その三
「ご迷惑おかけして、本当に申し訳ありません。助太刀をお願いします。」
俺に頭を下げるスズシロ。
俺は盛大に溜息をついてしまった。
「ノ定ならあの荷物の中にあるぞ」
鴨は俺が担いできた風呂敷づつみを指さした。
俺は立ち上がると、担いできた風呂敷づつみをあけた。
中身は。
黒の招き猫20体。
付喪神化した【之定】 と言われる太刀。
重いわけだ。
「鴨さんよ。」
「おう?」
「付喪神した刀と、化け猫二匹で勝てるのか?」
「あと招き猫軍団でどうにかなるだろう」
そう言うと、奴は首にかけた袋からキセルをどりだし、優雅に吸い始めた。
結局俺は、和尚に頼み込んで寺に一晩泊めてもらうことになった。
その日の夜だった。
「どーこーだー。慶雲はー」
鴨の話によると、慶雲とは化けネズミを封印した和尚の名前だという。
地響きとともに声が聞こえた。
俺は飛び起きると、刀を手に庭に降りた。
「でけぇ!!」
体長2メートル超えの化けネズミがそこにいた。
すでに戦闘は始まっていた。
小柄なスズシロが化けネズミの目を狙って、爪を振るうが届かない。
スズシロとともに、小さな黒猫が化けネズミに襲いかかっていく。
おそらくあの黒猫は、俺が担いで持ってきた黒の招き猫だろう。鴨は依代(この場合、黒の招き猫になる。)に妖力を注ぎ、自分の手足のように動かすことができる。
ま、言ってみれば、陰陽師の式神のようなものだ。
そういえば、鴨は何処行った。
鴨は猫鬼に変化して、もう一匹の化けネズミと戦っていた。
「二匹もいるのかよ!!聞いてねぇぞおお!!」
「俺も二匹もいるとは思わなんだ。」
「鴨!!スズシロの援護にいけ。こいつは俺が仕留める!!」
「分かった。死ぬんじゃねぇぞ。相棒」
俺は之定を抜いた。
化けネズミが俺に襲いかかってきた。
俺は、体が動くままに、太刀を振るった。
付喪神化した【之定】いや、正確に言う十一代兼定は、嘘かホントか知らんが、人はもちろんだが妖怪も斬り殺すことができるらしい。
さらに、あの新選組副長・土方歳三が所持していたという曰くがあるシロモノだ。
最も、それは鴨が言って内容であり、奴が法螺を吹いている可能性が高いと思っているが。
さあて、目の前の化けネズミに何処まで刃が届くか。
ドシュ
血しぶきとともに、化けネズミの首が宙に待った。
「・・・斬れた」
「だから言ったろ。切れ味抜群だって」
飄々とした鴨の声が聞こえた。
声が聞こえた方を見ると、傷だらけになった鴨とスズシロ、そして傷だらけになって倒れている化けネズミ、粉々になった招き猫の焼き物の破片が転がっていた。
寺の連中が、ようやく騒ぎに気がついたようだ。
「張り巡らせておいた結界を解いた・・・つうか、そろそろ結界を解かないと俺の身体が持たん。」
そういや、コイツも妖怪だったな。
俺はぐったりとしているスズシロを抱き上げた。
「お主達・・・スズシロ・・・」
俺たちを見て、和尚は何かを察したようだ。
俺の腕にいる傷だらけになったスズシロを見て驚く。
「お前・・・」
「大丈夫だよ。和尚。とりあえずコイツを猫医者のもとに連れて行こうぜ。」
俺の言葉に和尚が頷いた。
山寺から降りるとタクシーが止まっていた。
どうやら、俺の横にいる和尚がタクシーを呼んでおいてくれたらしい。
俺と和尚はタクシーに乗り、猫医者のもとに向かった。