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BLOOD on FIRE



 店長が決定的な言葉を口にした。一は耳を疑った。

「なんですって」

 一は、十を超える須部村どもを睨みながら訊き返した。店長は一の耳元で囁くようにして言った。

「弾が切れた」

「嘘ですよね」

「今まで楽しかったぞ、それなりにだが」

「……マジかよ」

 一は須部村から視線を逸らしそうになる。

 ハルパーで切り裂き、銃弾をぶち込んだ。首を刎ね、心臓を貫いた。破裂する頭蓋もばら撒かれる内容物も何もかも見飽きた。何回も何回も、何人も、それこそ何百人と増え続ける須部村を殺し続けた。しかし、限界が訪れたらしい。そも弾薬どころか体力も気力も失いつつある状況だ。

「そろそろ尻尾巻きますか」

「そうさせてくれるんならな」

 須部村は髪の毛をがりがりと掻きながら、鉈で一たちを示した。

「いやいや、もう少しゆっくりしていきなよ。できれば死ぬまで」

 底が見えない。須部村を、後どれだけ削れば殺し切れるのかが分からない。それでもやるしかないのだろう。一はため息をつきながらハルパーを構えた。だが、須部村の様子が変わった。彼らのうちの一人が露骨に顔色を変えたのだ。

「店長」

「誰かと連絡を取っているな」

 店長は須部村をじっと見た。

「良くない知らせだろう。大方、うちの誰かがナントカの庭を突破したに違いない」

「鋭いねえ」

 須部村は否定しなかった。

「ま、うちの大将にゃあ些末事だが俺にとっちゃ一大事でね。悪いが付き合えるのはここまでだ」

 言って、須部村が背を向けた。その先には茶屋がある。一たちは追おうとしたが、行く手を阻むように他の須部村が立ち塞がった。

「逃げんのかよ!」

「まあな!」

「くそっ、逃げてくれてありがとう」

 一は須部村を一人仕留め、店長を一瞥する。彼女は、茶屋へ逃れようとする須部村を狙い撃とうとしたが諦めたらしく銃口を下した。

「いい。出口は分かった。残りを始末して後を追うぞ」



 唸る一途パイルバンカー

 回る一念ドリル

 狂気の落とし子たる浪漫武器を見やり、ラーヤ・ラーヤは涙目になった。

「さ、話しなさい。話さないとどうなるか分かるわよね」

 ドリルを構えたパァラが言った。ラーヤは視線を逃がすも、その先には大鎌を持ったヒルデと、ぼろぼろになったスーツを着ている堀の槍が見えた。

 竜宮城の中庭の隅っこで、ラーヤは、春・夏の庭を突破した北駒台店のメンバーに囲まれていた。

「……は、話すって、何を」

「全部。一切合切。洗いざらい。あなたの知っていることを何もかもです」

 ナナが微笑んだ。拳を打ち合わせて。がきんという金属音がしてラーヤは目まいを起こしそうになった。薬が切れてしまえばこんなものだ。もう戦えない。というか戦えたとしてこんなやつらを相手にしていられるかとも思っていた。

「お金で雇われてるんでしょう? 金の切れ目が縁の切れ目って言うじゃない。ほら、命とお金、どっちが欲しいの?」

「う、うう……」

 ラーヤは観念した。

「話す。でも、全部は知らない」

「いやあ、いい心がけですね」

 柔和な笑みを浮かべる堀だが返り血がついていて恐ろしかった。

 ラーヤが口を開きかけた時、全員が武器を構えて反応した。彼女は、ぎゃあと叫んだ。

「話すって、話すって言ったのに!」

 四人ともラーヤを見ていなかった。彼らが見たのは、中庭を疾風の如く突っ走り通り過ぎていく男だ。彼はラーヤたちに目もくれず、襖を開いてそこに飛び込んでいった。

「今のは?」

 ヒルデが小首を傾げた。ラーヤは、あの男が須部村という名前であること、『教団』に来た経緯や、使っている武器、その技量までもを喋った。

「あの襖の先は?」

「ちょ……一々ドリル向けて訊かないでよ。話すから! あそこは、確か、冬の庭だったと思う。潘海華って女の持ち場なんだけど」

「どうしてそこへ須部村ってのが向かったの?」

「し、知らない。嘘じゃないって本当です知らないんです! あ、た、ただ……」

 ラーヤはどこか、羨ましそうに言った。

「恋人だし、助けに行ったんじゃない、かな」

 ナナたちは顔を見合わせた。



 恐ろしい怪物と戦って殺した。時には怪物でないものも殺した。

 殺して、逃げて。逃げて、殺して。その果てがここだ。潘海華は折れた薙刀を手放して、崩れ落ちるようにしてその場に座り込んだ。止んだ吹雪のせいで静寂しじまが耳に痛い。

 突きつけられた刀の切っ先。擬す立花は海華を見下ろす。

 折れたのは薙刀だけではなかった。海華は立花に敵わなかった。今までの相手とは違う。血に飢えた化生だとて目の前の少女と比べればなんと容易いことだったか。対峙したのは真の怪物だ。立花の放つ斬撃をまともに防ぐことはできなかった。ただの一度もだ。それでも自分が生きているのは彼女が手加減したからに他ならない。その事実が海華を惨めにさせた。

「……やりなさい」

 多少なりとも備わっていたプライドを粉々にされて、海華は投げ遣りになっていた。立花にはそのことが分かっていない。彼女は海華からはもう何も得られないと踏んだのだろう。刀を振り下ろした。

「先輩っ、誰か来ま……来てます!」

 姫の叫びが冬の庭にこだまする。侵入者は男だ。彼が手にした鉈は凶暴な輝きを放っている。姫はそれを止めようとするも、男は意に介さなかった。背に骨の弾丸を浴びせられようが、立花に渾身の一撃を見舞おうとする。

 海華は見た。惚れた男が自らの窮地に駆けつけるところを。それだけで気力が漲った。彼女は気を取られた立花から逃れ、折れた薙刀を拾い上げる。

「ああ、好きです! 須部村さんっ」

「俺もだ」

 振り下ろされた鉈を、立花は刀で弾く。受け太刀したことにイラつき、彼女は無防備になった須部村の腹を蹴った。その反動を使い、逃れていた海華に迫る。

「よくもクソアマァ!」

「よせ海華! それより吹雪かせろ!」

 海華はさらに立花から距離を取る。追おうとした立花だが、突如として発生した強風で目を瞑った。吹雪が海華と須部村の姿を隠す。辛うじて見えるのは支え合う二人のシルエットだ。

「……逃げるの?」

 立花は後を追った。

「逃げるのかっ」

 二人の姿が遠く、小さくなる。

「ボクたちに……この街にこんなことしておいて逃げるのかっ」

 叫びは届かない。雪の中で溶けてなくなった。



「ああ、俺だ。冬と秋をつなげてくれ」

 吹雪の中、須部村は、海華に肩を貸しながら携帯電話に耳を当てていた。相手は竜宮城を支配下に置く深松だ。

「そうだ。あそこなら俺の力が使える。ひとまず、そこに行く」

 話しながら、須部村は海華の様子を確かめた。彼女は疲弊しているが、致命傷は見当たらない。ただ、さんざん手加減されて嬲られていたのだろう。かすり傷や小さな切り傷は認められた。

「ああ。分かってる。俺のやることも、お前のやりたいこともな」

 須部村が深松との話を終えたタイミングで、海華が小さく笑った。

「どうした」

「嬉しくて」

「……何がだ」

「だって須部村さん、助けに来てくれたじゃないですか」

「あそこでお前に死なれたら困るからな」

「嘘つき」

 海華は須部村にしなだれかかった。

「誰が死んだって構わないじゃないですか。私でも須部村さんでも、それこそ良子ちゃんが死んでも変わらない」

「訂正する。俺が困るからだ」

「えへへへー」

「着くぞ」

 目の前に襖が現れた。須部村はそれを開け、先へと足を踏み入れる。二人を包んだのは橙色の光だ。先まで銃声の音でうるさかった秋の庭だが、今は鳥の鳴き声や、虫の羽音すら聞こえてくるほどに静かだった。

「私、ここが好き。ロマンチックで」

「ああ、いい場所だ。できるなら、ずっとここにいられればいい」

「いられますよ、きっと。世界がもうじき終わるんです。その終わりまで、ずっといましょうよ」

 須部村は海華の髪を撫でた。男の咳払いが聞こえて、二人は咄嗟に振り向いた。

「邪魔して悪いな、お二人さん。でもこっちは最初っからずっと邪魔されてんだからおあいこだよな」

 茶屋の長椅子に寝転がっていたのは一だった。彼はゆっくりと起き上がり、体を伸ばした。そうして海華の存在を認めると意地悪い笑みを浮かべる。

「血相変えて逃げたと思ったら、そういうことかよ」

「そっちは一人減ったみたいだが」

「まあね」

 須部村は、なぜ一がここに一人でいるのかを訝しんだ。彼が店長と共に中庭に戻らなかったのはなぜか。他の庭にいたものがここにいないのはなぜか。戦うにしても一だけでここに臨む理由は絶無だ。

「世界が終わるとか言ったよな、あんたら」

「ああ」

 一のいる意味が分からない以上、須部村は彼に付き合うことにした。どのみち海華は疲れている。休ませてやりたかった。

「何のために俺たちにソレをぶっ殺して回らせてたのか、やっと分かった。そうやって魔力をため込んでたんだってな。神さまを呼び出すためにか」

「まあ、そうだ。回りくどかったか?」

「かなりな」

「ラーヤから話を聞き出したか」

 一は煙草を咥えて、指の腹をこすり合わせる。火が点り、彼はそれをライターの代わりにした。

「根掘り葉掘りな」

「だが、あいつも全ては知らん。俺たちもそうだ。全て知っていて、手の中で踊らせているのは深松だけだ」

 深松は『教団』のメンバーですらも自らの欲望を満たすための駒としか思っていない。実際、身内である健太郎も何も聞かされないまま殺された。須部村も察してこそいるが、彼女の真意を推し量ることしかできない。

 一たちは竜宮城に巣食うソレを殺すことが魔力の補充に繋がると思っているらしいが、そうではない。

「そうかよ。でも、お前らをボコボコにすりゃあ済む話だ」

「は、誰が? まさか俺を? あんたがボコるってのか?」

 一は目を丸くさせた。

「いや、俺じゃねえよ。そもそも俺はこんなとこにいたくないんだけど……まあ、かっこ悪い言い方すりゃあ『俺の女が黙ってねえぜ』ってやつだ」

 今度は須部村が目を見開いた。一の右腕が独りでに燃え上がった。彼は動じていない。むしろそうあるのが当然であるかのように、ただ、じっとその炎を見ている。

 揺らめいていた炎がやがて一つの形を作る。

「そう、か……聞いてなかったぜ、深松よう」

 須部村の眉間に皺が寄った。

 ひときわ強く跳ねた後、炎は女と化した。恐ろしい目をした女だ。情念を具現化させたような――――女はくすんだ金髪をかきむしり、一が咥えていたたばこを乱暴な手つきで奪い取った。それから上を向き、一息で吸い切った。紫煙を吐きながら、彼女は須部村と海華をねめつけた。

「で、どっちだ?」

「何がっすか」

 女は一に掴みかかった。

「お前を痛めつけてくれたのはどこのどいつだって聞いてンだよ私はよう! 盆暗かましてんじゃねェぞバカ」

「あ、すんません。男の方です」

「そっか。女は?」

 海華が須部村をかばうようにして立った。

「おォー、そうかよ。二人まとめて丸焦げなンのがお望みってか」

 息を呑んだ海華は須部村を見上げた。

「あの女、何なんですか」

「……あれが『火蜥蜴』だ。死んだと聞いていたが、まさかこうなるとはな」

「良子ちゃんは、このことを……?」

「知ってるはずだ」

「そうですか」

「折れた得物じゃ上手くやれねえだろ。俺のを使え」

 海華は鉈を受け取り、小さく笑った。

「いいんですか」

「ああ。好きなだけ増やせる」

 二人のやり取りを聞いていた女が声を荒らげた。

「こそこそいちゃついてンじゃねェェェよ! 時と場所選べ! てめぇらの焼き方はベリー・ウェルダンで決まりだかんな、骨まで燃してこの世から影も形もなくしてやるからそこ動くンじゃねえぞ!」

「三森さん、悪役みたいですよ」



「悪いのは向こうだろが!」

「いや、言い方が……」

「だってお前を痛い目に遭わせたンだぞ!? 殺してやらなきゃ割に合わねェ」

「俺にも立つ瀬ってもんが……」

「ンなもんねーよ」

 一と三森、須部村と海華。期せずして二対二の戦闘になったが、均衡はすぐに破られた。須部村が自らを増やしたからだ。その数は十を超え、百にも上ろうかとしていた。

 須部村が百人、一斉に、同じ動作で鉈を振るった。

「サラマンデル相手に手加減はできねえからな」

 包囲された一と三森へと、一斉に鉈が降りかかる。巻き起こった熱風がそれらを吹き飛ばした。手と手を取り合った二人が、たたらを踏んだものへと迫った。

 ハルパーが首を刎ねる。反撃の鉈は炎に阻まれる。くるくると、ぐるぐると。一と三森は踊るように戦った。互いの死角を補うように得物を使い、敵を討つ。

「キリがねェな」

「でかいの行きますか」

 頷いた三森は掌から火の玉を生み出し息を吹きかける。それを宙に放り投げると、玉は急速に膨らんだ。中空に留まった火の玉が破裂し、炎の雨が降り注ぐ。動きの鈍ったものへとハルパーが襲いかかった。

 次々に刎ねる首と海華の悲鳴にも似た怒号。

 三森が一の腕に戻り、彼は炎に得物を握らせるや、それを鞭のように伸ばしてハルパーを振り回した。一回転。二回転。回るたびに首が飛ぶ。周回を重ねた後、三森が再び姿を見せた。彼女は接近を試みていたものを悉く焼いた。そのうち、後ろを取った須部村が三森の脳天に鉈を振り下ろしたが、一切の手ごたえはない。何せ彼女は炎だ。風や衝撃を受けても揺らめくだけ。それこそ陽炎の如く。

「何でもありじゃねえか」

 須部村が疲れたように呟いた。彼の隣にいた海華はもはや声すら上げられないでいた。

「ぎゃっはっは! これなんかのゲームみてェ! ナントカ無双ってやつ!」

「やっぱ悪役にしか見えねえっす」

 一は三森の肩を突き、顔を寄せる。彼女は目を泳がせた。

「わーっ、何だよ急に何すンだよ」

「いや、そろそろ俺が限界なんで」

「人前だぞ……!?」

「勘違いしてんじゃねえよ。じゃなくて、もう疲れたから、やばい」

「お、おう、そっか。じゃあどうする? ここ全部焼いちまう? 庭だか何だか知らねェけど、全部燃やせば済む話だろ」

 一は海華を指差した。

「女を狙いましょう。男が全部盾になったら結構な数を削れますよ」

「お前のがよっぽど悪役じゃンか」

「いいからほら!」

 急かされた三森は足元に炎を垂れ流した。粘り気のあるそれは水たまりのように集まった後、巨大なサンショウウオとなり、大口を開けた。

「よう、女を殺されたくなけりゃあせいぜい頑張れよ」

 三森がサンショウウオの頭を叩くと、開いた口から巨大な火球が放出された。空気を飲み込みながら突き進むそれは確かに海華へと向かっていた。須部村は次から次へと炎の前に身を投げ出すが、勢いは止まらない。

 百か。千か。万か。億か。須部村は海華のために身を捧ぐ。その光景に女は絶頂しかけた。

「……へー」

 三森は感心した。火球は消えこそしなかったが、勢いを殺されて角度を変えられた。須部村の執念の賜であろう。彼にはまだアフーム=ザーの力があるだろうが、さすがに疲弊していた。

「やるじゃねェか色男。私の男にもこれっくらいの献身さがありゃあ冥利に尽きるってもンだ。なあ?」

「『なあ』じゃねえよ。俺なら女抱えて逃げますけどね」

「ふーん、そっか。じゃもう一発行くか」

 三森がまたサンショウウオの頭を叩いた。

「ふざけ……冗談じゃねえ!」

「きゃっ、須部村さん!?」

 今度こそ須部村は背を向けた。彼は海華を抱え、自らを増やして壁にする。迫る火球は徐々に勢いを増して大きくなる一方だ。

「てめェ逃げンじゃねぇよ! 黒焦げにすっから動くなや!」

 三森はぼかぼかとサンショウウオをどつき回しただけに飽き足らず、逃げる須部村と海華を追いかけた。秋の庭に鎮座する山の向こうまで行ってしまいそうだなと一はそんなことを考えた。



『羨ましい』

『何がだ』

『だってあの二人……私たちと同じようで、違うんです。私と須部村さんは二人ですけど、あれは二人で一つなんですよ』



 半分以上炎に焼かれて抉られた山の中で、一はやっと三森たちに追いついた。そこで彼が目にしたのは、須部村と海華の最期だった。

 二人は互いの胸に得物を突き立てていた。鉈は深く食い込み、海華は血を吐いた。

「これで……や、っと」

 須部村は頷いた。

「一つになれたな」

 海華は笑った。笑ったままで逝った。

 木の幹に背中を預け、二人の様子を見ていた三森はばつが悪そうにしていた。

「私が追いついた時にはもう、こんなだった。男のが躊躇ってたけどよ、女がやったら、ああなった」

 一は三森にたばこを咥えさせた。自分もそうしたが、火は点けられなかった。

「ぶっ殺すつもりだったけどよ、何もこんな形で死ななくてもよかったじゃねェかって、そう思っちまう。よう。意味なんてあんのかよ」

「この二人にとっては、恐らく」

「あ? ……お、おォ?」

 世界が揺れている。一と三森は木に手をついて周囲を見回した。

「地震か?」

 あちこちがひび割れて光が漏れ出した。揺れは大きくなり、ひびもまた大きくなる。あ、と一は声を発した。亀裂から竜宮城の中庭が見えた。彼は須部村たちを横目で見やったが、それだけだった。それだけにとどめておいた。

「戻りましょうか」

「あァ、だな」

 中庭に戻った一と三森を迎えたのは春風だった。彼女は中庭の中央に位置する建物を指差した。

「戻ったか。一一、リベンジすると言い出した時は頭がおかしくなったのかと邪推したが、なるほど、冬がいるのだからそれもまあ仕方がない。ともあれ、皆は先へ進んだぞ」

「先ってどこだよ」

「教会があったのを覚えているだろう? 私も中を覗いたが、どうやら最初に来た時と同じ道順で辿り着けるらしい。自動人形の二人がそう言っていた。マッピング機能とは便利なものだな」

「麗ちゃんよう、頭がおかしいってのは私のことか?」

「話の腰を折るな」

 春風は鬱陶しそうにして手を振った。

「しかし、いつまで続くんだかな。この城を呼んだものに振り回されっぱなしだ」

「もうじき終わるよ」

 一はひび割れの向こうを見て、頭を掻いた。

「そういやラーヤ・ラーヤとかいうやつはどうしたんだ? 確か、神野さんの出した紐みたいなんで縛ってたはずだけど」

「ああ、やつなら……」

 振り向いた春風だが、彼女はそのまま固まって動かない。不思議に思った一と三森が視線の先を追うと、千切られたであろう紐が残っているのが見えた。

「逃げられてんじゃねえか!」

「見張りもろくにできねェのかよ」

「面目ない」

 舌打ちした三森だが、うなだれている春風に対してそれ以上悪く言うことができなかった。

「いいけどよ。どうせさっきの教会にいンだろ。まとめて片づけてやらァ」

「そうだな!」

 春風は満面の笑みを浮かべた。

「反省してんのかお前?」

「こちらが把握している限りでは『教団』のメンバーはラーヤ・ラーヤと『教団』の長、深松良子を残すのみとなった。たった二人だ。いけるいける。だから私の失態を報告してくれるなよ」

「反省してねーなこいつ」



 一と三森を残して出立した店長たちは、深松良子が待ち受けているであろう教会を目指していた。疲弊したものもいるが、先から竜宮城の揺れる回数が増えている。じき何か起ころうとしているのは明白であり、また、全員が戻らないという強い意志を見せたため、店長が諦めた。

「帰りたくなるな」

 店長は真下を見た。大穴が口を開けている。底冷えしそうな場所だ。彼女は、ナナとパァラから受け取った弾薬を確認しつつ足を動かす。

「いやあ、何、大人数で行動するのもいいものですね」

「…………寂しくない」

「能天気どもめ」

 先頭を歩く立花はくるりと振り向き、少し、顔を曇らせた。

「しのちゃん、どこ行っちゃったんだろう」

「逃げたんじゃない?」

「ありうる」

「お前らは本当に団体行動が苦手だな」

 店長はため息をついた。ぞろぞろとして、まるで遠足の引率者になったような気分だった。

「最初からこうして、全員で行けばよかったですね。ね、店長」

 姫が嫌みっぽく言ったので店長は答えなかった。その通りかもしれないと痛感していたからだ。そも、北駒台店の全員でかかってどうにもならない問題を他の誰かが易々と解決できるとも思えない。こと戦いに限って言えばここにはスペシャリストが揃っている。ものを壊して、殺すことにかけては天下一品だ。

「手駒が揃い過ぎているのも考え物だな。余計なことを考えてしまう」

 パァラはドン引きしていた。

「聞いた? 手駒とか言ったわよ」

「いつものことです」

 一行は先へ進みながらも、ソレが現れないことを疑問に思っていた。そこいらのソレが出てきたところで何の障害にもならないが、それにしてもスムーズにいき過ぎる。

 警戒こそ解かなかったが、彼らは無事に教会へと辿り着いた。

「ああ、やっと来たの。遅かったのね」

 長椅子に座っていた深松があくびを噛み殺しながら言った。

「色々とご苦労さまでした。あなたたちのおかげで念願が成就しそうよ」

「そうか。いいことをすると気分がいい」

 店長が二、三発ぶっ放すも、深松には当たらなかった。弾が外れたのではなく、彼女の周囲に見えない壁でもあるかの如く、弾が逸れたのだ。

「無駄、無駄。言ってもしようがないと思うけど、あなたたちだって四季の庭を見たでしょう。春の庭にはツァトゥグアァが。夏の庭にはダゴンとハイドラが。秋の庭にはアフーム=ザーが。冬の庭にはウェンディゴが。私の庭はこの城全て。この城にいる限り、あなたたちが私より好き勝手出来るとは思わないことね」

「聞いたかお前ら」

 全員が得物を手にし、構えた。数瞬後には深松にそのどれかが届いているに違いなかった。

「先方は『やれるものならやってみろ』とおっしゃっている」

「ふふ、いきり立っちゃって。……ラーヤ!」

 天井からラーヤが降り立った。パァラは声を上げた。

「ぽんこつ情報部ゥ! 見張ってろって言ったのに!」

 ラーヤは深松の傍に跪こうとしたが、できなかった。

「……いやあ、これはどういうわけでしょうかね」

 短剣で胸を突き刺されたからだ。ラーヤはゆっくりと倒れて動かなくなった。

「あなたもご苦労さま、ラーヤ。魔力、あとほんの少しだけ足りなくってね。あなたが残ってくれていてよかった。あれ? 違うか。あなたが残っていなかったらもっと話は早かったんだっけ。まあ、これで仕事はおしまいよ」

 味方を刺し殺した深松は、血の海に沈んだラーヤの骸にコインを載せてやった。

「仲間を殺した? とち狂ってるわけじゃあないの?」

「元から狂ってますよ、こういう人って」

「……ふ、あははっ! 狂ってる? 私が? いたって正常よお馬鹿さんたち」

 深松は、傍らにいる少女の頭に手を置いた。

「ここは揺りかごよ。かの神が目覚める時が遂に、あはっ、遂に来たんだから!」

 店長たちが攻撃を開始しようとするが、ひときわ強い揺れが教会にいたものを襲い、誰も動けなかった。

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[良い点] バカップルがめっちゃつよい所。 [一言] 傘に篭りながらいっぱいいっぱい戦っていた一が余裕でハルパー振り回しているのを見ると、完全に一線を超えてしまった感があってちょっとだけ悲しくなります…
[良い点] いつも楽しく読ませていただいています。 それぞれの登場人物の個性が輝いていますね。 今回のお話は映画のキャビンを彷彿とさせます。
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