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24時間戦う人たち  作者: 竹内すくね
アーサー・ペンドラゴン
312/328

ボクらの歴史

 老若男女、ひとたび生を受けたなら、誰にとっても平等なものがある。死だ。生きているなら必ずそれは訪れる。誰にとっても真に当然かつ平等なものならば、死んでしまったとて無念を抱えて化けて出る者はいないだろう。しかし、違う。訪れるのは当然でも機が違うのだ。死は平等だが聊か理不尽なきらいがある。

 夢が叶う寸前で。怨敵の前で。若い身空で。

 死は訪れた者だけでなく、近しいものに様々な感情を齎す。誰かの死が誰かの生を変える。……本来、死者は生者に関われない。死者が何かを成すことはありえない。そう、生者こそが自らの意志によって死者と関わるのだ。



 閃く刃。吹く刃風。剣と刀が衝突し、夜空に火花を咲かせている。七色の橋のもと、立花真と『円卓』のテュールが、魂を削り合うような攻防を繰り広げていた。

 一合打ち合うたびに立花の顔色が悪くなる。彼女の得物である雷切は、主の代わりに気を吐き続けているようだった。

「どうした」

 テュールが言う。

「どうしたっ」

 繰り出される斬撃。そのどれもが致命的。掠めただけで行動不能に陥らされる。戦闘が長引けば長引くほど地力の差が如実に現れる。立花はもはや勝ち負けのことを考えられなくなっていた。自分の生き死にを思いながら刀を振る。

「どうしたあ!」

 雑念の宿った一撃ではテュールに及ばない。そのことを分かっていながらも、立花の脳裏には死が過ぎる。その残像が残り続ける。

 死闘は続く。その光景を見つめる、二つの目があった。



「……押されてるじゃないか、立花は」

 使い魔を介して視る立花の旗色は悪かった。『館』の魔女ランダは、ソレの死骸が転がる建物の屋上で独り言つ。

 ランダの隣には神野姫と由布椛の姿もあった。二人はランダと同じ光景を見られていないが、この街を取り巻く独特の空気は肌で感じられている。

「立花が殺されそうなんですか?」

「それはないだろうね」

 ランダは咄嗟に嘘を吐いた。そうだと言おうものなら、姫はすぐにでも虹の橋へ向かってしまうだろう。ただ、彼女が行ったところでどうにかなるレベルの話ではない。立花とテュールの戦いに割って入れるものなどこの世にはいないのだ。

「あんたは行かなくてもいいのかい」

「影っすから」

 椛の顔からは感情らしきものが消えている。押し殺しているのだろうと、ランダは推察した。

「お嬢様を見守るのが烏天狗の仕事なんです。どんなことがあろうと、表に出ちゃあいけない。お嬢様に見られちゃいけない」

「そのお嬢様が危ない時もかい」

 椛は拳を握りしめ、ぎりりと歯軋りする。

「あたしにはあんたを止められない。好きにすればいいじゃないか」

「あ、ぼ、ボク(・・)は」

 椛は空を見た。曇天と七色に輝く橋を認めても、彼女の身体は動かなかった。



 後悔はある。未練もある。それを情念、執念、妄執と、そう呼ぶのなら好きにすればいい。与えられた機会と見過ごせない戦闘を前にして、さあ行くぞと声を荒らげない者がいるものか。

 少年は空を見上げる。

 彼は返り血を袖で拭い、なくしたはずの感触に身を震わせた。

 足がある。腕がある。この身体には自分という魂が宿っている。ならば何を恐れることがあるのだろう。どうせ一度は死んだ身だ。戦いの中に埋没し、その中で歓喜の声を上げればいい。

「……あ」

 だが、少年は見てしまう。死ぬ前に置いてきたものを。

 彼は駆けた。戦場ではなく、在りし日の思い出へと向かって。そうして。息せき切って扉を開けた。見えたのは光か。あるいはくらがりか。



 虫の知らせという言葉がある。

 よくないことが起こりそうな時、胸がざわつくような感覚を覚えることだ。

 とある建物の屋上で立ち尽くしていた姫は、ふと、そのような感覚を覚えた。そう言えば、と、『館』には体内で虫を飼う魔女がいたことを思い出す。

 姫は何の気なしに振り返った。閉めていたはずの扉は開かれていて、そこに、いるはずのない者の姿を認めた。

 いたのは少年だった。ツンツン頭で、学ランで――――。

「にい、さん……?」

 そんなはずはなかった。

 姫の兄、神野剣は死んだのだ。殺された。ミノタウロスに――――否、立花真に。

 だが、血の繋がった家族の姿を見間違えるはずもない。姫は何度か瞬きを繰り返して、それでも状況が掴めなかった為、にへらと笑った。

 姫の歪な笑みを見遣り、屋上に現れた少年、神野剣は顔をしかめた。

「なあ、姫。お前は生きてるんだよな?」

 その言葉を聞いた瞬間、姫は全てを察した。

 神野が声を発した時、ランダと椛も彼の存在に気が付く。

「お二人の知り合いっすか? ……いや、確かこの子は」

「そうか」

 ランダは安堵の息を吐き出した後、寂しそうな顔で笑んだ。

「あんた、呼ばれたんだね」

「ああ、そうか。あんたが」

 神野もまた、ランダと似たような笑みで返す。

「あんたが姫を守ってくれてたんだな」

 ありがとう。そう言って、神野は頭を下げた。

「どうして」

 椛は言いかけて口を噤む。彼女は知っていた。神野はミノタウロスに殺されたが、ある意味、『立花』に振り回されて死んだようなものなのだ。

 神野は椛のことを知らない。何とも言えない表情で自分を見つめている彼女の存在に首を傾げた。

「あんた誰だ? まあいいか。俺さ、未練とか、そういうのがあったんだよ。自分じゃあそういうの感じる前にやられちまったから分からなかったんだけどさ。……だけど、死んでから気づくこともあるんだな。俺は死にたくなんかなかったんだって」

「……あ。あ、に、兄さん……! ごめんなさい、ごめんなさいっ。私……」

 神野は緩々と首を振り、姫の頭を撫でてやった。

「俺は、誰も怨んじゃいないから」

 姫は泣き止むことが出来なかった。神野は自分の『晴れ姿を見たい』と言っていた。もう、花嫁衣装を見せることは出来ない。彼女は自身の泣き声で湧き上がる雑音を誤魔化している。後悔しても遅い。悲しむことよりも憎むことよりも先にやらねばならぬことがあった。姫は兄の死を受け入れ、悼むべきだったのだ。

 自分は魔女だ。

 神野姫は魔女だ。神野はそのことを知っているに違いなかった。だから姫は全てを棚上げにして泣き続ける。

「いいんだ」

「でも、でも……!」

「お前はやっちゃいけないことをしたんだよな。父さんと母さんが悲しむようなことを。でも、いいんだ」

 姫は死にたかった。神野の優しげな声が嫌だった。何が魔女だ。何が仇だ。結局自分は何も出来やしなかった。誰かを憎むことですら中途半端にしか出来なかった。

「お前が世界中の人を敵に回しても、俺だけはお前の味方だから。安心しろって。お前が嫌な思いしてたら、俺は化けてでも出てきてやるから」

「……洒落に、なってません」

「バーカ。それくらい姫のことを思ってるってことなんだよ」

 だから。そう言って、神野は姫を自分の方へと向かせる。

「立花のことを……いや、姫。お前は、お前のことを許してやれ」

 姫は神野の顔を見られなかった。何もかもを見透かされていたような気がして、彼女は強く自分を恥じた。

「兄さんは、やっぱり兄さんなんですね。私のことを何でも分かっちゃうんだ」

「自分のことを傷つけるのは、頼むからやめてくれ」

 姫は返事をすることが出来なかったが、神野は満足げに頷いた。



 ランダは姫と神野のやり取りをじっとりとした目で見ていた。彼女自身もそのことに気づき、頭を振る。

 姫から、彼女の魂から、彼女を縛っていた怨念が立ち去るのを感じた。

 ランダは二人の関係が妬ましかった。結局、姫を止められたのは自分ではなく、神野だった。生者が死者に負けたのだ。

 自分はただ姫の肉体を守っていただけに過ぎない。彼女の心を安寧に導くことは叶わなかった。そう思うと、ここに至るまでの道程が酷く虚しいものに感じられた。

「ランダとか言うんだっけな、あんた。なあ、立花はあそこにいるんだな?」

「……あ、ああ。あの、虹の橋の上さ」

 神野に問われ、ランダはハッと顔を上げる。

「げ。やっぱりそうかよ。さて、どうすっかな。俺もこうなっちまうと空を飛べないし」

「どうするって、あんた……やる気なのかい?」

 ランダは姫を見遣る。彼女は、神野にここから立ち去って欲しくなかった。姫の傍にいて欲しかった。

「その為に俺はここに来たんだ。それに、時間がない。あんたも魔女だったら少しは分かるんじゃないか」

「それは」

 神野剣は死んでいる。彼は確かに両足で地面の上に立っているが、仮初の肉体に過ぎない。今の神野は魂だけの存在だ。魔法を扱う魔女と言えど、死者を蘇生させるようなものは使えない。そも、そのような術も法もこの世には存在しない。

「持って夜が明けるまで。それが俺の最後の時間なんだ」

「残り少ない時間を戦いに費やすってのかい」

「違う。戦いたいから戦うんじゃない。俺は……」

 神野はいつの間にか、竹刀をその手に携えていた。

「みんなを守りたいから戦うんだ」

 彼の言葉に嘘はない。そのことが分かったから、ランダは何も言えなくなった。

「坊ちゃん。ボクが連れていきますよ」

「……あんたが?」

 神野に問われ、椛は頷く。

「ひとっ跳びってわけにゃあいきませんが、あすこの虹までなら、どうにかなりますんで」

「分かった。頼む」

「兄さん」

 ランダはぎくりとした。この期に及んで姫が厄介なことを言い出すかと焦ったのだ。だが、姫はもう覚悟を決めているらしい。その目は以前のように暗く淀んではいなかった。

「立花さんのところへ行くんですね」

「ああ」

「あの人のことが好きなんですね」

「ああ。俺は、あいつの剣にも惚れてるんだ」

 姫は静かに微笑み、ランダを見遣った。

「お師匠。お願いします、手伝ってください」

「なんであたしが勤務外なんかの……」

「お願いします」

 ランダは姫にじっと見つめられて言葉に詰まった。ランダは勤務外の手伝いをするのが嫌なのではない。『神野』の手伝いをすることに対して引っかかっている。

「しーしょーう?」

 しようがないなあと言った風に息を吐くと、姫はランダの耳元で囁いた。

「魔女を辞めるつもりはないですから」

「…………は?」

「だってもう、この力は私の一部になったんですよ。魔女まで辞めたら、私は私じゃあなくなってしまいます」

 ランダの胸が少しだけ躍る。同時に彼女は自分を嫌悪する。

「今まで自分がやったことを嘘にしたくないんです。ただ、自分を苛めるのは止めにします」

「そうだね。もっと、上手い使い方があるはずさ」

 魔女は所詮、魔女だ。どこまでいっても魔の法を操るモノでしかない。だが、と、ランダは期待せずにはいられなかった。何せ他ならぬ自分が変わったのだ。物を壊し、他者を害すことしか能のなかった自分に何かを癒せる力が備わったのである。

「おーい、姫? なんだってんだよ?」

「お願いしますね」

 姫はランダから離れていき、神野に何かを手渡していた。

 諦めたランダは魔力を練り始めて、上を見た。



「そんじゃあいつでもいいっすよ」

「はいはい、こっちもいつでもオーケーさね」

 椛は神野を後ろから抱えていた。ランダは頷き、屋上の地面に手を当てる。

 その様子を見た神野は、少しだけ嫌そうな顔をして口を開いた。

「魔法陣か」

「トラウマになってるなんてやわなことは言わないどくれよ。あたしらはどこまでいっても魔女なんだからさ」

 青白く、淡い光。輝きを放つ線は幾何学模様を描き、地面を覆う。やがて屋上中に広がった魔法陣は一際強い輝きを放出し、軋み始めた。

「陣の上に乗りな。いーいとこまで連れてってやるよ」

 神野と椛の二人が陣の中央に立ち、光に包まれる。姫は彼のもとへ駆け寄ろうとしたが、必死でその気持ちを押しとどめた。

「姫。行ってくる」

「……あ。うん。うん、いってらっしゃい。気を付けて」

 光が掻き消えるのと同じく、陣から灰色の物体が召喚される。

 灰色で、巨大な骨だ。それは神野も以前に見たことのある、死者の怨念によって生まれたがしゃどくろというソレであった。

「おい、あんた! こいつで何するつもりなんだ!」

「梯子の代わりさ」

 神野は、召喚されたがしゃどくろの頭部の上に乗り、一瞬間、目を瞑る。

「振り落されるんじゃないよ!」

 神野は片手を上げて答える。既に彼の視線は虹に釘づけされていた。

「坊ちゃん。そのデカブツは?」

 椛は、神野が持っている箱のような物体を指差す。

「ああ、こいつは……おおっ!?」

 がしゃどくろの胴体までが現れて、ソレの頭部に乗っていた神野はバランスを崩しかける。

 空が近づく。屋上が離れる。冷たい風が肌に突き刺さる。一度死んだはずではあるが、神野はこの期に及んで恐怖を覚えた。

 椛は神野を抱えている腕に力を込める。

「大丈夫っすよ。お嬢様もきっと無事です」

「お嬢……そういや、あんたって」

「『立花』の守役っつーか、お嬢様の付き人みたいなもんです。由布椛。一つよろしくっす」

「立花の? そっか。なんだよ、そっか!」

 椛は首を傾げた。神野が嬉しそうにしていたからだ。風の音がうるさくなり、彼女は大きい声で尋ねる。

「あいつ、友達なんかいないって言ってたから! でも違うじゃんか、椛、お前がいたんだよな!」

「へっ? いや、そうじゃなくって!」

「立花のことを見ててくれたんだろ。だったら誰がどう思おうが、友達なんだよ、そういうのって!」

 椛は立花と話したことがない。顔を合わせたことすらない。ただ、神野にそう言われると、そうなのだという気がしてくる。彼女はそこで気づいた。これが普通の学生が持ち合わせる感性なのだろうと。

「坊ちゃん、あんたがお嬢様の友達でよかった! ボクはそう思いますよ!」

「あー、そうか?」

 椛からは見えなかったが、神野は苦笑いを浮かべていた。

「友達でよかった、か。ああ、そうかもな!」



「姫。あんたがやればよかったんじゃないのかい」

「私がって。何がですか」

「……あんただって、あの烏天狗の子みたいに飛べるじゃないか」

「そうですね」

 姫はその場でしゃがみこみ、神野たちの背をじっと見つめていた。

「やっぱり、身内の前で『館』の力を使うのが嫌だったとか?」

「それもあります」

 ああ、と、ランダは得心したように息を吐く。

「兄さんは、私から兄さんを盗った人のところに行くんですよ。その手伝いをするのは嫌なんです。せめてもの抵抗ってやつです」

「あたしゃ、てっきりあんたがこう言うんじゃないかと思ってたよ。『行かないで』ってさ」

「そんなこと言ったってしようがないですし、言う前に、もう、行っちゃいましたから。私、結局全部諦めたんです。どうしようもないですよね。きっと、地獄に落ちるんだ」

「ああ、そうだね。あんたは死んだら地獄に落ちる。あたしが保証してやるよ」

 ランダは姫の頭を撫でて、ひひひと笑った。

「それが嫌で兄貴と同じ場所に行きたいんなら、せいぜい、いいことをするんだね。神様が許してくれるようなことを」

「……いいことをしても悪いことをしたって過去はなくなりません」

「だからと言っていいことをしないってのも違うんじゃないのかなあって」

「師匠?」

 姫は、ランダを軽蔑するような目で見ていた。

「魔女が何を言ってるんですか。人に嫌われるのが『わたしたち』でしょうに」

「まあ、決めるのはあんただ。ただね、あたしは思うんだよ。あんたの兄貴はそれこそ本当に化けて出た。死んでも尚、この街のやつらを守りたいって思ってたんだろう。でもさ、もう叶わないんだよ」

 がしゃどくろは既に下肢部分まで露わになっている。高さで言えば十メートル以上だが、それでもまだ虹の橋には届かない。

「使い魔を飛ばして見てた。この街には今、死人が溢れてる。死者の魂が化け物どもと戦ってる。奇跡だと思うよ。そんな都合のいい魔法なんかないからね。起こってるのは正しく神様の御業ってやつさ。だから、いいじゃないか」

「何が、ですか」

「そういうの。都合のいい奇跡を信じても。都合のいい神様がいるんだって。あんたがあの世で兄貴と会えるような奇跡があってもさ」

 ランダは屈託のない笑みを浮かべた。一度は失くした。あるいは捨てた。何の呪いもない、耳触りのいい言葉を述べるのは思っていたよりも気持ちのいいものであった。

「でも、その奇跡も今夜で終いさね。だからそこからはさ、姫。あんたが兄貴の代わりにこの街を守ればいいんだよ」

「そんなの……考えられません。私が人を守るなんて」

「今はいいよ。でも、先のことを考えとくれ。お願いだ」

 ランダにとっては正義も悪もどうでもよかった。姫が生きてくれさえすれば、死人に導かれた未来であっても構わなかった。



 ああ。

 ああ、と。

 虹を目指していた神野は内心で安堵し、落胆していた。

「坊ちゃん。この骸骨もそろそろ打ち止めみたいっす」

「んー? あ、そうなのか?」

「そうなんすよ。なもんで、これからボクが飛びますけど、ビビらないでくださいよ」

 椛に生返事を寄越すと、神野は地上を見つめる。


 ――――やっぱ死んでんだよな、俺。


 お前は確かに死んだのだと誰かに告げられたわけではなかった。何かの間違いなのかもしれない。神様とやらの手違いだったのかもしれない。そう思いたくもあったが、自分を見た姫の反応が全てを物語っていた。

 姫の傍で二度目の生を終えたい。そんな気持ちも、もちろん残っている。たとえそれが両者にとって、一時の慰めにしか過ぎなかったとしてもだ。

 陽だまりを振り切り、行きつく先は血が香る冷たい戦場だ。神野は自分の意志でその道を選んだ。

「分かってたけどな」

「何か言いました?」

 重ねた経験。歩んだ足跡。全てが消えてしまった。いや、とうに消えていた。神野剣の歴史は終止符を打たれていて、それでも彼は前を見ることを止められない。

「行きますよ!」

「頼んだ!」

 神野はぐっと息を呑む。椛はがしゃどくろの頭を蹴って飛び上がった。ソレの骨が軋んで、砕ける。

 烏天狗によって上昇する体。風を切り裂く感触。仮初ながら生の充足を覚えて、神野はぶるりと身を震わせた。

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