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24時間戦う人たち  作者: 竹内すくね
ワルキューレ
53/328

姫、ウェイクアップ

 姫は大変お怒りである。



「南駒台店?」

「そうだ。近々オープンするらしい」

 オンリーワン北駒台店のバックルーム。店長とジェーンは緊急のミーティングを行っていた。

「ボス、アタシはそんなことニューイヤー何だケド?」

「……ニューイヤー? 何だそれは。あ、もしかして初耳、か?」

 苦しい。

「ン? 何が?」

「くそっ、口うるさくても堀の方がまだマシだ」

「Heyボス、何の話?」

「それよりゴーウェスト、対策を考えろ。このままでは売り上げを半分以上は持っていかれるぞ」

「Hmm、そうネ。ただでさえ少ないのにネ」

 ジェーンは腕を組み、あくびを漏らした。

「SVとしての自覚はあるのか?」

「ボスこそ、ボスの自覚あるノ?」

 店長は腕を組み、煙草を吹かした。

「とりあえず、北駒台店(ウチ)は他の店のコトを言ってられないと思うんだけど?」

「確かにそうだ。じゃあ南駒台は放置だな。出来てから考えるとしよう」

「そうネ、ミツモリもいるし、その気になればツブせる(・・・・)わネ」

「その通りだゴーウェスト。大分ウチのやり方が分かって来たようで嬉しいぞ」

 店長は楽しそうに笑った。ジェーンもつられて笑った。

 バックルームに居た神野は何も聞かなかった事にした。



 春風麗は苛立っていた。

 春風は情報部の人間だ。情報部に所属するという事は、情報部以外の人間よりも情報を持っていなければならない。誰よりも先に、誰よりも多く。

 なのに。

 今日、春風は戦闘部の人間に聞かされてしまった。教えられてしまった。オンリーワン南駒台店。そんな物は知らなかった。よりによって、戦闘部。春風の一番嫌いな部署の人間に。無表情、無感情。それが彼女の平時の顔。だが、オンリーワン近畿支部の廊下を早足で歩く今日の彼女の顔には、僅かなりの感情が見え隠れしている。

「春風さん、怒ってますか?」

「……怒ってなどいない」

 春風の隣を歩く、同じく情報部の新人である漣。彼は胃痛に悩まされていた。情報部に配属されてから、春風の下で働くようになり数ヶ月。どうにも、春風のやる事なす事危なっかしいのだ。少なくとも、漣にはそう思える。情報部は、情報部以外の人間とは不干渉無干渉、必要以上の接触を取ってはいけない。そう聞かされていたし、彼自身もそう思っていた。

 なのに。

 春風は情報部以外の人間とも接触を取る。しかも積極的に、だ。特に、北駒台店の人間と。この間のソレの時といい、その前の勤務外の少年といい、とかく、必要以上に春風はそこの人間と接触し、無駄な情報を得ようとする。情報部の領分から外れていると、新人ながら漣は思っていた。

「今日はデスクですよね」

「知らん。私は出かけるぞ」

「まさか、また北駒の人たちの所ですか? 勘弁して下さいよ、上からきっつく言われてるんですからね」

 漣は今日()上司から釘を刺されていた。春風の奇行を何とかしろ、と。何故部下である自分に言うのか、少なからず上司を恨んだ。それと、春風も少しだけ恨む。

「あんまり酷いと上に言いつけますよ」

「好きにしろ」

 どこまでも自由だった。

 閉ざされた空間。狭い世界。歪な空。その中で、そこを飛び越えて彼女は行く。好きなように、自分勝手に、気ままな風だ。

 漣は春風を羨む。波は風に遊ばれるだけ。風が吹かない限り、波は揺れない。漣は春風が居なければ、何も出来ない。だから恨む、羨む。純粋に、憧れる。彼女の自由な魂に。

「絶対に必要以上に事は荒立てないで下さいよ。なんて言ったっけ、あの傘の少年。あの子には迂闊に喋り過ぎじゃないんですか?」

「……お前も情報部ならば、ソレに関する情報はしっかりと刻んでおけ。アイギスの使われ(・・)手、一一だ」

「ああ、そうでしたね。それより、お願いしますよ春風さん」

「私を誰だと思っている。オンリーワン近畿支部情報部二課実働所属、春風麗だ。好きなものは――」

「――俺、もう行きますから」

 漣は苦笑して、二課の部屋に入っていった。

 その後姿をつまらなさそうに見つめて、春風もまた廊下を早足で進む。

 さあ、仕事の時間だ情報部。



「ねえ、どうする?」

「ひん剥いちゃう?」

「きゃはは、超ウケル!」

 一は駒台山の、洋館に至るまでの道の途中の、木の幹に頭を擦りつけられていた。周りには三人の若い女。派手な化粧に軽い口調。

「お兄さん、そういうわけでぇ、やっちゃって良い?」

 女が口を開ける度に、一の鼻を香水の匂いが突き刺す。きつ過ぎる。一は顔をしかめ、表情だけで嫌悪感を露にした。

「……何こいつ?」

「調子乗ってるよねー」

「おらっ、舐めんなよ! きゃははは!」

 そろそろ、一も我慢の限界だった。こんな仕打ちを受けているが、相手は女。一も手は出し辛かったし、無抵抗を貫いていればすぐに解放してくれるだろうと思っていた。

「あの、もう許してくれませんか?」

 三人の女が顔を見合わせる。

「はあ? 何言っちゃってんの?」

「許す許さないはぁ、私らが決めんの」

「お兄さんは黙って好き放題やられときなって」

「……そうですか」

 一は覚悟を決めた。

「目瞑ってるよこいつー、ビビッてやんの!」

 不用意に近付いた女の顎が真上を向く。自由だった一の左拳からのアッパーカット。

「えっ?」

 驚きの声が女たちから上がった。

 一は内心ほくそ笑み、束縛から解き放たれる。すぐさま女の脇を走り抜け、山道を駆け上った。

「ちょっ、ふざけてんじゃないよ!」

「くそがきぃ!」

 女たちの脚力は凄まじいもので、すぐに一の背後に付く。手を伸ばせば届く距離。

「おらぁ!」

 女は右手を伸ばす。その腕を見切っていたかのように、一が姿勢を低くした。振り返りざま、がら空きだった女の腹に蹴りを入れる。うめき声を上げ、女が坂道を転がり落ちた。

「て、てめぇ! 男の癖に女に手ぇ上げんのかよ!」

「ジェンダーフリーの現代に何言ってやがる、先に手を出したのはそっちだろ」

 不敵に言い放ち、一は女に背を向け駆ける。背後からとんでもない罵声と怒号が聞こえてきたが、無視して見晴らしの良い広場へと向かった。

 追撃は無い。一は一本道の出口に立った。広場へと続く道はここだけ、ならば地の利を得て戦うのみ。

「……相手は女か……」

 しかも、恐らくは一般の。

 一は深く溜め息を吐く。しかし、やられっ放しは腹が立つ。そして何よりも、今日は虫の居所が悪かった。

「暗くて見えづらい……」

 一は目を凝らし、山道の向こうを確認する。女たちは姿を消していた。ほっと胸を撫で下ろす。

 ――流石に帰ったか。

「あ、買い物袋」

 木の幹に置きっぱなしだった事を思い出し、一は山道へと再び足を踏み入れる。

「おい、こら」

「あ?」

 振り向いた一の体が、「く」の字に折れ曲がった。

「痛い? 痛いよねー?」

「きゃはは、だっさーい」

「もう良いよー、殺しちゃおうよこいつ」

 吐き気を堪え、一は信じたくないものを目の当たりにする。先ほど撒いた筈、帰った筈の女たち。三人組の女は、山道側からではなく広場側からやってきていた。

 ――瞬間移動でも使ったのか。

 そう考えなければ、有り得ない。

「……嘘だろ」

 息も絶え絶えに、一が女たちを睨む。

「嘘じゃないよー、お兄さん」

「私らの事舐めすぎ、だっつの」

「勤務外だからって調子くれてちゃ駄目だよーん?」

 心臓が止まった。そして鼓動が爆発的に早くなる。その台詞はさっきも聞いたような気がしていた。

「何で、知ってんだ?」

「はー? 決まってんじゃん」

「きゃはは、ウケルー」

「私らも、勤務外だからだ、よっ!」

 鋭く、早い蹴り。女の爪先が一の顎に的確に突き刺さる。声を出す事も出来ずに、一はその場に蹲った。



 悪魔だった。糸原の前に現れたのは、紛れも無く悪魔だった。

「夜分に、突然失礼します。あなたが糸原さんとお見受けします」

 偉く、礼儀正しい悪魔だった。

「え? 何、あんた誰?」

 糸原は訳も分からず悪魔に聞き返す。

「重ねて失礼しました。わたしはガーゴイル、ニンゲンの言葉を喋りはしますがれっきとしたソレに当たります。実は、あなたを勤務外と見込んでお願いがあるのです」

「……今日はこんなんばっかね」

 糸原は夕刻に出遭ったピエロを思い出した。

「でもあんた、その言葉遣いでラッキーね。舐めた口利いてたらぶっ飛ばすところだったわ。今ね私、虫の居所が悪いの。で、お願いって?」

「ははあ、機嫌が悪いのに頼みを引き受けてくれるとは、糸原さんは気遣いの出来る方と見ます」

「引き受けるとは言ってないけど? 話を聞くだけよ、そんで、何で私の名前をあんたが知ってるわけ?」

「あなたの名前を知っていたのは、一さんに聞いていたからです」

 ぴくり、と、糸原の眉が動く。糸原にとっては今、一番聞きたくない名前だった。確か、ガーゴイルとか言ったか。糸原は以前一から聞いた話を思い出す。

「……やっぱナシ。私行くわ」

 くるりと、糸原がガーゴイルに背を向け歩き出した。

「殺生な。話だけでも聞いては貰えませんか?」

 糸原の後をガーゴイルが付いて回る。

「ちょっと、付いてこないでよ」

「せめてお話だけでも」

「なんだって私がソレと話をしなきゃなんないのよ。事情を知ってなきゃあんたなんて見た瞬間に千切り殺してたんだから」

 ガーゴイルはしゅんと項垂れた。その仕草が非常に人間臭く糸原には映る。

「……あああ! 分かったわよ! 簡潔に! 分かりやすく言ってよね!」

「分かりました。糸原さん、一さんを助けて下さい」



 ブーツの紐が切れた。オンリーワン北駒台店内に居たジェーンは、言い知れぬ不安を覚える。

「……Hook it is」

「ジェーンちゃん、どうしたの?」

 床を掃除していた立花がひょっこりと顔を出した。

「紐が切れたノ」

「……古かったの?」

「No、ジャパンに来る前に買ったヤツ。お兄ちゃんには新しいアタシを見て欲しかったカラ」

 ジェーンは恍惚とした表情で遠くを見る。

「何だか不吉だね。悪い事が起きなければ良いけど」

「……お兄ちゃん。ハッ、まさか……」

「どうしたの?」

「お兄ちゃんの身にデンジャーが迫っている気がスル……」

「ジェーンちゃん、仕事中に外出ちゃ駄目ってはじめ君が言ってたよ」

 立花は心配そうな表情を浮かべた。その心配は、一とジェーンに対する物ではなく、自分が一人店内に残される事だったのだが。

「タチバナ、後は任せるワ」

「だっ、駄目! 駄目だよ! 行っちゃやだ!」

「……アナタ、一応はアタシよりも年上のハズなんだけど」

「と、年なんて関係無いよ! とっ、とにかく行ったら怒るよ!」

 呆れるジェーンに、立花は涙を浮かべて駆け寄る。服の袖を捕まれたジェーンは鬱陶しげにその手を払った。

「触らないで。アナタはアタシの敵でもあるんだカラ」

「ボ、ボクが敵? ジェーンちゃん、まだこないだの事根に持ってるの……?」

「ちゃん付けはやめて、ダディにだってそう呼ばれるのはイヤなの」

「あ、う、ご、ごめんね。で、でもさ、やっぱりさ、改めて仲直りしない? ボク、こういう気持ちでお仕事するの、何だか嫌なんだ」

「……お兄ちゃんへのボディタッチは禁止ネ」

 仕方なくといった風に、ジェーンが肩を竦める。ジェーンの仕草に立花は目を輝かせ、ハッとして、俯き、上目遣いに、

「……ジェーンちゃんも?」

 ぎこちなくそう聞いた。

「アタシは良いノ!」

「ずるいよ! ボクだって、ボ、ボ、ボボボ、ボクだってはじめ君に触りたいのに!」

「シノビの心でたえてチョウダイ、タチバナ」

「ボクは忍者じゃないよ!」

 一の苦難も知らずに、二人は楽しそうに口論を繰り広げ始めた。

「……仕事しようよ、みんな」

 店内に居た神野は肩を落としながら呟く。

 さあ、仕事の時間だ。仕事の時間だぞオンリーワン。



 煙草が切れた。三森は寝ながらの体勢で、空になった箱を握り潰して部屋の隅、ゴミ箱に向かって投げ捨てる。放物線を描いたそれは、壁にバウンドして見事に収まった。

 三森の気持ちが少しだけ鎮まる。枕もとの携帯電話と財布を引っつかみ、布団を跳ね除け三森はベッドから飛び降りた。下着姿から真赤なジャージを上下に通し、肩を回して首を回して体中の骨を鳴らしてから三森は玄関に向かい靴を履く。そこで、異様な気配を感じ取った。懐かしい気配だった。記憶している限り、数ヶ月ぶりだろうか。やれやれと、少々憂鬱になりながらドアノブを回し、三森は来訪者に声を掛ける。

「よう、久しぶりじゃねェか。確か、お前の弟をヤって以来だったか?」

「……八ヶ月と十一日振りだな、三森冬。私の弟を殺されて以来だ」

 廊下の手すりに腰掛け、無表情に淡々と語る来訪者。無感情な姿勢を崩さず、来訪者――春風麗――は言った。

「ちっ、細かいところは相変わらずだなてめぇはよ」

「貴様ら戦闘部の連中が大雑把過ぎるだけだ」

「へっ、私はもうあんなトコとはおさらばしたっつーの。大体情報部のお前ならンな事知ってンだろが、一々嫌味な奴だな」

「……私の中では、三森冬。貴様はいつまでも戦闘部だ。どこまでも行き着いても変わらない。貴様は野蛮で、粗野で、救いようが無く救いようが無い」

「ンだよ、謝って欲しいのか?」

 三森は思い切り春風を睨みつける。敵意も殺意も、思いつく限りの粗方の害意をぶつけるような視線。

「……三森冬、お前は私に謝って、私に許して欲しいのか?」

 並大抵の生き物ならば震え上がってしまうような三森の視線を受け流し、感情を込めずに春風は見返した。冷たい、この世の冷酷さを悉く詰め込んだような視線。

「誰が? 誰にだよ? ソレを殺した私に罪があンのか? 罰を受けなきゃ駄目なのか? 言ってろよ気取り野郎が」

 並大抵の生き物ならば縮み上がってしまうような春風の視線を受け流し、溢れんばかりの怒りを込めて三森は更に睨み返す。

 三森と春風。二人は睨み合い、視線を交錯させ、やがて三森が堪え切れず目を逸らした。

「……許してもらおうとは思っちゃねェよ」

 自室のドアにもたれ掛かり、三森は俯く。

「前回も同じ台詞を聞いた。私の答えも変わらない。そもそも、謝られても『許すつもりはない』がな」

「そうかよ。で、今回は何だよ? また私に嫌がらせするつもりじゃねーだろうな?」

「聞きたい事があってやって来た」

「お前が、か?」

 三森は春風を指差し、瞳を大きくさせた。

「そうだ。情報部二課――」

「――それは聞き飽きた。で、何が聞きたいってンだ?」

「……南駒台店。知っているか?」

「何だそりゃ? 新しく南にオープンすンのか? へえ、珍しい話もあるもんだな」

 素直に、非常に素直に三森は驚いてみせる。同じ街に二つのコンビニ。決して珍しい事ではない。問題は、そのコンビニがオンリーワンであるという事。ソレに殺し殺され死なし死なされる勤務外を擁する人外集団。そんなものが同じ場所に二つ。人外集団が二つ。地獄が二つ。

「三森冬。このケースが異常な事態だとは気づかないのか? 珍しい話? そんな生易しいものでは済まんぞ」

「……だろうな。駒台。まさか、重点地区にでもされちまったのか?」

「さあな。そこまでは調査中だ。しかし、しかしだぞ三森冬。気づかないか? 今の異常さを」

「異常さ、ねェ。考えた事もねーよ。っつーかな、何度もてめぇにゃ言うようだけど、私はただのバイトなんだ。面倒くせェ事は全部上に任せてりゃ良いンだよ」

「ふん、単細胞が。だが、その口振り。単細胞は単細胞なりに気づいてはいたようだな」

「……前線に出てンだ。猿だろうが何だろうが、嫌でも気づくだろ」

「ああ」


「ソレの数が多すぎる」


 二人は声を合わせた。

「秋に入ってからソレの出現数は爆発的に上昇した。勿論、駒台だけでは無いがな」

「それでも去年と比べりゃ充分多いぜ」

 三森は腕を組み、退屈そうに鼻を鳴らす。

「……去年の駒台の、ソレの出現数は三十にも上らない。だが、今秋になって九十にもなった。まだ今年を後二ヶ月近くも残しているのにだ。三倍だ。三倍だぞ」

「言わなくても分かってら。けどよ、もう一軒店が建つほど異常なのか? 前年度ナンバーワンの中国地方なんて、去年と違ってソレが殆ど出てねぇって聞いたぞ?」

「それも知っている。だがランクはどうだ? ギリシャ神話の怪物、アラクネほどのソレが現れたのは駒台ぐらいの物だろう。上層部も駒台には何かある(・・・・)と警戒しているのではないか、そう私は踏んでいる」

「考えすぎじゃねーのか? そこそこ名の知られた奴も今までに仕留めたトコはあるンじゃねーの」

「三森冬。貴様は私の敵だ」

「……知ってンよ」

 だからどうしたと言わんばかりに三森が鋭い視線を春風に浴びせた。

「私は情報部だ。その私が『敵』と認めるのは貴様と一一ぐらいのモノだ」

「は? 何であいつも敵なんだよ」

「それは言わん。とにかく、貴様をある程度能力のある人間と私は認めている。今から話す事はそれを踏まえての事と思え」

「はいはい、わあったよ。とっとと言え、ヤニりたくて仕方なくなってきそうだぜ」

 フッと馬鹿にするように春風は薄く笑った。本当に、春風を知っている人間でなければ分からない程度の、そんな薄い笑い。

「……フリーランスが駒台にどれ位いるか把握しているか? 三森冬」

「ンな事知るかよ。ああ、そういや変な二人組とは前にやり合ったな」

「十組だ。十組のフリーランスが現在駒台に潜伏している。これが何を意味するか分かるか?」

「お前が冗談を言うとは思っちゃいないけどな、信じたくもねェし、分かりたくもねェよ」

 三森は頭を掻き、唾を吐き捨てる。

「三森冬、貴様と顔見知りのフリーランスも来ているぞ」

「嬉しくねェよボケ」

「『神社』、『天気屋』、『教会』、『魔女の家』、『図書館』」

「ちっ、面倒な奴ばっか来てやがんな」

「……面倒でないフリーランスがいるのか?」

「大物が出るのか?」

「さあな。だが、奴らの鼻は格別だ。何か起こるのは確かだろうな」

「だろうな。わざわざ私の気分を悪くさせてくれてあり難いぜ、ホント」

 春風は手すりの上に立つ。

「そう言ってもらえれば、来た甲斐があると言う物だ」

「うるせェ、さっさと消えやがれ」

「そうしよう」

 そう言うと、春風はそこから飛び降りた。

 三森は春風の安否を確認することなく、エレベーターホールへと向かう。

 十組のフリーランス。とんでもないものがやって来た。とんでもないものがいる駒台に。三森は先の事を考え、憂鬱な気分になる。

「……今年は何人残れるかな」

 それは誰にも分からない。



「じこしょーかいしとこっか、お兄さん?」

「アイギスのお兄さん、私らはね南駒台店の勤務外なんだ」

「私ら戦乙女(ワルキューレ)って言うんだけどぉ、あれ? ちゃんと聞いてんの?」

 一の頭が痛みと処理しきれない情報のせいで混乱していく。初耳だった。南駒台店なんて物も。自分がそんな風に呼ばれていた事も。三人組が勤務外なんて事も。全部が全部、信じられなくて、考えたくても痛みで何も考えられなくて。痛みに全てを委ね始める。もう何でも良かった。何をされても良かった。運が悪かった。とんでもないモノに喧嘩を売られてしまった。それだけだ。

「あれー?」

「気絶してんじゃないのー?」

「きゃはは、だっさー、どうする? いっとく?」

 女たちが一に近付く。

 輪になって、戦乙女が近付く。

 戦死者を選ぶ者が、一に、近付いていく。


 ――銀光が閃いた。


「何っ?」

「これはっ!」

「やっばー!」

 女たちのすぐ近くを、銀色の線が奔る。女たちは咄嗟にそこから距離を取り、周囲を見回した。

「誰がっ!」

 女は一を睨む。一の周囲にも線が奔る。銀の糸にまるで守られるかのように、一は蹲ったままそこに居た。

 周囲の様子が一変した事を不審に思い、一は顔を上げる。

「あ、これは……」

 一が、それが何かという事に気づいた瞬間、自分が心底安心した声を出した事が急に恨めしくなった。

縛り付けるもの(レージング)!?」

 女が叫ぶ。

「私らの遺物がどうしてここに!」

 女が喚く。

「これはっ、北駒台のっ! 勤務外のっ!」

 女が我鳴る。


「なっさけない、あんたそれでも男? ちゃんと付いてんでしょうね?」


 女が謳う。朗々と謳い上げ、堂々と姿を現す。手にはスーパーの袋を提げ、気だるそうに彼女は歩く。彼女は、一をつまらなさそうに目の端で捉えながら、どこか遠くに視線をやった。


 戦乙女たちは近付けない。乱入者に、一に近付けない。接近出来ない。既にレージングは周囲に張り巡らされている。雲の切れ間から月が顔を覗かせるたび、銀糸が妖しく煌く。

 すなわち結界。不壊の領域。女たちはその力を知っていた。だから、動けない。


 その姿を認めた一は気恥ずかしくなり、目を逸らした。ついさっき喧嘩別れしたばかりだというのに、なのに。

「糸原さん……」

 糸原四乃。

 レージングの使い手。

 タルタロスからの脱獄者。

 オンリーワン北駒台店の勤務外。

「ん? 何か言いたい事でもあんの?」

 にやにやと、楽しそうに糸原が口元を歪める。

「……こんな所まで男漁りに来たんですか?」

「なぁーに言ってんのよその帰りよ帰り。男どもの相手すんのが疲れたから人の居ないトコまで来たのよ。そしたら何か世にも珍しいだっさいチビが居た訳だけどー」

「楽しそうで何よりですね、それより俺の財布返してくれませんか?」

「はあ? これっぽっちしか入ってないのに、けち臭い事言ってんじゃないわよ。それぐらい貢いだらどうなの? ホント金の亡者ね、あんたは」

「胡散臭い詐欺師にそんな事言われるとは思いもよりませんでした。あはは、けち臭いのはそっちじゃないですか」

「黙りなさいよ甲斐性ナシ、それよかほら、助けて欲しいんじゃないの? ん? お姉さんに頭下げてみ? そしたら生かして帰してあげるから」

「犯罪者に下げる頭は持っていません。その袋を返して下さい。それは俺のです」

「あー、これ? へへー良いでしょ拾ったの。あんたが落とし主だったの? じゃあ一割ちょうだい」

「……鬼ですかあなたは。良いから助けてくださいよ」

「私お腹減ったなー、山なんて久しぶりに登ったからなー」

「分かりましたよ、明日で良いですか?」

「この袋さー、なんか食べ物入ってんだけどー?」

 糸原は袋の中をごそごそと漁り出す。一は糸原の行為を止めようとしたが、レージングに囲まれているので出られない。恨めしそうに手だけを伸ばす。

「調味料が多いわね……。塩舐めて良い?」

「そんなにお腹減ってるんですか? その辺の草でも食べれば良いじゃないですか。どうせ糸原さん、味なんて分かんないでしょ」

「あははは、超ウケルんだけどー。じゃあツバメの巣」

「……何が『じゃあ』なのか分かりませんが、そんな高いの駄目です」

「フカヒレ。キャビア。はも。ふぐ。トリュフ。蟹。アワビ。ステーキ。すき焼き焼肉ジンギスカン」

「うっ、家計を圧迫しそうな単語を羅列しないで!」

「助けて欲しいんでしょ?」

また(・・)脅迫するつもりですか?」

 一は糸原を強い意思で以って睨む。その視線を涼しげに受け止め、糸原は不敵に笑った。

「わーたしがいつそんな事したって言うのよ? ちゃんと選択肢は与えてんじゃない」

「選択の余地はくれないじゃないですか! こんな所まで追い込みやがって、脅迫強要以外のなんだって言うんだ畜生」

「ほーらほら、どーすんの? 今日の晩御飯は何なの?」

「ぐっ、袋ん中見りゃ分かるでしょ。カレーです」

「はっ、ガキのキャンプじゃあるまいし、もっとマシなモンにしなさいよ」

「もう食材買っちゃったから、オーダーを変えないでください」

 そこで糸原は腕を組み、考え込む。

「……私、甘口なのよね」

 やがてそんな事を言い放った。

「他人にはインド人も驚くほど辛口ですけどね」

「うん、そうすんげー辛口。そうね、あんたが誰とご飯を食べようが関係無いわ。カレーなら私にも振舞えるでしょ? とりあえず今日の所はそれで許してあげるわ。明日は肉が食べたいけど。牛ね、牛。あ、イベリコ豚も良いわね。美容に良いらしいわよ、寿命も延びるってさ」

「またテレビに影響受けちゃってこの人は……。はいはい、もう良いですよ豚でも牛でも鶏でも魚でも何でもご用意させていただきますよ」

「良く言ったわ男の子。カレーね、カレー。あ。ちなみに私、辛口のカレーを出されたら暴れまわるかもよ。って言うか暴れる」

「お子様」

「お姉さまとお呼びなさい」

 フンっと糸原は鼻を鳴らした。

「……俺、ホント糸原さんを尊敬しますよ」

「そ。さ、じゃあ改めて私に何か言う事は無いのかしら?」 

 糸原は促す。

 まったく。そう呟き、頭を掻いて一は照れくさそうに、

「お姉さま、生意気言ってゴメンなさい」

 頭を下げた。

 その姿を満足げに認め、糸原は高らかに宣言する。

「うむ、カレーで許すっ!」

 仁王立ちを解除し、糸原は戦乙女たちに初めて視線を遣った。



 戦乙女。女たちは合図も無しに一斉に散らばった。三方から糸原へ仕掛けるつもりなのだろう。

「なるほどね。一、動いちゃ駄目よ」

「ええ、よく切れますからねこれ」

 酷く間の抜けた会話だった。糸原は指を小刻みに動かす。

 ちっ、ちっ、ちっ。

 少しばかりの間を置いて、

「おらぁ!」

「きゃはは!」

「いっちゃいなよ!」

 糸原の右左斜め後ろ、三方から声が聞こえてきた。木々の間から、洋館の屋根から、広場の向こうから。いつの間にか、女たちの手には槍が、楯が、獲物が握られていた。

 ワルキューレが詐欺師に迫る。臆することなく、糸原は右手を上げた。右から来た女が悲鳴を上げる。次に左手を上げた。左の女がけたたましく鳴く。

「ババァ! おせぇんだよ!」

 包囲網を掻い潜り、斜め後ろの戦乙女が糸原を襲う。その手には鋼鉄の長柄武器。

「誰が――」

 糸原は振り返り、眼前に迫る槍を足で叩いた。その衝撃で女の手に痺れが走る。

「――きれーなお姉さんだって!?」

 隙を見逃さず、糸原は顎、腹、股関節の三点を爪先で蹴り上げ、拳で殴り上げた。女は中空に一瞬静止し、地面に倒れこむ。

「もっぺん言ってくれない? お姉さんさー、最近難聴気味なのよね」

 しゃがみ込んだ糸原は女の髪を引っ張り上げ、耳元で冷たく囁いた。

 女の全身を悪寒が駆け巡る。

 ――やばい。

「……へっ、ババァは家で寝てな」

「嘘も方便って知ってる?」

 女の精一杯の虚勢に、糸原は優しく微笑んだ。糸原は、掴んだ髪の毛から手を離し、女の後頭部に手を添える。その意味に気付いた女から血の気が引いていった。

「お、おい!」

「はあー? 聞こえないわよ」

「やめ――!」

 うわ、と。

 その光景を見ていた一が潰れた声を出す。

 地面にめり込んだ女の顔に一瞥をくれ、糸原が立ち上がった。

「次はどっち?」

 距離を取っている女二人に、糸原は気さくに声を掛ける。女たちは答えずに武器を構えた。

「調子に乗んないでくれる? オバサン」

「きゃはは、私らも本気でいっちゃうから!」

 笑う女たち。その声に眉を顰め、

「まずはあんたからね」

 糸原は右の女を指差す。指された女は糸原をねめつけ、楯を持った女に目配せした。

「知るかよババァ!」

 空手の女は糸原に向かって、叫びながら突っ込んでくる。糸原が指を動かすと、女の前方が煌いた。レージング。女は咄嗟に右へステップ。避け切れず、女の前髪が糸によって切られる。構わず女は突き進んだ。

「女の命って何だか分かる?」

「ああ?」

 糸原の指の動きに合わせて糸が揺れる。

「まずは顔よね」

「……?」

 動きの止まった女へと光が奔った。

「ちっ!」

 舌打ちして女が後ろへ下がる。避け切れず、女の髪が糸によって切られた。

「ははっ、北駒台の勤務外なんて大したこと無いね!」

 女は絶えず動き回りながら嘲笑する。

「顔。だけどさぁ、私は女の命ってのはやっぱり髪だと思うのよ、髪」

 言いながら、糸原は指をしなやかに曲げた。

「!」

 糸が奔り、女の髪を後ろから切り刻む。

「髪ってさあ、良いよね。特に可愛い女の子の髪。頬擦りしたくなるわ。食べちゃいたい」

 女は糸から逃れる為に動き回る。

「男はどう思ってるか知らないけど、私は髪から見ちゃうわね。人は見た目で判断するなってどっかのチビが言ってたけど、やっぱ見た目って大事じゃない? 女は髪よ。髪が命よ」

 走り回り飛び回り、女は逃げ回る。だが、糸は的確に、それでいて執拗に女を追い詰めていく。

「こいつ……!」

 女も糸原の意図に気付き始めた。

「つまりさあ、髪の毛が無けりゃ女は女じゃないのよね。男でもないし、ホント何になるのかしら」

「てめぇババア!」

「丸坊主にしてやるわ、クソガキ」

 ぶちり、と。女の中の何かが切れる。完全に頭に血が上る。

「ざけんなよコラァァァァ!」

 真っ直ぐに、馬鹿正直に女は突っ込んだ。その姿に糸原は微笑を浮かべる。

「いっちょ上がりね」

 女の周囲に線が走った。銀の線。死の線。主に、女の頭付近に線は集中していた。

「あ……」

 呟いた女は自分の髪の毛が、雨のように降りかかるのを見て失神する。

 うわっ、と。その様子を見ていた一が、悲鳴めいた声を上げる。

 糸原は勝ち誇ったように高笑い。

「ふっ、お姉さんを怒らせるからこうなるのよ」

 丸坊主の女を楽しそうに眺め、そして残った女に視線を移す。

「顔に髪。女は何が命だと思う?」

「え? あ、そ、その……」

 すっかり戦意を殺がれた女は引き攣った笑いを浮かべた。

「は、歯?」

「そうねえ、歯も大事よねえ。でもさ、もっと大事な物があると思わない?」

 糸原は腕を広げて女に近づいていく。

「も、もっと?」

「そう! もっと!」

 女は糸原の威圧感に腰が抜け、地面に手を付きながら必死で後ずさった。

 糸原は指を動かし、女の体全体を糸で締め上げる。肉も皮も切れない。ギリギリの、絶妙な力加減。

「下手に動いたら痕が残るわよ」

 その意味を理解し、女は頷く事も出来ずに涙を流した。

「教えてあげるわ」

 糸原は優しく、諭すような声を出す。その声に女は少し安堵の表情を浮かべた。

「もっと大事な物、それはね、命よ!」

「そのまんまじゃないですか!」

 一の叫びを聞き流し、糸原は泣いている女に指を突きつける。

「あいつはほっといて。で、どうしたい? あんた死にたい?」

「し、死にたくないです!」

「そりゃそうよね、あははは」

「何でもするから殺さないで!」

「わーお、テンプレート通りの命乞い。良いわね、ゾクゾクしてきた」

 糸原は楽しそうに口元を歪めた。その表情を見てしまい、女は気が遠くなる。


 手放しかけた意識の、最後に映った女の景色。

 一人の女。

 ああ、そこには死神が映っていた。魂を刈り取る鎌。死を招き寄せる黒い気配。最高の戦乙女。ワルキューレのリーダー。全ての魂へ、全てに死を。それが彼女。


 振り返った一は驚愕した。こんな時間にパジャマを着た女が居た事ではない。パジャマよりも、目に入る物がある。それよりも、受け止められない事実がある。

「……どうして?」

 長い鎌が嫌でも一の目に入る。彼女(・・)の身の丈よりも大きな鎌。苦にする様子も見せずに片手でそれを持ち、彼女は寂しげに一を見る。

「…………だから言ったのに」

 その瞳には一抹の憐憫。がちゃり、と。彼女は音を立てて鎌を構えた。その姿、まさに死神。

「ヒルデさん、勤務外だったんですね……」

「…………黙っててごめんね」

 一に謝ると、ヒルデは視線を『敵』へと移す。

「へえ、次はあんたがお相手?」

「…………許さない」

 一は対峙する二人を結界から見つめる事しか出来ない。

「糸原さん、この人は――」

「――あんたのデートの相手って訳?」

 糸原は楽しそうに笑った。

「糸原さんっ!」

「うっさいわね、黙ってなさい」

 ヒルデに向き直り、糸原は腕を下げる。

「先に言っとくけど、私も勤務外なのよ」

「…………知ってる」

「勤務外同士で戦うって訳?」

 ゆっくりと、確かな意思をもってヒルデは頷いた。

「話は大体聞いてたけど、あんたら新しく出来る南の連中でしょ? 揉め事起こしても良いの?」

「…………しつこい」

 ヒルデは鎌を握り直し、糸原に刃の切っ先を向ける。

「ふうん、それなら私も気兼ねなくヤれるって訳ね」

「糸原さん! 駄目ですってば! ヒルデさんも!」

「…………先に仕掛けたのはキミたちじゃない」

「ち、違います! 俺が山に入ったらあの人たちが!」

 一は力の限り声を張った。

「…………ん」

 ヒルデは緩慢な仕草で小首を傾げる。

「…………そう、なの?」

「そうなんです! 確かに夜に来ないでって言われてましたけど!」

「どうしよう……」

 鎌を抱えてヒルデは俯いた。

「ちょっと一、水差してんじゃないわよ」

「糸原さん。いつから戦闘狂になったんですか?」

「なってないわよ。今日は……虫の居所が悪いだけ」

「当り散らすにしても限度があります」

 一は倒れている三人の女をそれぞれ見やり、

「もう充分でしょう」

 悲しそうに言った。

「……あんただってやり合ってたじゃないのよ」

「俺はもう良いんです」

「勝手な奴」

「知ってるくせに」

 一を少しだけ睨むと、糸原は指を動かし、周囲に巡らせていた糸を回収していく。一分も掛からずに、全てのレージングは持ち主へと帰っていった。

 自由になった一が立ち上がり体を伸ばす。伸びきった一の背中。そこに衝撃が走った。うめき声を漏らし、一がその場にしゃがみ込む。

「自惚れてんじゃないわよ」

「……痛い……」

「今日はもう良いわ。お腹減ったし」

「ありがとう、ございます。ヒルデさんも今日のところは、あ」

 安らかな寝息。立ったまま、ヒルデは眠っていた。

「……今こいつらやっちゃったら南駒台ってどうなんのかな?」

「ホント、どうなるんでしょうね」

 何しに出てきたんだ、この人は。一は呆れながらヒルデに近付く。

「ヒルデさん、ちょっとだけ起きて下さい」

「…………ん…………」

「とりあえず、お話はまた後日伺うとして。今日の所はお開きにしませんか」

 ノロノロとヒルデは首を振った。

「……ベッドまで戻れますか?」

「…………むり」

「じゃあ部屋まで連れていきます。鎌は置いといてもらえますか? 刺さるんで」

 こくり、と。ヒルデは素直に頷く。地面に鎌を投げ捨て、ヒルデは一へ体を預けた。

「糸原さん、この人たちはどうしますか?」

「適当にやっとく」

「じゃ、後は任せます」

「ん」

 一はヒルデの袖を引き、館内へと入っていく。

 糸原はその姿を見届け、倒れている女たちを一箇所に纏めた。

「……とりあえず、八つ当たりしとこ」



 嫌らしく笑うその顔は、死神だって戦乙女だって恐れるのかもしれなかった。

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