その八
私立島原男子高等学校に無事に到着した。
「鴨、お前どうする?」
「先に黒猫の所行ってくる。お前は依頼人の所に行ってくれ。」
鴨は器用に歳三まんじゅうの箱を風呂敷づつみにすると、ソレを律儀に口で咥えた。
何時も二足歩行なのに、四足歩行の鴨の姿に俺は違和感を感じてしまった。
正常と異常の境が緩くなっているなぁ。まあ、元々緩いほうだが・・・。
「兼定はどうする?」
キョロキョロと兼定は周りを見回していた。
「兼定?」
「いいえ・・・懐かしいと思いまして・・・」
そういやぁ、元々コイツは「 付喪神 」
末席とはいえ、神と言われるほど長生きをしているのだ。大昔にこの地に来たことがあるのだろう。
「そうか。」
「私は貴方の護衛ですから、歳三様と一緒に向かいます。」
俺は兼定とともに、依頼人がいる校長室へと向かった。
途中、この学校の教頭先生と出会い、俺は彼から大まかな話を聞いた。
聞いた限りの話だが、校長が若い頃から飼っていた御年十五歳の猫が、両親と祖父にあたる校長が出かけて、寂しがっていた孫娘を見て、慰めるために踊ったらしい。
「・・・猫が喋るというのは、本当なんでしょうか?」
たしかこの教頭は日本史が専門だと聞いていた。
「長生きする猫は【猫又】になるそうですよ。それに昔の猫は色々としゃべっていたようですね。【今昔物語】や【耳袋】、様々な地方伝承にも残っている話でしょう?」
「確かに、言われてみるとそうですが・・・今は平成ですよ」
「昔あったことが、今はないという根拠は何処にもありません。この世に、不思議なことはたくさんありますよ。」
首を傾げる教頭先生に兼定はにっこり笑って答えた。
笑う兼定に真っ赤になる教頭先生に、俺は何となく同情してしまった。
「失礼します」
「ようこそ。いらっしゃいました。」
挨拶する俺達に、仕事をしていたロマンスグレーのオジサマが笑った。
この男が川澄正司。この学校の校長である。
「早速ですが、此方の品の鑑定と修繕をお願いしたいのです。」
中を見ると刀剣が7振りほどであった。
「登録証も見せてもらえますか?」
俺の言葉に頷き、登録証を俺に渡した。俺はソレを預かり、口元からハンカチを取り出し、口に咥えた。
その後、一振り刀を手に取り、抜いた。
・・・良い代物だ。
どれも無名だが、作りは良く、品がある。
だが、一振りだけ古い刀があった。ボロボロであり、コイツの手入れは難しそうだが・・・
「相州住綱広ですわ。歳三様・・・」
懐かしそうに、兼定はその刀を手にした。
「気に入ったか?」
「え?」
「全て、お預かりして修繕させていただきます。ただし、別途御依頼の件を含め、今回の手数料として、この脇差しをお譲りいただけますか?」
「分かりました。よろしくお願いします。」