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#001「口車」

@内海家

磯村「おかわり」

内海「もう、炊飯器は空っぽだよ。僕よりも食べてるよ、磯村くん」

磯村「腹が減っては、戦は出来ぬ。――それで、最後のセリフだけどさ」

内海「武士は食わねど高楊枝ともいうけどね。――ホントにやるの?」

磯村「何だ、怖気づいたのか? 降りるなら今のうちだぜ?」

内海「そうじゃないけどさ。やっぱり、駅の迷惑だと思うんだ」

磯村「何を言うか。通勤に疲れた会社員の心を、俺たちの笑いの力で癒す。立派なサービス業じゃないか」

内海「物は言いようだね。駅員さんに止められたらどうするの?」

磯村「そうなりそうになったら、全力で走って逃げる。そのために吊るしのスーツを着るんじゃないか。木を隠すなら森の中」

内海「紛れ込む気マンマンだね。それでも逃走できずに、捕まったらどうするの?」

磯村「そうなったら、素直にごめんなさいしよう。だけど、あそこは七路線が交差、接続する、地上五階、地下二階建ての巨大ターミナル駅だぜ? おまけに駅周辺は、四番街を除いて、一番街から八番街まで七つの区画があって、どこも通勤、通学や買い物の利用者と、観光や旅行できたオノボリが入り乱れるカオス空間になってるんだ。そう、易々とは捕まらないって」

内海「そうかもしれないけど、どのみち謝るなら、初めから謝ればいいのに。それか、事前に許可を得ておくとかさ」

磯村、人差し指で耳を塞ぐ。

磯村「優等生の意見は受け付けません」

内海、磯村の手首を引っ張る。

内海「不良の考えは理解できないよ」

磯村「いいから任せろよ。俺の台本通りにやれば、失敗しないから」

磯村、内海の背中を叩く。

内海「いつも強引なんだから、磯村くんは」

磯村「内海のためでもあるんだぜ? ユーモアのセンスがあるのに、口下手で心配性で取り越し苦労ばかりしててさ。はっきり言って、宝の持ち腐れじゃないか。だから、諸々の不安の種を振り払って吹っ切れるために、突破口を用意してやったんだ」

内海「磯村くん。そんなに僕のことを考えてくれてたんだ」

磯村「まぁ、これで、どっかの芸能事務所から声が掛かって、売れっ子になれたら儲かるだろうってのが本音だけどな」

内海「そういうことを言わなきゃ、カッコイイのに」

磯村「内海だって、実家の親に赤飯炊いて祝われたいだろう?」

内海「赤飯を炊かなくてもいいけど、喜ばせたい気持ちはあるよ」

磯村「そうだろう。――さて。残すは、コンビ名だけだな」

磯村、ちゃぶ台の小瓶に注目。

磯村「磯海苔にするか」

内海、小瓶を手にする。

内海「この佃煮を見て思い付かなかった? 名前って、その後を左右するくらい大事な存在だと思うんだけど、そんなアッサリ決めて良いの?」

磯村「いいじゃないか。お互いの苗字が入ってて、親しみやすく、覚えやすい。嫌なら、俺が十、数えるあいだに代案を出せよ。十、九、八」

内海「待って。そんな急に言われても」

磯村「反論を考えておかない内海が悪い。あ、そうだ。ロイド眼鏡をかけるのもアリだな。――七、六、五、四」

内海「ナシだよ。この会社の回し者だと思われるよ、きっと」

磯村「あるいは、マキシキャップの栄養ドリンクか。丁稚の格好をしても面白いかもな。――三、二、一。はい、時間切れ」

内海「もう、無茶苦茶だよ」

磯村「語尾は、ござりますがな、の方が良いな。だけどな、内海。止めたければ、俺の口を塞ぐって方法もあったんだぜ? 数えられなきゃいいんだからさ」

内海「あ、そうか。でも、セコくない?」

磯村「メタセコイアの並木道。あぁかぁいぃ、リンーゴーおぉに」

内海「調子が良いんだから」

磯村「乗せる俺も悪いかもしれないが、乗せられる内海もどうかと思うぜ。――ごちそうさま」

内海「お粗末さま」


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