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夏休みが終わった。まだ暑さが抜けぬものの生徒達は皆、何事もなかった様に登校してくる。
ただ少し違うのはちらほらと新しいカップルが誕生したという事。
彼等は暑いというのにも関わらずイチャイチャとくっつき楽しそうにしていた。
「待って下さいですぅ!!」
私達も花火大会終了後見事付き合う様になったのだが未だ何処かしっくりこない部分が残っていた。
「遅いぞ。苺!!」
流架は相変わらず私を置いて行く事が多かった。春咲いていた桜も散り緑色だった葉が色とりどりに染まっている。
私は紅葉する葉の下で踊っていた所を流架に置いて行かれたのだ。教室まで急いで追いかけたのも何度目になるだろう。
「これで二度目ですぅ!! 流架は冷たいですぅ!!」
「綾瀬君おはよ」
私は嫌な予感を背中に後ろを振り返った。すると、案の定、メガネ娘がいる。
「げっ……」
メガネ娘は幼い頃父親がを殺害したと死神に怨みを抱いているらしく何度も私と衝突してきた。
死神は迎えに来ただけだというのに……。
メガネ娘は私を無視し流架を見ている。
「おっおう。」
流架も素っ気なく挨拶した。今まで何度も見てきた光景。だが、私はメガネ娘にヤキモキする嫌な感情を覚えた。
早くメガネ娘から離れて欲しい。心の底から祈っていた。
「鈴木。少し髪型変えたんだ。似合ってる」
それだけ言って流架は自分の席へとつく。メガネ娘は嬉しそうに顔を赤く染めていた。
私にはわかる。あれは友達として見ている目ではない。あれは、好きな人を見つめる瞳。
私は見ないふりをして流架の隣へと行く。
キーンコーンカーンコーン
チャイムがなった。生徒達は皆自分の席へと着席する。しかし、教室全体にざわめきが広がっている。
「おはよ。来月は学園祭がある。その為今日は授業の前にクラスで何をするか決めて貰いたい。後はクラス委員宜しく頼む」
担任はそういうと教室の後ろへと下がり教科書など開いて読書していたりする。
担任の教科は古典。ハゲ頭で初老の担任にはピッタリかもしれないと私は思っていた。
しかし、担任が来たのはちょうど流架の真後ろ。これでは流架と話せない。
私は担任を睨み付けてみるも担任が気づく様子はなかった。
「それでは今年は喫茶店と言う事で宜しいでしょうか?」
いつの間にかクラスの意見がまとまっていた。クラスの大半が賛同の拍手をしている。
流架は何も言わず拍手していた。
「先生終わりました」
「ありがとう。クラスの意見がまとまった所で授業に入る。皆教科書の五十ページを開く様に……」
担任の一言で、一瞬のうちに教室の空気がガラリと変わり皆授業に集中し始めた。
ところが、流架は外のグランドをぼんやりと眺めている。黒板の文字をスラスラとノートへ写し外を覗く。
いつもとは少し違う流架の様子に私はいささかの不安を覚えた。
キーンコーンカーンコーン
授業が終わった。すると、先ほどとはまた空気が変わり学園祭ウキウキモードとなる。
クラスの大半が学園祭の話をしていた。すると、流架は何も言わず教室を出ていく。私は流架の後を追った。
「流架どうしたですぅ?」
私は流架を追い掛けていく。すると、流架は私に気を使ってくれたのであろう。人がいないホールにいてくれた。授業も近い為であろう。
「苦手何だ……」
「はい……?」
私は何が苦手なのかわからず首を横に捻る。
「……苦手何だ……学園祭」
私は予想もしなかった流架の発言に目が点となってしまった。
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学園祭。それはなんて楽しそうな響きなのだろうと私は感じていた。
夏休みに流架と行った花火大会。あれは私にとって最高の思い出となった。決して忘れたくない。例え私が私でなくなる日が来るとしても。
キーンコーンカーンコーン
「行ぐぞ」
流架は急いで教室へと戻るも先生の姿はなく、クラスメイト達が学園祭について大盛り上がりに花を咲かせていた。
よくみると黒板に学園祭について話し合って下さいと先生の字で書かれている。
流架は自分の席へと付き顔色を悪くしながらも教室にてクラスメイト達の話を流していた。
「流架頑張るですぅ」
私が応援してみると余計にげんなりとしている。
「なぁ、綾瀬はラストダンス誰と踊る?」
突如流架の隣の席に座る男子生徒が話かけてきた。名前は何というのだろう。
流架は自然と人と距離をとる癖があり今まで誰からも声をかけられることはなかった。
「綾瀬君は私と踊ります」
何処から聞きつけたのかメガネ娘が流架達の席の方へと歩いてくる。
流架は恥ずかしそうにメガネ娘を見ている。私は嫉妬の炎に体を燃やしていた。