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逃避行

この小説はマブラヴの二次創作物となっております。

地獄から逃れるように一両の戦車が走る。

「坂本、その道を突っきれ」

「はい!」

戦車はガードレールを破壊し、一気に前へと進む。

「有明海まであと少しだ・・・」

「隊長、俺達・・・助かりますかね」

「当然だ、私がついている」

そう言うと、坂本は笑みを浮かべ戦車の操縦に専念した。

有明海まではあと数キロの距離。

燃料も弾薬も余裕がある。

雅は「助かる」。

そう確信した。

その直後、辺りに轟音が鳴り響く。

「来たかッ!?」

何度も轟音は鳴り響いてはいたが、それは単発的なもので明らかにBETAによるものでは無かった。

「砲音だな・・・他の機甲部隊か」

「隊長、合流しましょう」

橘が雅に具申する。

合流して、戦闘を継続するべきか、このまま有明海を目指すべきか。

雅はすぐに答えを出した。

「砲音がしているということは、奴らが迫っているということだ。そしてなにより、まだ住民の避難が終わっていない可能性が考えられる」

「では・・・」

「合流するぞ」

戦車は進路を変え、再び戦場へ向かった。




『クソ!あの戦車に取り付いてる戦車級を撃て!』

『は、早く助け・・・アアアァァァ!!!』

無線の向こうから、あの時と同じ音がする。

再び地獄へ帰ってきた。

小高い丘の上に、雅達はいた。

見渡すと、機甲部隊は壊滅状態。

数機いる撃震がなんとか防衛線を維持しているようだったが、あの状態ではあと数分も保たないだろう。

「なんてザマだ、沿岸部と何も変わらないじゃないか・・・」

橘が絶望する。

機甲部隊撤退の支援を撃震が行っているようだったが、多勢に無勢。

撃震は戦車級に取り付かれ、身動きが取れなくなっていた。

『クソ!クソ!離れろ!!!』

無線に衛士の声が入る。

女性衛士であった。

「橘、砲手変われ」

「・・・は?」

「変われ」

橘は困惑した。

雅が、ここから撃震に纏わり付く戦車級を撃とうとしているということだけは分かった。

「隊長、無理です!この距離では・・・」

「このまま放っておけば、あの衛士は死ぬ。私が砲弾を外しても死ぬ。戦術機に直撃させても死ぬ。だが、奴らだけに当てれば彼女は助かるかも知れん」

橘は、ゆっくりと砲手席を雅に譲った。


戦車乗りとしてやってきた勘で、照準を合わせる。

あとは撃つだけ。

現在地点から目標までの距離は不明。

雅の額を汗が流れる。

引き金にゆっくり力を込めて行く。

轟音と共に砲弾が発射される。

「当たれッ・・・」

数秒後、着弾した。

戦術機が土煙で覆われ見えなくなる。

雅は祈った。

どうか、出てきてくれと。

「隊長!アレ!」

土煙の中から勢いよく撃震が飛び出してきた。

撃震はそのまま全力で後退し始める。

「こ・・・ら、戦じゅ・・・隊、内・・・ちひ・・・尉です」

無線は途切れ途切れで、何を言っているのか分からなかった。

「我々は、第8師団 機甲部隊 船坂少尉だ。防衛線は崩壊している。ここも長くは保たないぞ」

「りょ・・・い。あな・・・ちの、撤退・・・援する・・・」

無線ははっきりとは聞こえなかったが、言いたいことは理解出来た。

撃震は雅達の戦車に近付き、直接指示を出してきた。

「今すぐ戦車から下車して、こちらに乗ってください!」

そう言うと、衛士は撃震の左手を地面に近付けた。

その声は、どこかで聞いたことのあるの落ち着く声だった。

「車両を放棄!乗り移れ!」

「「了解!!!」」

時折接近してくるBETAは、撃震達が倒してくれた。

この時ばかりは、雅達も戦術機がいることに対してかなりの安心感を覚えた。

沿岸部での戦闘の際は、戦術機部隊はすぐに壊滅してしまった。

「お、俺、戦術機こんな近くで見るの初めてっす!」

坂本が嬉しそうに手をブンブンと振る。

「やめろ、みっともない」

福岡に叱られたが、坂本はまだ興奮しているようだった。

「このまま、有明海にいる海軍の輸送船にあなた達を引き渡します。それまで我慢しててください」

やはり、早希に似ている。

雅は先ほどの通信の件で彼女に確認したいことがあったが、こちらからの声は飛行中の騒音で掻き消されるため、どうしようもなかった。

そして、一行は有明海に到着する。

そこには既に沖へ向かっている輸送船団と、出港間際の船がいた。

きっとあの中に早希も乗っている、そう雅は信じた。

「いました!あの船に貴方達を・・・」

撃震はゆっくりと地面に着地し、雅達を降ろす。

「お前達!早くしろ!」

船員が甲板から叫ぶ。

「キミは・・・逃げないのか」

雅が衛士に話しかける。

「はい、私は最後まで闘います。まだ仲間もいるので」

「キミ、名前は」

「市内、”市内ちひろ”と言います。あなたの名前も教えていただけますか?」

「・・・船坂雅だ」

「格好良い名前です、雅さんですね、覚えました」

そう言うと、彼女はまた戦場へ戻っていった。

雅達は船へと乗り込む。

助かったのだ。

あの地獄からゆっくりと遠ざかっていく。

陸の姿が朧になっていく。

夕日が沈んでいく。

雅は市内ちひろの事を思い出していた。

もしかしたら、もう死んでいるかも知れない。

なんだか複雑な気分だった。

「少尉殿」

坂本に呼ばれる。

「何だ、少しは休ま・・せ・・・」

振り返ると、そこには早希が立っていた。

早希は笑顔だった。

しかし、その笑顔からは涙が流れ出ている。

「おかえりなさい、雅」

雅は一歩ずつ一歩ずつ早希に近付く。

「ただ・・・いま・・・」

雅の顔からも涙が流れ出ていた。

そして、ゆっくりと早希を抱きしめた。

泣いた。

大の男がとにかく泣いた。

嬉しくて嬉しくてしょうがなかった。

「疲れたでしょう?今日はもう休んで?」

「あぁ・・・あぁ・・・」

早希は雅の頭を撫でながら雅を船内へと連れて行った。

「いいですな〜、船坂少尉は」

「坂本も早く嫁さんを見つけないとな」

「それ以上言わないでください!」

「ところで、橘曹長と福岡軍曹のご家族は?」

「ああ、俺と福岡の家族は京都にいるよ」

「へえ、京都ですか!いいですね!」

分隊員達はしばらくその場で談笑を続けた。

その光景はまるで、BETAの恐怖を身を以て感じてきた者達の姿とは思えないほど、和やかであった。





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