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使い古された手ゆえに

 その日奈々枝はいつも通り雄大の家へと向かった。夜、夕方というには七時を過ぎている時間では少し暗すぎる。幾ら門限が問題ないとは言ってもそんな時間に出歩き、友人……それも年上の男性の下へと向かうのはいかがなものかと思う所である。そして扉の前まで来るのだが、珍しく帰ってきている様子がない。社会人という確実に帰ってきているとは言えないだろうというのはわからなくもないが、今まではまったくそのような様子を見せることはなかった。

 どうしたのだろう、事故にでもあったのだろうか、会社で誰かに残業でも押し付けられたのでは、いじめ? などと少々思考が飛躍しかけたところはあるが、扉の前で少し視線を動かしたところに扉の隙間に挟まっている紙を見つける。新沙瑚様へ、と書かれた紙だ。

 それにまず変な感覚を覚える。いくら手紙とはいえ雄大がそのような形で手紙を残す必要はあるだろうか。そもそも現代の利器、スマートフォンで連絡を入れればいいくらいである。それくらいの連絡手段食らい雄大だってもっている。ではこの手紙は何だろう。そもそも名字で抱えているのも妙だ。普段の呼び方的に奈々枝と書くのではないだろうか。様付けという地味に丁寧なのは。そういったふうに変な感じから一気に思考があちこちへと向かうが、自分を名指ししていると言うこともあるし紙に手を伸ばし中身を読む。

 そこに書かれていたのは雄大を拉致したこと、新沙瑚奈々枝を呼びつけること、その時の奈々枝の状態に関しての話、場所や時間等々。最初に読んだ時奈々枝は理解できずに固まった。読み直し、うっすらと理解し、え、どうしようと言ったふうに混乱して、また読み直して事態を把握し、やばい、どうしようとなり、またまた読み直し………………考えた結果、自分には無理だと判断した。理解できない、どうしたらいいわからない、どうしようどうしようどうしよう。


「珠ちゃんどうしよう!!」

「…………珠ちゃん言うなし。何? あんたいきなり人の部屋に来て何か用?」


 困ったときは身近な人に相談しよう。そんな思いから、同じ寮にいる友人に相談を持ち掛けたのであった。







「はあ、なるほど…………」


 奈々枝が涙目でううと呻いている。現在彼女の友人である珠江が呼んでいるのは雄大の拉致に関して書かれた紙だ。実はこの紙には誰にも言うなと言われているのだが、奈々枝はそれを順守できなかったようである。


「まず、あんた馬鹿でしょ」

「ええっ!? 何が!?」

「一般人とかかわったことよ。言われたの覚えてないの? こういうことになるかもしれないから、家族や友人とかとあまり接触しないように、って」


 正義の味方をどうにかするために悪の組織が一般人を餌にしたり人質にしたりすることは珍しいことではない。それこそ普通の一般人を盾にすることだってよくあることだ。それが身内や友人などのより近く親しい相手であれば見捨てることは難しい。なんといっても彼らは正義の味方、圧倒的な善性を持つ善人なのである。だから他者との接触はあまり図らないようにという風に念押しされている。奈々枝や珠江が寮暮らしなのはそういう理由もある。


「あ……えっと、それは……」

「まあ私から特にいうことはないわ。その辺はあとできーっちりお叱り受けるでしょうし?」

「うわーん! それもやだー!」

「ええい。泣くな! まずそんなことよりももっとどうにかする問題あるでしょが! この件、あんたどうする気?」


 一々感情的な奈々枝。今回のことで重要なのは今後の奈々枝の処遇ではなく、誘拐された雄大の事の方だろう。


「え……? あ、そっか……雄大さんを助けにそこに書かれた通りにしなきゃいけないんだよね?」

「あんた馬鹿でしょ」

「ええっ!? 言われた通りにするものじゃないの!?」

「あんた馬鹿でしょ」

「二回目!?」


 はあ、と大きくため息をついて珠江が奈々枝に説明をする。


「いい? 相手は悪の組織なわけでしょ? のこのこ出向いて、捕まって、それで本当に人質が返ってくると思う?」

「返ってこないの?」

「これだから! もう! 返ってくるわけないでしょ!? 返す必要ないじゃない! 誰に人質返すのよ? 返す相手が新しく捕まるんだからそのまま捕まえて色々と利用したほうが向こうには都合がいいに決まってるじゃない。よっぽど悪の組織としてプライドがあるとか、伝統がすごいとかそんなとこでもない限りはないわよそんなこと」

「そ、そんな…………え、でもじゃあどうしたらいいの? 私、雄大さんを助けないと……」


 悲壮な表情になる奈々枝。彼女の中では自分がどうなっても雄大だけは助けなければならない。


「そんな顔しないでよ。いい? これもって上のところに行きなさい。それで解決するから」

「え?」

「昔からこういうのよくあるみたいだから、今はその解決策に関しては普通に作られてるの。だからとっととあんたの上司のところに行きなさい!」

「う、うん、わかった……」







 友人である珠江に言われて雄大拉致の紙をもって奈々枝は自分の上司のところに行く。彼女の所属はパワードスーツ検証研究開発協会所属であるが、そういった各場所を統括する正義の味方の組織が存在する。そもそも奈々枝が所属することになったのもその組織による意向があったからだ。


「ふむ」


 居心地が悪い。この場所にいるのは奈々枝を除けば二人だが、その二人から漂う気配が尋常の物ではない。まず今紙を読んでいる人物は見た目はそれほどでもないが、まるで勝てるような気配がない。紙を読んでいるはずなのに今も見られているような、そんな気配を感じるほど。もう一人は見た目は若い男性である。筋肉があるようには見えないが。指先で金属を潰しながら曲げたりして遊んでいる。彼も視線はもう一人の読んでいる紙に向けていたが途中から退屈しのぎ化何かのように金属を弄って遊び始めている。


「なるほど、中々面倒になったようですね」

「……ごめんなさい」

「いえ、謝る必要はありません。正義の味方になったとは言っても、僕たちもまた普通の人間です。自由に人との付き合いをしたいというのはよくあることです。それに、今回のことはあなた自身が原因というわけではなさそうですしね。むしろ僕としてはこの話をきちんとこちらに持ち込んでくれたのがありがたいくらいです。僕らは正義心が強くてなぜか自分一人で相手方に突っ込んで人質を死なせてしまったり、自分一人で言われた通りに出向きそのまま両方帰ってこないと言うことも多いですから」


 正義の味方が相手方に捕まり人質も返ってこない、相手に無理に突っ込んで人質を死なせ、最悪正義の味方として使い物にならなくなる、そういった色々なケースが今まで何度もあったのである。特に前者は事実の判明すらしないことも多く実に面倒だった。しかし最近はそれらがわかってきてそういった出来事への対策を打つようになってきている。まあ奈々枝はそれを忘れていたわけだが。


「はっ。ま、こういのは相手方が色々とちょっかいかけてくるからかぶっ潰すのにちょうどいいんだ」

「……はあ。全く、あなたはそんなに暴れたいんですか?」

「当たり前だろ? こういう機会は本当にレアなんだからよ。相手がちょうどいい舞台を用意してくれてるんだ。思いっきりぶっ潰していいだろ?」


 物騒なことを言っているが、それができるだけの実力が彼にはある。


「……それで、あなたはどうしたいですか?」

「助けに行きます」

「……即答ですか」

「それでこそ正義の味方じゃねえか。迷いがねえ、躊躇がねえ、自分の事なんざどうでもよくて助けたいものを助けに行く。ああ、実に正義の味方だ。面白くなるほどにな」


 凶暴な笑みを浮かべ、金属を弄っていた男性は奈々枝を見る。


「ひうっ」


 あまりにも恐ろしい気迫。一種の凶気が奈々枝を襲う。


「見方には攻撃しないでくださいね? しかし……資質は高いみたいです。なんで所属があそこなのか謎なくらいですね」

「知らねえけど、そりゃあこいつの資質を見抜けなかっただけじゃねえの? メンタル型だろ?」

「魔法少女とかそっち向けですね……本当になんで機械方面なんですか」

「……?」


 奈々枝に関しての話。それを少しだけしているところだが、本題ではない。すぐに話を戻す。


「あなたにも今回の件には参加してもらいます……戦力になるかどうかは難しいですね、条件から見てパワードスーツは着て行っても大丈夫そうですが、恐らく外すことになるでしょうし」

「ま、合図さえしてくれりゃあ俺らが何とかするけどな」


 そんなふうに大まかな行動内容が取り決めされていく。奈々枝が言われた通りに出向き、そこで人質を解放するのであればそのまま相手のアジトに潜入、そこを叩き潰す。そうしない場合、人質の安全が不明になるので一気に人質を助けその場にいる怪人含め全滅。それを実行するのがこの場にいる二人ということである。そして今回の件でパワードスーツの利用を行うと言うこともあり、その話を彼女の所属しているところにしに行く。場合によってはパワードスーツが破壊される可能性もあると言うことだ。

 そこでさらに大きな出来事が起きていた。それが新しいパワードスーツの開発である。そしてそのパワードスーツを携え、条件が整えば変身しそれを合図に二人が乗り込んで叩き潰す。そういうことになったのである。

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