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初恋の人と再会したら  作者: 紺色
1/1

出会い編




すべては私が中学三年生の時、学校祭の実行委員に推薦され引き受けてしまったところから始まる。


------------------------------------------



「めんどくさい……」


 思わず自分の口から出た言葉が、余計に気分を憂鬱にさせる。放課後、いつもなら誰よりも速く生徒玄関へ向かうところを、今日はまったく正反対に向かって歩いていた。



目的地は、普段は使われていない空き教室。これから学校祭実行委員会の顔合わせが行われるのだ。



「はぁ……遠い」


 なぜこんなにも広く、教室も有り余っているような校内の中でも最も遠くにある空き教室でなければならなかったのか。もっと他に場所はなかったのか。いや、絶対にあったはずだ。などと文句を垂れながらひたすら歩く。


 溜め息混じりに四時限目のホームルームの時間の出来事……私が今、長い廊下を歩くことになっている経緯を思い出す。





「……九条さん、やってみないか?」


担任の先生がそう言った。


途端にクラス中の視線が集まる。うんうん、向いてそう、などとわざとらしい声が上がる。突然の名指しと集まる視線に戸惑いつつも、なぜか悪い気はしなかった。


「ほら、九条さんは部活も入ってないし……」


「良い経験になると思うよ」


「うちらも手伝うし、ね?」


私は人から見れば、比較的おとなしい性格だったこともあり、先生もクラスメイトも私を推薦……といえば聞こえは良いが、要はその役割を押し付けようとしていた。


こちらも断る理由が『めんどくさい』というほかに無かったので、それもどうかと思い二つ返事で引き受けた。



というか、ここで断るのも後のことを考えると面倒だったのだ。







「はぁ……」


 ようやく目的地の空き教室に着き、呼吸を整えてから扉を開ける。

日々の運動不足を痛感した。というか、次回からはもっと近い教室を使ってほしい。


「失礼しまーす」


 私が空き教室に着いた頃には、もう大体の生徒が集まっていた。全学年、各クラスから1人ずつ参加することになっている。


実行委員会の仕事は、パンフレット作成や予算振り分けの相談、展示作業や各クラスへの業務連絡などが主で、学校祭当日も裏方として雑用係のような仕事がある。



「とりあえず空いてる席に座って」

教室に入ると、教壇の上でにこにこと笑いながら、名前どころか顔も知らない先生が言った。同じ学年の担任の先生でもなければ、教科担任の先生でもなかったため、知らないのも無理はない。


 教室を見渡して、空いている席の中でも後ろの方、端の席を探して席に着こうとしたそのとき、声をかけられた。



「あ! 知春しはる〜! 知春も実行委員なの?」


声をかけてくれたのは私の親友、西崎冬架にしざき ふゆかだった。


「えっ? 冬架も!?」


「そうだよ〜まさか知春がいるとは思わなかった。大変そうだけど、お互いがんばろ〜ね」


「うんっ!」



 2年生に上がるときにクラスが離れてしまったが、小学生の頃からずっと仲が良い親友も参加しているとわかったことにより、一気にテンションが上がる。


冬架はマイペースで飾らない性格で、昔から思い切りが良く、私にはない積極性には惹かれるものがあった。

今回もきっと『誰もやらないの? なら私がやる〜』とか言って引き受けたのだろう。


 私は冬架の隣の席に座った。冬架は教室の真ん中辺りの席に座っていたため一瞬迷ったのだが、知らない顔ばかりの教室の中で親友が近くにいるという安心感には勝てない。冬架もそれをわかっているようだった。




 それから数分も経たないうちに全員が揃ったようで、実行委員会の顔合わせが始まった。


軽く自己紹介をして、業務連絡をして、今日は解散になるとのことだった。





「はい、次」


一年生から順に自己紹介が進み、私の番が来た。



「三年二組、九条知春くじょう しはるです。よろしくお願いします」


自分のクラスと名前を言い、軽く挨拶をして席に着いた。次に冬架。


西崎冬架にしざき ふゆか……あ、三年三組ね。よろしく〜」


なんとも気の抜けた自己紹介だ。冬架らしいな。






――ふと思い出す。


そうだ、私達は今三年生なのだ。この学校祭が終わったら、本格的に受験勉強が始まる。いや、もうすでに受験勉強に取り組み、学校祭のことなど二の次で机に向かっている生徒も多い。


 この時期に実行委員をやりたがる人は少ない。

ただでさえ忙しいのに、実行委員なんてやっていられないのだろう。




そんな中、私はというと。




……特に何を頑張るわけでもなく、だらだらと毎日を過ごしている。

受験生の自覚というものはまるでなかった。



 そもそも、将来就きたい職業だとか、そのための進路選択のことなどは、何度考えても思い付かなかったから早々に考えるのを止めたのだ。


それは、親によって衣食住の安定が確保されている現状に甘えているから出てくる思考である、ということはなんとなくわかっていた。生きるためにはお金がいる、そのためには働かなければならないということも。


けれど、あと数年も先の未来にある就職のことなんて今考えても想像することすら難しく……

結局、高校は自分の学力に合った適当なところを選んだ。



 周りの子は皆頑張っているのに、自分だけがぼんやりと過ごしている。なんとなくうわついていて、少しだけ焦りみたいなものも感じ始めていた。


そんな私を見て先生も思うところがあり、それで実行委員を推薦してくれたのかもしれない……というのは、流石に考えすぎか。



うーん、でもせめて実行委員くらいは真面目に頑張るか……そう思いながら自己紹介を聞き流していたのだが、突然



「……あぁすんません! いや、大丈夫です!」



一際大きい声が教室内に響く。

どうやら居眠りをしていたところを先生に起こされたようだった。

……あの人も、受験勉強か何かで疲れてるのかな。



「えーっと、三年五組の夏山翠なつやま みどりです。いま俺寝ちゃってて……自己紹介とかまったく聞いてなかったんだけど、普通に話しかけに行くから! そのときにもっかい名前教えてほしい!」



正直だなぁ……

くすくすと笑い声が聞こえる。愛嬌があって良い……ということなのだろう。


「あと、一応俺が実行委員長だから、なんか分かんないこととかあったら遠慮無く言ってね〜」



……夏山翠。彼は友達が多く先生からの信頼も厚い、明るくて責任感のある優等生だと誰かが話しているのを聞いたことがある。顔立ちも整っている方で、部活には入っていないらしいが、とにかく人気がある生徒だった。

私も話したことはないが名前と顔は知っていた。



「それじゃあ、実行委員会はこのメンバーでやってくってことでよろしくお願いします! 三年生は特に受験勉強とかで忙しいかもしれないけどこっちも頑張ってこうな!」


ああ、エネルギーに満ち溢れてる……とても寝起きだとは思えない。たしかに委員長とか向いてそうな人だな、というのが第一印象。居眠りをしていたのにも関わらず、あまり印象は悪くなかった。


 きっと、これから話す機会も増えるだろう。正直なところ、仲良くなれそうなタイプだとはとても思えないけれど。




「――はい。では今日はこれで解散です。次は水曜日の放課後だから、みんなで声掛けあったりして忘れないようにして下さいね」


先生からの連絡も終わり、皆一斉にガタガタと席を立つ。



私もさっさと帰ろう。

せっかくだし今日はひさしぶりに冬架と帰りたい。


「ねえ、冬架――」

「――九条さん!」


「!」


遮るように……というか偶然タイミングが重なっただけなのだが、その声に過剰に驚いてしまった。




声の主は夏山翠だった。


「あっごめんね。話し中だった?」

「ううん。どうしたの?」


驚いたことにより何を言われるのだろうかと若干構えつつ、聞き返す。



「えっと、このプリントなんだけどー」



なんだ、業務連絡か……。この男はいちいち声が大きくてダメだ。やっぱり苦手なタイプかもしれない。

その間、冬架は私の呼びかけには気付いていたらしく、にやにやとこちらを見ている。あれはどういうつもりなのだろうか……



「――ありがと! じゃあ、お疲れさま」

「うん、お疲れさまー」

「またね! 九条さん」

「うん……」



……あれ?



なんだろうこの違和感は。





 ああ、そうだ。そういえばこの男は、皆が自己紹介をしているとき、居眠りをしていたはずだ。当の本人も「自己紹介は聞いてなかった」と言っていた。




――どうして、私の名前を知っているんだろう?




 いままで、クラスが同じだったことや委員会が同じだったことは一度も無い。特に目立つような行動をした覚えも皆無だ。私がこの男のことを知っていても、この男が私のことを知っているのにはどうも違和感があった。


「うーん……?」


一度生まれた不信感はなかなか消えない。そもそも私は、目立っているような明るい男子生徒は少し苦手なのだ。



「知春? お〜い、聞いてる〜?」

冬架に声をかけられ、はっとする。


「あ、ごめんごめん。帰ろう」



うん、これ以上深く考えるのも面倒だ。

あの夏山翠という男と無理に関わる必要はない……はず。私は与えられた仕事をきっちりとこなし、学校祭をそれなりに楽しめば良いだけなのだ。



「……帰ったらゲームでもしよ」


「まだあのゲームやってんの? よく飽きないね〜」



――このあと、あの男に惚れることになるのだが。



続きます。


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