1話~幻想郷~
あたりを見回す、そこは草原だった、遠くには霧のかかった湖、近くには、おそらくは人のいるであろう、集落のようなものも見える。
やはり知らない場所だ、少なくとも、私の住んでいる場所の近くに、こんなところはない。
もう一度見回す、さっきは気づかなかったが、近くに私のポーチが落ちていた。
中身を確認する、ちょっとした小物類、大切なペンダントも入っていた。
「よかった……」
思わず口に出す、このペンダントがないと私にとっては、とても大変なことになるのだ。
「あれ?」
一つだけ、知らない物が入っていた、未開封の手紙だ。
開けてみる、中には一枚の紙、どうやらこれ自体には何もないらしい。
書かれている内容を確認する。
――言ったでしょう、拒否権なんて、存在しないってね by.ゆ☆か☆り☆ん☆――
ムカついたので、破り捨てた。
どうやら、アレはただの夢ではなかったらしい。
まあ、仕方ない、とりあえずは、比較的近く、人がいそうな集落に行くことにしよう。
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タイムスリップでもしたような感覚に陥った。
私が到着した集落は、確かに人が住む場所ではあった、しかし、まるで時代劇のセットのように、古いのだ、家や、人の着ているもの、全てが時代遅れのような、同時に、偶にではあるが、近代的な物も見かける。
ここは一体なんなんだろうか?
そんな、疑問が浮かぶ。
「あの、ここはどこですか?」
道行く人に話しかけ、いきなりこんな質問をする、どう考えても、今の私は変な人だろう。
「ん?ああ、ここは人里だよ、見たところ人間みたいだけど……もしかして外来人かな?珍しいなぁ」
あれ?
案外普通に答えてくれた。
「外来人?」
とりあえず、一番疑問に思ったことを聞いてみた。
「ああ、そっか、わからないよね……、うーん? 僕も詳しいわけじゃないしなぁ……、そうだ! 慧音先生なら詳しいかも」
「慧音先生?」
「うん、寺子屋の先生だよ、あの人は色々なことに詳しいし、基本的に、優しい人だから、教えてくれると思うよ」
……寺子屋、学校のことだよな?
言い方も古いのか……
「その、慧音先生という方には、どこに行けば会えますか?」
「ああ、この時間なら、まだ寺子屋にいるはずだから、そこに行けば会えると思うよ、案内しようか?」
「えっと、お願いします」
とりあえず、私はここの地理もわからないのだ、頼んだ方がいいだろう。
「よし、ついてきて、こっちだよ」
私は大人しく、ついていくことにした。
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「ここが、寺子屋だよ、用事もあるし、僕はもういくね」
「はい、ありがとうございました」
なんだ、普通に案内してくれた、いきなりあんなこと言って、普通に答えられたから、なにか、あるのかとも、思ったのだけど……
いや、ここになにか、ってこともあるか、まあ、今は気にしても仕方ないし、ある程度なら大丈夫だ。
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「すみませーん!」
とりあえず、声をかけてみる。
「ん?少し待っててくれ」
小さく声が聞こえた、おそらくは、慧音先生という人の声だろう、私はそのまま、待つことにした。
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「ふむ、はじめましてだな、私は上白沢慧音、慧音で構わないよ、君の名前は?」
「……木藤綾香です」
「そんなかしこまらなくてもいいさ、綾香……で構わないかな? みたところ里の者ではないようだが、私になんの用だろうか?」
かしこまらなくてもいいって、言われても……
なんか、威圧感が……
「えっと、慧音さんに聞けばいいって言われて……」
「ふむ?私にか?まあ、わかることなら構わないが」
「その、ここってどこなんですか? 外来人って、なんなんですか?」
「ああ、なるほど、君は外来人なのか、わかった、少し長くなるが、構わないか?」
「はい、大丈夫です」
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「幻想郷ですか……」
「ああ、そして、この世界に外から迷い込んだ者を、外来人と呼ぶ、安心してくれ、外の世界に帰る手段は存在するからな」
「私は、多分帰れません、それに、帰っても……」
「む?何故だ?」
「……それは」
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「なるほどな、おそらく、その声や手紙の主は、妖怪の賢者、八雲紫だろう」
「こんな話し、信じるんですか……?」
「ああ、彼女ならやるだろうからな……、しかし、そうなると、確かに帰ることは出来ないかもしれんな」
「そうですか……、まあ、構いません、もともと、退屈でしたんです、この世界で生きていきますよ」
「ふむ、君は幻想郷に来たばっかりだったな、人里には空家もある、とはいえ、すぐにそこに住むというのは無理だが……」
「そんな、そこまでしてもらわなくても……」
「いや、遠慮しなくてもいいさ、もちろん人里に迷惑をかけるようなら別だが」
「……そんなこと、しませんよ」
「ああ、それならいいんだ、そうだな、住む場所が決まるまでは、家に泊まっていくといい」
「いいんですか……?」
「ははは、構わないよ、偶に友人が来るくらいで、一人暮らしだからな」
「……その、じゃあ、お願いしてもいいですか?」
「もちろんだとも、これからよろしく頼むよ」
「はい、よろしくお願いします」
こうして、私の幻想郷での日々が始まった…………
初投稿、ゆっくり書いていきます