ファビュラス・ハデス 31: 蠅は糞に集る
31: 蠅は糞に集る
「ケイジャンガー?ああSCキットを密売しておった奴だな、、。」
漆黒は捜査のついでだと言って、利兆の事務所に立ち寄っていた。
もちろん、利兆からケイジャンガーの情報を得るためだ。
自分で調べる時間はないし、調べたところで、この世界に詳しい利兆の裏情報より内容があるとは思えなかった。
これが現在捜査中の人物の事であるなら、利兆にも迷惑がかかる可能性もあったが、ケイジャンガーは既に終わった事件の、しかも死んでしまった人間だった。
それに本当のところ漆黒は、ただ単に、何故か自分を可愛がってくれる馬面の長寿族の顔を久しぶりに見たかっただけかも知れない。
「しかしジェットよ、、お前は本当に鴻巣徹宗と縁があるな。」
「鴻巣徹宗って、あの鴻巣神父のことか、、。」
思わぬ所で飛び出た名前に、漆黒はショックを受けた。
それはラバードール事件の黒幕の一人という以上に、鴻巣は漆黒の夢の中に頻繁に登場する人物の名前だったからだ。
「SCキットを作ったのは鴻巣だ。鴻巣の能力なら遊び半分って所だろう。というか小遣い稼ぎのつもりであれを作ってケイジャンガーらに売らせたのさ。その結果はジェット、お前さんがよく知っているだろう。ローズマリーでも、その被害者を一人世話してやったが、長くは続かんかった。可愛そうじゃがボロボロになりすぎていた。儂から言わせると、SCキットは欠陥品だよ。人を痛めつける以外に使い道がない。」
「それが元で、鴻巣は学会を追放されたのか?」
「いや時期的には、鴻巣がSCキットを作ったのは追放された後だと思うがな。表沙汰にはなっておらんが鴻巣は、追放される直前そうとう異常な事を、自分と同じような人間達を集めて次から次へとやらかしていたようだ。SCキットは、ブードゥーに拾われる前に、手慰みのつもりで作ったんじゃないか。、、そうそう、ブードゥーと言えば、例の精霊の方はどうなっている?」
「、、ある日突然、この計画は一時中止すると上からのお達しがあって、それっきりだ。俺の相棒だった奴は、その姿どころか気配さえプッツリ絶って消えちまった。それにヘブンに昇りかけていた精霊計画のお偉方まで姿を消したままだ。」
ドク・マッコイの名前は、あえて口にしなかった。
こちらの方も、利兆の情報網なら何かを調べだしてくれるだろうが、漆黒はそこまで利兆に甘えるつもりはなかった。
現在の所、利兆と漆黒の関係は、ギブアンドテイクさえ成立しておらず、ただ漆黒は利兆の甥であるという義理の関係を認めた代わりに、IDへ偽のバックグラウンド情報を追加してもらうという極めてアンバランスな関係があるだけだった。
利兆に言わせると、『儂が死んだ後の跡継ぎには、ジェット、お前こそがピッタリだから、こうやって面倒を見ている』と言うのだが、その真意は未だにわからなかった。
長寿族である利兆に、跡継ぎが欲しいなどという俗世的な執念があるとは思えなかったからだ。
それに利兆は、生きている事に、飽き始めている筈だった。
「ふむ、精霊か。ジェット、お前が気に入るような亜人類なら、一度見てみたかったな。いや、いずれその顔を拝めるかも知れないがな、、。」
利兆は最後に、そう含みのある言葉で、この話題を締めくくった。
・・・・・・・・・
僕の身体はどうなってしまったんだろう。
胸が出っ張り始め、最近は乳首がシャツに擦れただけで、おちんちんが勃起する事がある。
でもあまり早く、白いドロドロを自分で出すのは良くないんだ。
僕は何回も、それが出来るけれど、それだって限度がある。
お姉さんは、僕のドロドロを自分の顔にかけられるのが大好きなんだから。
お姉さんは、僕のドロドロを、とっても綺麗な自分の顔全体に引き延ばしては、白目を剥いて何度も失神する。
お姉さんが何度もそれを求めるから、僕は僕のが品切れにならないようにしなくちゃいけない。
だから僕は、お姉さんのお尻の穴に僕のを突っ込む時は、三回の内、二回は偽物の吃驚するような大きな偽のおちんちんを腰に付けて使う。
そうするとお姉さんは、最初の内、シーツに顔を擦り付ける様にして泣いているけど、最後にはまるで映画に出てくる狼見たいな遠吠えをする。
、、それで僕は、お姉さんがとっても怖くなるんだ。
・・・・・・・・・
天気が良ければ、何処からでも「天国へのエレベーター」が見える。
遠くの地域からだと、夜の方がエレベーターの電飾がある分、その姿が見つけやすいかも知れない。
漆黒は、衆寒極市の安宿の窓から見える、天から垂れたルビー色の糸を暫く眺めてから、壁際に備え付けてある小さなディスクセットの椅子に座った。
ディスクの上にプリントアウトした数枚の写真と携帯末端を置く。
ゼペットが「こいつらは本気でやっている」と指したのは、SCキット購入者達の内、五人だった。
ゼペットのいう「本気」の言葉の意味が気になった。
五人なら容疑者に、「直」に当たってもこなせる人数だが、初動捜査による刺激で、犯人に逆上されて被害者に累が及んでは、最悪の事態になる。
被害者を一刻も早く救い出してやりたかったが、ここは我慢して、容疑者を周囲から絞っていく事だ。
他の二人の担当捜査刑事に協力をと、一時は考えたが彼らは色々な意味でまったく宛に出来なかった。
「直」に当たるその時には、捜査ではなくて、自分が被害者を救出するつもりでやるつもりだった。
しかし、容疑者の中には、厄介な相手が二人混じっていた。
一人は若手の代議士の秘書の知人、もう一人は大手企業の顧問格の番頭だ。
この二人が、直接、SCキットに手を出しているのなら問題はないが、、、。
たぶん本星は彼らではなく、もう一人や二人、違う人間を間に挟んで、本当のSCキット使用者に行き当たる筈だ。
そいつが本星。
しかし彼らの親玉を探し出す事自体は、全然、複雑な事ではない。
蠅は、糞に集るのだ。
空気中に漂っている糞の臭気を辿れば、糞が落ちている場所は直ぐに判る。
そして鼻を摘んで、糞の始末をする。
・・・まあ後は「上」のやる事だ。
「上」にいる人間達が、警察の権威回復を取るか、保身を取るか、漆黒の知った事ではない。
漆黒は何気なく、重要参考人や容疑者候補達の顔写真をトランプカードのように手の中で組み替えて、一番上に来た写真を見た。
いかにもやり手といった眼光を放つ、甘さの中に苦みを感じさせる美貌の青年代議士の写真を、人差し指でパチンと弾いてから、漆黒はすっかり冷めてしまった何杯目かのコーヒーを飲み干して、上着を肩にかけた。
・・・・・・・・・
今日は、お姉さんは、僕を可愛がってくれるのだろうか、それとも虐めるのだろうか。
いや、違った。
今日は、お兄さんが、久しぶりに僕の相談にのってくれる日だ。
今日は勇気を出して聴いて見るんだ。
本当に「世界」が、僕たちのシェルター以外は全滅してしまったのか?
いつも僕の面倒を見てくれるアイアンズさんは、時々、僕たちの住んでいるシェルターと違う匂いをさせる時がある。
僕は身体が弱いから、シェルターの中でもこの部屋から出れない。
その事は、アイアンズさん達と僕との違いだし、それに僕は沢山、眠らないといけないから、何時も頭がボーッとしてるけど、、。
それでも僕には、本当は外の世界がどうなっているかくらい知る権利はあるはずだ。




