#006「人身事故」
@六番街
駅員「ただいま、中央線で発生した事故の影響により、一部ダイヤが乱れております。お急ぎ中のところ、大変申し訳ございませんが、復旧まで、今しばらくご協力願います」
内海(まだかな、磯村くん。遅延に巻き込まれてるんだろうか? 待たされるのは、いつものことだけど。あ、電話だ)
裕佳梨『内海さん』
内海「こんにちは、裕佳梨さん」
裕佳梨『いますぐ、これから言うところに来て』
内海「待ってください。僕は、磯村くんを待ってるんです」
裕佳梨『康徳くんなら、こっちに居るわ。早く来て。大変なの。お願いだから』
内海「わかりました。ところで、いま、どちらに?」
裕佳梨『ともえ総合病院よ。康徳くん、ホームから転落したらしいの』
*
@ともえ総合病院
陰山「磯村さんの執刀を担当した、外科の陰山です」
裕佳梨「先生。康徳くんは。康徳くんはっ」
内海「落ち着いて、裕佳梨さん。――それで、磯村くんの容態は?」
陰山「医師として、最善を尽くしました。あとは、昏睡から覚めるのを待つしか」
裕佳梨「覚めますよね? 絶対、大丈夫ですよねっ」
裕佳梨、陰山の白衣の襟を掴んで泣きつく。
内海「興奮しすぎだよ、裕佳梨さん。そんなことしても、困らせるだけだって」
内海、裕佳梨を陰山から引き剥がす。
陰山「お気持ちは、お察しします。それでは、このへんで失礼させていただきます」
陰山、その場から立ち去る。
裕佳梨、俯き、内海の腕にしがみつく。
裕佳梨「内海さん。あたし、もう駄目」
内海「大丈夫。きっと、大丈夫。必ず、乗り越えられるよ。一緒に乗り越えよう」
*
磯村(あれ? ここは、どこだろう? たしか、内海との待ち合わせ場所に向かってて、それで。……あ、そうだ。人混みに押されて、電車に撥ねられて、意識を失って。……それなら、病院が妥当だな。ん?)
死神「おや、気が付いたようだな。どうも、死神だ」
磯村(死神? ハハッ。冗談だろう? 立派な鎌まで用意してさ。よく出来てるぜ、内海)
死神「残念ながら、これは変装でも何でもない」
磯村(そっか。あぁあ。俺、死んだんだ)
死神「そうだ。正確には、死に至りつつある、という状況だがな」
磯村(そうか。残念だけど、仕方ないな)
死神「受け入れが早くて助かる。それでは、魂を肉体から切り離させてもらおう」
磯村(待ってくれ)
死神「どうした? この期に及んで命乞いか?」
磯村(違う。ただ、少しだけ時間をくれないか? 一人の男と、一人の女に、別れの挨拶をしたい)
死神「フム。その程度なら良いだろう。なるべく、手短に済ませるように」




