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 私が流架と付き合うようになり一週間が過ぎようとしていた。まだ暑さが残るものの、八月も半ばとなりお盆という人界の行事がある。

 そういえば死神以外の魂達はこの時期極端に少なくなっていたような……。

 流架の家族も例外なく菊の花を購入していた。


「どなたのお墓に行くですぅ?」


「親父の。俺が小さい頃亡くなったから……」


「ゴメンですぅ」


 流架の表現が曇った。私は咄嗟に謝るも何処か違う気がする。


「るぅちゃん早くきなさい。今日はお父さんに逢いに行くんだから」


 下からママの声がした。私は知っているのにママは知らない。私は抱き締めて欲しいのにママは私を見ることさえ出来ない。

 わかっていたことだが寂しい。複雑な気持ちは更に膨らんでいた。

 自分は流架の命を狩り取りに来た死神で流架の彼女となった。しかし、半年でこの関係ではいられなくなる。その事を思うといたたまれない気持ちになった。ママを一人きりにしてしまう。


「行くぞ」


 私が考えているうちに支度が整ったようだ。私は流架の後を追う。

 お墓まではママが車を運転してくれた。

 綾瀬家からお墓まで車で三十分の高台にある。お墓から流架と出会った街が一望出来た。


「綺麗な景色ですぅ」


 私は景色の美しさに思わずみとれてしまった。


「ほら、行くぞ」


「待ってくださいですぅ」


 私は慌てて流架の後を追った。

 そんな私たちを見つめる視線があることを今の私たちは想像すらしていなかった。



 2

 流架はとあるお墓の前で足を止めた。墓石の文字を読んでみると綾瀬家の墓と刻まれている。

 つまりここが流架の父が眠る場所。


「貴方……」


 ママが墓石に向かい手を合わせる。流架もそれに習い手を合わせた。私も二人の真似をしようとすると後ろから人の気配がした。


「誰ですぅ!?」


 私は辺りを見渡してみるも人の姿など見当たらない。気のせいと思った瞬間私の目の前に見知らぬ男性が立っていた。私は驚きしりもちをつく。


「すまない。驚かせるつもりはなかったんだ……」


 男性は私に手を差し伸べてくれた。私も無意識のうちに手を差し伸べる。


「あれ……? 触れるですぅ」


 私が手を不思議に眺めていると男性は悲しそうに微笑んで見せた。


「ご察しの通り死んでるんだ……」


「帰って来たですぅ?」


「いや、ずっとここに……」


 死した魂は通常亡くなる直前に死神が迎えに行く。だが、何らかの理由により亡くなる運命のではない魂が亡くなった場合死神が迎えにこない時がある。その場合、この世界に留まっている事が多い。そうなると天国と人界の魂のバランスが狂ってしまう恐れがあるので見つけ次第、天国へと送るのも死神の仕事の一つとされていた。


「貴方を天国へ導くですぅ」


 私は隠していた大鎌を振り上げる。


「ちょちょっと待って!!」


 男性が大鎌に驚き腰を抜かす。私は振り上げた大鎌を下に下ろした。


「どうしたですぅ?」


「あそこにいる親子。実は俺の家族何だけど……」


 男性が指差す方向にはお参りする流架とママがいた。そしておもむろにポケットから小さな包みを取り出すと私の手のひらに乗せる。


「何ですぅ?」


「二人に渡して欲しいんだ。俺が持っていても意味ないから……」


 男性の寂しさが手から伝わってきた。やりきれない思いが痛いほど私に押し寄せてくる。

 私は手のひらの小さな包みをそのまま男性に返した。


「それは貴方が二人に渡して下さいですぅ」


「でも、どうやって?」


 二人で考えていると、いつの間にか流架とママの姿がなくなっている。


「流架? 何処ですぅ?」


 私は慌てて辺りを見渡すも二人の姿は何処にも見当たらない。

 仕方なく私は男性を連れて家に帰った。



 3

 私達が家につく頃には太陽が沈みかけていた。家からお墓までそれほど距離があった訳でもないが男性の決意が、なかなか決まらず付き合っていたのだ。

 家の前にはすでに送り火が焚かれている。


「置いていくなんて酷いですぅ!!」


 私は流架をジト目で見ると、気まずかったらしく後ろ頭を掻いていた。


「ゴメン。ゴメン。だけど先にいなくなったのはそっちだぞ!!」


 忘れていたが、私は男性と話している間ずっと流架達から少し離れた場所にいた。だから流架は私を見つけられなかったのかもしれない。


「ごめんなさいですぅ……」


 私は深々と頭を下げ謝る。すると頭に良いアイディアが浮かんだ。


「そうですぅ。これですぅ」


「ちょっ。ちょっと待て苺!!」


 私は流架の声に耳を傾けず急いで男性の元へと掛けていく。


「お待たせしましたですぅ」


 私が息を切らせ掛けていくと男性は玄関の外に立っていた。天国への扉が開く時が近くなり魂は家に入ることが出来ないのだ。

 送り火を灯す時だけ人は外にいる。その一瞬を活用するのだ。

 通常、霊は見ることはできない。しかし、送り火に写し出された時のみ数秒ながも垣間見る事が出来る。

 来年の再開を誓う為に……。


「わかった。やってみるよ」


 家の中から二人が出てきた。今年の別れ来年の再開を願って。

 男性は送り火の光を自分の体に当てた。すると、ゆっくりと送り火が大きくなり男性を写し出す。


「ママ。それに流架。元気にしてましたか? 二人に寂しい思いをさせてしまいすみません。あの日、二人に渡して起きたかった物を今渡したいと思います」


 すると、男性はあの時同様ポケットに手を入れると小さな包みを流架へと渡す。

 包みを開くと家族三人が幸せそうに写っている写真に手紙が添えてあった。


「これは、二人への感謝の気持ちを込めた手紙です。やっと二人に渡す事ができました。これで思い残す事はありません。さようなら……」


 男性の一方的な会話に聞こえるかもしれないが、会話することは許されない。元々姿を見せる事事態も禁止されている。

 男性は満足そうな笑みを浮かべた。すると、男性の魂は小さな光となり消えていく。

 ママは泣き崩れ地面に膝をついた。


「苺。ありがとうな」


 流架は私の耳元でそっと呟いた。

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