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24時間戦う人たち  作者: 竹内すくね
エピローグ
316/328

八百万

「それじゃ最後に一つ。君はなぜうちでアルバイトしようと思ったのか、聞かせてくれ」

 そう言って、目つきの悪い女はたばこに火を点ける。彼女は答えを急かすようにして男を見た。

「いやー、他のところには断られちゃって。ここしか残ってなかったんすよ。時給もよかったし、あ、前住んでたところでちょろっとコンビニでバイトしてたってのもあります。そんで」

 答えたのは、男、というよりも少年と言った方が正しいだろうか。矮躯ではないが、体格はあまりよくない。頼りなさげで、言動からは軽そうな印象を受けるだろう。

「そんでー」

「あー、もういい、いいです分かった。分かりました。とりあえず採用にしとくから」

「い? いいんすか?」

「男手が足りなくてな。今、うちには女性しかいないから」

 おおー、と、少年は嬉しそうな反応を示した。

「マジすか。アレすか。ハーレムってやつですか」

「はっは、ハーレムか。……そうだといいな」

 目つきの悪い女こと、この店の店長である二ノ美屋は最後に何か呟いたが、少年の耳には届かなかった。

「それじゃ合否は、あー、明日の昼くらいに連絡するから」

「昼っすね。分かりました」

 少年は安っぽい作りのパイプ椅子から立ち上がると、今日はありがとうございました、ちっす、と頭を下げてバックヤードから意気揚々と立ち去った。



 少年がバックヤードから出て行くのを見届けると、店長は履歴書を手に取った。彼女はそれをぼうとした表情で眺める。

「ああああああ寒い寒い……あっ、面接終わったの?」

「ん、ああ、まあな」

 ウォークインから、両腕で体を摩りながら出てきた女を認めて、店長は顔を上げた。

「ふーん。採用すんの?」

「ああ。女ばかりっていうのもな。面白くない」

「かわいそーに。ピラニアがうじゃうじゃしてる水槽ん中に放り込むようなもんじゃない。色々遊ばれそう」

 そう言ってパイプ椅子に座った女はこの店のアルバイトリーダー、糸原四乃という女である。糸原は店長から履歴書を奪い取り、へええ、とか、ほおお、などと言いながら睨めっこを始めた。

「つーか大学生かー。夜勤入らないんだろうなあ。んんー? シフトどうしよっかなあ。夕勤、誰を削るか……」

「神野はどうだ。あいつ、今年から受験生だったんじゃないか?」

「いや、お姫ちんは進学どうするか迷ってるんだってさ。ああ、そうだ。一番仕事が出来ないやつを削っちゃおう」

「……シルトか」

「そうなるかなー、って、あれ? そういやこいつの住所って、もしかして……」



「ひぃあ、きゅしんッッ! ……ず、ああー」

 少年は思わず足を止めた。アルバイトの面接が終わり、店内を少しだけ見て回って帰ろうとしていたのだが、レジの方で盛大なくしゃみが聞こえたからだ。

 レジに立っているのは若い、軽薄そうな女である。少年は親近感を覚えてレジに近づいていった。

「お姉さん大丈夫っすか?」

「え? ああー、まあ、平気っす」

 少年は店員の女の胸元に目を遣る。名札には『シルトシュパルテリン』と書かれていた。

「外人さんすか? あ、どもっす。俺、今度からここでお世話になる新人っす」

「へー、ああー、さっきの。そか、採用決まったん? おめー。私の後輩ってことね。あ、私の名前ー、長いからシルトでいいよ」

「つーか日本語上手いっすね……」

 シルトは小首を傾げて、鼻を啜った。

「サンキュー。あ、忘れてた。あんさ、うちにはヒルデさんって人もいるんだけど」

「あ、その人も外人さん?」

「ヒルデさんに手ぇ出したらぶち殺されるから、そこだけ覚えといて」

 少年は満面の笑みを浮かべた。

「俺、彼女いるんで」

「やー、そういうのって関係なくない?」

「一筋っつーか、一途なんで、俺」

 シルトは疑わしげに少年を見据えていたが、表情を歪ませる。ややあって、彼女は馬鹿でかいくしゃみを放った。

「あー、お大事に。花粉症すか?」



 コンビニを出た後、少年は住宅街を抜けるようにして歩く。

 彼の住む街は、日本と呼ばれている国の、駒台と呼ばれる街であった。

 少年は辺りを見回しながら歩く。彼の視線の先には真新しい家と、工事中の建物があり、この街の観光名所の一つとなった、あるものを示す看板があった。


『隕石の降る街』


 今から一年と少し前、この街に隕石が落ちた。

 巨大なそれは、しかし、緩やかな速度で駒台の中心部に落ちた。『まるで何かが隕石の落下を食い止めているかのような有様だった』と、そのような言葉を残した目撃者もいる。

 中心部に落ちた巨大な隕石は今も残っている。専門家や好事家が隕石を砕いて持ち帰ることはあるが、今もなお、その原形をとどめたままだ。邪魔だと言って片づけられることもない。少なくとも、当分は。

 また、隕石は落下の途中で幾つかに分かたれた。百、千を超える数のそれは街の至る所に降り注ぎ、その時の様子から『火の雨』とも呼ばれている。

 かつて駒台の街は『ソレ』と呼称される異形の化け物の出現率が高いだけ(ソレの撃退率も高い)の土地だったが、加えてもう一つ、隕石という事柄が増えた。ただし、『火の雨』の後、駒台に隕石が落下したという事実は確認されていない。

 少年は立ち止まって空を見上げる。

「……降らねえし」

 少年はちょっと期待していた。……彼は一週間ほど前に駒台の住人となった。駒台の大学に合格したからだ。正確に書き記すならば、その大学にしか受からなかったことと、就職のあてもなかった為に、駒台大学に入学する以外の選択肢がなかった。

 そうして少年は故郷を発ち、親元を離れて、付き合っている彼女とも離れることとなった。悲観はしていない。彼は楽観的な性格であった。そう言えばと思い立ち、アルバイトが決まったことをメールで彼女に知らせて、再び歩き始めた。



 少年は住宅街を抜け出た。この辺りにあった家は隕石によって潰されてしまったのだろうか、更地が多い。

 彼の家はその、更地の多い土地の一角にあった。

 築十余年、二階建てのアパートである。傍から見るに朽ちかけた、というより朽ちているぼろぼろのアパートだ。家賃が安い以外には取り立てて取り柄がない。

「……ん?」

 アパートの一階、とある部屋の前に二人の少女、というよりも童女がいた。一人はゴスロリの和装を着ている。もう一人の童女は活動的な格好をしていた。


「は? 今切断したじゃろ」

「そうかしら? 電波の調子がおかしいだけじゃない?」

「いや、どう考えてもわしの最後の一発決めるところで落ちるとかありえん。絶対切ったじゃろ」

「そんなことより、あなたはいつまで経っても厨房じみたモンスターを使うなんて、ねえ? どうかと思うのよ」

「は? つーか別に厨房じゃないし。わし、こういう、カンガルーみたいなモンスターが好きなだけだから」

「そんなんだから座敷童としての格が落ちるのよ」

「言いおったなクソニート」

「うるさいわよごくつぶし」


 どうやら二人の童女が携帯ゲームに興じているらしい。少年は何となく微笑ましい気分になった。

「む、主は誰じゃ?」

 ぼうと見ている内、和装の童女に声をかけられた。少年は迷ったが、怪しまれるのも面白くないので朗らかな笑みを浮かべて答えた。

「俺、こないだからここの二階に住んでんの。君らもここに住んでんの?」

 少年が答えると、活発そうな童女は、ああ、と、呻くように言った。

「おそばを持ってきてくれなかった人ね。シノが文句を言ってたわ」

「……そばって、引っ越しそばのこと? ええー……だって、そういうのって古くない? つーか、挨拶行ってもだいたい誰もいなかったんだけどここのアパート」

 少年は引っ越してすぐのことを思い出す。まともに応対してくれたのは、一階に住む歌代という少女だけだったのだ。

「そうだったかしら」

「そうですよ。まあ、じゃあ、親御さんによろしく言っといてね」

「わしはこんなクソオンボロアパートには住んでおらんがな」

「口の悪い子だな……」

「おまけに性格も悪いわ」

「付け足すな! 根暗女め」

 二人は口喧嘩を始めた。子供にしては語彙が豊富というか、あまりにも生々しかった。少年は気づかれない内にと、今にも足場が抜けそうな階段を、音を立てないようにして上っていく。

 二階の部屋に帰り、ごろりと横になると、少年は規則的な寝息を立て始めた。



 翌朝、少年は携帯電話のやかましい着信音によって起こされた。すわ何事かとベッドの上で体を起こして電話を確認すると、見馴れない番号からの着信であった。しかし彼は躊躇せずに電話に出た。

「あい、もしもし」

『おはようございます。オンリーワン北駒台店の二ノ美屋です。今から来てくれ』

 連絡は昼にすると聞かされていたはずだが、少年は気にしないことにした。

『早番のアルバイトと連絡が取れなくなった。申し訳ないが、来てくれると助かる』

「あー、まあ、そういうことっすか。わっかりました、なるべく早くそっち行きますんで」

『そうか、ありがとうございます。では、よろしく頼む』

 少年はベッドから降り、身支度を済ませて部屋を出ることにした。



 少年が部屋を出て階段を降りると、背の高い、黒いジャージ姿の女と、見覚えのある活動的な格好をした童女と、ぼーっとした顔の少年がいた。

 同じアパートの住人だろう。急いでいるが、少年は挨拶をすることにした。

「あー、え、へへ、どうも。あのう、引っ越しそばの件は……」

「そば」

「あ、コラ、バカ犬」

 少年がそう言うと、先まで眠たそうに目を擦っていた少年が反応する。犬と言われた彼は、ずずいと少年に顔を近づける。

「そば、ほしかった」

 至極残念そうな顔で言われたので、少年は途轍もない罪悪感に襲われてしまった。

「こ、今度持っていくから」

「いいひと、おぼえた。わたし、いとはら……糸原、太郎」

「たろうくん。ああ、うん。俺も覚えた」

 太郎と名乗った少年はまだ何か言いたそうにしていたが、ジャージの女が口を塞いで邪魔をした。

「えーと、ご家族で朝の散歩ですか」

「あ。ちょっと、私の子供じゃないからね。つーか、そかそか。やっぱりここに住んでたんだ」

「は? いや、まあ、住んでますけど」

「私、糸原四乃。こっちの太郎は、私の父方のばあちゃんの妹んとこの兄夫婦の一人息子の……まあ、遠い親せきで預かってんのよ。そっちの花子ちゃんも似たようなもん」

「ハナコ」

 少年は、昨日出会った童女を改めて見た。花子嬢は鼻を鳴らした。

「糸原花子よ。よろしく」

「ああ、ご丁寧にどうも。そんで、なんか、俺のこと知ってるっぽいんですけど」

 糸原はある方角を指差した。

「アルバイト、面接受かったんだって? 私、あのコンビニのバイトリーダーやってんのよ。で、昨日あんたの履歴書にここの住所が載ってたから」

 少年は納得した。自分の個人情報の取り扱われ方については追及しないことにした。

「マジすか。超先輩っすね。しかも同じアパートとか、バイトめちゃめちゃ辞めづらくなるじゃないすか」

「あははは、辞めてもいいけどそん時はガキどもけしかけるから」

 少年はこのアパートから出て行くことも考えておこうと思った。

「ああ、それじゃあ俺、店に行かなきゃダメなんで」

「え? なんでよ?」

「や、なんか遅刻した人が出たみたいで」

「あー、どうせまたあのアホね。なんかごめんね。でも、後はよろしくぅ。私はパチンコに行かなきゃだから」

「パチンコ……子供連れで?」

 違うわよ、と、花子がつまらなそうに言った。

「私はちょっとそこのコンビニまでウェブマネーを買いに行くだけ。ほら、月末でしょ? ガチャが」

「え、えーと、太郎くんは?」

「わたしは……あ」

 太郎は何か言いかけたが、糸原の鋭い視線に気がついて、何かを誤魔化すような咳払いをした。

「わたしは、し、しごと」

「……そっか。がんばって! それじゃあ、お疲れっしたー!」

 少年は危険を察知することに優れていた。



「おはようござ……いまーす」


「……ろ、六百円です」

「ええ? マジで? なんかまた二重に打ってねえか?」

「あ」

「全然慣れねえなあ姉ちゃん!」


 北駒台店に着いた少年は、忙しそうにして、更に年配の男性客にからかわれている女の店員を見てバックヤードに向かった。


「遅れてすんませー……」


「これで、技術部の天津に続いての昇進か」

「責任を取らされるだけの立場ですが。しかし、やはり子供が出来ると丸くなるものですね」

「『最低』呼ばわりされたやつが、今や戦闘部の部長とはな」

「田中さんは性格さえ忘れれば優秀な方ですから。ああ、それから、情報部の方は、春風さんがまたいなくなったそうですね」

「何をやっているんだ、あいつは」

「気持ちは分かりますよ。春風さんは捜しているんでしょうね、今も。……まあ、降格させられた木麻さんは彼女の穴を埋めるのに必死なわけですが」


 バックヤードには二ノ美屋店長と、スーツ姿の人物がいた。眼鏡をかけた、優しそうな顔をした細身の男である。

 二人が何やら意味深な会話をしているので、少年は入っていくのを躊躇った。躊躇ったが自分にはあまり関係ないと思ったので突っ込んだ。

「はよざいーっす、とりあえず、相方さんの手伝いしたらいい感じっすか?」

「ああ、来てくれたか。すまん、早速で悪いが……」

「オッケーっす。レジのやり方とか、だいたいは知ってるんで」

「頼む。分からないことがあったらヒルデ……ああ、今日の早番のやつなんだが、そいつに聞いてくれ」

 少年は頷き、渡された制服に袖を通す。名札はまだなかったらしく、研修中と書かれたものをもらった。

 その名札を制服の胸元につけている最中、スーツの男が少年に話しかけてきた。

「新人さんですね。初めまして、私はSVの堀と言います」

「エス……ああ、社員さんっすか!」

「いやあ、そうなんですよ。こう見えても。この店、結構、まあ、こういうところがあるから。まあ、気楽にやってください」

 少年は店長の様子を気にしながら頷く。

「っと、それじゃあ私もこの辺で」

「そうか。またな」

「ええ、それでは失礼します」

「お疲れーっす!」



 少年と堀は一緒にフロアに出た。堀はレジの作業に苦戦しているヒルデに挨拶をしてから店の外に出る。彼はどうやら、表に車を待たせているらしかった。

 少年はレジに向かいながら、何気なくその様子を眺める。

「お? おおー」

 表で待っていた車の後部座席から、若い女性が飛び出すようにして降りてきた。彼女は堀に飛びつき、子供のように、無邪気な笑みを浮かべている。

 さっきの堀って人、優しそうな顔してやることやってんだなあ、なんてことを思いつつ、少年は、運転席に座る某に同情した。自分が車を運転していて、後部座席でいちゃいちゃされてはたまらないだろう、と。

「っと……ああー、すんません、お待たせしましたー!」

 少年は気を取り直して、ヒルデのフォローに回った。



 客の波が引いた後、ヒルデはほうと溜め息を吐いた。少年は苦笑した。

「大丈夫っすか? アレっすね、結構この店ってお客さん多いんすね」

「……ん、そうなの」

 ヒルデは安心したように笑ってから、あ、と、少年を見つめた。

「……ええと、ヒルデ、です。これから、よろしく」

「あー、どうもっす。よろしくっす」

 それから、少年とヒルデは世間話を始めた。もっぱら、『シルトはいつも遅刻する』だの、彼がヒルデの愚痴を聞くことが多かったのだが。



 交代の時間が近づいてきた頃、二人の少女が連れ立って店に入ってきた。春めいた格好をした、年下らしき少女たちは目に優しかった。少年は嫌らしい笑みを漏らさないように努めた。

 その内、ポニーテールの少女がレジの方へ駆け寄ってくる。おや、と、少年は不思議に思った。

「おはようございます! ヒルデさん、レジは慣れた?」

「……んん、まだ」

 ヒルデは緩々とした動作で首を振る。ポニーテールの少女はあははと笑った。

「もう半年は経つのにね! にへへー、やっぱりボクのが先輩なんだよねー」

 なるほどと少年は得心する。この少女らもこの店のアルバイト店員らしい。

「ちょっと、立花先輩。そんな言い方ではヒルデさんが傷つきます」

 もう一人の少女が割って入った。彼女はヒルデと立花を見比べてから口を開く。

「レジ打ちなんて誰でも出来ることを誇らしげに言うものではありません。ヒルデさんはほんの少しだけ、人より遅いだけなんです。色々」

「……うう、姫ちゃんは優しいね」

 少年は、少女のフォローもどうかと思ったが、ヒルデ本人は全く気にしていない様子である。

「あれ? そっちの人は? 新しい人?」

 ポニーテールの少女が少年を見つめる。

「今日からの新人っす。先輩方、よろしくっす!」

「おおー、姫ちゃん聞いた? ボク、先輩だって。……あ、ボクは立花真だよ。分からないことがあったら何でも聞いてね!」

「あざっす! そうします!」

 少年は『あ、この立花という少女は色んな意味で面白そうだぞ』と確信した。だが、そうやって邪な思いを抱いていると得体の知れない視線を感じた。

「えーと、そっちの人は……」

「神野姫です。よろしく」

 簡潔に、ともすれば冷淡な風に自己紹介したのは姫と名乗る少女であった。なぜか彼女は少年をねめつけている。

「あの、俺、何か……?」

 姫は少年から視線を外して息を吐き出した。

「いえ、特に。ただ、そうですね。年齢のことはともかく、先輩のことは先輩として敬うべきだと、私は考えています」

「は、はあ、そっすね」

「気をつけてくださいね。さ、行きましょうか、立花先輩」

「ん、そだね!」

 立花と姫が去った後、少年はヒルデを見た。彼女は何のことかまるで分からないとでも言わんばかりに首を傾げた。



「え、先輩のお母さん、またこっちに来てたんですか?」

「うん、そうなんだー。もみじちゃんも一緒に」

「また様子を見に、ですか?」

「そう言ってたよ。家族ってそういうものじゃないの?」

「うちはもっと放任主義ですよ。……あの時ばかりは、家に戻ってから思い切り叩かれましたけどね」

「ふーん。ランダさんは?」

「あの人を見つけるついでに色んなところをぶらぶらしてるって言ってました。今は、ええと、インドネシアとかにいるって。元気だとは思いますよ。メールの返事も早いですし。たいてい、朝早くても夜遅くても一分以内には返ってきます」

「お母さんももみじちゃんも色々なところを捜してるらしいんだけど……」


 立花と姫は家族の話をしているらしい。年相応の悩みもあるらしい。少年は棚の商品が倒れていないかを確認しながら、二人の会話をぼんやりと聞いていた。


「ところで先輩。勉強はしっかりしてるんですか」

「……う? うん」

「先輩は浪人しちゃったから、来年からはもう先輩とは呼べませんね。呼び捨てでいいですか?」

「ええー……姫ちゃんこそどうすんのさ。大学、行くの?」

「先輩と一緒のところに行くのもいいかもしれませんね。勉強、教えてあげましょうか」

「ボクのプライドが」

「もう、アルバイトが終わったら先輩の家に行きますからね」


 交代の時間になり、少年とヒルデはバックヤードに戻った。



「それじゃあお疲れっしたー」

 店長やヒルデたちに挨拶をして店を出た後、少年はどうしたものかと考え込む。大学が始まるのは四月の頭からだ。学校が始まる前に引っ越しを終えて、バイトも首尾よく見つけられて、まだ一週間ほどの時間が残されている。あ、そうだ。これから自分の学び舎となる大学や街を見て回るのもいいかもな。少年の決断は早かった。



 駒台大学は駒台山のすぐ近くにある、駒坂の中腹に位置している。車で通学する学生もいるが、学生の半数以上がこの長い駒坂を歩いて登校する。

「……特に変わったものもない、と」

 少年は坂を上りながら、大学のパンフレットに目を通していた。彼は駒台大学のことをほとんど知らなかった。滑り止めでどうにかこうにか引っかかっただけで、モラトリアムの延長以外にはこの大学に何も求めていないのである。

 そして。構内に立ち入った少年は特に何の変哲もない講義棟やら食堂を見て、何とも言えない思いを抱えるのであった。

「へい、そこのあなた」

 適当なベンチに座った少年がどこで昼飯を食べようか考えていると、少女に話しかけられた。また外人だと彼のテンションがどうしてだか上がった。眩いばかりのブロンドヘアに蒼い瞳。彼女は、小学生にしか見えなかった。

「…………迷子?」

「あ、今アタシのことすごくバカにした」

 馬鹿にしたつもりはなかったが、どうしたって小学生の女の子にしか見えないので少年はとても困った。少女は不満そうに腕を組み、ベンチに座る少年を見下ろす。

「あなた、今度の春から? ここの一回生?」

「おー、そうだよ。君も? 違うよね?」

「ちがわなーい。アタシも今年からここに通うんだから」

 少年はそんな馬鹿なと思ったが、そも、この目の前の少女が小学生ではないのかもしれない。そうであったとして、飛び級なのかもしれないと思った。

「もしかして、君、めちゃめちゃ頭いいとか?」

「ノウ。ンー……コネクション?」

「あ、そういうこと」

 どうやら、少女は真っ当なやり方ではなく、人には大きな声で言えない後ろ暗そうな方法で入学したらしい。深くは突っ込まないでおこうと決めて、少年はベンチから立ち上がった。

「よかったらアタシが案内してあげよっか?」

「や、さっき一通り見たから大丈夫」

「そ? じゃあ、ゼミはどうするか決めた?」

「ゼミ?」

 そう、と、少女は胸を張って答えた。

「ここの大学、一回生からゼミに入らなきゃいけないの。アタシはもう決めたんだけどね。知り合いがいるから」

「へえ、そうなのか。……ちなみに、君はどんなゼミに入るつもりなのでしょうか」

「ツクモゼミってとこ。タテナミって人と、ハヤタって人がいるの。アタシによくしてくれる人たち」

 少年は、九十九ゼミはやめておいた方がいいんじゃないかと悟った。しかし、なんだか話の流れで『あなたもツクモゼミにしたら?』 と誘われるんじゃないかという気がしていた。

「あなたもツクモゼミにしたら? なんか、楽みたいだし。口を利いたげてもいいよ。アタシ、こっちにあんまり知り合いいないし。今だけサービスしたげる」

 やはりか。しかし、少年は楽という言葉に強く惹かれた。

「楽なのか……」

「たまーに図書館の手伝いしなきゃダメなんだけどね」

「図書館? 大学の?」

「ううん、ツクモって先生の図書館。バスに乗って、山の方まで歩くんだってさ」

 少年にとって歩くことは苦ではない。図書館にも少し興味がある。いよいよ、これはこの少女の誘いに乗った方がよさそうな気さえしてきた。

「ただーし。その図書館には死ぬほど口の悪い司書がいるから気をつけた方がいいよ」

「そうなのか。都会ってこええ。あ、そうだ。君さ、バイトはすんの? 俺はコンビニでバイトすんだけどさ、そこも人が足りてるってことはないっしょ。もしよかったら店長さんに聞いてみる……あれ? どったの?」

 少女は先までとは違い、難しい顔をしていた。

「……あー、コンビニは、アタシ、前に辞めたから。遠慮しとく」

「あ、そうなんだ」

「そう。普通の女の子になりたくて」

「喧嘩別れとかじゃあなさそうだ」

「まね。普通に遊びに行ったりもするし」

「ふうん。そうかそうか。そんじゃ、まあ、俺は行くよ。また、学校が始まったら会うでしょ。そん時はよろしく」

「オケー、それじゃあね」



 そういえば、さっきの女の子の名前も連絡先も聞いていない。まあ、マジでまた縁があったら会うだろう。

 少年はそんな風に考えながら、何か食わせてくれと訴えてくる腹を宥めすかせつつ、適当に街をぶらついていた。

 その折、少年は大きな公園の近くを通りかかる。彼はふらふらと、誘われるようにして公園へと足を踏み入れた。

「『自然公園』、か」

 少年は看板と案内図を見遣り、ここには様々な遊具や、休憩出来る場所があることを知った。



 木々に覆われた遊歩道は涼しく、歩きやすかった。街の真ん中に位置していながら、どこか外とは空気が違うような気がして、少年はふと、故郷を思い出した。

 感傷的な気分に浸り、そんな自分を好きになるのもたまには悪くない。少年は歩くペースを落とし、ゆったりとした――――。

「……なんだ?」

 じゃかじゃかと。

 ばしんばしんと。

 公園内のどこかから、騒々しい音が聞こえてきた。何者かが清廉な空気を引き裂かんとして楽器を鳴らしているらしい。ふざけるな。少年は少し腹が立って、音の出所を確かめるべくどしどしと歩き始めた。

 やがて、ベンチが建ち並んだ、休憩所めいた広場に辿り着く。そこには三人の女がいた。うるさいので彼女たち以外に人はいない。

 一人は『バンギャの出来損ないみたいなやつだな』と、少年は心の中で評した。

 あとの二人はメイド服を着ている。ただ、片方のスカートは短く、もう片方の少女のスカートは長くて色気がなかった。

 色気のあるメイドはエレキギターを構えて、じゃかじゃか音を鳴らしている。

 色気のない、眼鏡をかけたメイドはどのように持ってきたのか、ドラムをばしんばしんと叩いている。

 少年の心の声曰く、バンギャの出来損ないの少女は楽器の音に負けまいと必死に声を張り上げて歌っていた。

 不協和音であった。

「やめろー!」

 少年の声は誰にも届かなかった。



 演奏が終わると、三人の少女は少年の姿を認めた。眼鏡のメイドはドラムを適当に叩き、スティックを天に向けて掲げた。

「オーディエンスの皆様、ありがとうございます!」

「俺一人しかいねえし!」

「……ん? あ、お兄さんやん」

 聞き覚えのあるえせ関西弁を耳にして、少年は首を傾げそうになる。ボーカルの少女は自分を指差して笑った。

「うちや、うち。ほら、同じアパートの。歌代チアキ。忘れてもうた?」

「あ、あー。あーあーあー、歌代さん。覚えてるよ。覚えてるけど、なんか、服装ちがくない?」

 チアキは自分の着ている服を見て、それもそうやなと頭を掻いた。

「部屋にいる時は流石に、こういう服は着ぃひんから」

「そりゃそうだ」

「で、何なん? うちらの歌、聞きに来てくれたん?」

 チアキとメイド二人は期待に満ちた目で少年を見る。彼は思った。ここでお世辞を言っても彼女らの為にはならないと。

「いや、ドヘタクソだからやめろって言いに来たんだ」

「なんやて!?」

「なんということでしょう!」

「……だから私は嫌だと言ったのに」

 ギターのメイドは心底嫌そうに息を吐き出した。

「もっと練習した方がいいんじゃないのかな」

「じゃあ、ここで練習していきましょうか」

「うるせえからスタジオでも借りてやってくれねえかな」



 色気のあるメイドはパァラと言った。

 色気のないメイドはナナと言うらしい。二人は姉妹のようで、少年は、メイドの姉妹とかこの街はすげえなとショックを受けた(のち、少年はこの二人とアルバイト先で出会って同僚であることに気づき、更にすげえとセカンド・ショックを受けるのだが、それはまた別のお話である)。

「うちの声は最強に素晴らしいんやけどな」

「……まあ、ボーカルはいいと思う」

 ただ、メイドの二人には歌というか、音楽というものが心底から理解出来ていないような気がした。しかし好きこそものの上手なれ、ということわざもある。それに、彼女たちは人生を謳歌し、心のままに楽しんでいるようであった。

 少年は、温かい目で、それでもってなるべく離れたところから見守っていようと思った。

「あ、うちらそろそろバイトの時間やわ」

「バイトやってんだ」

「ちょっとした、まあ、コンビニでな」

「へえ、三人とも?」

「せや、三人とも同じコンビニでバイトしてんねん」

 そのコンビニは酷く騒がしそうだ。少年は誘われても行かないようにしようと決めた。

「ああ、そういや、あのアパート。他にも人が住んでたんだな。糸原って人」

「あー、あの人な。一応、他にも住んでる人はおるで。今はどっか行ってるけどな」

「ふーん。どんな人?」

 チアキは困ったような顔になった。

「え? あー、えげつない酒飲みと、めんどくさいお嬢様」

「……会ってみたいような、そうでもないような……」

「どうせ、嫌でも会うことになるわ」



 結局、少年は夕方まで何も口にしなかった。ただ、駒台の色々なところは見て回ることは出来た。だからもう腹いっぱいの気持ちなんだと自分を誤魔化した。

 どこか適当な店に入ろうかとも思ったが、せっかくなので、アルバイト先である北駒台店で弁当を買って帰ることにした。

 夕陽を背にして、店内へ。中には客も、店員も、誰もいなかった。少年はこの世界に自分独りだけ取り残されてしまったような錯覚に陥る。異常に心細くなって、その場から一歩たりとも動けなかった。

 体中から水分という水分が奪われていく。からからに渇いた口。声を発することすらままならない。


「……突っ立って、何してるんだ?」


 その声に、少年の体が金縛りから解けたようにして動いた。彼はゆっくりと息を整えて声の主を見る。そこにいたのは二ノ美屋店長だった。

「なにって……立ってたんす」

「まあ、そうか。買い物か?」

「いや、じゃなくて、はい。そのつもりだったんすけど、誰もいないし、なんつーか……」

 ああ、と、店長は呟く。

「ソレが出たからな。うちのやつら、現場に出たんだ」

「ソレ」


 ――――ソレ。

 幻獣とも、妖怪とも、怪物とも、呼ばれる異形の存在。

 恐怖に駆られた人の生み出した神話の概念とも、妄想の産物とも、中には造られた機械だと説を唱える有識者もいる。

 しかし、ソレが何であれ、人に害を成す災厄であることに変わりはない。本やテレビ、様々な媒体から、その情報を得たことは誰にだってあるだろう。この世に現れて欲しい、誰もが一度はそう思ったことがあるだろう。もしくは、本当に誰かがそう願ったから、ソレはこの世に現れたのかもしれない。

 世界は今、線を失っている。

 現実と夢。

 過去と未来。

 生と死。

 ソレが現れてから数年、人類は散発的なソレの被害に悩まされながらも、混沌とした時代を生き延びている。


「……ああ、そっすか。そういうことっすか」

 少年は肩を回し、息を吐き出した。

「俺の住んでたとこって、そういうのなかったんすよ。だからかな。ちょっとびっくりしたのかもしれないっすね」

「初めてなら誰だってそうなるさ。少し、中で休んでいくか?」

「あ、じゃあ、そうします。レジいいすか? 水だけ買ってくんで」



 水を飲み、椅子に座り、人心地がつけば先までの恐怖や緊張が嘘のようであった。少年はさっきのは何だったのかと思いつつ、遠い場所にいる彼女にメールを打った。『俺初めてソレ感じちゃったよー』と。

「店長、すんません。落ち着いたんで、俺もう帰りますね。……どうかしたんすか?」

 店長は目を見開いて、モニタから視線を外せないでいた。少年はてっきり、監視カメラが万引き犯でも映しているのだろうと思ったが、そうではないらしい。店内には誰の姿も見えない。店長が見ているのは、店の外を映しているものであった。

 少年はじっと目を凝らす。外には、一人の男がいた。少年とさして背丈の変わらない、くたびれたコートを羽織った男である。普通の、人間の男だ。そのはずなのに、妙な違和感を覚えた。

「店長。この人、知り合いの人っすか?」

「あ……うん、そうだな。知り合いだ」

 では、なぜこの男は店の中に入らないのだろう。店長は男と会おうとしないのだろう。少年はこれまでの頼りない人生経験をフルに活かして、まあ、そういうことなのだろうと勝手に解釈した。

 そうやって何もしないでいると、店の外に誰かがやってくるのがモニタに映った。勤務外の仕事に出ていたここの店員だろう。三人いるが、全員女性だ。見覚えがあるが気のせいだろうと思い込む。その三人ともが店の前にいた男の存在に気がつき、駆け寄っていく。

「あ、もしかして、ここで働いてた人、ですかね」

「……一年ほど前、この街に『火の雨』が降ったことは知っているな? 『偽の黄昏』とも呼ばれている、アレだ」

「ああ、あの……」

 少年は何か言いかけたが、言葉を選んだ。事件の当事者でもない自分の好き勝手な感情を交えて話すのはどうかと思ったのだ。そして。目の前にいる人は、間違いなく『火の雨』に降られている。

「ソレが山ほど出たんすよね。そんで、犠牲者の数も……そん時、俺は高校生で、学校とか、テレビとか、ネットとか、かなり取り上げられてたっす」

 ただ、具体的な情報は全くと言っていいほど分からなかった。どのようなソレが現れたのか、当時この街で何が起こっていたのか。淡々と、犠牲者の名前が流れるばかりだった。

「もしかして店長たちが……」

「まあ、そうだな。私たちもやれるだけのことはやったよ。ただ……お前はもう、あの隕石を見たか?」

「あの馬鹿でかいやつっすよね。見ました見ました。駒台着いてすぐに」

 写メも撮って隕石の近くでかなりはしゃいでしまったが、そのことは店長に言わなかった。

「そう。あのクソ馬鹿でかい隕石が落ちれば、この街どころか周囲一帯がどうにかなっていたはずなんだ。この街のソレを全滅させたって意味はなかった。もっと大きな敵が私たちの真上にいたんだからな」

「でも、あの隕石の落ちたところって、そうでもなかったっすよ。普通、あんなもんが落ちてきたら、もっとでっけえ穴とか出来るじゃないすか」

「そうはならなかった。たぶん、止めてくれたんだ」

「止めたって、隕石を? 誰がっすか?」

 そこで、少年はモニタに映り続けている男の正体に思い至った。

「……この、人が?」

 店長は小さく頷く。ああ、そうかと、少年は納得した。今日会った駒台の人たち。その内の何人かが話題に上げて捜していた人物とは、この男のことだったのだ。

「店長」

「なんだ」

 少年はモニタに映っている男を指差した。

「好きだったんすか」

 ふ、と、店長は笑みを零した。

「そう見えたか」

「俺、店長ってもっときつい人なのかなとか勝手に思ってたんすよ。でも、この人を見る目って、なんか違うなーって。あ、違ってたらすんません。忘れてください」

「特別な気持ちはある。親戚のガキ……家の近くに住んでるガキを見るような、そんな感情だよ」

「あー、そういうやつすか」

「そういうやつだ」

 店長はたばこに火を点けないで、それを口に咥えた。

「君には話しやすいな。つい、口が滑った」

「俺がなーんも聞かないからじゃないすか。なんでオンリーワンなんかで働いてんすか、とか、皆は一体誰を捜してんのとか。そんで、俺が事情も何も知らねえ、完全、全くの他人だからっすよ。大事なことって、こいつ大事だなーって人に話せない。そんな時って、結構ないっすか?」

「……ああ、まあ、かもな」

 でしょ。少年は笑った。

「逆に、聞いていいか? お前はどうして駒台に来たんだ?」

「どうしてって。なんつーか、それしかなかったからって感じっすね。あの、俺の実家って自営業なんすよ。親父とはちょっと仲悪くって。で、高校出て家の仕事継ぐのもなあ。あー、でも彼女もいるし。……って、迷ってたんすよ。そしたら、滑り止めで受かったんすよね。大学。ちょっと、遠くにも行ってみたい、とか思って。……なんとなくっすよ。もしかしたら、ここに来てなかったかもしんないですし」

「そういうものか」

「割かし、人生ってそんなもんじゃないかなーとか思ってます」

 店長は喉の奥でくつくつと笑った。少年の答えが気に入ったらしい。

「俺、よく分かんないし、あんま深く聞くつもりもないっすよ。けど、今店に来てる人って、今の今までどこに行ってたか分かんない人だったんすよね。もしかしたら、生きてるのかどうかも分かんなかったって感じで。だったら、絶対会った方がいいすよ」

「……そう、だな」

「うぃす。そっちのがいいっす。……そんじゃあ、俺、帰ります。なんか、外すげー人が増えてきてるし」

「帰るのか?」

 店長は気を遣っているのだろうが、少年はそこまで空気が読めない男ではなかった。

「お疲れっす! シフト、また連絡してください!」



 少年は店を出た。

 モニタに映っていた男は、やはりそこにいた。夢でも、幻でもないらしい。

 男の周りには色々な人がいた。今日、少年が駒台で会った人たちも、そうでない人たちも。

「……?」

 ふと、男が少年に気づき、右腕で手を振ってきた。少年は小さく頭を下げて、その場を後にした。



 駒台の街にやって来た少年。名は八百坂征人やおさか ゆきひと

 彼が駒台大学に対して抱いた感想と同じく、何の変哲もない、普通の人間である。

 ただし、二ノ美屋は八百坂の性質を見抜いていた。軽薄そうで、その実、そこそこ軽薄。思慮が深そうで、そうでもない。人を見る目はあるが、まだ上手く自分自身を見つめられない。妙に楽天的だが、異形への恐怖心を覚えて警戒することも出来る。はたまた――――……要は普通なのだ。どこまでも普通の人間で、だからこそ、この街で長く暮らすには向いている人物と言えるのかもしれなかった。

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