6話~人鬼~
少女の姿は変わっていた。
ボロボロになったコートは崩れ落ち、また、中に着ていただろう、薄く色のついたシャツと、可愛らしいスカートも、ボロボロになっていた。
しかし、その体に傷はなく、目立ったことと言えば、右腕に巻かれている、包帯、そして、頭に生えた、ほんの小さな角。
少女は、いつも身につけている真っ黒な手袋を外し、右腕の包帯を解いていく。
「……なにそれ」
「いきなり凄い力を感じるよ」
「それに、頭の……まるで、鬼みたい」
「「「これなら、もっと、楽しめるよね!」」」
吸血鬼は狂喜する、今までよりも遥かに強い、少女の力を感じ。
「ふう、この力を使うのは、本当に初めてだから、どうなっても知らないぞ!!」
いつの間にか、包帯を解き終わっていた、少女が、先ほどの弾幕により、お互い離れていた吸血鬼の一人へと、肉薄する。
そのスピードは、先ほどまでの、少女との比ではなかった。
「ッ!」
「そらそらそらそらァ!!」
そこには、信じられない光景が広がっていた。
人間でしかなかったはずの、少女が吸血鬼を、押していく姿が……
「そんなもの……!」
しかし、吸血鬼も負けてはいない、少女が一人と戦っているうちに、他の二人が、少女へと肉薄する。
「甘いんだよ!」
少女は、目の前の吸血鬼を、左手で掴み、叫ぶ。
―封符「完全封印」―
「え?」
少女が掴んでいた、吸血鬼が消える。
「どうやら、偽物だったみたいね、でも……!」
―解放「ありとあらゆるものを破壊する程度の能力」―
―解放「禁忌「フォーオブアカインド」」―
「さあ」
「卑怯だなんて」
「言わないでよ?」
「全力を出させたのは、あなたなんだから」
「「「「この勝負、勝たせてもらう!!」」」」
そこには、先ほどの吸血鬼のように、四人になった少女がいた。
「「「「ほらァ!」」」」
少女が手をかざし、そのまま握り締める。
「きゃあ!?」
吸血鬼が文字通り、跡形もなく破壊された。
「そんな!? どうして!?」
吸血鬼は困惑する、それを無視したように、少女は話す。
「四つ重ねてようやくね」
「随分と、劣化しちゃってるわね」
「これじゃあ、私のは」
「ありとあらゆるものを破壊する程度の能力、なんて、呼べないわね」
「おまえぇぇぇぇ!!」
吸血鬼は、咆哮する。
手をかざし、握り締める。
「ぐっ!?」
「でも」
「それじゃあ!」
「間に合わないわよ!!」
少女は、一人残った吸血鬼に突撃する。
「この! この!! このぉぉぉぉぉ!?」
吸血鬼は、手をかざし、握り締める。
その度に、少女が、"破壊"されていく、しかし……
「間に合わないって、言ったろうがァ!!」
最後に残った少女は、既に吸血鬼の目の前にいた。
「これでェ!!」
少女は、吸血鬼を右手で掴み、床に叩きつける。
「ぐぁァァ!?」
「私の勝ちだぁ!!」
地面に叩きつけた、吸血鬼を、そのまま、ただ、思いっきり殴り続ける。
「きゃぁぁぁぁ!?」
吸血鬼は叫ぶ。
少女は、殴り続ける。
永遠とも思える時間、しかし、それは終わりを告げる。
少女の手が止まる。
「はぁ……はぁ…………わた……し……の……勝ちよ…………文句ない……わね…………」
吸血鬼は、答えない、答える事が出来ない、吸血鬼の意識は、既に途切れていた。
「……ふふ……アハハハ…………なん……だよ……どうせここも……退屈な世界だと思ったら……随分と……面白い世界じゃない……!」
少女は、最後に、そう言い残し、倒れる。
こうして、木藤綾香の、私の、初めての弾幕ごっこが終わったんだ。
今回は短めですね
いや、いつもそんなには、長くないですが……