その五
春眠、暁を覚えず。
俺は古い縁側でうたた寝していた。
相棒の宮野歳三は出かけていた。
ああ、眠い。
昔々。
俺は「芹沢鴨」という名前の人間だった。
まあ、この名前は有名だろう。
インターネットを調べれば、こう出てくるはずだ。
芹沢 鴨(せりざわ かも、芹澤鴨、文政10年(1827年) - 文久3年9月16日(1863年10月28日)もしくは9月18日(10月30日))は、幕末の水戸藩浪士、新選組(壬生浪士)の初代筆頭局長。別名は下村嗣司。諱は光幹。本姓は桓武平氏。家系は常陸平氏大掾氏一族である吉田氏族の鹿島氏の当主である鹿島成幹の流れを汲むという芹沢氏。父は常陸国行方郡玉造村芹沢の郷士・芹沢外記貞幹で、鴨(光幹)はその3男である。
上の内容は、WIKIから転載したが、だいたい正確だ。
そして俺は、暗殺された。
壬生浪士組副長・土方歳三の手によって、心臓を刃で貫かれた。
泣きながら俺を見つめる土方に、俺は笑ってやることしかできなかった。
そして現在。
俺は齢36の猫又、すなわち妖怪となっていた。
まあ、平成の現代でも妖怪という存在があるんだなぁと変に納得してしまった。更に悪いことに。
相棒・宮野歳三の前世はあの新選組副長・土方歳三である。
よりによって敵同士が一つ屋根の下でコンビ組むことになるとは。
恨むぜ。神様、仏様、閻魔大王様。
だが、幸いなことに歳三には、前世の記憶がない。
「いつか思い出すような気が済んだよなぁ・・・前世も現世も馬鹿だから。」
なんだかんだ考えて疲れた。もう少し寝よう。
家事はだいたい終わらせてあるしな・・・・
「あらら随分可愛くなっちゃって。あーん、毛皮に顔を埋めてモフモフしたい。」
女の笑い声が聞こえた。
何だ?幻聴か?
我が家はおっさんと猫又の一人と一匹の寂しい暮らし・・・俺は起き上がった。
「おはよう。久しぶりねぇ。鴨様」
黒髪美人の胸ボインボインちゃんが、なぜか俺を膝に乗せていた。
「にゃあああああああああああああああああごごごごごごごごごごご」
情けない話だが、俺は悲鳴を上げてしまった。
「鴨さんよ。どういうことだこりゃあ」
「ああん。歳三様。イケズ」
突然現れた黒髪美人の胸ボインちゃんに擦り寄られ、歳三は鼻の下を伸ばしていた。まあな。見かけだけは可愛いからな。
黒髪美人の胸ボインちゃんの正体は、付喪神した11代目和泉守兼定。土方歳三の刀である。
その昔、土方歳三は何本か和泉守兼定を所有していた。
現在、土方歳三記念館に保有されている和泉守兼定は二尺三寸。
こいつは近藤勇の手紙にあった二尺八寸の和泉守兼定である。
よりによって、コイツは前世の俺の心臓を貫いた刀だ。因縁深い相手である。
「付喪神した11代目和泉守兼定が、人間形態を取れるようになっちゃったらしいぜ」
「鴨さまの妖力の賜物ですわ」
ちゅっと兼定に頬にキスされても嬉しくないわい。
「・・・ま、いいか。」
良いのかよ。
俺が原因で相棒は怪奇に耐性がついてしまったようだ。
ついでに言うとどうも幽霊やら妖怪やらに関する面倒ごとを持ってくる体質になっている。
「日野から修繕の仕事の依頼が来ているんだよ。鴨、同行してくれ。」
「何があったか?」
「猫がな。踊るそうだ」
・・・今、何をおっしゃいました?
俺は歳三の顔をまじまじと見つめてしまった。