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大切な人

1

一年で俺には一生で一番大切な日。俺は苺に告白する。何時の頃からかずっと苺の事だけを考えるようになっていた。

苺は死神で俺の命を狩るために来たがそんな事関係ない。

苺が本当に大切だから……。


「お待たせしましたですぅ」


私は流架から貰った浴衣を着た。いつもの服装でもよかったのだが、先日”どうしても着て欲しい”とプレゼントされた。

女物の浴衣を購入する際ジト目で見られ恥ずかしかっただろうに……。

黒い生地に桜の模様が施され私も一目見て気に入った。私の姿は流架以外の人には見えないけれど流架は満足そうに笑みを浮かべている。

私も流架が幸せそうな笑みを零している事が嬉しくてたまらない。


「そんなにジロジロと見ないで欲しいですぅ」


「ゴメン。あまりにも似合ってたから……」


流架の言葉に私は恥ずかしくなってしまった。流架が好き。いつの間にか流架は私の大切な人となっていた。例え運命の日がやて来たととしても私は流架の魂を守りたい。

それが例え掟に歯向かう行動だったとしても私は流架が大切だから。


「とりあえず屋台でも覗くか?」


「はいですぅ」


この日だけは私は流架に触れる事ができない。誰かが見ていたとして突如食べ物が消えたと騒がれたら流架に迷惑を掛ける事となる。それだけはどうしても避けたい。

流架を大切に思っているから。

しかし、屋台ではたこ焼きやお好み焼き、焼きそばや唐揚げと美味しそうな匂いが漂ってくる。


グウゥゥゥゥ


私に理性よりも先にお腹の方が限界を迎えてしまった。咄嗟にお腹を抑えるも流架にも聞こえてしまった。

恐る恐る流架の方を見ると苦笑いしている。

このまま何処かへ行ってしまいたかった。


「何か食べる?」


「大丈夫ですぅ。迷惑掛けたくないですぅ」


グウゥゥゥゥ


再びお腹が鳴る。私は慌ててお腹を抑えた。


「たこ焼きでも食べる?」


「……はい」


私はコクリと頷いた。すると、流架は近くにあったたこ焼き屋の屋台の列に一人で並んでくれた。私は少し離れた場所で待っ。…お腹の音を流架に聞かれるなんて恥ずかしい。私は入る穴があれば入りたい。その一心で辺りをキョロキョロと見渡した。


「お待たせ。どうしたんだ?」


私が辺りをキョロキョロと見渡しているものだから不思議だったのだろう。怪訝な顔している。


「……いえ、流架にお腹の音を聞かれたのが恥ずかしくて……」


「そんな音聞いてない」


「……えっ⁉︎」


私が恥ずかしそうにしていたから聞こえない振りをしてくれたのか、沢山の人がいて賑やかだったから本当に聞こえなかったのか定かではないが流架の言葉に救われた気持ちになった。


「座って食べる?」


「はいですぅ」


私達は少し歩き人気の少ない公園のベンチへと腰を下ろした。


「いただきますですぅ」


私は流架に買ってもらったたこ焼きを少しずつほうばって食べた。丸くて蛸の足が入っているそれは少し歩いたというに冷めておらず今だ熱を持っている。


「美味しいですぅ」


私はたこ焼きを食べている方の頬っぺたを抑えた。今まで食べたたこ焼きの何倍、後からーいや、何十倍もの美味しいたこ焼き。流架が買ってくれたからであろうか。


「美味しいだろう。あそこのたこ焼き美味しいって評判なんだ」


流架は自慢げに話しているとドーンと大きな音を立て一発目の花火が打ち上がった。


「綺麗ですぅ……」


私は始めて見た花火に感動していた。天国からも人界で打ち上げられた花火を見ることはできる。しかし、音も迫力もなく無音で静かなものだった。


ギュ


私は驚いて自分の手を見ると流架が手を握っていた。恥ずかしげに頬を染めていることが暗くてもわかる。

公園には私達以外誰もいない。皆、屋台かもっと近くで見れる場所へと移動したのであろう。

ここから見える花火は手のひらサイズ。決して大きいとは言い難いものの流架と一緒に見ることが出来るそれだけで幸せだ。


ドーン


再び大きな花火が上がる。

空を見上げる私に対し流架の視線は私にあった。


「どうしたですぅ?」


「好きだ……」


私は流架の突然の告白に花火どころではなくなった。ドーン、ドーンと鳴る花火の音が先程まで近くで聞こえていたはずなのに今は遠くの方に聞こえる。

ドキドキする心臓に体が熱い。頭の中が真っ白になっていく。


ツキーン


私の頭にもう何度目になるかかわからないビジョンが現れた。いつもは霞がかっているか黒い顔。女性か男性かの区別もできない顔がはっきりと見える。


「流架……?」


ビジョンの中にいる男性は流架に良く似ていた。しかし、服が妙に古臭い。流架は昔の学生服を着用していた。それに私の服装も浴衣と何処か懐かしさを醸し出している。

幸せそうな二人につい嫉妬してしまった。とても懐かしく温かい。


「……そうだ私……」


私は幸せの絶頂だった頃の記憶を全て思い出した。私は今から百年前。年号で言えば大正時代に前世の流架と恋仲となった。

毎日が幸せに満ち溢れ充実した日々を送っていた。しかし、流架の突然の裏切りに私は自ら命を経ち現在に至る。


「私が会いたかった人……。全て思い出したですぅ」


「苺?」


私は流架に抱きつき耳元で囁いた。


「苺は流架が大切ですぅ。例えその時が来ても苺は流架と一緒ですぅ」


私の言葉に応えてくれたかのように流架は私を抱き締めてくれた。

この幸せを二度と失いたくない。それだけを心から女神に祈った。

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