ジャッキーと豆プゲラ
その豆は
うっすらと光っているように思えた。
ジャッキーは
母に言われて
牛を売りにいく途中、
変なおっさんに捕まって
巧みな話術にはまり
ついさっき
牛と豆一粒を交換したのだ。
いや、話術にはまったからではない。
確かに話に引き込まれはしたものの、
牛と豆とをかえるのが
おかしいことだってくらい
わかっていた。
ただでさえ、この辺りは
豆がたくさんとれるのだ。
豆一粒に牛一頭の価値がないことなど
農家のジャッキーは
よく知っていた。
なら、どうしてかえたのか。
それは
小さな頃から
ジャックと豆の木に
憧れていたからだった。
ジャッキーは
ジャックと豆の木が
大好きだった。
これをまいたら
でっかい豆の木が出てきて、
それを上ったら
コインがたくさんあんでしょ?
そして
百枚とったら
1UP。
なんかそんなようなやつでしょ?
ジャッキーは
スーパーマリオも大好きだった。
もう、興奮のあまりか
まざってわけがわからなくなっていた。
牛は
牛なのに
馬車馬のように働かされ、
ぼろぼろだった。
くる日もくる日も
身を粉のようにして働いた。
そして
自分の働く田畑が
借金のために奪われ、
いやー、やっと楽ができますなぁ、
と思った矢先、
飼い主は金に困って
自分を売り飛ばすといいだした。
牛は楽することを諦めた。
今、牛は
自分にいくらの値がつくのか、
それだけが楽しみだった。
かつて
牛の母は言っていた。
あなたのひいお爺さんは
牛の品評会で一等をとった
すばらしい牛で、
あなたはその血を引いているのよ。
んじゃ、
自分は結構高いんじゃないの?
そんな期待は
飼い主が豆一粒を受け取ったとき
もろくも崩れ去った。
牛はおっさんに引かれながら
放心気味だった。
俺、牛。
血統のいい牛。
俺、豆一粒と等価。
なにそれ。
あの豆なに?
血統のいい豆?
おいしいの?
なんなの?
ふと
気付いたとき
牛は歌っていた。
歌は
ドナドナだった。
豆は静かに時を待っていた。
ジャッキーは
母親にひとしきり説教されたあと
庭の隅に豆をまいた。
ジャックと豆の木のようにはいかなくて、
豆は芽を出さなかった。
ジャッキーは
牛を豆と交換したことを悔やみ
懸命に働いた。
数年後、借金を返し終え
田畑を取り返した彼は
新しい牛を購入した。
前にいた牛の親戚にあたる
牛だったのだが、
そのことを彼が知ることはなかった。
時を同じくして
知らない町で、
豆と牛をかえたあのおっさんが
子供相手にインチキ商売をしたとして
詐欺容疑で捕まったのだが、
そのことも彼が知ることはなかった。
豆は
豆ではなかった。
芽がでるとかでないとか
そんなものではなかった。
地中の養分を吸ったり
豆を食べようとした虫や菌を
逆に食べて成長し、
数百年後
怪物になって土から出てきた。
その後も人や家畜などを補食しては成長し、
大怪獣プゲラとよばれる程になった。
その名の由来は
怪獣の名前は
○○ラ
だよね
というみんなのイメージと、
人を小馬鹿にして
笑っているような顔をしていること、
だった。
いくつかの候補があげられて
最終的に住民の投票で決まった。
投票率は八割を越え、
時の政府与党幹部は
いやー、
これが
衆院選や参院選でなくて
よかったねぇー
投票率があがったときの方が
予測つかなくてこわいもんねー
と語ったという。
手当たり次第に
食べまくるように見えるプゲラも
偶然か必然か
なぜか牛だけは
食べなかったと言われている。
プゲラはその最後を
メロン畑で迎えた。
メロンによく似た分身を一つ残し
プゲラは姿を消した。
以前は豆畑で最後を迎えた。
プゲラは
最後を迎えたところにあるものに擬態して
次の発育の機会を待つ、
という生態の怪物であった。
メロンに化けたのが運の尽きで、
「熟すまで待っときましょ」
と戸棚のなかにしまわれたまま
忘れられて腐って死んだ。
プゲラの危機は去った。
しかし我々は忘れてはならない。
なにかに擬態した
第二第三のプゲラが
身近に存在するのかもしれない、
ということを。
と、腐ったプゲラを分析した博士は
警告した。
じゃあ、至る所でメロン作れば
出てきてもまた腐らせられるじゃん、
と誰かが言いだしたのがきっかけで
この辺りは
メロンの名産地になった。
ちなみに博士はおっさんの、
メロン作れって言った人はジャッキーの
それぞれ子孫だったのだが
まぁ、どうでもよかった。
たまたまだ。