#007「万歳」
@ともえ総合病院
内海「冗談みたいな話だけど、信じることにするよ」
磯村「理解してくれたか。俺自身、ギャグみたいで、まだ信じられない。ドッキリカメラでもあるんじゃないかと思ってるくらいだ。ハハッ。おっと。あんまり時間が無いから、ここからは俺が一方的に喋らせてもらうぜ。良いな?」
内海「良いよ。ひと言も聞き漏らさないよう、静かにするね」
磯村「サンキュー。内海。お前は、もう俺抜きでも大丈夫だ。ピンで十分やっていける。アガリ症で緊張する以前の内海は、もう居ない。免許皆伝、コンビ解散。人見知り卒業だ。これからは、極楽から見守ってやる。地獄に落ちてなきゃな。どちらにせよ、化けて出る真似はしないから安心しろ。未練はあるし、やり残しだらけで、正直言ってクヤシイけどさ。だが、欲を出せば際限ないからな。潮時なんだろう。観念して成仏するさ。何一つ成し遂げられない中途半端な人生だったけど、それなりに楽しかった。それもこれも、内海に出会えた御蔭だ」
内海「僕も、磯村くんに出会えて良かったよ。ありがとう」
磯村「クッ。泣かせることを言うなよ、内海。……チクショウ。駄目だ。しんどい。寝てしまいたくて堪らない。瞼が重いし、頭がボーっとして敵わない。でも、誘惑に負けたら、永い眠りになりそうだ。その前に、一言だけ。色々迷惑掛けて済まなかった。馬鹿なことに毎度毎度付き合ってくれて、本当に感謝してる。サヨナラ。輪廻とかカルマとか、そういうのは一切信じてないけどさ。万が一、生まれ変わって再会することがあれば、ヨロシク。また遊ぼうぜ。それまで、達者でな。先に向こうで準備しながら待ってるから、後からゆっくり来い。絶対驚かせてやるから、覚悟しとけよ。それじゃあ、オヤスミ」
内海「おやすみ、磯村くん」
*
裕佳梨「康徳くんは?」
内海「無事、安らかに旅立って行きました」
裕佳梨「そう。良かった。何を言われたの?」
内海「謝辞と再会予告」
裕佳梨「あたしと一緒か」
内海「こういうかたち、何とも磯村くんらしい」
裕佳梨「本当。最後の最後まで、人騒がせなんだから」
裕佳梨、腹部を撫でる。
裕佳梨「トラブルメーカーが遺伝しなけりゃ良いんだけど」
内海「あっ。やっぱり、懐妊されてたんですね」
裕佳梨「半年前のポーカー騒ぎのあと、割とすぐに発覚してね。つわりも治まって、ようやく落ち着いてきたところだったのに」
内海「気まぐれなコウノトリですね」
裕佳梨「そんなところまで父親に似せなくても良いのに。気にしなくても良いことは気にして、気をつけなきゃいけないことは甘く見積もるんだから。名前なんて、すぐ決めなくて良いのに」
内海「命名済みでしたか」
裕佳梨「性別が判明した途端に、真っ先に名付けたのよ」
内海「どっちだったんですか?」
裕佳梨「男の子。一文字ずつとって、康裕にしようって。おまけに、代案のない反対意見には耳を貸さないんだもの。参っちゃうわ」
内海「ネーミングセンスは悪くないけど、強引に決められると反発したくなりますよね」
裕佳梨「身に覚えがあるようね」
内海「コンビ名を決めるときに、同じようなことがありまして。もう、コンビ解散したので、どうでも良くなりましたけど」
裕佳梨「なるほど。ねぇ、内海くん。あたしの勝手なお願いなんだけど」
内海「何でしょう?」
裕佳梨「今度は、あたしの相方になってもらえないかしら?」
内海「それは、つまり?」
裕佳梨「すぐには無理でしょうけど、ゆくゆくは一つ屋根の下で暮らせれば、なんて」
内海「結婚を前提にお付き合いしましょう、という解釈で良いんでしょうか?」
裕佳梨「えぇ。やっぱり、駄目よね? 忘れて。何も聞かなかったことに」
内海「裕佳梨さん」
内海、裕佳梨の目をジッと見詰める。
裕佳梨「内海くん?」
内海「そのっ。これも、何かの縁でしょうし。あの。……裕佳梨さんさえ、よろしければ」
裕佳梨「ありがとう。本当に、ありがとう」
内海(以前の僕なら、逃げるなり、沈黙するなりしてたところだ。これも、磯村くんの御蔭かな)




