悪の友人VS正義の友人
新しいパワードスーツ。それは科学の力だけを頼った今までのパワードスーツとは違い、魔法少女系統の魔法系の力を取り込んだ魔法と科学の融合である。これまでパワードスーツ検証研究開発協会では科学の力を妄信、もしくはそれだけを頼りにして何とか悪の組織に対抗する装備を作りたいと言う思いであった。しかし、彼等にとって最後の希望である奈々枝は確かにパワードスーツの底力を見せたのだが……そこに使われているのが彼女の意志、彼女の正義の味方としての資質であると最近の勝利を調査しわかったのである。
それはある種の絶望である。機械の力では勝利できず、勝利を導いたのは少女の意思の力だったのだから。そもそも、今まで勝ちを拾ってきた戦いはどうだったかという所まで思いを馳せなければならなかっただろう。もしかしたら機械の力だけで今まで勝てていたのではない。使い手の意思、想念が影響したのではないだろうか。そんなふうに思うようになった。
科学だけではどうしようもない、勝てない、自分たちの信じたものは何だったのか。そう思いそうになったのだが……そこを変えたのもまた奈々枝である。明るくまっすぐで、素直な彼女は純粋に正義の味方として活動している。その姿を見て、そもそも自分たちは何をしたいのか、何をするべきなのかを再考し始めた。我々が作りたいのは機械の力を……純粋な科学としてのパワードスーツの実力を知らしめるものであるのか? 否。我々が作りたいと思ったものは、使い手のためになる武装。機械で作り上げたのは自分たちにそのノウハウがあったから。それで届かず、自分たちの力ではどうしようもないことを認められず、その結果機械で勝つことに執心してしまった。その結果が今の状態である。しかし彼女はそれを覆そうとしている。ならば我々のするべきことは何か?
奈々枝の資質は言われた通りメンタル、その心と精神。それまではともかく、雄大と出会い前を向き、帰って自分の想いを果たす。真っ直ぐ、思いを突き抜けさせる。本来は魔法少女などの不可思議の力を扱うのに向いている資質だが、それですらパワードスーツという本来そういった思念の影響を受けない力に影響を与えるほどの才質。それを無駄にするのはもったいない。
ゆえに、彼らは魔法と機械の融合を果たした。果たしたと簡単に言っているが、とんでもない技術である。今までパワードスーツに熱心だったからその才能と技術力に気付かれなかったが、そもそも彼らは純粋に機会と科学の力で現在のかなり向上されている悪の組織の力に近づいているのである。昔ならばまだそれもありえたのだろうけれど、それ自体結構とんでもないことだったりするようだ。
「ぐぬぬぬぬぬっ! 出てくるで御座るよ戦闘員たちー!!」
新上が天に吠える。その言葉に呼応し、倉庫の入り口を破って隠れていた戦闘員たちが現れる。
「おうおう。雑魚どもがいっぱいじゃねえか!」
「一掃お願いします。こちらは人質を守るのと……あれの牽制をメインにしますので」
「はっ! 全く! ボスを相手にしたいのはこっちだってーの! ま、雑魚どもを消し飛ばしてかやるとしますかあっ!!」
天から落ちてきた流星の如き正義の味方、戦隊物の格好をしている男が合われた雑魚戦闘員を相手に戦い始める。一撃で吹き飛ばし、叩きつけ、放り投げる。流石に天から落ちてきたときほどの破壊力はないがそれだけで戦闘員をボロボロにする。まあ彼らも雑魚と言われているが、それなりには戦える。時間稼ぎくらいにはなるだろう。
一方、彼らのボス、新上も含めたこの場で最上位に位置する悪の組織のボスは雄大を守っている正義の味方とにらみ合っている。一歩動きを見せたと思うと轟音、周囲に瓦礫がいくらか転がる。目に見えないほどの圧倒的実力者同士の戦いと言った所だろうか。もしくは何らかの力……特殊能力のぶつけあいか。少なくとも雄大にはその様子が確認できない。
「覚悟はいいですか?」
「ふむ…………」
そして残った二人。
雄大を拉致した最大の原因にして今回の事の発案者、新上達也。
雄大が拉致されるきっかけを生み出した今回の事の原因にして目的、新沙瑚奈々枝。
「見た目はやっぱりいいで御座るなあ。うむ、やはりいい。おぬし拙者のものになるで御座るよ」
「…………? 何を言っているんですか?」
「いや、ここでその命散らすのもったいない。まあ死ぬとは限らぬで御座るし、倒して捕まえて連れていくのも……うむ、リョナいのもありで御座るか? まあ屈服させて泣き叫ばせるのも面白そうで御座るが、拙者の方も自分が怪我したいわけではないで御座るし、降参してくれると楽で御座るなーと」
「何言っているんですか? 降参するのはそっちでしょう?」
随分自分にとって都合のいい思い込みであるが、新上のいう通りお互い相手を降参させることができれば楽なのである。しかし現実的にそうなることはありえない。どちらにも各々の思惑と行動理由がある。
「ふむ、では降参はしないと」
「はい。ここであなたを倒させてもらいますね」
「あい、わかった。いいで御座るよ……まあ、できるなら、で、御座るけどなあっ!」
「っ!」
両者地を蹴って、殴り合いが始まった。拳と拳がぶつかり合い、空気が鳴動する。爆発するような反動と共に、両者空中へと吹き飛ばされる……いや、両方とも空中へと逃げ込んだ。
そのまま二人は何も足場のないはずの空中を蹴り、互いに肉薄しあう。何故最近の兵装があり得るはずなのに空中で物理的な殴り合いを始めるのか。謎が多いが、両方とも接近戦を繰り返す。拳の打ち合い、蹴りの交差、頭突きに腕による払い、空中を足場に三次元を完全に活用し重力を無視したような動きをしながら両者戦いあう。新上も流石上位者というべきか、普段の喋りからはまるで実力が見えないがその能力は確かな物。一方奈々枝も新しいパワードスーツで慣れない所はあるが、出力は向上しているのかそれまで以上の動きで新上と接戦を繰り返している。
とは言っても、どちらが有利かというと悪の組織側である新上だ。何故なら……戦闘経験、肉弾戦の経験数が違うからだ。このまま接戦が続けば恐らくは奈々枝の方が不利になるのは確実だろう。
「はあっ!」
「っと!」
新上が奈々枝の攻撃を受け止める。先ほどからそうなのだが、新上は奈々枝の攻撃を防御するとはいえある程度積極的に受けている。そのたびに……奈々枝が少し怯む。
「っ! またその表情!」
「どうしたぜ御座るかなっ!」
奈々枝が怯み、そこに新上が攻撃を仕掛け、その攻撃をいなしながら奈々枝が回避を行う。上下左右前後。あらゆる方向に逃げ場はある。まあ新上がいる方向には逃げない。近づくことに微妙に嫌悪感を感じるから。
本来近づくことを忌避するのは当然なのだが、それが嫌悪感からというのもまた奇妙なところだ。通常ならば近づけば何をしてくるかわからない未知な部分を注意するから近づかないのだが、奈々枝が逃げるのは嫌悪から。つまり、新上は気持ち悪いのである。
「なんで攻撃すると笑顔になるんですっ!?」
「そりゃあ……拙者マゾ気質もあるで御座るし。いや、虐めるほうが好きで御座るよ? でも、まあ、美少女の殴りならちょっとは受けてもいいかなって。別に痛くもないで御座るし」
「っ!?」
奈々枝がその発言内容の意味を理解できない……いや、したくないと言ったように一気に後退る。
「逃げないでほしいで御座るなあっ!」
それを新上が追いかける。
「ち、近づかないでくださーいっ!!」
「ごほおっ!?」
奈々枝の恐怖、羞恥、嫌悪、こいつだけは絶対に潰さなきゃ身の危険……一度見られた時点で肖像権すら侵されると思ったほどの気持ち悪さ。その感情が奈々枝の戦闘能力を挙げた。新上の自業自得である。