歳年の離れた妹、"モミジ"である。モミジはほとんどカエデが育てたと言っても過言ではない。母は2人の生活費を稼ぐために、育休を終えてからはずっと働き詰めで帰りも遅かった。カエデは自分に妹ができたことが嬉しくて、またモミジが可愛くて世話をすることも苦ではなかったし、母が自分たちのために頑張っていることも理解していたので自然とモミジの面倒を見るのはカエデの役目となっていた。そんな姉の愛情を注がれながら、モミジはすくすくと成長していった。


「モミジ!それ私のプリン!食べたでしょ?!」


「えっへへ。バレたか〜許してお姉ちゃん、私の食べかけでよければあげるから!」


「いらないわよ、そんなの。全くなんでこんな子になっちゃったんだろ〜」


「それはお姉ちゃんのせいでーす」


「こらモミジ!」


「キャー怒った!こわーーい」


10歳も歳が離れているからか、特に仲が悪くなるわけでもなく、こんなじゃれ合いが2人にはとても居心地がよかった。たまに母が休日のときは、2人でご飯を作ってあげて休ませてあげた。母はいつも遅くに帰ってきて、子供の世話もしてあげられないことに負い目を感じていたかもしれないが、カエデは母にいつも「ありがとう」と言っていた。いつも自分たちのために働いてくれて、そして何よりモミジを産んでくれて、ありがとう。そう言うと母はいつも涙目になって、「こちらこそ」と言った。幸せだった。紛れも無い幸せな家族だった。

しかしそんな幸せな時間は長くは続かなかった。母が倒れたのだ。知らせを受けて急いで病院へ駆けつけた時には、母はすでに息を引き取っていた。過労死だったそうだ。その言葉を聞いて、母がどれだけ休みもなく働いていたのかということを思い知らされた。当時カエデは大学生、モミジはまだ小学生だ。突然すぎる母の死に、カエデもモミジもどうしたらいいのかわからなかった。母は頼れる身内も親戚もなく、残されたのは子供2人だけ。只ひたすらに泣きじゃくるモミジを抱いてカエデは、この子だけは守らなければならない。そう強く心に誓った。カエデは大学を辞めて働き始めた。大学の教授に手助けしてもらい、もともと目指していた心理カウンセラーの資格を取得した。母の遺してくれた遺産で生活しつつ、仕事が軌道に乗ってからはモミジ1人を養えるほどの収入は得ていたし、モミジの面倒もそれなりに見れていると思っていた。カエデはこの時まだ気づいていなかった。モミジから笑顔が消えていることに。




「お姉ちゃん、明日は雨だよ。傘を持って行ったほうがいい。」


寝る前にモミジが突然そんなことを言い始めたので、カエデは何事かと思った。いつものふざけた感じではなく、すごく真面目な顔をしている。


「何言ってるの、モミジ?天気予報では明日は晴れよ。それに降水確率だって、10%だし。」


「ううん。降るよ、帰りに。大雨になる。」


落ち着いた感じでそう言ったモミジはじっとカエデの顔を見つめた。


「わ、わかった、わかった。ありがとう。傘を持っていけばいいのね?いいからもう寝なさい。」


「うん、おやすみなさい。」


そのときは学校で流行っている遊びか何かかと思い、真剣に取り合ってはいなかった。次の日もそういえばモミジが何か言っていたなと思い出して、子供の遊びに付き合うような感覚で折り畳み傘をカバンに入れて家を出た。驚いたのは帰りだった。一日中晴天で、さっきまで雨が降る気配なんて全くなかった、のに。

ゴロゴロ。という雷の音とともに見る見る雨雲が立ち込めて、強い雨が降り始めた。


「えー今日雨降るなんて言ってなかったのに〜。松原さん帰りどうします?あ〜」


職場の人たちが慌てて帰りをどうするかの談義にふけっていたが、カエデは少し不穏な予感を感じていた。


「あ、私たまたま折り畳み傘がカバンに入ってて。お先に失礼しますね。」


「えー!松原さん超ラッキーじゃん、お疲れ様〜」


ラッキー。確かにそうかもしれない。とういうよりそう考えるほうが妥当だ。たまたま妹が遊びで言った予報に乗って傘を持ってきたら、たまたま本当に雨が降った。そう思いたかった。しかし、カエデはどこか不気味な感じがした。家族だからわかる勘というやつだろうか、確信はないがモミジがふざけて言っているようには聞こえなかったのだ。家に帰るとモミジは雨が降ったことになんの驚きもなく言った。


「おかえり。ほらね?言ったでしょ、降るって。」


その言葉を聞いて、カエデは背筋を凍らせた。自分の妹が何かとんでもないことになってしまったようなそんな感覚だった。


「ど、どうしてわかったのモミジ?学校で何かあった?最近話聞けてなかったから。そうだ、またケイくんと同じクラスになったんでしょう?どうなのよ」


「別に何もないよ。ケイとも普通。ただね、私最近妖精さんに会ったの!そしたらね、わかるようになったんだよ。明日起こることでしょ、それからテストの内容でしょ、あと時々よくわからないのも見えるけど〜。」


「モミジ、、?何、言ってるの?妖精?まさかおばけのこと?モミジおばけが見えるの?何されたのそのおばけに!、、、ちょっと、あんた腕見せてみなさい。何よ、これ。刺青、、?どういうことか説明して!」


「だからおばけじゃなくて妖精さんだってば!!どうしてわからないのかな〜。この印もその妖精さんがね、、あ、そうだ!今度お姉ちゃんにも会わせてあげる!その妖精さんね、メルちゃんっていう名前なの。」


カエデは、モミジが何を言っているのか、全くわからなかった。わかったのはモミジが何か危険なことに巻き込まれているということ、また、そこから救い出さなければという自分への責任だ。とにかくその"メル"とかいう妖精だか妖怪に会う必要があると思った。





「お姉ちゃん、こっちだよ〜!!」


「ちょっと、どこ行くのモミジ!、、、ってここ小学生じゃない、、」


数日後、カエデがメルに会うためモミジに連れてこられた場所は小学生の裏庭だった。休日ということもあり校舎には誰も人がおらず、不気味な静けさに包まれていた。


「メールちゃん!お姉ちゃん連れて来たの!お姉ちゃんがどうしてもメルちゃんに会いたいって言うからね」


モミジは誰もいない裏庭に話しかけ始めた。カエデはどこから現れるのかとキョロキョロと辺りを見回して、身構えていたが一向に姿をあらわす気配はない。そんなカエデとは裏腹に、モミジはまた誰かに話しかける。


「あ、メルちゃんこんなところにいたの?来て来て!お姉ちゃんを紹介するから。え?見えない?どうしてそんなこと言うの、お姉ちゃんならきっと見えるよ!ねえ、お姉ちゃんこの子が妖精のメルちゃんだよ」


そう言ってモミジは自分の隣辺りを指差した。誰もいない。そう、カエデには見えなかったのだ。カエデは混乱した。やはりモミジは幽霊か妖怪に取り憑かれてしまったのではないだろうか。そう思うと全身が鳥肌だった。


「ご、ごめんね。モミジ、、。お姉ちゃんには、見えないみたい、。」


「え、、。そんな、、。ん、何?メルちゃん、うーん、そっかあ。なんかね、メルちゃんは私にしか見えないんだって!だからお姉ちゃんは気にすることないよ。でも残念だな〜せっかく紹介しようと思ったのに。」


「そう。ねえモミジ、いいからもう帰りましょう?ほら、雨も降って来そうだし。洗濯物取り込まなくちゃ」


「それなら大丈夫だよ。今日は雨降らないから」


カエデはどうすることもできなかった。自分には見えない何かと話す妹。未来を言い当てる妹。今までは考えられないことが次々に起こりすぎて、パンクしてしまいそうだった。そしてついに言ってしまったのだ。


「いい加減にしてよ!!ねえ、モミジ?目を覚まして!お姉ちゃんには見えないって言ってるでしょ!この意味わかる?あなたは見てはいけないものと、人間じゃないものと話してるのよ?普通じゃないわ。こんな、、いい?もうその子には会っちゃダメよ!ほら帰りましょう」


そう言ってカエデは無理矢理モミジの手を引いて家まで連れ帰った。モミジにこんなにきつく言ったのはこれが初めてだった。モミジもそんなカエデを見て泣きわめき、抵抗したが、カエデは有無を言わせなかった。今にも降り出しそうな空模様だったが、やはりその日雨は降らなかった。


その出来事があってから、カエデとモミジの距離は少しずつ、開いていった。その時にはモミジから笑顔が消えていることにカエデは気づいていたが、どうしようもなかった。話しかけても、そっけない態度だし、たまに向こうから話しかけて来たかと思えば、「明日は車に轢かれそうになるから気をつけて」とか「来週芸能人の誰々が亡くなる」とかそんな未来を予知するようなことばかりで、変なことを言うのはやめなさいと叱ってもモミジが言ったことは必ず当たるのだった。そんな生活が続き、1年が経とうとしていた。ちょうどモミジが中学に上がる頃だ。事件は起きた。

母の命日には毎年2人でお墓参りをするようにしていたのだが、その日は違った。


「モミジ?明日はお母さんの命日だから学校終わったらお墓行くからね。」


「え、?誰の?」


「何言ってるの?毎年行ってるでしょう忘れたの?お母さんの命日よ。」


「だから、その、お母さんってだあれ?」


モミジの顔をみて、カエデは凍りついた。冗談でこんなことを言う子ではない。顔も真剣に聞いている顔だ。だが何を言っているのかしばらく理解できなかった。つい去年までお墓参りには欠かさず行っていたし、母と過ごした日々を忘れてしまったとしても、母の存在を忘れるはずがない。どう言うことなのだ。


「モミジ、、本当に覚えてないの?お母さんよ?あなたの!私たちの、、お母さん、のことよ、、?」


「ごめんなさい、、わからない。ごめんなさい。ごめんなさい。」


カエデが問いただすと、モミジは混乱した様子で泣き始めた。これもあの幽霊か妖怪のせいなのだろうか。そう思うととてつもない憎悪が襲いかかった。これからどうしようか。一回病院へ連れて行くべきか。それとも、お祓いか?

そんなことを考えていると、2、3日が経っていた。いつものように家に帰宅する。


「ただいま〜。」


ドアを開けて、いつもとは違うことにすぐ気付いた。部屋が真っ暗なのだ。モミジはカエデの帰りがどんなに遅くても、明かりをつけて待っている子だった。だから部屋が暗いというのはカエデにとって異常事態だったのだ。具合が悪くて寝ているのかも、と思いすぐに部屋の中へ行く。電気をつけて唖然とした。


「うそ、でしょ、、、モミジ?どこにいるの?ふざけてないで出て来なさい!」


いないのだ。いつもいるはずのモミジがどこにも。カエデは泣きそうになりながら家中を探したが、やはり家の中にモミジの気配はなかった。カエデは家を飛び出した。まだ中学生だ。きっとそう遠くには行っていないはず。そう思い近くの公園やコンビニ、思いつく限りの場所は全て探した。もちろん小学校のあの裏庭も。夜は一層不気味で、真っ暗だったが、そこにもモミジの姿はなかった。学校や友達の家にも電話をかけたりしだが、誰も知らないという。


「モミジ、、どこへ行っちゃったの、、?」


カエデは途方にくれた。叫び疲れて声はガラガラだ。次の日どうしようもなくなったカエデは警察に捜索願を出し、仕事の帰りに自分でも探す、そんな日々が続いた。何度も警察に足を運んだが、あまり真剣に取り合ってくれず、もう生きる意味すら見失ったカエデは、真夜中で誰もいない橋の上から川を見つめる。


"どう、したの、?"


「え?」


確かに誰かに話しかけられた気がした。しかし見渡す限り人影すらいない。疲れているのかも、と再び川に目を落とすと、隣に何かの気配を感じ取った。パッとそちらを見るとそこには紫色の髪をした少女が突如として立っていた。


「キャーーーー」


カエデは驚き手で顔を覆った。しかし、少女は微動だにしなかった。恐る恐る手をどかしてみると、少女と目が合う。


「かわいそう、、わたしが、助けて、あげる」


か細く消えてしまいそうな声でそう言った。自然と最初に感じた恐怖は無くなっていた。


「あなた、何者なの?」


「あなたを、救う者。名前は、イリス。」


少女はそう言ったかと思うと、カエデに手をかざし見せた。すると、少女の手から眩いほどの光が生まれ、カエデはその光に包まれて、気を失った。



◇◇◇



「そこからは大体わかるでしょう?私はモミジを探すために、モミジの幼なじみであるケイくんと一緒にこの探偵事務所を立ち上げたの。始めは殆ど手探りだったけど、能力のことについても徐々にわかってきて、能力者の能力反応を察知できる情報屋の情報から、アカネちゃんや才賀くん、そして総司くんに会った。もちろんちゃんと探偵の活動もしているけど、私の本当の目的は、妹のモミジを探し出すことなのよ。」


カエデのひと通りの話を聞いて、要は少し肩を落とした。


「そんなことが、、、。妹さんがいなくなって、どのくらい経つんですか?」


「もう2年になるかな。何だかしんみりさせちゃって申し訳ないわね。でもそうじゃないの。小野寺くんに会えたことで何か変わるんじゃないかって思っているんだから」


「え、、俺ですか?なんでそんな、俺なんか」


「モミジがね、家からいなくなる少し前にある予言をしていたのを思い出して。

"時を操る者が、世界を救う"

あの時は何言ってるのって思っていたけど、今ならわかる気がするの。きっとそれって能力者のことだったんじゃないかって。」


「、、、。メルっていうのはスコタディですよね?」


「ええ、恐らく。私もイリスに会って、能力を発動して、もしかしたらって思ったわ。あの子が言っていたメルっていうのはイリスと同じスコタディだったんだって。そしてあの子の能力は"未来予知"だった。そう考えると色々辻褄が合うのよね。でも、1つだけわからないのがどうして急に母の存在を忘れてしまったのかってこと。それが能力と何か関係あるのかもわからないけれど。どうしてあの時もっとあの子のこと信じてあげられなかったんだろうって思ってしまうのよね。」


「それは仕方ないと思いますよ。もし俺がカエデさんの立場でもたぶんわからなかったと思います。見えないものを信じろって言われても難しいですからね。」


「ありがとう小野寺くん。あなたに話してよかったわ。」


「いえ、何もできないかもしれませんが俺でよければ協力しますよ。妹さん探し!」


「ありがとう。一応2年前の写真だけど、渡しておくわね!もし何か情報が得られたらすぐに連絡もらえるかしら?あと、モミジの能力者の印は右の二の腕にあるはずよ。それが目印になればいいのだけど。」


「わかりました。それとこの写真、他の人に見せてもいいですか?」


「というと?」


「俺の他にもすごく頼れる能力者がいるんです。その人にも協力してもらおうかなって。」


「そうなの?それは大歓迎よ。今度私にも会わせてちょうだい。ふふ。信頼しているのね、その子のこと。」


「えっ、まあそうですね。信頼しています!」


要は写真を受け取りながら、そう言って少し照れくさそうに笑った。カエデのことを思うととても放っておける状況ではないことがわかったし、何よりモミジの行方が気になる。それに、、美空に言ったら絶対協力するって言うだろうな、などと思いながら要は探偵事務所を後にした。

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