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見知らぬ部屋

 いつも通り、雄大は普段の帰宅路を通って家へと戻る。


「はあ…………疲れたな」


 いつも通り。そう、いつも通り。最近は彼の家に奈々枝が来るようになってドタバタとするところでもあるし、ちょっと前に色々と荷物が届いてその整理があったり、ここ最近の彼の状況は色々と大変なことになっている。しかしそれが悪いと言うわけでもなく、それなりに充実している感じではある。

 だがずっと大変な状態でいるとそれはそれで嫌なものだ。ただでさえ普段会社で仕事をして疲れて帰ってくるのである。彼の勤めている所はそれなりにホワイトであるにしても、完璧にホワイトであるわけではなくそれなりに苦労もある。彼自身それなりに仕事に対する意識、仕事をすることに対する意識があって相応に疲れるようなやり方をやっていることもある。それゆえに休める時、ゆっくりできるときもあってほしいと思っているのである。

 休日だけではなく平日も当然休める時間は必要だ。だからこそ以前奈々枝と決めたルールである。毎日、連日は不可能というルールはある程度奈々枝の来報を抑える役目を持っている。それでも時々卵焼きをねだるでもなく、勝利報告をするわけでもなく訪れるときもあったりするが……奈々枝もそれなりに配慮はしてくれているのだが、それでも時々は来る。


「……でも今日は来ないんだったな」


 いつもマイペースで彼の家に訪れる奈々枝も用事がある時もある。それに関しては奈々枝側が事前に雄大に通知しこの日は来れませんと伝えるのである。そもそもそれは必要なことかは疑問であるが、彼にとっては奈々枝が来なくてゆっくりできる日が分かるのでそれはそれでありがたいことだろう。来ないなら来ないで彼もちょっと寂しい時もある。

 と、言うことで今日は奈々枝が来ない日だ。


「………………」


 最近はよく来るようになって家の中も賑やか、来ないなら少し寂しい所だな……なんて彼も思う所ではあるが。しかし本来は来ない方が普通なのだ。いつも通り、そういつも通りである。

 家に戻り、部屋の鍵を開け扉を開ける。


「ただいま」


 誰もいるはずもない。答えが返ってくるわけもない。玄関にある明かりをつけ、中に入り……


「おかえり」


 本来誰もいないはずの彼の家に、何者かがいた。


「………………っ!?」


 ありえない。彼の家に鍵がかかっていたのは鍵を開けた彼が分かっている。そもそも……入り口にある電気をつけるまで家の中は暗かったのだ。そんな暗い中でずっと、その何者かはまっていたと言うことである。変人、変態……いや、そもそも相手は勝手に人の家に侵入した不審人物である。

 こういう時どう対処すればいいか、というのは中々に難しい所である。大声を上げる、警察を呼ぶ、家の外に出る。いろんな対処法があるにしても、突然の事態。予想外の出来事。思考はそれを正しく認識するまでいくらかの時間がかかり、咄嗟の行動をとるまでにもいくらかの時間がかかる。ある程度そうった事態をいしきしていないと行動するのは難しい。

 そしてそれは雄大もまた同様。しかし彼は彼ですぐに後退し家の外へと出ようとした。一番いいのは危険である相手から逃げることだと判断したからだ。


「ダメダメ」

「こっちはとおさなーい」

「戻って戻って」

「なっ!?」


 しかし、それもすでに遅い。入り口はすでに埋め尽くされていた。扉が開いて、そこから何者かが何人も入りこんでいる。その入ってくる者たちは一様に同じ姿である。黒いスーツ、全身タイツにも似た同じ衣装。その服装を形容するのならば……かつてやっていた戦隊物の特撮にでてくる雑魚戦闘員の着ているような服、と称するのが一番正しいだろう。


「だ」

「おっと。残念ながらそれはさせてあげないよ?」


 いつの間にか背後に回っていた、最初からこの家にいた何者かが叫ぼうとした雄大の口を塞ぐ。無理やり手で。大きな手、顔を掴むことのできそうな巨大な手。その何者か……声かからすると恐らく男性と思われるその者もまた、人間ではないように感じられる。雄大を抑える手や、その手の持ち主の体が当たるが服装が明らかに異様。先ほど見た時も、驚きつつもその姿は一応覚えてはいる。角やぴかぴか光るようなパイプ、何故か筋肉を模した腹部の模様など。つまりは大量にいたのが雑魚戦闘員とするのなら、その人物はその戦闘員たちをまとめる幹部みたいなものと思うべきなのだろう。妙な服装もそうだし。


「ふうむ。帰ってきたは良いが、反応がいい。すぐに逃げ出そうとするのだからね。まあ残念ながら私の配下に遮られて逃げる事は出来なかったわけだけれど」

「っ!」


 口を抑えられて声を出せない。腕を当てたり、背中を当てたりしながら何とか脱出しようとするも、そもそもからして相手が悪の組織の戦闘員であれば、雑魚戦闘員ですら雄大よりも力が強い。そんな相手からどう頑張っても脱出するのは不可能とみていい。無駄なあがきということだ。それどころか、下手に怒らせれば殺されかねないくらいである。


「大人しくしなさい……いや、そうだね。別に押さえておく必要はなかったんだ」


 そう言うと同時に、バチンという音共に閃光が走る。


「っっっっ!?」

「さあ、眠りなさい。後はもっとふさわしい場所で話をすることとしよう」


 その言葉を最後まで聞き届けることは出来ず……雄大の意識は闇へと落ちていった。







「………………っ、ここ……は?」


 気が付けば雄大は自室ではない別の場所へと移動していた。


「っ……いや、本当にここは何処だ?」


 明かりはあるもののかなり暗い。まず光源が部屋の外から入ってくる幾らかの光と、部屋の中央に存在する天井から釣り下がっている電球が一つ。窓すらない現代ではありえないような設計の部屋。と、言ってもそれもそのはず。その部屋は牢屋なのだから。


「…………確か、家に帰って……ああ、あいつらにやられて連れてこられたのか。でも……なんでだ?」


 家の中に悪の組織の怪人がいた、というだけでも色々と驚きなのにさらに拉致されるとなるともう理解はできない。もっとも……彼に拉致される可能性の心当たりはあるだろう。彼の家には正義の味方が入りこんでいたのだから。

 しかしだからと言って安易にそれが原因とは考えにくい。何故なら正義の味方も普段は普通の格好をして一般人にしか見えない。一応二回パワードスーツ姿の奈々枝を家に入れているが、それが見つかっているのであればもっと早めにことが起きていたと思われる。ということはそれが原因ではないと言うことであり、それ以後は奈々枝は私服か制服で彼の家に訪れているのでバレるはずもない。


「しかし……なんというか、時代錯誤じゃないか?」


 牢屋は石造りで鉄格子の牢屋だ。鉄格子から外が見える牢屋というのはどうなのだろう。それ以上に冷たい石造りであるのもどうか。明かりが電球一つであるのもどうなのか。一応悪の組織は近代的な組織であると言うのに、こんな時代劇にでも出てきそうな牢屋を作る必要があるのだろうかという思いである。まあ経費削減と考えればありえないともいえないが……かといって牢屋だけを石造りにする方が出資は増えるのではないだろうか。もっとも彼にそういった事情がわかるわけもない。悪環境で気が滅入る効果は確実にあるのではないだろうか。

 そしてそんな牢屋自体に対して、鉄格子は鉄格子ながらも近代的……というよりはハイテクである。まず扉のようなものがなく、斜めにバツ印を描くかのようにクロスしている。縦や横だけと違ってまず抜けるのは不可能、まあ縦横でも十字にすればいいのだが。そして扉がない代わりに鉄格子の中央には鍵穴がついている。そこだけはしっかりと鍵穴が存在できるようにいくらか大きな金属の塊のような感じになっている。


「どうしたものか……」


 そんなことを考えているところに、彼のところにこつこつと足音を立ててゆっくりと、一人の人間……悪の組織の一員となっている人物が訪れた。


「久しぶりで御座るな、雨切氏」

「……新上」


 雄大のところに訪れた悪の組織に入っている人間、かつての友人である新上達也である。

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