#005「五九六三」
@七番街
磯村「俺抜きで、裕佳梨と勝手に話を進めやがって」
内海「魅力ある提案があったもので。康徳の『や』って、どう書くの?」
磯村「二度とやるか。悪魔の囁きにホイホイ誘惑されるんじゃない。覚えてろよ」
内海「この眼鏡がある限り、この世に悪は栄えない」
磯村「言うようになったな。場慣れして自信が付いてきたようで、何よりだ」
内海「今回は磯村くんからだよ。ホラ」
磯村「ヘイ、ヘイ。――ハイ、どうも。磯村です」
内海「内海です。二人合わせて」
二人「磯海苔です。どうぞ、よろしく」
磯村「今日は、俺の妻について、お話させていただきます」
内海「いつから犀を飼い始めたの?」
磯村「そっちのサイじゃない。上さんのことだ」
内海「仏さんは?」
磯村「神さんじゃない。女房」
内海「平安貴族の?」
磯村「違う。誰が紫式部だ」
内海「どっちかといえば清少納言じゃないの?」
磯村「そこでマジレスするな。奥さんだ」
内海「下の名前は?」
磯村「苗字じゃない。嫁さん」
内海「オクヨメさん? 変わった名前だね」
磯村「くっつけるな。伴侶って言えば良いのか?」
内海「あぁワイフか。裕佳梨さんって言えばいいのに。それで、ハズバンドくんは」
磯村「ちょい待ち。恥ずかしいから、英語はヤメロ」
内海「フランス語かスペイン語にしようか? ムッシュ磯村、セニョール康徳」
磯村「余計にダメだ。顔から火が出る」
内海「ガス代と灯油代の節約になるね。ヤカンに水入れてくるよ」
磯村「俺は、達磨ストーブか」
内海「鉄瓶の方がいい? 五徳も必要?」
磯村「囲炉裏でも火鉢でもない」
内海「御託は結構みたいだね。話を進めて」
磯村「脱線させたのは、どっちだ。まぁ、いい。――裕佳梨は、埼玉は秩父の小鹿野町というところで生まれ育ったんだ。内海。埼玉と聞いて、何をイメージする?」
内海「深谷葱、草加煎餅、秩父盆地、長瀞渓谷、狭山湖。あと、サッカーチーム。それから」
磯村「結構、知ってるんだな。他にも、まだあるのか?」
内海「東西南北と、浦和、中浦和、武蔵浦和、浦和美園」
磯村「八つの浦和駅だな」
内海「自動車教習所くらいしかない鴻巣市、小さすぎる蕨市、暑すぎる熊谷市」
磯村「褒めてないな、それ」
内海「アニメの聖地になっている春日部市」
磯村「作品名は挙げないが、いろんなアニメの舞台になってるからな」
内海「ここまで列挙して気付いたんだけどさ、首都圏内の埼玉県のポジションは、近畿地方における奈良県と同じじゃない?」
磯村「そうか? どこが同じなんだ?」
内海「県内の三分の二は秘境で、都市部は比較的住みやすいけど、特徴に欠け、海がない、府民都民のベッドタウン」
磯村「奈良府民に、埼玉都民ってところか」
二人、改札に向かって一礼。
二人「毎日、通勤、お疲れさまです」




