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 私が人界に到着したのは早朝だった。死神の世界との人間界の時間は等しく同じ時が刻まれている。予定であれば私は昨晩綾瀬流架の部屋を訪れる事になっていた。しかし、実際は半日もゲートの中にいたことになる。ゲートの中は複雑に空間がねじれているので時間軸がただ単にずれてしまったのかもしれない。

 まだ陽は昇っておらず明け方だった。


「お邪魔するですぅ」


 私は眠っている彼に対し断りを入れる。

 しかし、眠っている彼が応えるはずが無くスヤスヤと寝息を立てていた。まだ、幼さが残る寝顔を私は覗いて見た。


 ズキン


 胸の奥底が突然痛んだ。咄嗟に胸を抑え痛みが消えるのを待つ。痛みは一瞬で走り去って行った。

 八畳程の部屋に男女二人。この光景を聞けば誰もが羨ましがるかもしれない。

 しかし、私がこの部屋にいること自体不自然な事。更に、見知らぬ人の部屋にいることがこれだけ居心地が悪いものと改めて実感した。


 ピピピ ピピピ ピピピ ピピピ


 規則的に目覚ましがなった。


「ギャーですぅ‼︎」


 私は驚いて大きな声をあげてしまった。


「うわぁ‼︎ なんだお前?」


 私の声に驚いた彼は飛び起き、そして私と視線があった。


「あっ……」


 二人の声が重なり一瞬間が空いた。すると、彼は武器になりそうなものを探し視線を巡らせ、そして、彼は近くにあった箒を私に突きつけた。

 私は反射的に両手を挙げる。しかし、朝の男性と言ったら見る所が決まっていた。彼も視線の先がわかった様で見られているであろうものを恥ずかしそうに隠し箒を私の頭に振り落とした。


「この、変態‼︎」


 彼は力一杯箒を振り落としていた。私は痛い頭を抑え目には涙を溜める。


「痛いのですぅ。これは失礼しましたのですぅ。私は苺。七瀬苺ですぅ。この度はインターンシップで綾瀬流架君の魂を狩りにきたですぅ。どうぞよろしくお願いしますですぅ」


 私は痛い頭を摩りつつ簡単に挨拶を済ませ、ぺこりとお辞儀をした。そして再び顔を上げると、再び彼は私の頭目掛けて箒を思い切り振り落とす。


「痛いですぅ‼︎ 何するのですぅ?」


 私は同じ場所を叩かれ目に涙を浮かべながらも反論した。しかし、彼は聞く耳はもたんといった態度。私をそれ以上眼中に入れようとはしない。


「はいはい。死神ごっこは他所でやりやがれ」


 どうも人を小馬鹿にした態度を取る彼に対し私はムッとし、驚かすつもりで体を宙に浮かし、ついでに大鎌も出してみた。


「お前。一体……?」


 彼もすっかり驚き目を丸くしている。先程振りかざした箒は足元へと落としていた。

 私は彼の驚きように胸の中がスッキリした。


「だから死神なのです‼︎ 貴方は来年亡くなる予定となっています。ですので私が一年、貴方の魂を見守る事となりましたのですぅ」


 彼は更に開いた口が塞がらなの言葉如く口をポカンと開け言葉を失っていた。

 この様な事を直ぐに理解して貰うのは無謀だとはわかっている。

 しかしこれが現実なのだ。

 死期は誰にも予測出来ないもの。それが例え死神だとしても運命というものは簡単に変えられない。


「朝ご飯の支度が出来たわよ。早く降りてらっしゃい」


 下から母親であろう女性の声が聞こえた。私は聞き覚えのある声に、懐かしさが込み上げてきた。

 私の足は無意識に声のした方へと進んでいた。

 ところが、私の腕を掴む者がいる。それは、この部屋のある時綾瀬流架だった。



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 私は先程の声の主の元へ行こうとしているだけ。それにも関わらず彼、綾瀬流架は私の腕を掴み離そうとはしてくれない。

 それどころか。私の華奢な腕を更に強く握り締められた。

 すると、頭の中に映像として何かが浮かんできた。しかし、その光景も私が思考を巡らせる間もなく消えていく。


「いっ痛いですぅ」


 私は必死に腕を振りほどこうとするも彼の力が勝りなかなか離れない。

 彼の顔には怒気が混ざり恐ろしく見える。


「母さんに何をするんだ‼︎ それにお前の姿を見られたらどうやって誤魔化せば……」


「ちっ違いますう。私はただママの声に似ていた気がしたから行きたいのですぅ。それに大丈夫なのですぅ。私は貴方以外の方には姿が見えないのですぅ」


 私は努めて明るく答えると彼の力が一瞬緩んだ。その隙に私は部屋のドアを通り抜け声の聞こえた方へと飛んでいく。

 慌てていた為つい飛んでしまった。恐らく彼は私のパンツが見えてしまったであろう。

 一瞬、彼の方を恐る恐る見ると顔を赤くしその場で固まっていた。鼻からは一筋鮮血が流れ落ちている。


(本物のママなのですぅ……?)


 私は緊張の面持ちで人の気配のする部屋のドアをすり抜けた。

 後ろ姿だったが私には誰なのか直ぐにわかった。

 そこには懐かしい顔のままの女性が家族の為に朝食を作っている。

 私は久しぶりの再会に嬉しくて涙が出てきた。

 しかし、彼女に私の姿が見るわけではない。

 嬉しい気持ちと淋しい気持ちが入れ混じる複雑なものが胸にグルグルと渦巻く。


「るぅちゃん早く来なさい‼︎」


 痺れを切らした彼女がもう一度彼を呼ぶ。すると、程なくして綾瀬流架がキッチンの自分の席へと腰掛け朝食を食べた。


 グゥゥゥ〜


 私のお腹がなった。勿論誰にも聞こえない。ただ一人来年亡くなる予定の綾瀬流架以外には……。


 私がお腹を抑えていると、彼はこちらを見た。恥ずかしくなり顔を逸らすと彼は新しい皿に朝食の余り物を乗せ始める。


「母さんゴメン。ちょっと部屋でやることがあるからこれ持ってくわ」


 彼は元来た方向に歩いていく。私もその後を追った。


 __


「ほら。ちゃんと食え」


 青年は私の目の前に先程のキッチンで盛りつけてくれた朝食を差し出してくれた。


「ありがとうございますなのですぅ」


 私は彼に貰った朝食にかぶりつく。よくよく考えてみればこちらの世界に来てまだ何も口にいていなかった。

 満たされるお腹に幸せを感じる。


「さて、来年俺はいつ死ぬんだ?」


 綾瀬流架が詰め寄ってきた。私は一歩下がる。

 似たような経験をはずっと昔に経験したような気がする。

 彼の吐息が私の耳に掛かると恥ずかしくなり、そっぽを向く。


「それはですぅ……えっと……交通事故なのですぅ」


 私は恥ずかしさからか素直に話してしまった。一応死期が近い人間に死の原因を話す事は禁止されている。基本中の基本なのだが、彼の前で隠し事が出来なかった。


「そっそうなんだ。呆気ないもんだな」


 それだけ聞くと彼は後ずさり蹲る。


「あっ、でもその日までは私が貴方が自殺しない様に見守らせて頂くのですぅ」


 彼は何も応えずそのまま固まっていた。


 __


「そろそろ行かないと遅刻するわよ」


 下から再び母親の声がした。時計を見ると既に七時半になろうとしている。


「ヤバ‼︎」


 彼は慌てて学校へ行く支度を整え始めた。支度といっても前の日にほとんど終わらせているようで制服のネクタイを締めればいつでも外に出られるようになっている。


「えっ⁉︎ でもまだ学校に行くには早過ぎのような気がするのですぅ……」


「バカ。七時五十分の電車に乗り遅れたら遅刻なんだ」


 彼はカバンを持ち急いで家を出た。


「電車通学なのですぅ?」


「……」


 私は彼の半歩後ろをついて行った。飛ぶことは容易に出来るのだが、またスカートの中を見られたらたまったものではない。


「待ってくださいですぅ」


 私は駆け足で彼の後ろをついて行った。男性と女性とでは足の歩幅がまるで違う。少しゆっくり歩いてくれたら嬉しいが必要以上話しかけるなというオーラを放たれてどうすることも出来ない。

 私の体が恐怖で縮こまった。


 __


 彼はカバンかに手を入れると定期券を慣れた手つきで探し始めた。

 カバンから取り出された定期券をかざし駅のホームへと歩いていく。

 無人駅なのか駅員は辺りを探してもどこにもいない。


「間もなく電車が……」


 駅のアナウンスが流れた。アナウンスが流れると待合室にいた乗客もホームへと歩いてくる。

 私は先駆けて宙に浮くき電車の後を追う。

 人がおしくらまんじゅうのようにぎゅうぎゅうに詰まって電車に乗るだなんて私には我慢出来そうにない。

 何よりも大切な事は綾瀬流架を見失ってはならない。万が一見失って運命が変わることがあれば大変なことになる。

 目的の駅に着く頃には彼の顔は本の少しやつれていた。毎日電車に登校というのはかなり大変なことなのかもしれない。

 私は彼の元へと掛けて行った。


「あのう、大丈夫ですぅ?」


 私は彼の顔を覗き込んだ。


「ビックリしたなぁ‼︎」


 やつれていた彼の顔に生気が戻り始めた。


 __


 彼の学校では桜が見頃を迎えていた。二年はクラス替えが行われるらしく掲示板の前には沢山の生徒が集まっていた。


(二年一組かぁ……)


 殆どの生徒が新しいクラスメイトに興奮鳴り止まない中、彼だけは自分のクラスだけ確認すると教室へと向かった。私は始めて見る桜に感動し木の下で踊っていた。


 __


「淋しいよぅ……」


「ほら、泣くなって」


 俺は死神が桜の下で踊っている隙に校舎の中へ入った。すると、早速どこかのばカップルがイチャイチャしている。俺はその脇を気にせず通り教室へと向かった。

 はっきり言って誰が誰と付き合おうが関係ない。恋愛なんていうものにも興味なんて一切湧かいから。

 教室に入っても誰から声をかけられるわけでもなく黒板に掲示されていた席へと座る。


「置いていくなんて酷いですぅ」


 死神が俺の側に帰ってきた。頭や服全てに桜の花びらがついている。どんだけ桜の下で踊ってたんだと思うと可笑しくなり笑ってしまいそうになるも何とか平常心を保つ。


「酷くない。遅れたお前が悪い」


「酷過ぎますぅ。私は貴方の魂を見守る為にいるですぅ。それなのに……」


 死神の人成らざる者の人間らしい仕草や言葉に非常に腹が立った。


「うるさい‼︎ ぐちぐち言うな‼︎」


 怒気の混ざった声を聞いたクラスメイト全員が俺をみた。恥ずかしくなり顔を赤く染め顔を伏せる。

 チラリと死神をみるとクスクスと笑っていた。


(くそぅ……いつか恥を欠かせてやる……)


 俺の中で新たな決意が誕生した。

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