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想いと魔法と機械

「っ!! 糞がふざけやって!」


 吹き飛ばされるほどの強力な攻撃を受け素が出てくる新上。


「あああ糞が仕方ねえなっ! 雑魚どもあれの準備をしておけっ!」


 その言葉をきっかけに幾らか残ってい戦闘員……一方的に圧倒的な戦闘力を見せつける正義の味方の一人と戦っている戦闘員側に含まれているがまだ戦いに出ていない戦闘員が動き始める。それに対しそれらと戦う可能性のあった正義の味方の一人は動いた戦闘員の方に視線をやるが、にやりと笑うだけで何も動きを見せることはなかった。

 そんな指示を出した新上は再び奈々枝との戦いを再開する。しかしそれまでとは違い、苛烈で強力な攻撃が行われている。


「っ!? く、つ、強くなった!?」

「はっ! 今までが弱かったんだよ! お前を捕まえて楽しむためになあっ!! ボロボロだと面白くねえからなっ!」

「ぐっ!」


 奈々枝が一撃で吹き飛ばされる。どうやらこれまでは奈々枝を可能な限り傷つけずに捕まえるために手加減をしていたと言うことである。


「っ! はあっ!」

「ふんっ!」


 攻撃が打ち合い、仕掛けたはずの奈々枝の方が反撃で押し返される。


「強い……!」

「ったりめえだろうが! これでも悪の組織の幹部! そこらの女子学生の正義の味方に負けるようじゃちゃんちゃらおかしいんじゃねえのっ!」


 連続で奈々枝に攻撃を加えながら新上はにやりと笑う。


「しっかしよお、お前もあいつに惚れて散々だな。あいつに関わらなければ俺に目がつけられることもなかったによお」

「っ? え? 何ですかそれ?」

「ああ? お前あいつに惚れてんだろうが。お前の観察をしてたら普通にそんな感じだったろうが。ってか恋人じゃねえのかよ?」

「えっ」

「……はっ。自覚なしかっ!」

「きゃっ!?」


 一瞬動きの止まった奈々枝が新上の攻撃に吹き飛ばされる。新上の方も予想外の反応に少々面食らった様子であったが。


「ななななな! 何を言うんですかっ!?」

「あんな惚れてる顔して好きじゃないってかあ? ねえよなあそれはっ!!」

「っっっ!! い、言うなあっ!!」


 流石に惚れているとか好き、恋人などの恋愛関連の話は奈々枝には早いようだ。本人的にもかなり無自覚な領域の部分でのものであるようで、意識できていなかったがここで新上によってその感情、思いを掘り返される。そして流石に場所が場所……奈々枝の想いが新上によって語られることで雄大の方に伝わってしまう可能性がある。それは流石に奈々枝としては不満である。自分で伝えるならともかく変な形で知られたくはないだろう。







「ふむ……なかなかおもしろい会話をしていますね」

「みたいだな」


 雄大の側にいる正義の味方と悪の組織のボス。彼らは今は休戦中である。両者拮抗する戦闘能力を持っているためか、現状どこかの決着がつくまではやり合っても仕方がないと休むことにしたのである。


「……? 何の話をしてるんだ?」

「ああ、そうですね……あなたは一般人なので聞こえませんか」


 正義の味方と悪の組織の怪人、彼らはその高い能力ゆえに遠くの言葉も聞こえるが一般人である雄大に新上と奈々枝の会話は聞こえない。他の人間には聞かれているが、その本人、一番知られたくない人間には聞こえないのは奈々枝にとってはありがたいことだっただろう。


「あそこで私のところの馬鹿と少女が舌戦をしている。内容を話してもいいが」

「こちらの所属の彼女の名誉のためにもそうはさせませんよ?」

「おっと。ふむ、再開する気か?」

「その口を塞がせてもらいますね」


 再び悪の組織のボスと雄大を守っている正義の味方の戦いが再開する。相変わらず両者動かずの見えない攻撃での戦いだったが。








「ぐっ!」


 そんな話題の張本人である奈々枝は新上を相手に苦戦している。戦闘能力という点では奈々枝よりも新上の方が上だ。それもそうだろう、年季と精神性が違う。なんだかんだで奈々枝は最近勝利し始めた新人に近い正義の味方、しかも装備は今までの物に近いとはいえ新しいものを使っている。それに対し新上はそれなりにずっと悪の組織の一員として戦い、さらに言えば幹部というくらいの実力者。本来奈々枝のような下の方にいる正義の味方の一員で勝てるはずがないくらい強い相手のはずだ。むしろ善戦できているだけ褒められてもいいくらいだろう。


「はあっ!」

「軽いな」

「っ!」

「さあ、ちゃんと防げよっ!」


 今までの中で一番の一撃が叩きこまれる。


「っ!? なっ!?」


 それは相手にダメージを与えるための攻撃ではなかった。威力はあるが、それらが全て奈々枝を吹き飛ばす性質に使われている。そのまま吹き飛ばされた彼女は港の方へと吹き飛ばされる。一直線に倉庫の入り口を破壊してその中に。新上はそれを追う。


「うぐ……あいたた……あれ、ここは」

「戦闘員を隠していた場所で御座る。そして、ここがお前の終わりの場所で御座るよ」


 港にあった倉庫。それは悪の組織の戦闘員が隠れていた場所である。同時にそこには彼らがある機械を運んでいた。

 彼らはそもそも奈々枝を捕えて悪の組織の拠点に連れ帰る……それ自体はおかしな話ではないが、彼女が抵抗する可能性だってあるだろう。正義の味方が気づいて取り返しに来るなどの様々な可能性があるが、その前に奈々枝を無抵抗にした方が都合がいい。縄で縛る、骨を折る、筋弛緩剤を使う、様々な手段があるが……実は相手が正義の味方ではどれも確実ではない。彼らはそれだけ肉体が強靭である。

 しかし、彼らをどうにかする手段はある。それがここに用意された機械によるもの。催眠、マインドコントロール、精神汚染……すなわち洗脳である。


「本当はもっとちゃんと準備をして洗脳したいで御座るし、過程も重要で御座るが……まあ、今回は仕方ないで御座る。ここまで抵抗されては面倒で御座るからな。機械を動かすで御座るよっ!」


 奈々枝の方を向く周囲に存在する洗脳機械。それが作動した。


「っ! あ、あああ、あああああああああああああああああああああああああああっ!!」


 機械から放たれる精神波、様々な悪意や心の闇を増幅させ、一定の方向性を向かせる精神波。あるいは思考を塗りつぶすようなものであったり、変調を起こすことにより正義であることでの苦痛を常にか抱かせるようなもの、性質は様々だが多種多様な精神汚染が同時に行われる。それは奈々枝にはたまったものではない。熱による痛み、裂傷による痛み、万力で捻られるような痛み、針で突き刺すような痛み、様々な痛みを同じ個所で一気に味わうかのようなものが精神に作用しているのである。

 苦しみ、痛み、泣き、絶望し、しかし彼女はそれでも簡単に負けるほど弱いものではない。だが、それに抵抗できるほどの精神力があるかというと怪しい所だろう。諦めたい。この精神波に抗うのを止めたい。そう思い始めてしまう……が。


「奈々枝っ!」


 倉庫の様子は外からも見ることができた。それは雄大にも見えていたと言うことである。新上がもともとそういう意図で場所を選んでいたのかもしれない。彼の目的の一つに雄大の精神に苦痛を与えたいというものがあった。奈々枝が苦しむことで雄大に苦痛を負わせる。そういうことなのだろう。

 しかし…………今回に関して言えば、それは逆効果だっただろう。せめて奈々枝が捕らえられ無力であったならば話は違ったのだろうが。


「っ!」


 奈々枝の耳は雄大の声を聞く。雄大との距離は結構あるがそれでも聞こえる。自分の想い人の声を。

 今回の戦い、新上に言われるまで彼女にその自覚はなかった。しかし自覚はなかったにしても、その想いはなかったわけではない。そもそも年上の独身の異性のところに、夜に夕飯を貰いに行くと言うこと自体本来はおかしい話だ。しかもそれが半ば押し掛ける形で。普通なら追い返されるし、仮に受け入れられれば下心があると思っていいだろう。雄大の場合彼の無趣味無関心な乾燥気味の精神ゆえにそういうことがなかったが。

 何故奈々枝はそんなことをしたのか。たしかにあの時食べた卵焼きがおいしかった、というのは彼女の中では本心だ。しかし世の中においしいものは他にもあるだろう。奈々枝も正義の味方としての活動をしている以上、おいしい料理の店に行っていくらでもお金を使うことが可能である。何故雄大のところなのか。それは彼女が最初に助けられた時、二回目に助けられた時、そして彼女のマイナスの精神を救ってくれたこと、その三つが大きく影響している。

 帰って待ってくれる人がいる、自分が頑張ってそれを褒めてくれる人がいる、自分を助けてくれる人がいる。最初は恋心ではなく、期待に近いものだったのではないだろうか。自分を受け入れ捨てないで、助けてくれるそんな相手であると。しかし一緒にいて、過ごし、相手のことを知って好意を抱くようになった。まあその相手がどう思っているかはわからない。奈々枝と雄大では年齢差もあって色々と難しいのだから。

 まあ、そういった彼らの事情は置いておくとして。奈々枝は雄大の声を聴いた。自分を心配する声を。諦めてはいけない。負けてはいけない。自分を信じてくれる相手に、不甲斐ない所を見せてはいけない。


「あああああああああああああああああああっ!!」


 先ほどとは違い悲鳴ではなく、お腹から声を出すようにして叫ぶ。精神への攻撃に抗う。

 相手、悪の組織側にとって、悪い点があったとするなら、その一つは奈々枝の正義の味方としての性質だっただろう。彼女は本来魔法少女などの不可思議な力向きの精神構造である。それが何の因果かパワードスーツという機械系統の正義の味方として戦っていたからその点に関してはわからなかった。そして彼女が装備しているのが普通のパワードスーツであったなら、彼女の正義の味方の資質が高くてもそこまで大きな問題にはならなかっただろう。

 もう一つの悪い点、それはパワードスーツが改良され、魔法系統の技術が取り入れられたものとなっていること。それも奈々枝という存在に扱いやすいように、魔法少女系の物を。魔法少女、彼等は正義の味方として戦う場合の力は不可思議な魔法系の技術である。物理的なものと違い、それらは時に精神的な部分の影響を強く受ける。皆の心を一つに合わせてとかやっていることがあるが、そういうものだ。つまりは、精神的な影響がパワードスーツにも現れると言うことである。


「な、何で御座るかっ!?」


 ごごごごごごごご、と鳴動音が鳴り始める。精神汚染を受けている奈々枝の体が光を発し始める。その光は徐々に強くなり、あたりに光が満ちてきて、そしてその光が強くなるごとに空間の鳴動が大きくなる。


「に、逃げるで御座るっ!」


 新上は悪い予感と共に、その場から脱出する。その行動は一歩、起きる現象よりも早かった。突如精神汚染を行っていた機械が爆発を始める。複数の機械が用意されていたがそれらが爆発し、破壊され、そして光が一気に立ち上る。

 次の瞬間、倉庫が天に向けて大爆発を起こし崩壊した。屋根が吹き飛び、壁が崩れ、空に飛んでいった幾らかの瓦礫ががらがらと破壊された倉庫の跡に落ちてくる。


「ひえええ……とんでもないで御座るな」


 洗脳は無理だった……しかしあの様子ならば奈々枝は恐らく死んだと思われる、そんなことを新上は思うが希望的観測である。彼の目の前で瓦礫が吹き飛ばされる。そこには黄色のパワードスーツに包まれていた奈々枝の姿があった。


「…………お前、何なんだよっ!」


 新上は素に戻り叫ぶ。彼にとって目の前にいる相手は恐怖だった。


「正義の味方ですっ!!」


 交差は一瞬。奈々枝が地を蹴って一気に新上に迫り、新上はその攻撃に反応し対応しようとする。しかし……奈々枝の方が圧倒的に速かった。奈々枝の一撃は等が身に叩き込まれ、その肉体を一片も残すことなく、海の彼方まで消し飛ばした。

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