懐かしき日々
1
秋も深まった頃。私と流架はいつものように学園から帰宅していた。
花火大会の日に告白されて見事気持ちが繋がった訳だが私達は人間と死神。メガネ娘には守ると宣言したものの迷いは私の頭の中に残っていた。
それに私と流架は既に会い入れぬ存在となっていて決してずっと一緒にいれない。
普段とは違う家の風景にちょっとした冒険をしている気分となる。
閑静な住宅街を抜け少し場所が開けたかと思うと見覚えのある景色が広がっていた。
(ここは……)
そこは流架の父が眠る墓のある霊園だった。彼岸という事で墓参りをしている家族連れもいる。
そして、小さな墓を手入れしている老婆がいた。何処にでもいるような老婆だったがその顔が私には懐かしく感じる。
流架が私の視線を見て老婆に話しかけてくれた。
「どうも」
「あら、こんにちは」
老婆は流架を見てニッコリ微笑むとゆっくりと頭を下げた。
「誰のお墓のですか?」
「これは大切な親友のお墓のなの。もう五十年前になるかしらねぇ……」
老婆は墓石を優しく撫でると懐かし話を聞かせてくれた。
「私には幼馴染の苺ちゃんて子がいてねぇ、小さい頃からずっと姉妹のように毎日遊んでいたの。私達、本物の姉妹のように仲が良くてねぇ。家が隣同士って事もあって毎日毎日沢山遊んだわ。苺ちゃんは手先が器用でねぇ。私にも人形を作ってくれたのよ。当時は布も高価だったから自分が着れなくなってしまった服で作ってくれたのね。嬉しかったわぁ。そんなある日、苺ちゃんと私同じ人を好きになってしまったの。私は勇気を出して告白したんだけど叶わなかった。彼は苺ちゃんを選んだの。私は凄く悔しかったけど影ながら二人の幸せを願う事にしたの。でもね、二人の幸せは長く続かなかった。付き合い始めて一ヶ月位経った頃だったかしら。その日は苺ちゃんの誕生日でねぇ、彼は苺ちゃん為に彼女の好きなものを買いたいって私の所に来たの。苺ちゃんはそれを何処かで見ちゃったのね。後で本当の事を二人で話しに行ったんだけど苺ちゃんの耳には届かなかった……。その数日後に苺ちゃん自分の手首を切ってしまって……。まだ十六歳だったのに……。」
老婆の目尻に涙が溢れている。私の頭の中では老婆の話がビジョンとなり映像化されていた。
(私、この話知っている……。私、私は……)
「その後どうなったんですか?」
「彼は相当落ち込んだわ。勿論私もよ。でも彼は苺ちゃんとの恋が忘れられずどんなにいい話が来ても首を縦にはふらなかった。そして誰とも結婚しないまま十年前病気で亡くなってしまったの。これで俺も苺の元へ旅立てるって最期に言い残して……」
老婆は一息つくと再び話し出した。
「これは、苺ちゃんのお墓なの。彼のお骨はこことは別の場所で眠っているんだけど、私はあの日の事がどうしても忘れられなくてねぇ。墓守りっていうわけでもないんだけど毎日お墓を掃除しては苺ちゃんに謝っているの。幸せを奪ってしまってごめんなさいって」
老婆の言葉に嘘偽りがあるとはどうしても思えず聞いていると老婆のある部分が欠落している事に私は気が付いた。一気に集中し霊力を高める。
「苺ちゃん?」
老婆は私の姿に目を丸くした。本来なら天国の掟に反する事。しかしこの老婆は既に他界し霊となっている。いつものロリータファッションではなく白いワンピースを着用すると老婆の魂を助けるには一番の選択肢だと思った。
「本当に苺ちゃんなの? お願い何か言って頂戴」
「私だよ友ちゃん。ゴメンね命を絶っちゃってビックリしたよね」
「そんなの……。私が悪いのに……」
「もう苦しまなくていいんだよ。私今凄く幸せだから」
老婆は両目から涙を流していた。先程の涙とは違い嬉しさが滲み出ている。老婆の姿は次第に光の粒へと変化していく。
「苺ちゃん私……」
「幸せになってね」
私の言葉に安堵し老婆は天国へと導かれていった。
2
「成仏出来たんだ」
「そうですぅ」
私はいつもの姿に戻っていた。黒いロリータファッションに身を包み頭には大きなウサギ耳をつけて流架の隣に立っている。
「幸せって言ってくれたよな」
「はいですぅ。私は流架に出逢えて本当に幸せですぅ。だから流架、運命の日が訪れても生きてくださいですぅ。本来、死神の私からは言えない言葉なのですが、これはみんなの願いですぅ」
「わかったよ。運命のその日までイヤ、それ以上に生きてやるよ。苺の為に……」
流架は嬉しい言葉を時々言ってくれる。私はその言葉に顔を赤く染めていた。しかし、この約束が今後運命に逆らう事だと今の私は想像すらしていなかった。




