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1
あれから一週間が経過した。私は肝心の答えを未だ出せずにいる。死神としての責務を果たすべきか、流架の彼女として魂を狩らないか……。
今までの私なら死神の責務を果たしていた。しかし、今はどちらが大切なのかわからなくなっている。
死神候補生として他の魂達に示しある行動をしなければならない。だが、今の私はどうだろう。人間である流架に恋心を抱き両想いとなってしまった。
幸せの絶頂の筈が悩みの種となっている。
キーンコーンカーンコーン
いつもと同じ一日始まろうとしてた。しかし、今日から中間試験が行われる。そのせいか皆些か強面となっていた。
試験が全てとは言わないが、この試験結果で八割は決まると言っても過言ではない。
教室に入ると殆んどのクラスメイトが最後のあがきとして教科書にかじりついていた。今更どうにかなるわけではないが必死なのであろう。声一つ聞こえない。
ガラガラガラガラ
扉から先生が問題用紙と回答用紙を片手に入ってきた。先生の顔も緊張しているのか少し強面となっている。
「これから試験を開始する。教科書等は廊下に置いてくる様に」
テストを行う決まりとしてこの学園では教室から一切の勉強道具を廊下に出すことが義務づけられていた。カンニング防止だというがカンニングする生徒は違う方法でカンニングをする。イタチごっこだと思うが最善の策でもあった。
前列の生徒に問題用紙と回答用紙を配り終えるといよいよ緊張が最高超となる。
教室全体が良い意味での緊張感に包まれていた。
「それでは始め‼︎」
先生の声とほぼ同時に生徒の紙をめくる音が響く。人界に来てからというもの流架の勉強を毎日見てきた。
天国では毎日死神になるべく命について勉強してきた。流架はこの世界において様々な事を勉強している。
(流架なら大丈夫ですぅ。落ち着いて問題を解くですぅ)
私は心の中でずっと流架の応援をしていた。
2
本日は三教科のテストが行われた。テストが終了すると殆んどの生徒が安堵しいつもの雰囲気へと戻っていく。
流架も肩のにが下りたようで腕を高く伸ばしていた。
「綾瀬テストどうだった?」
「普通。お前はどうだった?」
「俺は名前書いて寝てた」
彼こと青山優は調子の良いことを言って笑って見せた。流架はアハハと誤魔化してみせるも心配して優を覗き見た。しかし、優ときたらそんな流架の視線にも気づいた様子は見られない。
私も苦笑いしていた。優は良い人だと思う。何も考えていない様で思慮深い。だが、周りをよく見ていているといった方が正しいのかもしれない。
「赤点だったらどうする?」
「ヤバイ。今度赤点取ったら母さんが小遣い没収って言ってたんだ……」
(やっぱりバカだ……)
私は優の評価を訂正した。
2
次の日もテストは続き学園は半日で終了となる。生徒達は半日で終わる事を良いことに午後から何をしようかそれぞれ友達と計画を立てていた。
私と流架は明日のテストに備え自宅にてテスト勉強をする事にしていたのだが優が許さなかった。
「流架‼︎ お前は今日を何だと思っているのかね。今日は午後から遊び放題だと言うのに自宅で勉強なんて青春は人生において一度しかないの言うのに……」
優は泣いてもいないくせに肘で涙を拭うふりをしてみせた。しかし、テストは明日も控えている。明日遊べばいいのではないかと私は思った。
「そんなこと言われても……」
「まさか綾瀬俺より先に彼女とかいるんじゃないか?」
「えっ……」
なぜそこに行くのだろう。付き合いが悪いイコール彼女がいるとは結びつかないのではないか。用事という可能性は考えないのだろうか。
私は流架の答えを楽しみにして聞いていた。鼓動が早くなり手に汗が滲み出てくる。
「いるよ。全てを捧げてもいいって思っている奴」
流架の言葉を聞いて優は涙を流して感激していた。私は流架の言葉を聞いて嬉しい半面どうしたらいいのかわからなくなる。
自分は死神で流架人間。当たり前の話だが別れの時は必ずやってくる。私がこの手で流架の魂を狩る日が……。
「羨まし過ぎるぅ‼︎」
優は教室で叫んでいた。しかし、そんな優を他所に流架は荷物をまとめ教室から退散する。私もその後を追った。
「流架……。どうして帰るですぅ?」
「あいつが叫ぶから恥ずかしいだろ……」
流架の歩調がいつもより早い顔もほんの少し赤くなっていた。全てを捧げてもいいのは私なのか心を影がすり抜けていく。
流架は学園の裏へと歩いていた。私も後を追いかけていくとそこは日影で人の気配すら感じられない。
流架は私の方をくるりと振り向くと真剣な顔つきをしていた。
「苺。その日が来たら俺の命を狩ってくれないか」
「えっ……」
流架からの予想していないかった言葉に私は動揺してしまった。
3
「何するんだよバカ……」
「命を捧げてもいい奴がいる」
私の心の中は流架の事で一杯になっていた。もう後には引き返す事は難しく険しい。 私の前世も流架に恋心を抱いていた事を思い出すものどうして命を絶ったのか未だに思い出すことが出来ない。
何か重大な事件がったのかもしれない。だが、胸に突き刺さる何かを感じていた。
「苺。俺の命を狩ってくれ……」
私は始めて胸が張り裂けるくらい苦しい体験をした。今でも思い出すと胸が張り裂けるくらい苦しくなる。
この苦しみはずっと続くのだろう。例え記憶が失われたとしても……。
季節は更に深まり紅葉の時期が近づいてきていた。




