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組織というものは

「悪の組織に……?」

「そうで御座る」

「冗談か何かか?」


 通常いきなり訪れた昔の友人に悪の組織に入らないかと誘われたならば普通はそれを冗談と思うものだ。もっともこの世界、この現在における社会観において悪の組織という者は実在し、そこに入る一般人も存在する。そもそも悪の組織と言っても上から下まで全員が悪人一辺倒というわけでもない。正義の味方の組織もいろいろと所属する会社があるように、悪の組織も似たような形態を持っている。彼等とて自分たちだけでは社会を運営できないのである。

 そういうこともあり、悪の組織自体に入らないかと誘われること自体はそこまでおかしな話ではない。もっとも……普通はもっと巧妙に隠して勧誘するものであるのだが。


「いやいや、マジで御座るよ?」

「……そもそも俺は普通に会社に行ってる。誘われても困るな」


 今の会社を辞めて悪の組織に所属する……なんてことを普通の人間は望まない。誘われて入る人間は大抵切羽詰まった状況にあるか、かなりブラックな会社に勤めている社畜か何かだろう。しかしそうは言っても悪の組織も怪人関連あたりは相当にブラックな物なのだが。

 なんといっても悪の組織は正義の味方と戦っている。悪の組織でも本当に所属して一般的な仕事をしている人間、開発関連であったり、書類仕事であったり、連絡要員であったりいろいろとあるが、そういった者達はそうでもないのだが、上の方……洗脳されて戦闘員として戦う下位の怪人や、それらをまとめ上げるリーダー格の上位戦闘員、幹部やボスなどの……いわゆる戦闘能力を持つ者に関してはかなりブラックである。何故ならば正義の味方と戦うからだ。大体の場合、下位の数で相手の戦闘能力を削る雑魚戦闘員の類は死なずに済むことも多いが、しかし死なない場合はそれはそれで使いまわされる。直接製紙をかけた戦いをする戦闘員の場合、負けて倒され死亡することも多く、そうでなくとも負けが確定すると多くの場合は自爆する。そういうこともあって上位者ほど死亡の危険は高い。

 まあ、大体の場合勧誘されるのは上位者にならない…………はずである。だから仮に入っても、色々と面倒はあるかもしれないがそこまで問題にはならないだろう。もっとも悪の組織に入るつもりは毛頭ないわけだが。


「あれ? でも雨切氏は会社にこき使われている出ないで御座るか?」

「なぜそうなる」

「忙しいからあまり趣味もないので御座ろう?」

「……元からだ」


 先ほど雄大の言葉に雨切氏らしいと言っておきながらの発言である。


「大体な……会社が大変だからって悪の組織に逃げ込んだりはしないさ。そっちも大変なんだろう?」

「まあ、それなりには」

「結局どこに行こうとやることは変わらないのなら移る意味もない」

「そうで御座るか?」


 と、そこで新上が色々と悪の組織についての説明を始める。


「悪の組織は色々と素晴らしいで御座るよ? 福利厚生は完璧、休日もちゃんと休みを貰えるし有給申請もあっさり通るで御座る。仕事も大変かもしれないで御座るが、その分大変さに見合う給料も出るで御座るし、職場の空気も素晴らしいで御座るよ!?」

「それを信じろって言う方が無理だと思うんだが?」


 悪の組織。悪とついても組織は組織……なので組織としてはしっかりしているのだろう。しかし、組織であっても悪は悪。仮に十分な環境があったところで悪の組織である以上の問題は多々あるだろう。


「まあ、雨切氏の言う所ももっともで御座るが……」

「…………そもそも新上。お前に勧誘できるような権限はあるのか?」


 一つの疑問。雄大に誘いをかけている新上は一体どのような立場にある者か。


「そりゃないのに勧誘はしないで御座る。まあなくても勧誘自体は自由で御座るよ? なんといっても悪の組織は人手不足に陥りやすいで御座るからなあ」


 先に言った通り、悪の組織は正義の味方と戦っているのである。そうである以上死んでしまい所属している者がいなくなるということは珍しいことではない。特に上位者がいなくなった場合の補充は大変だろう。悪の組織の怪人として戦えるだけの戦闘力は相応に素質がある者でなければならない。これは正義の味方側も同様であり、誰でもいいと言うわけではない。そのうえで自分から入ってくるような者でなければ使えないのだから実に厄介な所である。もっとも、悪の組織側は雑魚の怪人に関してはその辺にいる人間を捕まえて無理やり洗脳して戦わせると言うことはできるのだが。


「デュフフフフフフ……実は拙者、これでも結構上位の幹部なので御座るよ?」

「そうか」

「その反応冷たすぎやしないで御座るか!?」


 雄大にとっては新上がどういった立場であるにしてもどうでもいい話だ。


「で、雨切氏。悪の組織に」

「入らないからな?」

「最後まで言わせてほしいで御座るよ!」


 何度か入らないかという勧誘があったものの、雄大は入らないと言いつづけそこまで意志が固いのならばと新上も諦めたようである。そのまま少しの間のんびりと過ごし、結局新上は普通に帰ることとなった。


「それではそろそろ帰るで御座るよ。今まで追い返されてばかりだったから今回はちょっと新鮮だったで御座る。感謝してるで御座る」

「いや、いいから」

「むっ。まあいいで御座る……」


 そのまま新上は外へと……出る前に、ぴたりと一度止まる。


「ところで雨切氏」

「何だ?」


 先ほどまでの新上の雰囲気から大きく変わる。それまでのどこか軽い、緩やかでぼけぼけしたようなその辺にいても全く問題ないような、一般人時見た糞に木から打って変わり……悪の組織、その怪人、さらに言えばその上位にある者。それにふさわしいような、刺々しい雰囲気。それまでの姿まるで擬態であるかのように周りの空気が変わる。


「雨切氏は、女人を連れ込んだりはしておらんで御座るよなあ?」


 振り向き笑顔で訊ねる新上。その笑顔とは裏腹に目はまったく笑っていない。女人……つまりは奈々枝の事である。どうやら新上はその存在を感じ取ったようだ。もっともそれは確信あってのものではない。なので雄大に対し威圧感を増したうえで訊ねたようだ。


「してないが」

「本当で御座るかあ?」

「ああ」


 嘘ではない。雄大は奈々枝を連れ込んだりはしていない。倒れている所を解放するために運んだり、彼女が勝手にこの家に訪れて過ごしているだけであり、決して雄大は彼女を連れ込んでいない。かなり詭弁なところはあるが嘘ではない。


「…………本当みたいで御座るな」

「嘘はつかない性質だからな」

「それは流石に嘘で御座ろう……拙者がかなり気合入れて脅したのに全く動じてないで御座ろう。つまりやましい所がないと言うことで御座る。いやあ、拙者の勘も鈍ったで御座るかなあ…………」


 そんなことを言いながら、改めて新上は玄関の方へ向く。


「それじゃあ最後ちょっとすまないことを下で御座るが、許してほしいで御座る。それではさらばっ!」

「じゃあな」


 そう言って新上は外へと出て帰っていった。

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