そのニ
翌日、俺は鴨とともに金山寺にでかけた。
なぜか、風呂敷づつみの大荷物を背負わされてだ。
「重い・・・」
「ほら、頑張れ。」
懐には、鴨が入っていた。
「お前、降りろ」
「寒い。凍死する」
俺は鴨を引き剥がそうとするが、ガッチリと爪が食い込んでいる。
ダメだ。こりゃ。
「よう、来たか」
現れた和尚に、俺は頭を下げた。
「これが鑑定と修復してもらいたい代物ですか」
俺は和尚から掛け軸を預かって中を改めた。
「・・・コイツを修復するのは、至難の業だなぁ。」
状態が悪すぎる。難しいが、できないことではない。
鴨が懐から顔を出してきた。
「どうした。鴨」
幸いにも、和尚は席を外している。
コイツが猫又であることを見抜かれることはまずない。
鴨はじっと掛け軸を見つめていた。
何を見ているんだ?コイツ?
やがて、ニヤリと笑うと奴は言った。
「ちょいと、ナンパしてくる。ここのスズシロはかわいこちゃんでなァ」
「おい。」
あんなことを言っているが、おそらく奴には何か考えがあるのだろう。
俺は鴨の後を追った。
「ねぇねぇスズシロ。明日、集会があるけど行かない?」
庭の石灯籠の上に、白い猫がいた。
その下にはふさふさの毛のキジ猫。
「ゴメン。明日は用事があるんだ。」
「そう、残念ね。」
そう言うと、キジ猫は去って行った。
「鴨様」
スズシロが俺たちに気づいて、石灯籠の上から降り、頭を下げた。
「この度はご助力いただき、ありがとうございます。」
「いやあ、困ったときはお互い様だ。」
一応行っておくが、俺は猫が何を話しているか理解できる。猫又である鴨と長く接しているからだ。
羨ましいか?
面倒だぞ?
猫や猫又が厄介事を持ってくる。
いや、うちには巻き込んでくる妖怪がいたんだっけな。
「どういうことだ。鴨、スズシロ」
俺はじろりと二匹を睨みつけた。
ガリガリと頭を掻いて、鴨が説明を始めた。
「昔々、高い法力をもつ和尚さんがいました。ある時、和尚さんは一匹の猫を拾いました。」
「まあ、ありがちな話だなぁ」
「猫と和尚さんは、全国を行脚していましたが、ここ、谷中の金山寺付近である噂を耳にしました。」
「ほう。」
俺は鴨の話に相槌を打ってやる。
「その噂は、【大ネズミの妖怪が、夜な夜な人を食い殺す】という物です。和尚さんと猫は、その大ネズミを退治するため、荒れ寺であった金山寺に篭もり、三日三晩の死闘の結果、その大ネズミを【封印】することができました。」
俺は、【封印】という言葉に、引っ掛かりを覚えた。
まさか、その【封印】が解かれたとか言うんじゃねぇだろうなぁ。
「お前の考えているとおり、この間の地震で、【封印】が解かれちゃったんだよ。」
「・・・」
「悪いことに、あの和尚、化けネズミを封印した和尚とソックリでな。99.9%の確率で、襲う」
「それを、ここの一人と二匹で阻止しろと」
「そ」
俺は、鴨の頭を思いっきり、引っ叩いだ。