5話目
合同練習当日。
結局、休むことも、中止にすることもできないままだった。
そしてまたしても3人に囲まれている。
「遥佳ちゃん、相変わらずかわいいねーそれにいい匂いするー」
「ほんと甘すぎない甘い香り。シャンプーの香り?」
「・・・」
相変わらず距離感が近い。
もしこの場面を兄に見られたらきっと恐ろしいことになるだろう。
なんだかんだで過保護な兄は私にべたべたしている奴に容赦をしない。
「遥佳?」
これどうしようかなーと思っていた時窓の外からとても聞き覚えのある声がした。
そう今日の朝、家を出てくるときにも聞いた声。
ゆっくり声のした方向を向くと、思っていた通りの人が立っていた。
「・・・お兄ちゃん」
「いったい何をやっているんだ?それに近寄るなって言ったよな?」
「これは、相手が近寄ってきたのであって私が近寄ったわけでは・・・」
「問答無用だ。」
窓から颯爽と入ってきて私の手をつかみまた窓から出ようとした。
「ちょっと待って!靴ないし、かばんも!それにまだ練習が・・・」
「こんなに遥佳を狙ってる危険人物たちがたくさんいる場所に一人置いていけるわけないだろ。弓道ならほかの道場紹介してやる。なんなら俺の大学の弓道部に話をつけてやるから。男子部との合同練習に参加しないでくれ。」
どうしようもない過保護さ。
でもそれを少しうれしいと思ってしまう程度には、私もブラコンということだ。
部活は休みたくないけれど兄を心配させたくない。
どうしようか迷っていると奈都と空が声をかけてくれた。
「いつかはこうなるんじゃないかと思った。」
「ほんとに、相変わらずの双方向ブラコンだね。」
「このままぐだぐだされても迷惑だからさっさと帰ってね。」
「もし今度大学のほうに練習お邪魔できるときは私も参加したいな。」
「「じゃ、ばいばい、また明日」」
二人はそうまくしたてながら靴とバック、いつの間にかつつんだ弓道道具を渡してきた。
このままここから帰れということらしい。
道場のほうを見ると視線がきつかった。
女子部の先輩は、またあのお兄さんが暴走したか。という視線。
男子部の人たちは、何が起きてるんだ。という視線。
耐えきれなくなり、兄の手をひきそのまま道場を後にした。
後から気が付いたが道着のままで、電車ですごく視線を集めることになった。
それも全部兄のせいだ。