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死地

この小説はマブラヴの二次創作物となっております。

『敵接近!!!』

「撃て!」

すぐさま号令がかかる。

BETAを迎え撃つ為に配置された機甲部隊及び戦術機部隊が一斉に攻撃を開始する。

着弾した煙で、沿岸部の視界は遮られた。

だが、状況はすぐに把握出来た。

効果無し。

地響きと共に煙の中から前面に装甲板を貼り付けたような巨体が走り抜けてきた。

「撃て!撃てェ!!!」

間髪入れずに撃ちまくった。

だが、敵はビクともしない。

「嘘だろ・・・」

最前線に配置された部隊は一瞬でBETAの波に呑まれていった。

「い゛っ、嫌だァァァァア!!!」

「クソ!クソ!なんでだ!!!チクショ・・・アアアアァァァァ!!!!」

無線越しに隊員の悲鳴と咀嚼音が聞こえる。

「た、隊長!指示を!」

月から生還した月面総軍指令が残した「月は地獄だ」という言葉を思い出す。

あの頃、BETAを見た事が無かった私は、意味を理解出来なかったが、たった今理解した。

まさに地獄だ。

だが、まだ諦めるわけにはいかない。

守るべき者の為、最後まで闘わなければならない。

「後退しながら撃て!火力を一体に集中させろ!」

「「了解!!!」」

11分隊の戦車が一体の突撃級に火力を集中させる。

突撃級が倒れた。

「やっ、やったぞ!」

倒れた突撃級はその場でもがく。

まだ生きてはいるが、動けない様子である。

その姿を見て雅はすぐに気付いた。

「残存している機甲部隊に告げる、私は第11分隊隊長 船坂少尉だ、先頭を走ってくるデカブツは足を狙え!時間稼ぎにはなるぞ!」

「足か!よし、奴らの足を狙い撃て!」

各部隊、決死の攻撃を仕掛けるが、高速で動く、ましてやこちらに向かって来る巨体の足を狙うことなど並大抵のことではない。

「は、外した・・・次弾装てッ・・・」

装甲が破壊される音が無線に響く。

「怯むな!撃て撃て撃て!!!撃ちまくれ!!!」

健闘虚しく、各個撃破されていく。

「CP!CP!戦線を維持出来ない!」

「何としてでも守り抜け」

「このままじゃ防衛線が突破される!」

「・・・」

CPが彼らに応答することは無かった。

戦術機を持ってしてもこの有様。

このままではダメだと、雅は確信した。

「第11分隊、後退開始」

船坂は落ち着いた声で部下に指示を出す。

敵との距離はまだ十分にある。

ここに留まっていては、あと数分の命だ。

「待て!船坂!貴様、逃げるのか!?」

「違う、生きるんです」




BETAとの戦闘開始から数分が経った。

生き延びている機甲部隊が後退を開始する。

だが、現時点の残存兵力は戦闘開始前の2割まで減っていた。

「隊長、どこまで下がりますか」

「CPに連絡を取る、このまま後退を続けろ」

雅は、地図を片手に無線機を取る。

「CPこちら、西部方面隊 第8師団 前線を放棄する、撤退を支援してくれ」

「援軍は送れない」

「何故だ!?戦術機を数機でもいい!!!頼む!!!」

「先ほど、中国地方沿岸部へと進軍するBETA群を確認した、戦術機はそちらの対処に回される」

「なッ・・・」

「すまない」

無線は静かに切られた。

乗員達が不安な顔で雅を見つめる。

「早希・・・雅希・・・」

「隊長、まだ弾はあります」

坂本が砲弾を指差す。

「戦車だってあります、そしてなにより、我々がいます」

諦めかけていた自分を恨んだ。

そうだ、まだ全滅していない。

まだ生きている。

まだやれることはある。

雅は地図を見つめた。

「このまま有明海まで後退、燃料が尽きるまでだ」

「な、何故ですか?」

「海路で避難する者達がいる筈だ、それに間に合えば助かるかも知れん・・・」

「わ、分かりました」

戦車が唸りを上げ前進する。

雅達は沿岸部から数キロ離れた市街地まで後退していた。

雅は自分の襟元を強く握った。

「坂本!街の中を突っきれ!」

「りょ、了解!」

戦車は止まることなく前進を続ける。

街の中はBETAの気配も人の気配も無く、まさに無人であった。

住民は皆避難出来たのだろうか。

早希は無事に逃げ延びたのだろうか。

そう思いながら走る戦車から身を乗り出し、進行方向を見つめる。




ー熊本 有明海ー

避難活動は未だに続いていた。

避難する人数に対して、船舶が圧倒的に少なかったからである。

現場の避難活動の指揮を執っていた陸軍の将校は隊員達に指示を出した。

「健常者及び妊婦を優先し乗せよ」

この指示に対して、隊員達は涙を浮かべながら応じた。

「早く乗れ!急げ!」

「へ、兵隊さん・・・ワシは・・・」

兵士の前には松葉杖をついている老人が立っていた。

「すまない、優先者が決まっている。許してくれ」

そう言うと、兵士はまた乗員の選別を再開する。

老人は黙って後ろを向き、そのまま家があるでろう方向へと歩みを進め始めた。

避難現場に溢れかえる人混みの中に、早希の姿があった。

「おい!アンタ妊婦だな!乗れ!急げ!」

「あっ、あの!」

「なんだ?病気持ちか?」

「福岡の沿岸部防衛線はどうなったんですか?」

「ああ?とっくに壊滅してる!だからこうして避難を急いでるんだ!」

「はい・・・」

早希は信じられなかった。

信じたくなどなかった。

「雅・・・」

乗り込んだ船から、外を眺めると夕日が見えた。

その夕日はこの世界に似つかわしくないほど美しかった。

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