その六
家に帰ってきたら、黒髪胸ボインの美人のお姉ちゃんと眉間にシワを寄せている鴨がいた。
「・・・鴨。彼女はお前の女か?」
雰囲気からして鴨と同類のような気がするんだが。
「酷い!!歳三様!!嫌ですわ。こんな爺」
「・・・たわけ。和泉守兼定だ」
黒髪胸ボインちゃん改兼定は俺の腕に腕を絡ませてきた。
こう見ると可愛い女の子なんだが・・・
「付喪神した11代目和泉守兼定が、人間形態を取れるようになっちゃったらしいぜ」
やはり鴨の同類だったらしい。
俺は彼女をじっと見つめた。
何故かとても「懐かしい」と感じてしまった。それに。
うちにはすでに鴨もいるのだ。
妖怪の一人や二人増えても同じことだろう。うん。
「・・・ま、いいか。」
俺のセリフに鴨が目をまん丸くした。
「日野から修繕の仕事依頼が来ているんだ。鴨、同行してくれ」
修繕の仕事とともに奇妙な依頼が来ていた。
「何かあったか?」
鴨が俺を見つめたまま、首を傾げた。
「猫がな。踊るそうだ。」
鴨は二本足で立ち上がると、器用に三人分のコーヒーを淹れてきた。
インスタントであるが、ないよりマシだろう。
「猫じゃ、猫じゃと飼い猫がタオル被って踊るんだと」
「・・・確か漫画になっているぞ。なんとかマイケル」
確かに、一時期そういった名前の猫漫画が流行っていたなぁ。
わからん人は「猫 マイケル」で検索してくれ。
「マイケルは冗談だが、現代でも踊る奴がいるとは思わなんだが・・・江戸時代じゃ結構踊っていたみたいだぜ。絵になっているしな。」
鴨はパソコンを立ち上げると、器用にインターネットで検索を始めた。
横にいた兼定はぎょっとした表情を浮かべる。
まあな。猫又がコンピュータを立ち上げて、インターネットで検索しているんだものなぁ。
「お前の話を聞く限り、津軽民話の【猫じゃ】が近いかなぁ。」
「どんな話だ。」
「昔、津軽藩の侍の娘が一人で留守番をしていたんだと。それを見ていた飼い猫が「寂しいでしょう。踊りを見せてあげる」と言って、手ぬぐいをかぶり、「猫じゃ猫じゃとおっしゃいますなぁ 猫は下駄こはいて杖ついで しぼり浴衣こで来るものが。はぁおんにゃがにゃーのにゃ」と歌いながら踊ったそうだ。。で、猫は娘に、自分が踊ったことを他言すると殺すと脅した。しかし娘は自分が見た恐怖映像?を親に話してしまい、親は山に猫を捨ててこようとしたんだと。で、翌朝になると、娘は首を猫に噛みちぎらて死んでいたそうだ。猫もそれきり帰らなかった。今なら映像とって、動画投稿サイトに投稿すりゃあ金になるのになぁ」
ーーーなるほど。流石は化け猫。ついでに商売方法も考えるとはだてに長生きしていない。
「動画投稿サイトに投稿は横においておいて、もし、お前さんのお仲間なら、説得してやってくれねぇか?」
「そりゃあ、構わねぇが・・・依頼人はどういう奴だ?」
「私立島原高校の校長だそうだ。」
「日野の島原高校か・・・あいつに協力を頼もうかねぇ」
「あいつ?」
俺の問に鴨はニヤリと笑った。
「旨い紅茶に釣られる面白い黒猫がいるんだよ。兼定。お前もついてきてくれ。説得に応じない場合、お前の力が必要になる。あとは・・・三味線も荷台に入れておいてくれ」
「おう」
鴨の依頼に俺は頷いた。そして横の兼定を見る。
兼定も鴨の指示に異論はないようだが・・・どうした?
「わかりました。その変わり・・・」
何故か兼定は鴨を抱き上げた。
「もふもふさせてください!!一緒におねんねさせてくださいませ!!」
「お前は歳三命やなかったのかああああああああ」
どうやら面白い仲間が増えたようだ。
俺は二人の様子に笑ってしまったあ。