その九
「さてと」
俺は琥珀の気配を辿った。
猫又に変化した時から、様々な術が使えるようになったが・・・
その時だった。
「おじいちゃんはパパちゃんのお友達ですか?」
白い子猫が俺に近づいてきた。
片目は金色、片目はブルーのオッドアイと言われる瞳が俺を見つめている。
お、おじいちゃん?
確かに、俺は齢36の・・・爺の猫又だ。
だか一応、言わせてくれ。
生涯現役だ。
「ああ、友と言われればそうなる。琥珀殿の元へ案内してもらえるか?」
「はいです。雪が案内します。」
俺は雪の後に続いた。
雪の話を聞くと、琥珀は島原高校の文芸部の部室にいることが多いらしい。
コーヒーの匂いが漂ってきた。
そういえば、琥珀は珈琲や紅茶が好きな風変わりな猫だった。
「ただいま。パパちゃん。柏君。」
「お帰りなさい。雪姫。」
部屋に入ると一人の若い人間の男がいた。
「柏木はアタクシの弟子よ。久しいねぇ。妖猫王」
黒く長い髪に、黒いブラウスと黒いロングスカート。橘琥珀が姿を表した。
俺は、男に目をやる。
「・・・柏木殿と申されたか?
「はい。お初におお目にかかります。橘琥珀様の弟子の柏木正行と申します。」
柏木殿は律儀に俺に頭を下げてきた。
よく出来た男であるが・・・
「猫が喋ったり、人間の姿に変化すると驚かないのだな?」
「僕にとっては日常茶飯事ですから。」
「なるほど。手土産として歳三まんじゅうを買ってきた。皆で食べてくれ」
俺は柏木殿に土産のまんじゅうを渡した。
さて、俺は久しぶりに人間の姿をとった。
「おじいちゃん、美男子さんなのです。」
人間姿を取った俺の姿に、雪が感嘆の声を上げた。
俺は彼女の頭を軽く撫でた後、勧められた椅子に座った。
「・・・要は何かい?校長のところの馬鹿化け猫が、幼稚園児相手に喋って踊った挙句、【殺す】と口走ったのかい?あんのバカ。その言葉は【呪い】になるということを忘れたのか!!」
俺の話を聞いた琥珀殿は物の見事に怒り狂っていた。
まあな。俺も話を聞いた時は頭を抱えたけどな。
「喋ろうが踊ろうが、俺は文句を言うつもりはない。じゃが、【殺す】と言ってしまったことは問題だ。」
「どういうことなんでしょうか。?」
俺達二人のやり取りを聞いていた柏木殿がコーヒーと茶菓子を持ってきた。
「齢十五を過ぎだ猫には妖力が宿る。妖力が宿った言葉は呪術となる。」
俺の説明に琥珀殿が補足した。
「校長のところのバカ猫は、自分がかわいがっている孫娘に【殺す】という呪いをかけてしまったのさ。今頃その猫は・・・猫鬼すなわち人間に仇なす妖怪となる。そうなれば殺される運命だ。」
「俺は、ソイツを殺したくない。今、俺と相棒とその仲間で出来る限りの手を尽くしている。琥珀殿にも助力してもらいたい。」