暇を見つけるに至りて
正義の味方と悪の組織の戦いは日常的にある。例えば学校の帰り道。例えば帰宅する社会人の集まる駅前。例えば平常運行されている市庁舎。例えば夕日の差し込む川原。例えば夜の繁華街。彼らの出向く場所は多種多様であり、その活動に終わりはない。
しかし常に戦い続けなければならないと言うことはない。当然の話だが悪の組織に所属する人間であっても働く上で活力は必要であり、彼らの活動は体力や精神力の消耗も大きい。一瞬の巨悪の活動に膨大なリソースを消費する。怪人や彼らの扱う武器防具、その時その時の悪事に用いられる様々な設備や道具。正義の味方と同じく彼らも活動するのに大きな資金が必要なのである。悪事を働くのにお金が必要なので悪事を働きお金を得る。本末転倒というべきか。
そういう様々な事情もあって、正義の味方も悪の組織も活動するときは一気に活動するが、活動しないときは逆に全く音沙汰がないと言うくらいに活動をしない。波形のように山あり谷ありの活動状況となっている。そんなこともあり正義の味方は大半は普通の人間と同じような生活である。学生は学校に行き、社会人は正義の味方に所属する会社で仕事をしたり、活動回数の多い者は比較的休みが多めにとられていたり、実力者として名高い者はいざという時に活動しやすいように仕事や学生生活は半ば免除されていたり。
「こんにちは!」
「……こんにちは。まだ昼間なんだが?」
「別にいいじゃないですか。今日は休みの日ですし」
「そうじゃなくてだな…………まあ、来たのを追い返すのもなんだし入れ」
「はい!」
新沙瑚奈々枝も正義の味方の活動自体はそこまで多いと言うわけでではない。前回の活動は数日間で一気に何度も出ると言う事態になったがそもそも彼女の所属するパワードスーツ検証研究開発協会は成績が悪い正義の味方の組織でありそこまで参加しろと言われるところではない。奈々枝がでても勝てないだろうと推測される相手の場合まず話が持ち込まれること自体ないのだから本来彼女の活動はそこまであるわけではない。むしろ少ないと言っていいのだが。
しかし先日の勝ちを拾った時の戦いもあり、これからも何度かは呼び出されることは確定している。もちろん彼女が勝てる可能性のある相手という前提ではあるが。その結果如何ではこれからどうなるかどうするかが決まる。
そんな事情を彼女が知っているわけでもなく、彼女は休日である日曜日に雨切雄大の家へと訪れる。
「……ところで、本当に何しに来たんだ?」
「…………何しに来たんでしょう?」
「やっぱり帰れ」
「ええっ!? 入れてくれたのに酷くないですか!?」
奈々枝が彼の家に訪れた理由というのは特にない。休みの日は土日のどちらかの来てもいいと言う条件しかだしておらず、奈々枝が来ること自体は自由ということもあって訪れること自体が決めたルールに違反していると言うことにはならない。土曜日は来ていなかったので日曜日に来ることは全く問題ではない。
しかし、だからといって理由もなしになんとなくで来られれば休日ということで休みを堪能している雄大にとっては大困りである。それも奈々枝が訪れた理由が特にないという全く何も考えていない思考で来られているというぐらいだ。帰れと言われても仕方がないだろう。
「お前は人の家に理由もなく来るのか?」
「…………た、確かにそうかもしれませんけど」
改めて自分の行動について考えると奈々枝としても黙るしかない。自分の家、実家ならまだ自由になんとなくを理由に帰ってもいいかもしれないがそれが友人の家ならば遊びに行くなどの理由くらいはあってしかるべきだ。そうでなければ向こうの家の人間に迷惑をかけることになるのだから。
「そもそもそろそろ昼食の時間だ。そっちは食べてきたのか?」
「いえ……まだ食べてないです」
「………………」
「………………」
「………………………………」
「…………な、なんですか?」
じっと自分を見つめる視線に負けて奈々枝が雄大に訊ねる。
「まさかここで食べていくつもりじゃないだろうな」
「あ、それいいですね! お昼ごはん作ってください!」
「…………」
随分図々しい台詞である。人の家に理由もなく訪れ、昼食までねだるなどと厚かましいにもほどがあるだろう。しかも本人に悪気がないのが余計に腹が立つところである。自分のやっていることを理解していないのだから。もっとも奈々枝もそこまで図々しい態度にでることは殆ど無い。これは雄大という存在に対する信頼があるゆえの態度である。もっともそれを感じ取れと言われてもわかるはずもないのだが。
「はあ…………まあいいが……卵焼きじゃないぞ」
「ええっ!? じゃ、じゃあ卵焼きは夕食で出してください!」
「夕食までねだるな! 流石に夕食は自分のところで食べろ!」
「そんなあ……」
昼食。それほど凝ったものではない。しかし一応図々しく厚かましいとはいっても客人は客人だ。相応にもてなしの心はある。それこそ雄大は彼女のことは嫌っていない。もう少し行動を何とかしてほしいと思うところではあるが、嫌ってはいない。だから昼食は凝った料理ではないが、彼の作れる最大最高の料理……卵焼きに並ぶほど彼が上手に作れるものにした。炒飯である。
それを新沙瑚奈々枝に出して食べさせたのだが、残念ながらおいしいとは言われた物の卵焼きほど絶賛されることはなかった。これに関してはすでに同じくらい上等な品である卵焼きを食べていたと言うことや、炒飯自体がそこまでこの身でなかった可能性、逆に卵焼きがそもそも彼女にとって好みの料理であった可能性など色々と考えられる。
まあそういったことを考えてもあまり意味はない。彼女に食べさせ卵焼きほどの評価は得られずとも笑顔でおいしいと言われれば作った人間にとっては嬉しい所であるのだから。
そんな昼食を作ってもらった彼女は今は部屋を見回している。きょろきょろと何かを探すように。
「部屋、綺麗ですね」
「そうか?」
「綺麗……というか、何もないですね」
「……そうだな」
「テレビもないじゃないですか。何でですか?」
探していたのはテレビのようだ。現代っ子である彼女はテレビやパソコン、スマホなどの現代の電気機器に慣れている。それらが身近にあるのが普通で食事時もよくテレビを見ながら食べることが多い。だからこの場所での食事のようなテレビを見ずに食事をしていたことに違和感を抱き、その違和感の招待を探したのだろう。その成果がテレビがないことの発見である。
「見ないからな。見たいテレビがない……というわけでもないが、あまり見る機会がないんだ」
「何でですか?」
「そこまで早く帰ってくるわけでもないし、寝る時間は遅くても十二時くらい。それまでいろいろとやることも多いからわざわざつけてみるほどじゃなくてな」
単に見る必要性がない、テレビを見ている時間がない。つまりテレビを日常生活に必要としていないからテレビがないのである。必要なければわざわざ買ったりしない。至極当然の結論だ。
「……せめてラジオくらいはないんですか?」
「ないな。必要じゃないし」
「寂しくないんですか? 音も映像もないのって」
ゲーム、パソコン、携帯、スマホ、テレビ、様々な情報機器にあふれる現代の生活では考えられない。しかし彼の社会人生活の中ではそれほど必要とされていなかった。ゆえにその状態に離れたもので、全く問題はなかった。
「ああ、特に寂しいとかそういうのはないかな」
「………………」
流石にそんな枯れた老人生活のような……いや、現代の老人ならばまだテレビくらいは見ている物である。どちらかというと前時代的な機械の無い生活という感じだろうか。そんな感じの生活をまだ二十代後半になったばかりの人間がしていることに奈々枝は心配になる。
「…………!」
名案を思い付いた、というように奈々枝は明るい顔になった。
「じゃあ買いましょう! 今から!」
「え? いや、そんな余裕もないから」
「大丈夫です! 私がお金を出しますから!」
「いや、それも悪いだろ」
「ここは私も使います。夕食を食べさせてもらうんです! それくらいの出費なら全然大丈夫です!」
そもそも彼女はこれからずっとここに押しかけて夕食をごちそうになるのだ。卵焼きくらいとはいえ、その負担は雄大にかかるものである。それを自分が出費したものをプレゼントすることで帳消しになるのならばとう思いもあるのだろう。
「学生だろ? 小遣いもそこまでもらっているわけじゃ」
「正義の味方業でむしろ余ってます! 大丈夫ですよ!」
命がけの戦いをする正義の味方としての活動、参加するだけ、負けであっても下手なバイトよりも貰えるお金が大きい。
「行きましょう! 今すぐ!」
「ちょ、ちょっと待て……!」
結局彼は奈々枝の押しに負け、彼女の電化製品の買い物に付き合うことになった。そうして彼の住むアパートの一室ににテレビやラジオなどの電化製品がおかれることになったのである。