Beyond the Bounds
巨人の首が刈られるより少し前、技術部からは戦いの音が止んでいた。
隔壁の向こうで様子を窺っていた加治のところへ、何かがやってくる。放物線を描いたそれは、四つの首だ。トゥイニー、ドリィ、ルウム、チェインの首だ。娘たちの、恋人たちの首だ。
「ぐっ、うううううううっ、おおおおオオおおオォおおオオオオッッ!?」
足元に転がる首を見て、加治は涙を流しながら吼え声を上げる。彼は自分の心が壊れてしまうかと夢想した。途轍もない怒りによって狂ってしまいそうになる。だが、加治はすんでのところで踏み止まった。
「……マスター。私がいます。パァラがお傍におります。いつまでも」
車椅子に乗った加治の身体を、パァラが優しく抱きしめる。彼女によって加治は救われた。
「なるほど。あなたもまた、心というものを知っているのですね」
瓦礫となった隔壁の一部を踏み越えながら、ヴィクトリアンスタイルのメイドが現れる。彼女は――――ナナは、造物主を見遣り、眼鏡の位置を人差し指で押し上げた。
ナナを認めると、パァラは加治の前に立つ。彼女の表情は、人形特有の無機質なものではなかった。主を愛しみ、全てを捧げようという使命感が滲み浮かんでいる。
「姉さんと、そう呼ぶべきなのでしょうか」
パァラが問う。
「私の妹。パァラと、そう呼ぶべきなのでしょうか」
ナナもまた問い返す。
二つの自動人形は、今や二人の人間として、この場に存在していた。
パァラは腰を低く落とし、構える。上げた両の拳の間から、決意を秘めた瞳が覗いていた。その姿はナナとよく似ている。
「私は私の主を守る。主は、あなたを憎んでいる」
「ナナも、ナナのマスターを守りたいのです。今、私の背に忠節を誓うべき主はいませんが、あなたに負けるつもりはありません」
「では」
「はい。これ以上の言葉は無粋かと」
ナナもまた、同じ構えを取り、応じた。
先に仕掛けたのはナナだった。彼女は瓦礫を蹴り上げ、それをパァラではなく、加治に向けて放った。
パァラは瓦礫を殴り、砕く。だが、挙動が一つ遅れた。ナナのブレードがパァラの肩に食い込む。刃は折れず、自動人形の装甲を容易く貫いていた。……今剣を再構成した刃である。バターのように切り裂かれる装甲を見遣り、パァラがナナを押しのけて距離を取った。だが、彼女はその場から動かなかった。
「脚部パーツに異常でもあるのですか?」
「いいえ。何も。何も問題はありません」
動けなかったのである。パァラの後ろには加治がいる。ナナは、彼を狙うつもりであった。
主の存在は従者に力と、力の行使に値する理由を与える。守るべき者の存在は適度な緊張と重圧を与える。だが、同時に枷にもなりうるのだ。
ナナは小型のガトリングガンを袖口から出し、躊躇いなく発砲する。間断のない甲高い音が響いた。パァラは両腕を広げ、加治の盾となる。鉛の弾が彼女の装甲を砕くことはなかったが、メイド服はぼろぼろになっていた。
卑劣だと罵ることはない。パァラは、ガトリングの弾が切れたところを見計らい、ナナに飛び掛かる。膝蹴りも、着地からの掌打も、パンチの連打も、その全てが躱され、捌かれ、防がれた。
ナナは攻撃の切れ間を衝くと、パァラの高く上がった足を掴み、もう片方の手で彼女の胸を押す。両手を円を描くように回せば、パァラの身体が地面に叩きつけられる。彼女の知らない技で、彼女にはプログラムされていないものだった。
「はしたないですが、失礼」
仰向けになったパァラを踏みつけると、ナナはスカートの中に手を突っ込む。その手には、スタンガンが握られていた。
「我々には中途半端な打撃も銃撃も通用しませんが、電撃なら如何でしょうか」
「そんなものっ……!」
パァラが両腕に力を込めて体を持ち上げ、無理な体勢から蹴り上げる。ナナはそれを躱し、再び彼女を踏みつけた。
「例えば、ここで私があなたを起動不可能な状態に追い遣るとしましょう。私は次に、加治氏の殺害を目論みます。あなたはここで、主の死亡を見届けるしかないわけですね」
「遊戯のつもりですかっ」
「いいえ。『心理戦』というものです」
踏みつけていた足から僅かに力が抜ける。パァラは体を起こし、腕を上げ、銃口を向けた。ナナが身を引き、数十発の弾丸が天井を抉る。穿たれた破片を浴びながら、パァラが体勢を整えた。彼女とて計算し、理解している。自分たちは加治の好みによってスペックを弄られた。天津ら技術部は採算と安定性を度外視し、我が子可愛さにナナを強化している。戦闘データも大部分が渡されていないはずだ。差が出るのは当然であった。
「私のマスターはやらせないっ!」
性能差を理解しても尚、パァラは戦闘を続行した。そも、彼女に撤退、逃走は許されていない。ナナは少しだけ、悲しそうな表情を浮かべた。
「戦闘……続行……!」
鉄製の杭がパァラの腰を貫く。ナナが投擲し、今も持っているのは『一途』の予備弾であった。二度目の投擲により、パァラの肩に穴が開く。
「損傷度は三十パーセントを超えたと言ったところでしょうか。先はあのような発言をしました。ですが、降参してはいただけないでしょうか。正直なところ、私としてはこれ以上同型機を破壊するのは心苦しいのです」
パァラは損傷の状況を確認する。右肩部、大破、使用不可。左肩部、健在。腰部、中破。以外の箇所、オールグリーン。彼女は左腕を素早く掲げた。ガトリングの弾数は残り少ない。通用するとも思えない。しかし、撃つ。
銃弾がナナの装甲に当たり、弾かれた。削ることすら出来なかった。彼女は首を振り、『一途』の杭をスカートの内、大腿部につけたベルトに戻す。そうして、袖口から素肌を覗かせた。人間のそれと変わらず、肌理の細かいものであった。
「これは、あまり使用したくなかったのですが。仕方がないですね」
手首を回す。がちゃりと、ナナの内部から音がした。パァラは、何かしらの機能が切り替わったのだと警戒を強める。
「コンセプトこそ気に入ってはいるのですが、少し、無骨なのです」
左の袖口を捲り上げると、ナナは、手首を外した。ぽっかりと空いた穴からは、微かな異音が聞こえてくる。彼女は外した左手首をポケットにしまい込んだ。
「……ですが、あなたが相手で良かった」
ぎゅいいいいいいいいいいいいいいんん!
開いていた穴から、場違いな音が聞こえ、刃のついた円錐形の何かが先端からゆっくりと姿を見せる。筍のようなそれは紛うことなき、
「な、何ですか。その、不合理な武装は……」
「これは、男子の浪漫という武装です」
ドリルであった。
そのドリルはナナが使用するブレードと同程度のサイズである。トルク数を落としている為、反動は少ない。だが、威力は折り紙付きであった。運用に関しては至極単純である。突けばいい。それだけだ。直撃せずとも、高速で回転する刃に触れれば自動人形の装甲と言えども無傷では済まない。そも、この武器は天津らが対自動人形戦を想定して作っていたものであった。
「岩をも通す女の……『一念』といいます」
「そっ、そんな、そんな馬鹿な武器で破壊されるなんて」
凶悪な音が周囲の音を掻き消している。鈍色に輝くドリルが唸りを上げていた。
「今宵の『一念』は血に飢えています。さあ、始めましょう。あなたの主共々、貫通して差し上げます」
ナナはわざとなのか、ゆっくりと距離を詰める。パァラは動けなかった。仕掛けたところで、勝率は零から変わらなかった。
「待ちなさい」
「……ふふふ」と、ナナが加治を見て嫌な笑みを見せる。意地の悪い、根性の捻くれ曲がった笑みだ。パァラはそこで理解した。彼女が心理戦とやらを仕掛けていた相手が自分ではなく、加治だったのだと。
トゥイニー。ドリィ。ルウム。チェイン。キープ。死んでいった娘たちを思い出す。……娘を殺したモノが憎い。憎かった。出来ることならこの手で、殺してやりたい。彼女らを殺したナナが憎い。だが、自分の目の前で繰り広げられる骨肉の争いは、加治から意志というものを奪い取った。憎いが、愛しくもある。何より、ナナとパァラが戦うことが辛かった。彼女らが壊れるようなことがあれば耐えられない。これ以上は理性を保っていられそうにない。
加治は人間を嫌い、蔑んでいる。歪み、曲り、修正は叶わない。しかし彼の娘に対する思いは本物であった。
「もう、いい。やめてくれ」
「マスター、何を」
パァラが振り返る。彼女の体はぼろぼろだった。加治は一筋の涙を流す。彼の声は枯れ、顔には強い疲労の色が浮かんでいる。
「いいんだパァラ。これ以上は、限界だ。……試作七号機。いや、ナナ、か。どうか、この場は収めてくれないだろうか」
「無論、私としてはその心算でした」
ドリルの音が止む。ナナは円錐形のそれを戻すと、手首を元の位置にはめ込んだ。
「しかし、条件があります。あなたの命です。流石に、『円卓』のメンバーを見逃すほど甘い話はありません」
「マスター、斯様な甘言に乗る必要はありません」
「分かった。呑もう。これでも『円卓』の五席に座る者だ。覚悟ならとうに出来ている」
何故ですかと、パァラが悲痛な声を上げる。加治はゆっくりと首を振った。彼は『円卓』のメンバーだが、かの王に忠誠を誓ったわけではない。彼からは鍛冶神の知識と技術を提供し、王は復讐の機会を与えてくれるという契約に乗ってやっただけだ。そして、復讐は完遂している。弱ったアレスを袋叩きにして、殺害した。神は死ぬ。肉に縛られた体に宿る限り、誰であっても。
――――未練たらしくも、現世に、このような身で。私は、いったい何をしたかったのか。いや、私は、何をさせられようとしていたのだろうな。
目的は達した。抵抗する気はない。娘らと戯れないのは残念だが、充分なほどに楽しめた。この先、『円卓』がどうなろうと加治には興味がない。
「惰性で乗っかった時流、か。ナナ。パァラの身の安全だけは保障してくれるね?」
「勿論です。彼女は私のかわいい妹ですから」
「それさえ聞ければ、まずは満足。やりなさい」
加治が自らの心臓を指で示した。パァラが止めようとするが、彼が、彼女を声で制した。ナナは間を置いてから頷き、袖口からブレードを露出させる。
「いっ、いや! いやですっ、マスター!」
すまないなあ、と、内心で謝った。
「では、おさらばです。おじいさま」
「ああ、さようなら。私のかわいい娘たち」
「ナナ。お前が手を汚す必要はない」
ぱん、と、乾いた音が一つ。ナナは、加治の額に穴が空いたのを間近で確認した。彼女がやったのではない。やったのは天津たちだ。
「……ぐっ、う、よくも、よくもっ」
「ああ、いけません」
パァラが天津たちの元へ銃口を向ける。その瞬間、ナナが彼女の腕をもぎ取った。次いで、足を。最終的に四肢を千切られたパァラは、恨みがましい目つきでナナたちを見据えた。
「そんなにっ、そんなにマスターが憎いか! よってたかって、こんな……!」
「さあね。でも、今にして思えば、憎くはなかったのかもしれない」
天津がその場に座り込む。彼らは皆、疲れ果てていた。傷つき、血を流し……それでも、笑っていた。相手を侮るような類ではなく、互いの健闘を称え合うような晴れやかなものであった。
「加治さんは、僕たちにとっての師匠であり、好敵手であったのかもしれないな。よき隣人同士ではなかったし、立つ場所も違っていた。けれど……」
その先を天津が口にすることはなかった。彼は静かに目を瞑る。黙祷、と告げた。生き残った技術部は彼に従い、偉大なる鍛冶神の冥福を祈る。ナナも、パァラもまた、同じように目を瞑った。
「……私は、あなたたちを許さない」
「ああ。好きにしたまえ。では諸君、地上へ出よう。可能な限りの武器、装置をかき集めよう。駒台には魑魅魍魎がうろついているはずだ。『円卓』に抗う人たちがいるはずだ。往くぞ諸君。戦いはまだ終わっていない」
おおっ、と、全員が声を揃える。技術部の面々は傷ついても尚、意気軒昂であった。
巨人が死に、支部内最強の男が去り、鍛冶神が天へと還った。
オンリーワン近畿支部での戦闘は一旦の幕を下ろす。だが、幕合劇は始まらない。生き残った彼らは依然として舞台から降りられず、何一つとして終わってはいないのだから。
生き残り、『円卓』との抗戦を決め、合流した情報部、技術部、医療部の者たちが車に乗り込んでいく。その光景を見ながら、ジェーンとナナは数日ぶりの邂逅に、微笑み合っていた。
「お店まで逃げて、何があると思う?」
ぽつりと、ジェーンが呟く。ナナは首を傾げた。
「店には、店があります」
「そういう意味じゃナイんだけど。ま、いっか。みんないるし、なんとかなるし、ならなかったらジェーンとナナにお任せネ」
戦える者は少ない。街にはソレが蔓延っているだろう。非戦闘員と負傷者を連れての移動は困難を極めるに違いない。
「……やはり、支部に残留していた方がよかったのではないでしょうか。装備も、設備も、駒台のどの場所よりも優れているはずですが」
「アタシもそう思うよ? けど、ソレとか、生き残った人たちを放っておけないんだって。いい気なもんだよね。ヤオモテに立つのはアタシたちなのに」
そう言うジェーンの顔だが、緩んでいた。
「でも、そっちのが人間っぽくていいじゃない」
「ご尤もです。ここにマスターがいたなら、同じことを発言していたはずでしょう」
逃げ出した先に何が待ち受けているのか、彼女らには分からない。知る由もない。ただ、彼女たち自身には逃げるという意識がなかった。戦い、戦い、戦い続ける。その先で勝利を、明日を掴みたいと思っていた。
「人間はどうなるのかな」
「まるで他人事ね、ヘルメス」
支部から離れていく車を見下ろしながら、旅は意地悪な笑みを浮かべた。
「おや? 姉さんは随分と、人寄りなことを言うんだね」
「……さて、私は哀れな人間を守ってあげるとしましょうか。……行くわよ」
アテナが宙に足を踏み出す。その後をニケが追い、
「ふう。あの子たちとはいつになったら会えるのかしら」
「ふう。あの子たちとはいつになったら会えるのかしら」
面倒くさそうにエウリュアレが続く。彼女は姉であるステンノを両腕で抱きかかえていた。四人は新たな敵を求め、駒台の空を翔けていく。旅は頭を掻き、所在無げに立っていた北に目を向けた。
「んん、どうしたんだい?」
「どうしたもこうしたも……あんたらが出張れば済むじゃねえかって思っただけだ。化け物ども全部を薙ぎ払って、『円卓』どうのって抜かすやつらをぶちのめせばいいだろ」
「どうだろうね。時間さえかければ可能かもしれない。ただ、『円卓』は君が思っているよりも手強いよ。僕たちだって気を抜けば、いや、全力でやったって殺されてしまうかもしれない。第一、僕らは機械仕掛けの神ではないしね。ここは人の子が支配すべき世界なんだ。だから、僕らが頑張り過ぎるのはよくないよ」
人ならざるものが他人事のように言い放つ。半神の英雄は納得がいかなかった。
「だけどよう、今のあんたらには肉がある。神は神だが、人の体に縛られてる以上、いつか死ぬ。どてっ腹に穴ぁ開けられりゃあ死ぬだろうよ。いいのか?」
死んでも、殺されても構わないのか。そう問われ、旅は天を仰ぐ。
「僕らは一度、忘れられて、死んでいたようなものなんだ。神様なんてものは人間からすればとっても偉くて凄くて何でも出来る存在なんだろうね。だけど、人間がいなければ存在する意味がない。そもそも、存在出来ないのかもしれないんだ。知覚し、認識してくれるものがいなければ、いないも同然なんだよ。だから、いいと思う。ここには神様を差し置いて、というか、邪魔だと断じて自分たちで頑張ろうとする人間がいるんだ。だったら僕は手助けをするだけさ。おいしいところは、彼らに譲って、ね。そうあるのが正しいんだとも思う」
良くも悪くも、旅は長く生き過ぎている。彼の考えた方は客観というよりも達観し、それすらを越えて諦観の域に達していた。
「僕は、姉さんとは違う方角へ行くよ。彼らだけじゃあ間に合わないだろうからね。ペルセウス、君はどうする?」
「……ハルペーはあんたに返しちまったし。ま、俺はどっちかつうと人間寄りなんでな。もう少しはあいつらに味方するつもりだよ。ここでお別れってやつだ」
「そうか。でも、またどこかで会えるといいね」
微笑み、旅は風となる。タラリアを駆り、空を翔ける。神の軌跡を見遣り、北は別の方へと向き直った。
「半端なやつにゃあ、半端なりのやり方があるってな」
北は思う。もう一人の半神を。彼は今、この街で何を思っているのだろうか。そして、英雄であることを嫌った男は今、この街のどこで、何をしているのだろうか。
捨てる神あれば――――。
神々が空を翔け、人々が地を進む。戦場をまっしぐらに往く。
「『橋』ってのは、ここのことか」
風の精霊に抱かれた一一が地上に降り立つ。そこは駒台と隣街とに結ばれた橋であった。河川の上に造られたのは、水面から十数メートル、全長が百メートルほどの寄橋と名付けられた橋である。二車線の道路のあちこちには車がひっくり返っていた。隣街へ逃げようとした者が乗っていたのだろうが、白煙が上がり、人の気配はない。
一は橋の反対側を強くねめつけた。……叢雲と闇の中に揺れる水面。その間に、ソレがいる。巨躯の男が何人も並んでいる。空には翼を持つ女どもがいた。雲霞の如き怪物の群れだ。しかし彼の戦意が挫けることはなく、また、恐れを抱くこともない。しっかと見据えて、息を吸う。真白の呼気が立ち上り、静かな殺意が凝り固まった。
「よう、ニンゲン。逃げるんなら今の内じゃないのか?」
「逃げたいか?」
アイギスを畳むと、剣のように持ち、構える。一の手は震えていた。きっと武者震いだった。強い興奮が脳の中を駆け巡っているはずであった。
「オマエが逃げないんなら、逃げないさ。だってそうだろ。シルフ様がいなきゃ、オマエは何にも出来ないんだから」
「一緒に死のうとは言わねえよ」
橋とは、違う場所を繋ぐものだ。新しい地へと、新しい者を招き入れる為に造られた。時には、人の住まう地と、人ならざるものが住まう地すら繋げ、渡す。いわば境目であった。今、一はその境界線上に立っている。昼と夜が混ざる時間のように、人と魔とが入り混じる。
「橋ってんなら、渡る為にあるんだ。だったら、こいつらをここで止めちまえばいい。やるぞシルフ」
「誰が?」
シルフが問う。剣はない。盾たるお前に、何が出来ると問い掛ける。
「俺だ」と、一が告げた。シルフは大きく頷いた。
「俺がやる。俺がこいつらを」
「オッケイ分かってるっ。ぶっ飛ばすんだろ!?」
風が奔る。彼らの姿を捉えられるモノはいない。百メートルほどの距離は数秒の間に詰められる。アイギスの石突きが巨人の眼球に突き立った。一はそれを抜き取り、見せつけるようにして腕を掲げる。
「そうだ見ろっ。俺を見ろ!」
アイギスが光輝を帯びた。石と化した怪物が、後続の獣に押し潰される。疾駆し、跳躍する四足の巨躯が吠えながら一へと向かった。彼は負けじと雄叫びを上げた。