待ち合わせは港の倉庫で
予定された奈々枝を呼び出す日、その期日が訪れた。それに伴い雄大が悪の組織の本拠地から連れ出される。もっとも目隠しをされてだが。目隠しをする理由は明白、悪の組織の本拠地をわからないようにすること。
そして彼は港に運び出された。海の上かと思いそうになったが、どうやら彼は港の倉庫の付近に連れていかれるようだ。
「……なんで港の倉庫なんだ?」
彼の周囲には彼を捕まえているそれなりの地位の怪人、ボス、そして今回の策略のメインとなっている新上が存在している。どれも戦闘時のスタイルとなっており、いつもとは違うピリピリとした空気。そんな空気であるのに雄大は暢気に質問をする。そしてそれにボスも気軽に答える。
「そりゃあ便利だからだろう。倉庫だから建物内に戦闘員を仕舞いやすいし、海があるから巨大ロボットとかも隠しやすいしいざという時に逃げやすい。もともと港は船が止まっていないときは人もそこまでいないし、人ごみもなくて動きやすいし」
「自分の本拠地に呼び出したりはしないのか?」
「ありえないよ? だってそんなことをしたら自分達の本拠地がバレちゃうだろう? 正義の味方がこぞって攻め込んでくるに決まっている。まあ、彼女も発信機とか居場所が自分のところにばれるようなものはちゃんと取り除くだろうけど……かといって安全ではないからね。完全にこちら側に染めて正義の味方側からの縁を切らなければ連れていけない」
正義の味方側の仲間の補足具合も中々にとんでもない所である。お互いそういった相手を探ったり自分のところを隠す技術はかなりのものだ。
「……だからここなのか」
「そうだ。まあ、他にもいくらか選択値はあるだろうけどね。採石場とか」
「…………なんで採石場?」
「人がいない、暴れても問題ない、逃げやすい。まあ理由は色々とあるだろうけど」
大体の場合は自分のところの戦闘員を数多く用意できる、自分たちが逃げやすい、周りにあまり物がないなどの条件がそろっていればわりとどこでもよかったりはする。その中でさらに色々と自分たちに有利な条件を重ねられるところならばなおいいと言った所である。
「さて、そろそろ時間だ」
「雨切氏。準備はよろしいで御座るか? もし正義の味方の彼女が来なければ……その時は雨切氏が惨たらしく殺されることになると思われるで御座るよ?」
「…………勝手な発言を許した覚えはないぞ」
「これは閣下。勝手な振る舞い申し訳ないで御座る」
「……まあいい。これの言っていることは間違いではない。もし正義の味方が来なければ私達も悪の組織として人質を放置すればどうなるかの見せしめをしなければならないからな」
正義の味方というのも中々に大変なものである。放っておいたら拉致された人間が殺されて見せしめにされる。そうなれば一般人の被害者が出る上に自分たちに対する風当たりが強くなる。何故放っておいたのか、助けなかったのか。別に彼らが悪いと言うわけではないのだが……往々にして人は責めやすい方を責めるものである。
「…………来たか」
そんなふうに話していたところに、一人の影が現れる。女性……パワードスーツを着た正義の味方の女の子。新沙瑚奈々枝だ。悪の組織に拉致された雄大を餌に呼び出されたわけだが、流石に普段の格好で来るわけにはいかない。
「おやおや。何故か戦闘スタイルで御座るなあ?」
「当たり前です。あなたたちが雄大さんを生かしているとは限りませんから」
硬質な声……怒りの籠った、いつもの奈々枝の発するような声ではないものだ。彼女も雄大が攫われてとても怒っているようである。まあ怒らないわけもない。その怒りは彼女に声をかけた新上に向かう。殺気にも似た怒気を浴びながら、新上はにやにやと笑いながら言う。
「おや? でもそちらも雨切氏が生きているのは見えるで御座ろう?」
「ええ、そうですね。雄大さん! 大丈夫ですか!」
奈々枝が雄大に声をかけてくる。
「答えてあげたら?」
「っ」
事前に色々と話して聞かされていた雄大には意図が分かる。自分は大丈夫、無事であると言えと言うことだろう。別に言わないと言うこともできるが……その場合の場の混乱はどちらにとっても、誰にとっても面倒なことになりかねないと言うこともあり、雄大は大人しく答える。
「大丈夫だ!」
「そう……よかった」
ほっとした様子で奈々枝が息を吐く。雄大の安否に関しては彼女の中ではとても重要なことだったからだ。
「ほらあ。わかったのならばその戦闘状態を解くで御座るよ。雨切氏を返すのはそちらがこっちに従うのが条件で御座ろう? まさかそのいつでも戦えまーすって格好でこちら側に来ようと思ってるので御座るかあ?」
「…………わかっています」
「ほら、その無骨なスーツを脱ぐで御座るよ! 脱ーげ! 脱ーげ! 脱ーげ!」
「っ!」
流石に新上のあれこれの発言はかなり頭に来るところである。しかし、彼女としてもここで自分の感情で敵対して雄大が殺されることになっては意味がない。発言に関して腹が立つところはあるが、しかたないと思い怒りを抑えながら奈々枝はパワードスーツを外す。
パワードスーツは別に面倒な取り付けがされるわけではなく、ボタン一つでパパパっと装着されるものだったりするので外すときも似たような感じに近い。取り外しのボタンがありそれを押すとカシャン、カシャンと外れていきながら一つの機械にまとまる。
「これでいいですか?」
「おおっと。いつでもそれを装着できるように持たれると困るで御座る。離れた場所に置くで御座るよ」
言われた通り、奈々枝はパワードスーツを遠くに置き離れる。奈々枝の服装はそれなりに見るいつもの私服に珍しい感じの青い宝石の装飾過多なペンダントをつけている。おめかし……というわけでもないのに珍しい装飾品だ。雄大も見たことのないものである。
「デュフフフフフ。自分の命令で女の子を脱がせるなんていい気分で御座るなあ」
「っ…………それで、雄大さんを離してくださるんですよね?」
新上の気持ち悪い発言に嫌悪感を抱きつつも、奈々枝は雄大の安否を気にする。
「おい、放して」
「はーあ? そーんなわけないで御座ろーう?」
「なに?」
「はい?」
「……」
新上が妙なことを言う。これに関しては彼を使っているボスも想定外の発言であるようだ。
「返すわけないで御座ろう。折角捕まえたのにまだまだ利用価値はいくらでもあるで御座るからなあ。デュフフフ。目の前で犯しても良し、投薬の実験もできるし、いたぶって楽しむのもあり、女戦闘員だって男日照りのもいるで御座ろう。そちらと同じでいろいろ使い道はあるで御座る。そーんな今後も利用価値のある者を返すわけなーいで御座ろう?」
何も奈々枝にしか利用価値がないわけではない。今後の奈々枝に言うことを利かせる手法として雄大を利用する手立てがあるし、雄大自身も何位でも使おうと思えば使える。そもそも返す必要なんてものは本来ないのだから。
「……勝手なことを」
ボスである彼にとって本来決めていない勝手な行動は許しがたいことである。しかし、新上は一応あれで上位の幹部である。気に入らないと言う理由があったところで、その存在が完全に害にならないのであればそうそう仕置きなどもできない。まあ、今回の勝手な行動で今度の行動に釘を刺すことができそうではあるが。
「そうですか」
無機質な声が場に通る。周囲の視線がその声の主に向く。奈々枝の声だ。しかし…………奈々枝が出した声とは思えないような声であった。普段の彼女からは想像できないような、無機質で、怒りを抑えたような…………そう、本気でブチ切れたような、と表現するのが正しいような、極めて平坦な声にしたような声。
「あなた方はそういった人たちだったんですね」
「悪の組織で御座る! 我らは悪党、悪行を行う者!」
「ええ。そうですね」
手が首に下げている首飾りを掴む。
「なら、私は正義の味方です。身着!」
カッとあたりに光が満ちる。
「おおっ!?」
「なっ!?」
「っ!?」
光が収まったところに、奈々枝の姿があった。先ほど来ていたようなパワードスーツのような格好だが、先ほどの無骨な機械式の物ではない。いや、機械は機械なのだが、完全に服装にマッチしたかのような自然なスタイルとなっている。そして先ほど持っていた宝石は消え、その宝石の色合いが彼女の格好に反映されている。
「あなたたちを倒します」
「何っ! こっちには人質がいるで御座るよ!?」
奈々枝が雄大を見捨てるなんてことはしない。ありえない。しかし、実際彼女は目の前で変身をし、彼らに敵対をしようとしている。そこで悪の組織のボスはある事実に気が付く。奈々枝がなぜ、ここで変身するような装備を持っているのか。彼女の装備はパワードスーツであり、本来その装備は最初に彼女が着てきたもののはず。なぜそれ以外の物を持っているのか。
「くっ! 人質を」
ボスが雄大を抑えている怪人に声をかける前に、天から一直線に流星がその怪人に向けて落ちてきた。地を揺らす程の破壊、爆音。
「ははははははっ! 俺様参上っ!」
「まったく、君はもう少し破壊活動を抑えてほしい所ですよ?」
「来たかっ……! 正義の味方どもめ!」
怪人を倒した流星の主、赤色の戦闘スーツに包まれた仮面の正義の味方が一人、そしてそれに吹き飛ばされかけた雄大を助けたマントをつけたファンタジックな雰囲気の正義の味方が一人。そう、つまりは増援……他の正義の味方のバックアップがあったのである。