10.松原探偵事務所
松原カエデと出会った後、要は半ば無理矢理カエデに連れて行かれた。どこへ行くかも教えられず、車に乗せられたのだ。すぐに着くからとだけ言ってあとは道中ずっと要の能力について聞かれている。
「へぇ〜!そんな制限があるのね!さすがに万能じゃないってわけね。でもやり方次第では無敵の能力じゃない?羨ましい!私の能力なんて何の自慢にもなりゃしない。」
カエデはわざとらしく肩をすくめた。
「テレパシーなんかかっこいいじゃないですか。俺はいいと思いますよ。それより、いい加減どこ行くか教えてくださいよ。」
「あら小野寺くんったら適当ね。そんな子には教えてあげないわよ〜。ふふふ。」
「、、、。」
「ちょっと、何とか言いなさいよ?」
「はあ、じゃあ今度は俺が質問していいですか?」
「なあに?お姉さんに分かることなら何でも教えてあげるわよ。」
「イリス、、って言いましたっけ?この子。いつもカエデさんについてるんですか?」
「ああ〜イリスちゃんのことね。まあ基本的にはいるかな?でも急に消えることもあるからいたりいなかったりって感じで。でもこの子は私のこと大好きみたい。ねえイリス?」
要が確認でイリスの方を見ると、イリスはふいっとそっぽを向いてしまった。本当に仲が良いのだろうか。
「ああ、ごめんなさい。その子人見知りなのよ。そのうち慣れると思うから気にしないで。」
「えっスコタディに人見知りとかあるんですか?」
「あるわよ〜。たぶんね。」
「俺が会ったのは、すごい冷たい雰囲気のやつだったから、みんなそんな感じなのかと思ってましたよ。」
要はそう言いながらラルフのことを思い出す。
「スコタディたちも人間と同じように色々なんじゃないかしら?イリス以外のスコタディとも話すけど、彼らに統一的なものはないと思うわ。みんなそれぞれの性格を持っているし。強いて言えばこの子たちの目的、突然現れて能力を与えるってことくらいかな?」
「やっぱりカエデさんのときも急に?一体何なんですかね、スコタディって」
要がそういうと、今まで明るく話していたカエデが急に顔を曇らせたのでどきりとした。
「カエデさん?どうかしました?」
「あ、いいえ!何でもないわ。さっ、そろそろつくわよ。」
カエデはあるビルの駐車場へと入って車を止めた。車を降りてビルの三階まで上がると、シンプルなドアの上に"松原探偵事務所"という表札がある。
「た、たんてい?!」
要が驚くとカエデはにやりと笑ってドアを開けた。
カランカランという音ともにドアが開いたと思うと、中から勢いよく女の子が飛び出してきた。
「カエデさーーん!おかえりなさいっ!おそかったじゃないですか〜。むむ?そちらのお方はもしや依頼人様ですか?ようこそ、松原探偵事務所へ!!どうぞどうぞ中へお入りください〜。」
要はそのまま女の子に連れられ中のテーブル席へ座らされた。恐らく客間なのだろう。中はこじんまりとしているがきっちりと整理はされていて、デスクが6つほどあった。机の上には資料が沢山置いてあり、いかにも仕事場という雰囲気が出ている。
「こらこら、アカネちゃん!先走らないの!その人は依頼人じゃなくて協力者なのよ。全くあなたは学習がないわねえ。」
無理矢理席に座らされた俺を見かねて、カエデは女の子に注意して軽くコツンと頭を小突いた。
「イテッ。酷いですよカエデさん!あたし別に悪くなくないですか〜?てか、協力者ってことは、、あんた能力者なの!?」
「え、まあ一応。」
「ええーー!!見えなーい!超ウケる〜どんな能力?使ってみせてよ!」
依頼人ではないということがわかった途端急に口調が砕けたので、要は少しイラッとして
「嫌だ」
とだけ言った。
「はあー?何それ、感じ悪くない?そっちがそう言う態度ならいいわ。能力を見せてくれないなら、使わせるまでよ!!」
そう言ってアカネと呼ばれる女が手を振り上げたかと思うと、みるみるうちに机の上の資料やら、椅子やらが宙に浮き始めたのだ。
「おいおい、うそだろ、、」
「フッ。今からこいつらをあんたに投げつけるわ。怪我したくなかったらあんたの能力で何とかしてみることね。」
アカネが今度は振りかざした手を俺の方へ向け勢いよく下ろす。すると宙に浮いているものが次々に要の方へ飛んで来るではないか。やばい!と身の危険を感じた要はパッと時を止めた。物が当たる寸前でピタッと止まっている。もちろんカエデもアカネもだ。要はすぐにその場から離れ、アカネの後ろへと回った。能力をとくと、物は要のいたはずだった場所を通り抜けバサバサと音を立てて壁にぶち当たった。
「これで十分か?」
驚いているアカネに要は後ろから声をかけた。
「キャーーー!あんたいつの間に?!あり得ない。あたしの攻撃を回避するなんて、、、」
どうやらアカネはショックを受けているようだ。
「あかねちゃーん?こんなに荒らしてどうするつもりかしら?もちろんすぐに片付けるわよねえ?」
カエデの方は笑顔でアカネに語りかける。笑顔と言っても目は笑っていない。
「ごっ、ごめんなさい。すぐに片付けますぅ〜」
アカネは先ほどと同じように、散らばった家具やら資料やらを宙に浮かせ元の場所へと戻した。終わると腕組みをして自慢げに言う。
「ふぅ、これで文句ないでしょ?」
「全く!能力者を連れて来るとすぐに戦おうとするのはアカネちゃんの悪い癖よ。小野寺くんいきなり悪かったわね。」
アカネはふんっと素っ気ない様子で要から目を逸らした。
「いやぁ俺はいいですけど。そろそろ説明してくれませんか?ここって、、」
「ええ。ここは私が経営している探偵事務所なの。学校では心理カウンセラーとか言ってたけど本業はこっちなのよ。あ、もちろん心理カウンセラーの資格を持っているのは嘘じゃないからね?」
「そうだったんですか。で、この子は、、?」
要がアカネの方を見る。するとアカネは待ってましたと言わんばかりに自己紹介をし始めた。
「何々〜?あんた実はあたしに興味津々なんじゃん?あたしの名前は香坂茜!ピッチピチの大学1年生よ。能力はさっき見せた通り、念動力。物を自由自在に操れるの。」
「アカネちゃんはうちの優秀な戦闘員といったところかしら。まあ戦闘することなんてあんまりないけどね。」
「カエデさん、ひど〜い。あたしを役立たずみたいに言って!ていうか、あんたの方は何者なのよ?」
茜は要を少し睨んで言った。
「俺は小野寺要。大学2年だ。能力は時間停止。」
要もまだ茜に心を許していなかった事もあり、できるだけ簡潔に言った。
「へ、へぇ〜年上だったんだ。まあどうでもいいけどね。ここで仕事するならあたしの方が先輩なんだから。」
「ちょっと性格捻くれてるけどよろしく頼むわね。」
そんな態度を見かねてカエデが横から口を挟んだ。
「なっ、捻くれてなんかないもん!」
「あ、そうだ。ついでにもう1人紹介しておくわね。ケイ?いつまで寝てるの起きなさい。」
カエデが奥のソファからひょいっと持ち上げたのはまだ幼い少年だった。あくびをしながら眠そうに目をこすっている。要はそんなところに人がいるとは気づかなかったし、あれだけうるさくしていたのによく寝ていられたものだと少し感心した。
「この子はケイ。うちの大事な切り札よ。探偵の調査にはこの子の力が必要なの。」
まだ眠そうな少年の代わりにカエデが紹介をする。
「えっ、てことはこの子も能力が使えるんですか?」
「ええ、もちろんよ。そういえば言い忘れていたわね。この松原探偵事務所は、異能力者の探偵事務所なのよ。」
「異能力者、探偵?」
「そう。もちろん依頼人や一般の人は普通の探偵だって思ってるでしょうけど。調査や依頼の解決には必ずと言っていいほど能力を使っている。まあそちらの方が早いし確実だからってのが大きいけれど。だからここで働く人たちは皆、能力者なの。今はアカネちゃんとケイしかいないけど、ここで働いてる能力者はあと2人いるわ。ちょうど依頼を受けて出かけているところで、、」
カエデが話しているとカランカランというドアが開く音が聞こえた。
「ちゃーっす。カエデさーん依頼完了しやしたぜ〜!まっ、俺の手にかかればこんな依頼お茶の子さいさいってな〜」
「総司、如何にもお前の手柄のような言い方はやめろ。お前のせいで散々だ。本来ならばもっと早く片付けられたというのに。」
「ああん?なんすか?俺とやろうってんですかいこのやろー」
1人はチャラチャラとした感じの頭のガラの悪いチンピラのような男と、もう1人は反対に如何にもインテリという言葉が似合うメガネの男が入ってきた。
「ん?カエデさーんこの男誰っすかー?新しい依頼人?」
「ちょうどよかったわ。2人とも、紹介するわね!例の情報はどうやら当たっていたみたい。私が探していた能力者が見つかったの。それがこの人、小野寺要くんよ。」
カエデに紹介され、要は軽い会釈をした。
「おお!今回は情報屋が役に立ちやしたね〜さっそく見つけてくるなんてやるじゃないっすか」
「君が要くんか。私は才賀健だ。会えて嬉しいよ。」
そういうと健は手を差し伸べ要と握手を交わした。今どき出会い頭に握手する人がいるのかと少し感心していると、
「はっはー。サイガってば今どき握手とかするか普通?ほんと古いっすね〜」
とチャラ男の方も同じことを思ったらしい。
「あ、ちなみに俺は火野総司ね。よろしくオノデラ」
「ど、どうも」
「ちなみに、才賀くんの能力はテレポーテーション。自分や物を瞬時に別の場所に移動できる。言っちゃえば瞬間移動ってやつね。で、総司くんは発火能力よ。、、、燃やせるわ。」
「ちょっと、ちょっとカエデさーん!俺の説明雑じゃないっすか?!」
「総司は燃やすことしか能が無いもんね〜」
「うるせえぞアカネ!お前も浮かせることしかないじゃんか!」
「ま、一応この5人のメンバーが今の松原探偵事務所の正規メンバーってところね。あとたまに協力してくれる情報屋とかもいるんだけど神出鬼没なのよね〜。」
「しかも情報も当たる時と当たらない時あるしね」
と茜が付け加えた。要は突然たくさんの能力者に会って頭が混乱していた。まさかいきなりこんな展開になるとは思ってもいなかったからだ。
「話の流れからして、俺のこともその情報屋から聞いたってことですか?」
「まあ、そんなところね。正確に言うと、情報でわかったのはあの大学に能力者がいるかもしれないっていうことだけで、あなたに会えたのは偶然だったわ。本当に運がよかった。」
「そうだったんですか。でもどうして俺をここに?協力して欲しいって言ってましたけど、これだけ能力者がいるなら別に俺の力なんて必要ないんじゃ?」
「いいえ。そんなことはないわ。能力者にも一人一人欠点っていうのがあるでしょう?いればいるだけその欠点をカバーすることができるじゃない!それに、、」
カエデは俯いた。それを見て他の4人も顔を曇らせる。すると、先ほどまで姿が見えなかったイリスが現れそっとカエデに寄り添った。
「カエデ、、元気、だして」
イリスは小さな声でそう言った。
「ありがとうイリス。」
「カエデさん、何かあったんですか?もしかして探偵をやっていることと何か関係が?」
「ええ。協力してもらいたいことっていうのは実は私的な問題なんだけど。少し、私の話を聞いてくれるかしら?」
そういうとカエデはゆっくりと話し始めた。