表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

地獄の中へ

この小説はマブラヴの二次創作物となっております。

今までの日常が崩れ去る瞬間を私は知っている。

この目で見た。

万を超す軍勢が一挙に迫り来る光景。

地響きと人々の悲鳴。

血と硝煙の香り。

今でも忘れることは無い。

忘れることは出来ない。



1997年、私は日本の九州にいた。

私の生まれ育った地。

ここで、私は日本帝国の陸軍として日々働いている。

「ねぇ、聞いた?もうBETAはすぐそこまで来てるっていう話」

「知ってる知ってる、うちのお父さんが軍の偉い人の話盗み聞きしちゃったって言ってた」

PXで買い物をする私の側を通る女性隊員の会話が耳に入る。

今、地球の状況は最悪だ。

それは誰もが知っている隠しようのない事実。

サクロボスコ事件と呼ばれる出来事から始まった戦争。

BETAという未知の存在との闘い。

圧倒的な戦力差を前に、地球は、人類は何度も敗北し、その度に多くの命が失われた。

そして、その脅威は我が帝国にまで迫っていた。

「船坂・・・船坂少尉!」

思い耽っていた私は誰かの呼ぶ声で我に帰る。

「少尉、どうかされましたか?」

「いや、少々考え事をしていただけさ」

「そうですか・・・ところで少尉、この後時間ありすか?」

「すまんな、今日は会わなきゃならん人がいるんだ」

「さては、市内さんですね?」

「黙らないと酷い目に合うぞ」

「ひえ〜、少尉殿はおっかない!」

このお調子者は、坂本伍長。

私の分隊に所属する帝国陸軍の兵士だ。

無口で孤立しがちな私によく話しかけてくれる、坂本を見ていると自然と士気が上がる。

そんな気がする。

坂本と話し終えた後、私は買い物袋を持ったままとある病院へ向かった。

面会の手続きを済ませ、目的の病室へと足を踏み入れる。

「ごめん、遅くなった」

「ううん、全然大丈夫よ」

純白のベッドの上に座り、窓から外を見つめていた彼女は市内早希。

私の婚約者だ。

私が子供の頃から一緒にいた、幼馴染であり、よき理解者でもある。

そんな彼女がなぜ、病院にいるかと言うと。

「この子もあなたに会えて嬉しいみたいよ」

早希はニッコリと笑い自分のお腹をさすった。

そう、彼女は今妊娠している。

子供は来年の中頃くらいには産まれるだろうという診断だ。

「お仕事の調子はどう?」

「ああ、いつも通りさ。坂本が馬鹿やって上の人に怒られてはの毎日だよ」

「ふふ、坂本さん相変わらずね」

私はどんな時よりも、この瞬間が幸せである。

妻と、いずれ産まれる我が子と共にいられるこの時が。

「む、もうこんな時間か」

「あら、じゃあ、お話の続きはまた今度にしましょう」

「ああ、そうだな」

早希の額に軽い口付けをし、私は静かに病室を後にした。

この日常だけは、壊されたくない、壊されてなるものか。

私は、早希の元を訪れる度にこう思う。

そして、何度も決心する。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ