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ファビュラス・ハデス 29: 未成年者拉致監禁身体改造事件

    29: 未成年者拉致監禁身体改造事件


 刑事だからと言って、その日常の連続がドラマのように面白可笑しく起承転結して終わるわけではない。

 起こったまま結末のない出来事、立ち消えになる出来事、何時までも変化しない出来事、、様々だ。

 背後に巨大な物語を抱えたラバードール事件は、漆黒の画策も功を奏せず、「犯人の自殺」その事だけでカタがついた。

 あの飛蝗人間の正体を隠蔽した力と同じものが働いたのだ。

 宇宙エレベーターを保守点検する為の飛蝗人間を生成するには莫大な費用がかかるが、食い詰めた人間をバイオアップで飛蝗人間に転生させれば、その費用は、数百分の一で済む。

 漆黒が逮捕した暴走飛蝗人間の正体は、そういった人間だった。

 真田が「宇宙」の雰囲気を身につけていたのは、エレベーター上部にある「ヘブンの底」、真田に言わせれば奴隷階層用の「タコ部屋」にいたからだ。

 ただそんな事実が判明しても、今はその事に何の意味もない。

 公安課の刑事であるレオン・シュミットも、彼が追っていたブードゥー教団そのが解散してしまった今、手詰まりの状態に陥っていた。

 いやそれ以上に、豚男の死が彼を廃人の領域にまで追い詰めていた。

 果たされる目処のない復讐の怨念が、彼を蝕んでいた。

 一介の刑事にしか過ぎない漆黒達には、今以上のことに手出しは出来ないのだ。

 だが愛染総合病院での顛末があったにも関わらず、パーマー捜査官は未だにその役職を解かれていない。

 その事から、長寿族と国家の関係は、以前あった古いバランスを取り戻したのだろうという想像だけはついていた。



 第七統合署の署長から呼び出しがあった。

 糞食らえだ。

 大昔ならこう言う「ファックキュー」。

 警察の威信回復のチャンスだと?今の警察に「回復できる」威信など何処にある。

 それにどうして、この俺なんだ。

 唯一、俺が賄賂にまみれていない刑事だからか?

 それは違う。

 俺だって金は欲しい。

 利兆との取引でそれなりのバックグラウンドは手に入れたが、それで収入が増えるわけじゃない。

 だが俺にとって、金以上に「スジを通す」事の方が重要なんだ。

 綺麗事を言うつもりはない。

 俺は「漆黒」という一人の人間である為に、そうしているだけの事だ。

 今じゃ、誰もが中毒にならざるを得ないインテレビだって、「ニュース配信モード」にしたきりなのは、署内や世間で噂されているように、この俺が「仕事の鬼」だからじゃない。

 「通常モード」の娯楽番組を見てると、頭が腐っちまうからだ。

 仲間の中にはインテレビの通常モードが垂れ流す下らないギャグと同じスピードで、胃にビールやウィスキーを流し込み頭を麻痺させようとしてる奴も多いが、俺は違う。

 俺は、現実がどれほど愚かであろうが、頭だけはスッキリさせておきたい質なのだ。

 まあ、そういった生き方にも、最近、自信がなくなって来たが、、。

 そのニュース配信モードでは、署長がのたまっていた例の事件現場の写真の下に、こんなテロップが繰り返し流れていた。


 ----不明事案で22日に緊急会議=ドクランド事件受け、7ブロック警幹部招集-警察庁----

 第一統合署管轄内ドクランドブロックの女性(19)が、3年2カ月にわたり監禁されていた事件を受け、警察庁は21日、同種事件の疑いがある未成年者行方不明事案を抱える「衆寒極」ブロック、「サザンアース」ブロックなどを含む統合管轄署の幹部を集め、緊急の対策会議を22日に開催することを決めた。

 同庁は今月初め、関係統合管轄署に捜査の再点検を指示しているが、女性監禁事件でドクランドブロック警の発見活動や捜査の問題点が判明したことから、各ブロック警の未解決事件の捜査状況を詳細に検討し、適正捜査の徹底を図ることにした。

 対象の事件は、4歳から17歳の8人(うち6人が女子)が、所在不明になった8事案(カッパドキュアブロックは2件2人)。

それぞれ幼稚園児や小中学生、高校生で、校庭や自宅庭先で遊んでいたり友人宅に向かう途中などに行方不明になっている。


 漆黒はインテレビのスィッチを切り、末端に電源を入れた。

 今日、第七統合署長から渡され説明のあった記録ディスクをもう一度再検討する為だ。

 まずはドクランド事件の概要だ。

 既にメディアで報道されているニュースとそう大差はない。

 署長は、漆黒に押しつけた未解決事案は、ドクランド事件と事件の発端が酷似しており、下手をするとその結果はドクランドの二の舞になる可能性が高いと、の賜っていた。

 そんなに心配な事案ならニヤニヤ笑いながら喋るな!と言うことだ。

 第一、ドクランド事件に類似した事件は山のようにある。

 この事件が、これ程、派手に取り上げられたのは、被害者の身内に強大な権力者がいたからだ。

 マスコミも警察も彼の逆鱗に触れぬよう忖度した上での今回の動きだった。

 この事案を無事収めれば自分の手柄、失敗すれば部下のせい、あるいは人員不足のせい、まあそんな腹づもりだろう。


 統合署長の保身しか考えていない表情を思い出してしまった漆黒は、ウィスキーのボトルをキーボード横に置いた。

 情けない事に、あれ以来、漆黒は酒に逃げ始めている、、。

 相棒の鷲男を失った事が、意外に効いていたのだ。

 どうしてだ?やっと鷲男が相棒として立派に通用するようになったというのに。

 マシンガンをぶっ放したピギィのせいか?精霊はやっぱり危険だったってか?

 ピギィはレオンの為に、死んだんだぞ、人間にだってそんな奴はいないんだ、、。

 酒と言えば、ラバードール事件の後、一度だけレオンと酒を飲んだ事がある。

 奴は酷い状態だった。

 そして奴は言ったもんだ。

「ある日、ピギィが俺に言ったんだ。最近よく夢を見るんだと。それが決まって裸の豚頭達がお互いを素手で殺し合う夢なんだそうだ。それで最後に必ず共食いになって、それで目が覚めると言うんだよ。その時のピギィの表情が余りにも悲しそうだったんで俺は思わずピギィを抱きしめてやったんだよ、、。」

 そう言いながら、レオンも泣いていた。

 ・・・いや、もう止そう。スピリットの事を考えるのは。

 とにかく今は目の前の事案に集中する事だと、漆黒は自分の気持ちを切り替えようとした。


    ・・・・・・・・・

 ドクランド事件概要

 11月、当時小学校2年生、9歳の少女Aが、ドクランドブロック内で行方不明になる。

 当初は営利誘拐かとも思われたが、犯人からの連絡はなく、警察は公開捜査に踏み切る。

 民間警備会社の幾つかの活動権限枠拡大が法令によって、認可されつつあったが、この頃はまだ全ての「犯罪」は、警察の「管轄下」にあった時代だ。

 しかし、その後、手がかりはなく10年近い歳月が流れた。

 家族は希望を捨てず、零落する警察に見切りをつけ、大手警備会社数社にA発見の為の依頼をした。

 11年後1月28日、19歳になっていたAが田宮警備保障の民間警察部門の職員によって保護される。

 彼女の話では、「男性に無理やり連れ去られ怖くて逃げられなかった。家の外に出たのは今日が初めて」だという。

 少女は男性の車のトランクに入れられて連れ去られていた。

 当初は、殴られたり、ナイフで脅されたりしていたようだ。

 彼女が監禁されていた家は、住宅街の中にあり、警察分署からも2キロメートルほどの距離。

 人口の密集した土地柄でありながら、この10年近くの間、この少女の存在をだれも気がつかなかったという。

 食事は与えられ、Aの髪も男性が切っていたという。

 保護される前には、拘束も緩くなり、1年程前からはインテレビなども見ることができたらしい。

 ただし、彼女が監禁されていた2階には、トイレも風呂もなかった。

 これほど長期にわたる監禁事件は前例がなく、発見に多分の参与と功績のあった田宮警備保障も、「きわめて特異」なケースであり「公共警察が手を拱いていたわけではない」と同情的に話している。

    ・・・・・・・・・


『何が、同情的だ。警察が民間に同情されてどうする、、』

 と、まあこれがドクランド事件の表向きだが、実際は誘拐されたAは女性ではなく男性であり、Aは、発見時、SCキットを使用されて凄まじいばかりの身体改造が施されていた。

 発見された時の外見上の性別は女にしか見えず、Aとその家族を配慮して、ニュース記事はAを「女性」として公表した訳である。

 ドグランドの事件と、第七統合署管轄のブロックの未解決の事件とは、確かに色々な点で共通している部分が多いと言えた。

 最大の共通点は、誘拐が金目当てではない事と、誘拐された被害者が非常に可愛らしい「男の子」であったという事だ。


 さて、どうする?

 当面の問題は、どうやったら漆黒達の第七統合署ブロックで競合している李警備総合保障を出し抜けるかと言う事だ。

 李は、この事件が騒がれているこのチャンスをきっとものにしようとするだろう。

 警察が、迷宮入り寸前の失踪事件にあくせくしてギブアップする寸前に、李は彼らの強みである金と捜査力を発揮して見事事件を解決してみせるという寸法だ。

 それで警察の権威とやらは、いつものように又、地面に吐き捨てられた唾ほどの値打ちもなくなる。

 そして警察に残った少数のまともな人間達が、細々と地道な活動を積み重ね、損なわれた信頼を少し回復し、又、他の奴らが賄賂か何かで警察に泥を塗る。

 時間がなかった。

 あらゆる角度から検討された精度の高い捜査方法なんてものを考えている暇はない。

 第一、貧乏くじを引かされた専任捜査担当員は、漆黒を含めてたったの三人しかいないのだ。

 警察の威信をかけた捜査とやらが、この三人の刑事に丸投げされたままなのだ。

 それでも、当局が、相次ぐ人員減らしの中で、一ブロックに三人もの専任捜査官を投入したのは破格の扱いと言えた。

 漆黒達、警察は汚職を除いては、あらゆる意味と現状で、カツカツなのだ。

 結果、漆黒はこの事案について、もっともドグランド事件に似通っている部分から捜査を始めるつもりでいた。

 つまり男の子の拉致、SCキット使用の可能性だ。

 どんな異常な行為であっても、大体が人間のやる事は似通っている。

 犬に吠えられたから、その犬のカマを掘ったなんて話が、昼のニュースに流れるこのご時世なんだ。

 犯行の動機なんて事を小難しく考える方が、かえって事の本質を見失う。

 コンドームを被せてやるか、生でやるか。男とやるか、女とやるか。

 上の穴でやりたいのか、下の穴でやりたいのか?

 殺してするのか、生かしてするのか?

 どんな動機が背後にあろうが、人は結局、どれかを選ぶ。

 、、今回は、「男の子とSCキット」このアプローチが一番、「目標」に近い筈だった。



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