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城というものは本来敵が攻めてきた場合を考えて設計されている。この城も例外なく万が一の事を考えてか複雑に入り組んでいた。
罠も多く危険なのだが、コツさえ掴めば罠など恐れる程のものではない。
私は直感が導くがままに進んでた。進むことによって流架の背中が薄っすらと見える気がしていた。
(流架待っていてくださいですぅ)
私は今までにない程のスピードで羽を羽ばたいているものの流架の姿は見えない。ただ直感が警鈴を鳴らしていた。このままでは流架が危ないと……。
しばらく羽ばたいて流架の背中は普段は禁じられている禁断の間の目の前で扉に解けていく。
(ここですぅ?)
禁断の間とは女神が生前罪を犯した魂に裁きを与える部屋だと噂されている。しかし、流架が罪を犯したことなど一度たりとなく、不審に思いながらも私は禁断の間の扉に力を入れた。
「流架……。いるですぅ?……」
恐る恐る中に入るもの辺りは暗く見渡してみても何も見えない。見えるのは自分の両手と私自身。
(自分の姿⁉︎)
私はよく目を凝らしてみた。すると、私の体がほんの少し輝いて見える。そしてもう一つ遠くの方で薄っすらと輝いているのが見て取れた。
私は輝いて見えた方向に進むと流架が横になっている。まだ体は暖かく眠っているかの様。
私は慌てて流架を抱き上げると呼吸を確認した。
「ふぅ」
流架の小さな寝息が確認され、ひとまずは生きていると私は心の底から何ともいえない感情が溢れてきた。
「流架起きてくださいですぅ」
私は頬に優しくキスすると流架はゆっくりと瞼を開けた。ゆっくりと辺りを確認し私と視線を合わせる。
「苺……。ここは」
「やっと目覚めたみたいね」
聞きなれた声が後ろから聞こえた。驚きの表情を隠せず後ろを振り向くと見知った顔の少女がこちらに手を振っている。
「メガネ娘どうしてここにいるですぅ?」
後ろから声をかけてきたのは私の恋のライバルメガネ娘だ。学園祭のラストダンスまで私と流架の関係を邪魔してきたのだが、流架に気持ちを伝え断られた時から私達は良き友達となって交友を深めていた。
彼女自身、死神が父親の魂を狩る所を見たことによって死神が見えるといった特別な能力が開花された。
そしてそれは現在でも衰えをせたことはない。
「綾瀬君をどうするつもりだったの?」
メガネ娘のこれまでにあに冷たい言葉。冷たい眼差しに私は驚きを隠せなかった。この眼差しはなんだろう。凍るような眼差しに私は背筋に冷たい何かが滑っていった。
「私は……流架を助けに来ただけですぅ」
「嘘。綾瀬君をこんな所に連れてきて殺そうとしたんでしょう。約束があるから私から見えない場所で」
私は思っても見なかった言葉に何も反論出来ず頭を垂らし、悔し紛れに両の手を強く握りしめた。ただの人間の娘にどうしてここまで言われなければならないのだろう。一番大切な人が攫われ冷静でなど入れるはずもない。
(メガネ娘。どうしてここにいるですぅ?)
私は一つの疑問にぶつかった。ここは天国の禁断の間の中。普通の人間が肉体を持ってこちらにこれるはずがない。
「メガネ娘こそ誰ですぅ?」
すると、今度はメガネ娘が驚いたのか私を直視し口だけ綻ばせて見せた。
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「苺って意外と頭いいね」
メガネ娘は指を鳴らして見せた。すると次第に驚くべき姿に変わっていく。
「女神……様……」
私は慌てて跪くと頭を垂らした。女神様なら流架の運命を変えられるかもしれない。私は薄っすらと希望を描いていた。私達の生前の記憶を全て消すことが出来る女神は天国を作った人物でもある。そんな人物であるのなら流架の運命を変えられるかもしれないと。
「苺。彼を殺しなさい。さもなくば彼の来世に不幸が訪れることになる」
私は女神の言う言葉に呆然とし力が入らない。足が震えガクガクとし、腰が抜け私はその場に座り込んでしまった。
「流架を助けられないですぅ?」
私は眠っている流架の胸元にうずくまり涙を流した。どうしても助けられないのか。悔しい気持ちが胸から溢れ涙へと変換されていく。運命の日が来たら魂を狩ってほしいと流架は前に一度だけ私に言ってくれた。
それでも私に流架を殺せるわけがない。
「流架……」
私は流架を精一杯の力で抱きしめていた。




