船坂と市内
この小説はマブラヴの二次創作物となっております。
九州防衛戦は幕を閉じた。
日本海沿岸部に上陸したBETAにより、九州、四国、中国地方は陥落。
死者は3600万人にも及んだ。
大敗であった。
あの激戦の中、生き延びた雅、以下4名の者は京都へ招集される。
BETAを目前に撤退したことで罰を受けるかと思った一同であったが、逆に、よく生き延びたと賞賛を受け実際に現地で経験したBETAとの戦闘行為について数日間の事情聴取を受けることとなった。
「船坂少尉、これにて事情聴取は終了とする」
「はい、お疲れ様でした」
雅が席を立とうとするが、それを制するように相手が喋りだした。
「船坂少尉、君を本土防衛にあたっている機甲部隊の教官として迎え入れたいと思っているのだが」
「妻が出産を控えていますので、それが落ち着いてからでよければ是非」
「うむ、君の活躍に期待しているよ」
雅は席を立ち、そのまま解放され病院へ向かった。
空は晴天であった。
心地良い風が頬を撫でる。
「早希、来たぞ」
「うん、待ってた」
病室に入れば必ず最初に早希の姿が目に入る。
窓から入る風で、僅かに黒髪を靡かせながら雅に笑顔を見せる。
しばらくの間、二人は談笑をした。
そして、小一時間ほど話してから、雅はある質問を早希にする。
「早希、お前に姉か妹はいたかな」
「ええ、姉がいるけれど・・・どうかした?」
「いや、なんでもないんだ」
「そういえば私の姉、あ、ちひろって名前なんだけどね、避難する何日か前に、衛士になったって手紙が来たの」
「ああ・・・凄いな」
「ちひろ姉さんったらその手紙の最後に、”子供が産まれたら会いに行くから”って書いてあって・・・それで・・・」
雅は目頭が熱くなるのを感じた。
なんとも形容し難い感情が湧き出る。
あの時のことを早希に伝えるべきか否か。
答えを出すことは出来なかった。
「雅?どうしたの?疲れちゃった?」
「そうだな、すまん、少しだけ眠っていいか」
「ええ、どうぞ」
雅は顔を隠すように早希にベッドに顔を伏せる。
涙は出ない。
だが、目頭は依然熱いままである。
ゆっくりと目を瞑り、時が過ぎるのを待った。
翌日、雅は市内ちひろについての情報を探していた。
その情報は意外と簡単に集めることが出来た。
事情聴取中に知り合った幹部の人間と連絡を取り、市内ちひろという衛士について教えてほしいと言ったところ快く教えてくれた。
「市内ちひろ 歳は25歳、衛士になったのはここ最近だな。抜きん出た才能は無かったが全体的な技量はかなり高かったみたいだ。家族構成は妹が一人。他に知りたいことは?」
「彼女は今どこに?」
「あ〜、九州防衛戦 福岡と熊本の県境付近でBETAと戦闘。数機の撃震でこれを迎え撃つが、奮戦及ばず戦死したとある」
「そうですか・・・ありがとうございます、助かりました」
「いいってことだ、君にはこれからバリバリ教官としてやっていってもらわなきゃいかんからな!」
雅は再度礼を言い電話を切った。
「すまない・・・」
そう呟くと雅は歩き出した。
その後ろ姿は何処と無く寂しい感じがした。
京都防衛戦。
雅はこの戦いに参加した。
彼はこの戦いの後、妻子共々消息不明となり、その後の彼を知る者は誰一人としていない。
ただ、彼は教官をしていた際、生徒に対しこう言ったと言う。
「家族、愛する者の前では泣いてもいい。だが、戦場へ立つ時には涙は涸らしておけ」
この話をもって完結とさせていただきます。
初の作品ですので、拙いところが多々ありますが、温かい目で見ていただけると幸いです。ありがとうございました。